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イギリス 編

ファーストクラスのラウンジ

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 外国人受けかな? と思うけれど、日本人の私もこの雰囲気にワクワクしている。

「ボリューム的にはどう? 機内食のタイミングってどうだっけ?」

 日本を発つのが夕方なら、割とすぐに機内食が出る。
 けど海外に行く場合時差があるので、日本時間の何時というより、出発してから何時間後に……という感覚らしい。
 深夜便なのですぐ寝る事になるだろうな、とは思うけど、念のため聞いてみた。

「好きな物喰っていいよ。飛行機に乗ってて腹が減っても、頼めば何か出してくれる。相応のサービスをしてくれるクラスではあるから」

「相応のって……」

 ちょっと嫌な予感がして尋ねると、慎也と正樹はニッコリ笑い、やけにいい発音で答えた。

「「first class」」

 あっあぁあああ……!
 またこいつらは、お金を湯水のように使って……。

 がっくりと項垂れたが、もう変えようがない。

「そんな反応してるけどさぁ。文香ちゃんにもビジネスクラス奢られてたんでしょ? 慣れてよ」

 正樹に頬をつつかれ、私は「う」と呻く。

 その通りだ。

 文香は「ビジネスなら出すよ。エコノミーはちょっと窮屈だし……」と言って、毎回ビジネスクラスを利用していた。

 二人も文香もハイクラスの住人で、とてもありがたい思いをさせてもらっていた。
 感謝して大切にしなければ。

 さしあたって、頼まれたレモンカードと紅茶の他にも、彼女が気に入りそうな何かを買っていかなきゃ。

 考えている間も、慎也がネチネチと責めてくる。

「俺たちに金使わせるのは駄目で、文香さんはいいわけ? 彼女に嫉妬するけど、それでもいいの?」

 言いながら、彼もほっぺをつついてくる。
 これって何の時間!?

「文香さんってさ、かなり優美ちゃんの事、好きだよね? 僕たちが優美ちゃんを二人占めしたら、嫉妬して怒るだろうなぁ~……」

 正樹が私を抱き締め、白々しく言う。

「もぉぉ……、そういう事したら怒るからね?」

 彼の手の甲を軽くつねっても、嬉しそうな顔をするだけだ。

 ご飯を食べたあとは専用ラウンジに行くらしく、そこでも無料で食事の用意があるらしい。
 なので軽めでも何でもいいから、好きな物を食べる事にした。

 正樹が旅行中にかけたお金は、部下の分も含め経費になると言っているので、彼らに美味しい物を食べてほしいと思ってお寿司にした。

 回転寿司があったからそっちで……、と思っていたけれど、慎也は「寿司ね? OK」と、同じ店名の回らないほうに入ってしまった。
 そう。このレストラン街には、同じ名前のお寿司屋さんで、回転寿司と回らない寿司の二つがあるのだ。

 あっ、と思った時にはもう遅く、私はタッチパネルを覗き込むハメになる。

「何でも好きな物食べていいからね」

「優美、トロ好きだったよな? ここ、マグロ得意らしいから、どんどんオーダーしてよ」

 言いながら、二人はポンポンと自分が食べたい物をタップしていく。

 はぁあぁ……。もう。

 諦めて、私はタッチパネルに向き合った。





 お腹一杯食べたあとは、フライトまでファーストクラス専用ラウンジに向かう。

 ダークカラーの床に壁、間接照明に照らされた航空会社のロゴ。
 まさに選ばれし者のみが入れる、セレブリティな空間!

 うわぁ……、と緊張していたけれど、カウンターで搭乗券をチェックされ、あっさりと中に入れた。

 まず目に入ったのは、一面のガラスの向こうに並ぶ飛行機だ。

 ラウンジにはゆったりとしたソファが並び、いかにもお金が掛かっている雰囲気がある。

 別の箇所にはパーティションで区切られて、プライベートが守られている。
 そこではビジネスマン風の人が、薄型ノートパソコンを開いているのがチラッと見えた。

 ラウンジにはさっき二人が言っていたように、料理を楽しめるスペースもある。

 ホテルのビュッフェのように、色んな物が並んでいたので思わず覗いてしまった。
 高級レストランの前菜に出てきそうな物があり、メインディッシュに至ってはシェフが鉄板でステーキを焼いてくれる。

 そんな立派なラウンジを目の当たりにして、私が疑問に思わない訳がない。

「……これってさっき、お寿司食べなくても良くなかった?」

「え? 優美の好きなもん食べさせてあげたかったし」

 心からの疑問を口にすれば、慎也がケロリと答える。

「ただ飯食べられるのは分かってたけど、こんなに立派だって思ってなかったの。これだったら、こっちを選んだのに……!」

「ただ飯」と言うのは恥ずかしいけれど、経済的に考えてどう考えてもこっちのほうがいい。

 文香と行ったビジネスクラスのラウンジにも、軽食の準備はあった。
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