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イギリス 編
ポジティブモンスター
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「慎也だって月間MVP取ってたじゃん」
「勝率で言えば優美の方がずっと高かったよ。俺はある程度自分の能力に自信があったけど、やっぱり歴で勝てないし、優美ならではの気遣いや人の懐にスルッと入れる能力には敵わなかった」
「そう……かなぁ。嬉しいけど」
仕事の実力を褒めてもらえるのは、素直に嬉しい。
「多くの人は、僕や慎也は経営者一族の御曹司で、ちょっと見た目も良くて、悩みなんてないって思ってる訳。きっと優美ちゃんだって、過去を知らない人には『もとから美人でスタイル良くて、いつも楽しそうで悩みなんてなさそう』って思われてるよ」
「だねぇ……。隣の芝生がめちゃくちゃ青いわ」
私から見てパーフェクトに思える文香だって、限定バケ丸グッズを手に入れた人を「羨ましい!」って言って、嫉妬の鬼になってる。
ごくたまーに「普通の家庭に生まれてみたかったな」と零す事もある。
彼女はもう色んな面で諦め、自分や環境を受け入れているから、半ばやけくそ気味に「金持ちのお嬢様人生、謳歌してますが何か?」という態度を取っている。
ただ、開き直る前に色んな苦しみや葛藤があったんだろうな、は思っていた。
「駄目だねぇー。五十嵐さんの時に『人の振り見て我が振り直せ』で、自分の幸せを見つけて、人と比べないようにって思ったのに、いざ自分の事になったら嫉妬してる」
「そんなもんだよ。だって優美、まだ二十八歳だぞ? 結婚もしてないのに、悟り開いたみたいになったら、ピチピチ感がなくなるって」
「あはは! ピチピチ感!」
慎也の表現に私は声を上げて笑う。
「ま、でもさ。『嫉妬してる』って自覚できるだけでも、十分なんじゃない? 世の中、嫉妬してるって自覚しないで、『あいつばっかりずるい』『自分がこうなのはあいつのせいだ』って他責にするクズが大勢いる。そんな中、自分の中にあるネガティブな感情を受け止められるのは、大きい収穫だと思うよ。そこから前進できるし」
「だねー。嫉妬は前進の動力源、と」
正樹に言われ、私はうんうんと頷く。
「こうやって、行きつ戻りつして学びながら進むしかないんだよね。一気に立派な人間になんてなれない。私が『今の私ってそこそこ良くない?』って思えるようになったのも、トレーナーさんに出会えたからだった。でもその教えもすんなり受け入れられたんじゃなく、何年も時間をかけてゆっくり身についた感じだった」
初めは、きっかけを教えてもらえただけだった。
『折原さんはすぐ〝自分なんか〟って思っちゃうから、まずその癖を直そう。……と言ってもネガティブな癖を突然やめるのは難しいから、ポジティブな癖をつけていくんだ。一日頑張れたら〝私、すっごい偉くない?〟って自分に言ってみる。朝、着替えて服を着たら〝めちゃくちゃ似合う! 気分爆上げ!〟とか、アホらしくてもいいから〝天才!〟とか、どんどん自分を褒めていくんだ』
きっかけをもらって、少しずつ実行していった。
そうしたら、生きるのが楽になったし、メイクやオシャレも楽しくなった。
そのメンタルを友達にも教えてあげた。
彼女は私ほどガチでダイエットをしないぽっちゃりさんだったけど、自分のサイズに合った服を探して、今はとても楽しそうにオシャレを楽しんでいる。
私の周りは、いまやポジティブモンスターばっかりだ。
秘訣は自分を褒める。たったそれだけ。
褒められ慣れていない人ほど、これは効果的らしい。
トレーナーさんいわく、「ダイエットしないと、痩せないと」っていう考えに、無理にとりつかれなくていいと言っていた。
大切なのは今の自分が満たされて、幸せでいられる事。
痩せても不幸なままなら何も変わらない。
だからまず私はトレーナーさんに〝幸せマインド〟を叩き込まれた。
体型がどうであれ、自分を肯定して、毎日の小さな幸せ探しをしていると、生きるのが楽しくなった。
「じゃあ、痩せたらもっとハッピーになれるね」という理由で、ダイエットを頑張った。
そもそも、楽しくなかったら何でも長続きしないし。
『ダイエットが終わっても、常に自分のメンタルを図れるバロメータは作っておいて。毎日の生活の中で、好きなものを設定して、それを百パーセント楽しみ、喜べるか、調子の悪い時はどう感じるかで、自分の心の状態を把握しておくんだ。落ち込んで何もかも駄目だって思っている時は、大体調子が崩れている時だ。多分睡眠不足で、疲れて空腹で、夜遅い時が多い。自分がいつもとは違う状態だと気づいたなら、〝最悪な自分〟をそれ以上責めなくていい。悪いのは体調や環境で、折原さん自身じゃないから』
トレーナーさんにそう言われ、私は食事を基本設定にした。
ダイエット用にカロリー制限しても、美味しく調理したら食事が楽しくなる。
サラダチキン美味しいし……。
一日三度の「よーし、ご飯だ!」となった時に、「あんまり気が向かない……」となったら、自分に注意サインを出している。
機嫌や調子が悪くなるのは仕方ないとして、自分の機嫌は自分でとれるように努力している。
何かに当たりたくなった時は、封印を解除して甘い物を食べていいようにした。
文香にも愚痴を聞いてもらって、学生時代の友達や家族にも聞いてもらう。
お風呂で大声で歌って、枕に顔を伏せて叫ぶ。
大体はそれで紛らわせられて、あとは寝て起きればリセットできてるのが長所だ。
「優美ちゃんって素直に学ぼうっていう姿勢があるからだと思うよ。どんなにトレーナーさんが優秀でも、言葉が通じなかった人はいるだろうし」
「あぁ……、それは確かに」
正樹に言われ、私はコクリと頷く。
「勝率で言えば優美の方がずっと高かったよ。俺はある程度自分の能力に自信があったけど、やっぱり歴で勝てないし、優美ならではの気遣いや人の懐にスルッと入れる能力には敵わなかった」
「そう……かなぁ。嬉しいけど」
仕事の実力を褒めてもらえるのは、素直に嬉しい。
「多くの人は、僕や慎也は経営者一族の御曹司で、ちょっと見た目も良くて、悩みなんてないって思ってる訳。きっと優美ちゃんだって、過去を知らない人には『もとから美人でスタイル良くて、いつも楽しそうで悩みなんてなさそう』って思われてるよ」
「だねぇ……。隣の芝生がめちゃくちゃ青いわ」
私から見てパーフェクトに思える文香だって、限定バケ丸グッズを手に入れた人を「羨ましい!」って言って、嫉妬の鬼になってる。
ごくたまーに「普通の家庭に生まれてみたかったな」と零す事もある。
彼女はもう色んな面で諦め、自分や環境を受け入れているから、半ばやけくそ気味に「金持ちのお嬢様人生、謳歌してますが何か?」という態度を取っている。
ただ、開き直る前に色んな苦しみや葛藤があったんだろうな、は思っていた。
「駄目だねぇー。五十嵐さんの時に『人の振り見て我が振り直せ』で、自分の幸せを見つけて、人と比べないようにって思ったのに、いざ自分の事になったら嫉妬してる」
「そんなもんだよ。だって優美、まだ二十八歳だぞ? 結婚もしてないのに、悟り開いたみたいになったら、ピチピチ感がなくなるって」
「あはは! ピチピチ感!」
慎也の表現に私は声を上げて笑う。
「ま、でもさ。『嫉妬してる』って自覚できるだけでも、十分なんじゃない? 世の中、嫉妬してるって自覚しないで、『あいつばっかりずるい』『自分がこうなのはあいつのせいだ』って他責にするクズが大勢いる。そんな中、自分の中にあるネガティブな感情を受け止められるのは、大きい収穫だと思うよ。そこから前進できるし」
「だねー。嫉妬は前進の動力源、と」
正樹に言われ、私はうんうんと頷く。
「こうやって、行きつ戻りつして学びながら進むしかないんだよね。一気に立派な人間になんてなれない。私が『今の私ってそこそこ良くない?』って思えるようになったのも、トレーナーさんに出会えたからだった。でもその教えもすんなり受け入れられたんじゃなく、何年も時間をかけてゆっくり身についた感じだった」
初めは、きっかけを教えてもらえただけだった。
『折原さんはすぐ〝自分なんか〟って思っちゃうから、まずその癖を直そう。……と言ってもネガティブな癖を突然やめるのは難しいから、ポジティブな癖をつけていくんだ。一日頑張れたら〝私、すっごい偉くない?〟って自分に言ってみる。朝、着替えて服を着たら〝めちゃくちゃ似合う! 気分爆上げ!〟とか、アホらしくてもいいから〝天才!〟とか、どんどん自分を褒めていくんだ』
きっかけをもらって、少しずつ実行していった。
そうしたら、生きるのが楽になったし、メイクやオシャレも楽しくなった。
そのメンタルを友達にも教えてあげた。
彼女は私ほどガチでダイエットをしないぽっちゃりさんだったけど、自分のサイズに合った服を探して、今はとても楽しそうにオシャレを楽しんでいる。
私の周りは、いまやポジティブモンスターばっかりだ。
秘訣は自分を褒める。たったそれだけ。
褒められ慣れていない人ほど、これは効果的らしい。
トレーナーさんいわく、「ダイエットしないと、痩せないと」っていう考えに、無理にとりつかれなくていいと言っていた。
大切なのは今の自分が満たされて、幸せでいられる事。
痩せても不幸なままなら何も変わらない。
だからまず私はトレーナーさんに〝幸せマインド〟を叩き込まれた。
体型がどうであれ、自分を肯定して、毎日の小さな幸せ探しをしていると、生きるのが楽しくなった。
「じゃあ、痩せたらもっとハッピーになれるね」という理由で、ダイエットを頑張った。
そもそも、楽しくなかったら何でも長続きしないし。
『ダイエットが終わっても、常に自分のメンタルを図れるバロメータは作っておいて。毎日の生活の中で、好きなものを設定して、それを百パーセント楽しみ、喜べるか、調子の悪い時はどう感じるかで、自分の心の状態を把握しておくんだ。落ち込んで何もかも駄目だって思っている時は、大体調子が崩れている時だ。多分睡眠不足で、疲れて空腹で、夜遅い時が多い。自分がいつもとは違う状態だと気づいたなら、〝最悪な自分〟をそれ以上責めなくていい。悪いのは体調や環境で、折原さん自身じゃないから』
トレーナーさんにそう言われ、私は食事を基本設定にした。
ダイエット用にカロリー制限しても、美味しく調理したら食事が楽しくなる。
サラダチキン美味しいし……。
一日三度の「よーし、ご飯だ!」となった時に、「あんまり気が向かない……」となったら、自分に注意サインを出している。
機嫌や調子が悪くなるのは仕方ないとして、自分の機嫌は自分でとれるように努力している。
何かに当たりたくなった時は、封印を解除して甘い物を食べていいようにした。
文香にも愚痴を聞いてもらって、学生時代の友達や家族にも聞いてもらう。
お風呂で大声で歌って、枕に顔を伏せて叫ぶ。
大体はそれで紛らわせられて、あとは寝て起きればリセットできてるのが長所だ。
「優美ちゃんって素直に学ぼうっていう姿勢があるからだと思うよ。どんなにトレーナーさんが優秀でも、言葉が通じなかった人はいるだろうし」
「あぁ……、それは確かに」
正樹に言われ、私はコクリと頷く。
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