169 / 539
イギリス 編
大切に思ってくれて、ありがとう
しおりを挟む
「こっちは水の関係上、ちょっと油断するとタオルがグレーになるから、色つきタオルで対応してる。タオルの洗濯も普通なら外部委託だけど、フワフワを維持できるように、日本の企業さんと連携して、専用のクリーニング工場を作ったよ。勿論、他に現地での仕事を請け負えるよう、調整もしてる」
「なるほど」
確かに、部屋にあったタオルは濃いグレーだった気がする。
高級感を出すためかな? と思ったけど、そんな事情があったとは。
「あ、ごめんごめん。おかわり行ってきて」
「分かった!」
そのあと、マッシュルームの炒め物みたいなのを、たっぷり盛って玉子料理も盛る。
こっちは椎茸とかがメジャーじゃない代わりに、マッシュルームがメインなんだろな。
どっちにしろ、キノコ大好き星人の私にとってパラダイスだ。
やがて私と慎也は準備を終えて席に着き、正樹が食べ物を取りに行く。
ドリンクバーでグレープフルーツジュースを注いできた私は、隣に座った慎也に微笑みかけた。
「なんか、正樹の仕事している姿が見られて嬉しいな」
「まぁ、優美は正樹と職場が重なってなかったからな。……俺は?」
「ふふっ、〝岬くん〟は優秀だよ?」
正樹に張り合おうとする慎也がおかしくて、私はポンポンと彼の肩を叩く。
ジュースを飲んでいると、慎也が囁いてきた。
「あとで正樹におっぱい、好きなだけあげるの?」
「ぶふんっ!」
危うく公衆の面前で口からジュースを噴きそうになり、私は慌ててナプキンで口を押さえる。
「…………」
ジト目で睨むと、慎也はそれは楽しそうにケラケラ笑った。
その後、正樹も席に着き、食事を始める。
「僕は今日、予定通り仕事をするから、優美ちゃんはゆっくり休んでてよ」
「ずっと部屋? 外歩いててもいい?」
「んー、英語話せるしいいけど、護衛を一人はつけてほしい」
「…………分かった」
よもや護衛つきで行動する事になるとは思っていなかった。
今までの経験からいって、街中を歩いていてひったくりに遭う確率は、割と低めだと思う。
多いのはスリで、観光地を歩いていて買い物や写真撮影に夢中になっていたら、気が付けばバッグを開けられスられていたケースだ。
私自身は今まで被害はなかったけど、バッグのファスナーが開いていて、ヒヤッとした事ならある。
気付かないもんなんだよなぁ……。
騒ぎになれば警官がくるので、スリも気付かれないようにやってる。
基本的に金目の物をスられるだけで、体に危害を加えられる可能性は低いと思っていい。
ただし何事もないのが一番で、護衛が一緒にいるのは好ましいかもしれない。
……ずっと前、フランスの大きな美術館の目玉展示のところで、「あ! あの男の人スられた!」という瞬間を見てしまったので、男女は関係ないんだろうけど。
とっさに追いかけて、スリの腕を掴んで『この人泥棒です!』って思いきり叫んでやったけど、そういうのは基本的にやらないほうがいい。
あの時は美術館の中という、人が大勢いる屋内、そして警備員もいて幸運だっただけだ。
仲間がいたら恨まれて、あとで何をされるか分からない。
外だったら力任せに逃げられて、追いかけていれば文香を一人にしていた。
そういう時、幾ら〝強い女〟であっても、へたな行動をとらないほうがいい。
それはただの蛮勇だ。
勇気と行動力があっても、示していい場面かどうかは見極めなければいけない。
「不満?」
もっもっ、とマッシュルームを食べている私を、正樹が覗き込む。
「ん!? あ、いや。そうだよなー、日本と同じようにいかないよなーって思ってた」
「こっちの女性は普通に一人で歩いてるし、護衛を付けないといけないとは言わない。ただ、何が起こるか分からないから、注意はしておきたい」
慎也に言われ、私は頷く。
「大切に思ってくれて、ありがとう」
お礼を言うと、二人ともにっこり笑って「どういたしまして」と言った。
「慎也はどうするの?」
「俺も正樹に同席するつもり。副社長の仕事をきちんと確認して、せっかくロンドンまで来たから、うちのホテルがどう機能しているかチェックしたい」
「うん、そうだね」
一瞬、「いつか私が責任あるポジションに就くなら、そういうのを知っておいたほうがいいのかな?」と思った。
でも現時点、私は久賀城ホールディングスの社員でも何でもないので、部外者が首を突っ込んだら駄目だな、とやめておいた。
**
食事が終わったあと、お昼ぐらいまで部屋でゴロゴロしていた。
朝食を遅めに食べたので、ランチを十二時近くにとるのはやめておく。
正樹と慎也がスーツに着替えて部屋を出たあと、私はしばらくスマホを弄ったのち、少し散歩する事にした。
「なるほど」
確かに、部屋にあったタオルは濃いグレーだった気がする。
高級感を出すためかな? と思ったけど、そんな事情があったとは。
「あ、ごめんごめん。おかわり行ってきて」
「分かった!」
そのあと、マッシュルームの炒め物みたいなのを、たっぷり盛って玉子料理も盛る。
こっちは椎茸とかがメジャーじゃない代わりに、マッシュルームがメインなんだろな。
どっちにしろ、キノコ大好き星人の私にとってパラダイスだ。
やがて私と慎也は準備を終えて席に着き、正樹が食べ物を取りに行く。
ドリンクバーでグレープフルーツジュースを注いできた私は、隣に座った慎也に微笑みかけた。
「なんか、正樹の仕事している姿が見られて嬉しいな」
「まぁ、優美は正樹と職場が重なってなかったからな。……俺は?」
「ふふっ、〝岬くん〟は優秀だよ?」
正樹に張り合おうとする慎也がおかしくて、私はポンポンと彼の肩を叩く。
ジュースを飲んでいると、慎也が囁いてきた。
「あとで正樹におっぱい、好きなだけあげるの?」
「ぶふんっ!」
危うく公衆の面前で口からジュースを噴きそうになり、私は慌ててナプキンで口を押さえる。
「…………」
ジト目で睨むと、慎也はそれは楽しそうにケラケラ笑った。
その後、正樹も席に着き、食事を始める。
「僕は今日、予定通り仕事をするから、優美ちゃんはゆっくり休んでてよ」
「ずっと部屋? 外歩いててもいい?」
「んー、英語話せるしいいけど、護衛を一人はつけてほしい」
「…………分かった」
よもや護衛つきで行動する事になるとは思っていなかった。
今までの経験からいって、街中を歩いていてひったくりに遭う確率は、割と低めだと思う。
多いのはスリで、観光地を歩いていて買い物や写真撮影に夢中になっていたら、気が付けばバッグを開けられスられていたケースだ。
私自身は今まで被害はなかったけど、バッグのファスナーが開いていて、ヒヤッとした事ならある。
気付かないもんなんだよなぁ……。
騒ぎになれば警官がくるので、スリも気付かれないようにやってる。
基本的に金目の物をスられるだけで、体に危害を加えられる可能性は低いと思っていい。
ただし何事もないのが一番で、護衛が一緒にいるのは好ましいかもしれない。
……ずっと前、フランスの大きな美術館の目玉展示のところで、「あ! あの男の人スられた!」という瞬間を見てしまったので、男女は関係ないんだろうけど。
とっさに追いかけて、スリの腕を掴んで『この人泥棒です!』って思いきり叫んでやったけど、そういうのは基本的にやらないほうがいい。
あの時は美術館の中という、人が大勢いる屋内、そして警備員もいて幸運だっただけだ。
仲間がいたら恨まれて、あとで何をされるか分からない。
外だったら力任せに逃げられて、追いかけていれば文香を一人にしていた。
そういう時、幾ら〝強い女〟であっても、へたな行動をとらないほうがいい。
それはただの蛮勇だ。
勇気と行動力があっても、示していい場面かどうかは見極めなければいけない。
「不満?」
もっもっ、とマッシュルームを食べている私を、正樹が覗き込む。
「ん!? あ、いや。そうだよなー、日本と同じようにいかないよなーって思ってた」
「こっちの女性は普通に一人で歩いてるし、護衛を付けないといけないとは言わない。ただ、何が起こるか分からないから、注意はしておきたい」
慎也に言われ、私は頷く。
「大切に思ってくれて、ありがとう」
お礼を言うと、二人ともにっこり笑って「どういたしまして」と言った。
「慎也はどうするの?」
「俺も正樹に同席するつもり。副社長の仕事をきちんと確認して、せっかくロンドンまで来たから、うちのホテルがどう機能しているかチェックしたい」
「うん、そうだね」
一瞬、「いつか私が責任あるポジションに就くなら、そういうのを知っておいたほうがいいのかな?」と思った。
でも現時点、私は久賀城ホールディングスの社員でも何でもないので、部外者が首を突っ込んだら駄目だな、とやめておいた。
**
食事が終わったあと、お昼ぐらいまで部屋でゴロゴロしていた。
朝食を遅めに食べたので、ランチを十二時近くにとるのはやめておく。
正樹と慎也がスーツに着替えて部屋を出たあと、私はしばらくスマホを弄ったのち、少し散歩する事にした。
11
お気に入りに追加
1,819
あなたにおすすめの小説
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる