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これからの事 編

全然アリ!

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 そういうのと自分の観察眼を駆使して、先方に気に入られる事はよくある。

 結果、「君、面白いから今度食事に行こうよ」とよく誘われるけど、すべて断っている。

「この人なら話を聞いてくれそう」「気が合いそう」「楽しく過ごせそう」と思っても、あくまで私は仕事の営業として接している。
〝お客様〟を気持ち良くさせるのと、個人の付き合いは別だ。

 接客業は、そういうところを利用している……とも言えるんだけど。

 そんな訳で私はどんどん営業成績を伸ばし、佐藤さんたちに嫌われていく。

 まぁ、「どうにもならん」の一言なんだけど。





 そんな事をつらつら考えながら、私は慎也が作ってくれた夕ご飯を食べたあと、正樹に膝枕をしてもらっていた。

 彼はタブレットを弄っていて、こういう時は大体世界中のニュースを見て情報収集している。
 投資すると、自然と世界経済やニュース、動向に注意するようになるので、正樹も慎也もよくニュース記事を読んでは今後相場がどうなっていくかを予想している。

 私も投資はしているけど、スタイルが違うからそれほど頻繁にチャートをチェックしていない。
 チャートに貼り付いて「はい、ここで買い! ここで売り!」というのは向いてないので、放ったらかしでも大丈夫なスタイルを取っている。

 美人インフルエンサー文香さまから基礎を教えてもらい、今は少しずつ資産を増やせている。

 と言っても楽に儲ける方法はないので、「投資とは何か、どういうやり方があるか」を教えてもらっただけだ。
 その中で自分なりに勉強をし、知識をつけて今に至る。

 なお文香はガチガチの攻めスタイルの投資家だ。
 それができるのも、準備できた資金が大きかったのと、とても勉強したからというのが大きい。

 私は文香のいいつけを守って、生活費に影響しないお金だけで投資をしている。

 今の私の資産、どれぐらいに育ってるかなー、なんて思いながら、私もスマホを出してポチポチと弄る。

 弄りながら、二人に話し掛けた。

「……ねぇ」

「「ん?」」

 呼びかけると、正樹が私の頭を撫で、私の足を膝の上にのせている慎也が、私の脛に手を置く。

「……私が久賀城ホールディングスのどこかで働くのって……、まだアリ?」

「「全然アリ!」」

 二人が同時に言い、正樹は大切なチェック中なのに、タブレットを脇に置いている。

「え? どうしたの? 心変わり? 僕らと同じ空気を吸いたい?」

「そこまで言ってない」

 喜びのあまり妙な事を口走る正樹に思わず笑い、私は起き上がる。

「……なんかね、今後も今の会社に勤めるメリットデメリットを考えると、デメリットのほうが多い気がするな……と」

 私がまじめに話し始めたので、二人ともきちんと聞いてくれる。

「正直、今まで積み上げた営業成績や上司からの信頼、顧客からの信頼は捨てがたい。でもこれから新婚生活を送っていくに当たって、一部の同僚にずっと探られたまま、モヤモヤし続けて、気にしていくのもストレス溜まるなーって」

「あー、佐藤さん?」

 慎也はさすがにすぐ察する。

「うん。浜崎くんの事があってもなくても、彼女たちには『気に食わない』って思われてた。営業部の王子様である慎也が私を慕ってくれた、くれないも、関係ない。『結婚しました』って言ったら気にされるだろうし、彼女たちの性格上、私の私生活や結婚事情を、いつまでも探りそうな気がする」

「あー。あの人たち、いっつも週刊誌みたいな話題しかしてないもんな。俺も話し掛けられた時、『そっすね』しか言ってなかったわ。もうちょっと知識や教養をつけて面白い会話ができたら、付き合う人のレベルも上がりそうなのになーって思う。まぁ、逆上するだけだから言わないけど」

 確かに、慎也の言う通りだ。

 人は相手に「話していて面白い」という刺激、自分を高めてくれる要素を求める。
 別に偏差値を上げろっていうんじゃなくて、相手に尊敬できる面があるかどうかだと思う。

 文香と一緒にいてそれを強く感じた私は、常々自分をアップデートしていく事を心がけるようになった。

 一部、自分の話を聞いてくれればいい、同調してくれればいい、という人はいる。
 でもそういう仲は、お互いを高め合えられない仲だなとは思う。

 皆が皆、高め合うための相手である必要はない。
「この人と一緒にいると楽だな」と思える安らぎとか、そういうのでもいい。

 ただ安らぐためには、愚痴は言っても人の悪口を言わない人、などは必須だと思う。

 その意味で私にとって佐藤さんたちは〝ない〟人だった。

「私って、良くも悪くも目立っちゃってたでしょ」

「そうだな」

 慎也が頷く。
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