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イギリス 編
困った報告
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けれど、ここまでではなかった。
なので、知らなかった私が悪いと言えば悪いんだけど……。
「はぁあ……」
がっくりと項垂れた私に、正樹が「飲み物飲む?」と尋ねてくる。
頷いてドリンクコーナーに行くと、高級そうなシャンパンやワインも無料で飲めるのだそうだ。
けれど私は飛行機とアルコールの組み合わせが苦手なので、大人しくジュースを飲む事にした。
ちなみに、気圧の関係で酔いやすくなるとかは、諸説あるけれど私は「関係ない」派だ。
気分的に、乗り物に乗っている時にはお酒は控えておきたいだけだ。
三人で飲み物片手に、フライト時間までゆっくり過ごす事になる。
私は高級感のある、甘みと酸味が絶妙なオレンジジュースを飲み、正樹に尋ねる。
「これからずっと、こういう感じなの?」
「ん?」
薄型ノートパソコンを開いていた彼は、顔を上げて微笑む。
こうやって見ると、顔は本当にいいんだよなぁ……。顔というか見た目は。
久賀城ホールディングスの社員には、正樹のファンも大勢いるんだろう。
……けど、中身のあれこれを知っていて受け入れ、彼が一途に愛してくれているのが自分なのだと思うと、とても嬉しくなってしまう。
「コラ、優美。なに正樹に見とれてるんだ?」
慎也が不満そうな声を出し、私は思わず笑う。
「いや、ごめん。今後もきっと新婚旅行とか、家族で旅行とか、記念日にちょっと遠出……とかあると思うけど、基本的に秘書さんや運転手さんがいると思っていい?」
「ああ、それ?」
正樹は納得したという表情になり、シャンパンを飲んで脚を組む。
「んー、休日とかまったくプライベートでなら、僕や慎也が車を運転するのも可能だよ?」
彼の言葉を聞き、注意深く考える。
「あのね、『嫌だ』って言っているんじゃなくて、ただの確認だから、別に譲歩とかしてくれなくていいよ?」
ケロリとして言ったからか、正樹も慎也も「そう?」という顔をしている。
「結婚前だから、軽く捉えている自分がいるの。でも、久賀城ホールディングスって言えば、日本中の人が絶対聞いた事のある大企業っ。そこまでの会社ともなれば、どこかから知らない内に恨みを買っていてもおかしくないって思ってる」
「うん、まぁ……ね。たまに困った報告は聞くね」
正樹は苦笑いをする。
超一流の宿泊施設に、旅行会社にも携わっている会社だから、当然顧客との行き違いとかがあって恨まれる事は絶対あるだろう。
コールセンターに電話を掛けて、世間話をする程度ならまだ可愛い。
けれど中には執拗に会社への嫌がらせ電話をして、ネットで見た情報をもとに文句を言う人がいる。
暇を持て余している人は、クレーマーになりやすい。
世の中にはいいクレーマーと悪いクレーマーがいる。
いいクレーマーは不具合を指摘する事で、次回のミスへの防止、品質改善などに繋がる。
必要な事を言えばそれ以上しつこくしないので、それで終わる。
もっと最高の客は、商品や社員の対応が良かったという理由で、べた褒めしてくれる。
いわばファン、推しのような活動をしてくれる善人が、一定数いる。
私も店や施設でとても良い思いをさせてもらった時は、あとから問い合わせでお礼を伝える事はたまにある。
基本的には、現場で「ありがとうございます」と言って終わっているけれど。
でも、「この人をもっと評価してほしい」と思った時は、会社に伝えると褒められるかもしれない……という気持ちがある。
世の中、そういう人ばかりなら困らないけれど、中には暇を持て余し、自分のストレス発散のためにクレームをつけている人も一定数いる。
その人たちにとって、コールセンターや問い合わせ先の人は〝自分より格下の、何を言ってもいい存在〟だ。
「客」を振りかざして暴言を繰り返す。
「間違えを見つけたから指摘してやっている」という正義感のもと、「間違えを見つけた自分、凄いでしょう? 従え!」と一人で気持ち良くなるタイプだ。
コールセンターの人だって一人の人間だ。
糞味噌に言われているのが会社や社員、サービス、商品だと分かっていても、自分が否定されたように感じて病む人だっているだろう。
コンビニやドラッグストア、スーパーでもクレーマーを見る。
相手が女性、まじめで気が弱そうな男性なら、つけ上がって文句を言う。
大きな会社になれば、顔が見えないのをいい事に、好き勝手に文句をつけるのだろう。
「自分が見つけてやった間違えを認めて、詫びろ!」と。
久賀城ホールディングスは、顧客に旅行や宿泊の中で大切な思い出を作ってもらおうと思っている。
ラグジュアリーホテルやリゾートホテル、温泉旅館を扱っているから、客は安くないお金を払う。
満足いかない事があれば、「せっかくの旅行だったのに」と怒るのは分かる。
けれどほとんどは、その場のスタッフや添乗員、アンケートなどに思った事を伝えて終わるだろう。
なので、知らなかった私が悪いと言えば悪いんだけど……。
「はぁあ……」
がっくりと項垂れた私に、正樹が「飲み物飲む?」と尋ねてくる。
頷いてドリンクコーナーに行くと、高級そうなシャンパンやワインも無料で飲めるのだそうだ。
けれど私は飛行機とアルコールの組み合わせが苦手なので、大人しくジュースを飲む事にした。
ちなみに、気圧の関係で酔いやすくなるとかは、諸説あるけれど私は「関係ない」派だ。
気分的に、乗り物に乗っている時にはお酒は控えておきたいだけだ。
三人で飲み物片手に、フライト時間までゆっくり過ごす事になる。
私は高級感のある、甘みと酸味が絶妙なオレンジジュースを飲み、正樹に尋ねる。
「これからずっと、こういう感じなの?」
「ん?」
薄型ノートパソコンを開いていた彼は、顔を上げて微笑む。
こうやって見ると、顔は本当にいいんだよなぁ……。顔というか見た目は。
久賀城ホールディングスの社員には、正樹のファンも大勢いるんだろう。
……けど、中身のあれこれを知っていて受け入れ、彼が一途に愛してくれているのが自分なのだと思うと、とても嬉しくなってしまう。
「コラ、優美。なに正樹に見とれてるんだ?」
慎也が不満そうな声を出し、私は思わず笑う。
「いや、ごめん。今後もきっと新婚旅行とか、家族で旅行とか、記念日にちょっと遠出……とかあると思うけど、基本的に秘書さんや運転手さんがいると思っていい?」
「ああ、それ?」
正樹は納得したという表情になり、シャンパンを飲んで脚を組む。
「んー、休日とかまったくプライベートでなら、僕や慎也が車を運転するのも可能だよ?」
彼の言葉を聞き、注意深く考える。
「あのね、『嫌だ』って言っているんじゃなくて、ただの確認だから、別に譲歩とかしてくれなくていいよ?」
ケロリとして言ったからか、正樹も慎也も「そう?」という顔をしている。
「結婚前だから、軽く捉えている自分がいるの。でも、久賀城ホールディングスって言えば、日本中の人が絶対聞いた事のある大企業っ。そこまでの会社ともなれば、どこかから知らない内に恨みを買っていてもおかしくないって思ってる」
「うん、まぁ……ね。たまに困った報告は聞くね」
正樹は苦笑いをする。
超一流の宿泊施設に、旅行会社にも携わっている会社だから、当然顧客との行き違いとかがあって恨まれる事は絶対あるだろう。
コールセンターに電話を掛けて、世間話をする程度ならまだ可愛い。
けれど中には執拗に会社への嫌がらせ電話をして、ネットで見た情報をもとに文句を言う人がいる。
暇を持て余している人は、クレーマーになりやすい。
世の中にはいいクレーマーと悪いクレーマーがいる。
いいクレーマーは不具合を指摘する事で、次回のミスへの防止、品質改善などに繋がる。
必要な事を言えばそれ以上しつこくしないので、それで終わる。
もっと最高の客は、商品や社員の対応が良かったという理由で、べた褒めしてくれる。
いわばファン、推しのような活動をしてくれる善人が、一定数いる。
私も店や施設でとても良い思いをさせてもらった時は、あとから問い合わせでお礼を伝える事はたまにある。
基本的には、現場で「ありがとうございます」と言って終わっているけれど。
でも、「この人をもっと評価してほしい」と思った時は、会社に伝えると褒められるかもしれない……という気持ちがある。
世の中、そういう人ばかりなら困らないけれど、中には暇を持て余し、自分のストレス発散のためにクレームをつけている人も一定数いる。
その人たちにとって、コールセンターや問い合わせ先の人は〝自分より格下の、何を言ってもいい存在〟だ。
「客」を振りかざして暴言を繰り返す。
「間違えを見つけたから指摘してやっている」という正義感のもと、「間違えを見つけた自分、凄いでしょう? 従え!」と一人で気持ち良くなるタイプだ。
コールセンターの人だって一人の人間だ。
糞味噌に言われているのが会社や社員、サービス、商品だと分かっていても、自分が否定されたように感じて病む人だっているだろう。
コンビニやドラッグストア、スーパーでもクレーマーを見る。
相手が女性、まじめで気が弱そうな男性なら、つけ上がって文句を言う。
大きな会社になれば、顔が見えないのをいい事に、好き勝手に文句をつけるのだろう。
「自分が見つけてやった間違えを認めて、詫びろ!」と。
久賀城ホールディングスは、顧客に旅行や宿泊の中で大切な思い出を作ってもらおうと思っている。
ラグジュアリーホテルやリゾートホテル、温泉旅館を扱っているから、客は安くないお金を払う。
満足いかない事があれば、「せっかくの旅行だったのに」と怒るのは分かる。
けれどほとんどは、その場のスタッフや添乗員、アンケートなどに思った事を伝えて終わるだろう。
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