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これからの事 編

結婚指輪を買いに

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「すっご……、すっごくない!? っていうかシェフ!!」

 いい匂いが立ちこめていて、キッチンではプロのシェフがアシスタントを伴って料理の真っ最中だ。

「食材もいいのを見繕ってもらった、スペシャルメニューだから期待してて! 文香ちゃんと和人くんも招待したから、そのうち来るんじゃないかな?」

「えっ!? 文香知ってるの!?」

 聞いてなかった!

 目をまん丸にする私を見て、二人はクスクス笑う。

「サプライズにしたいから、強力してもらったんだ。優美ちゃんと一緒に過ごせるって知ったら、快く強力してくれたよ」

「……あはは……」

 その後、十八時半前にお洒落した文香と和人くんが来て、皆で美味しいコース料理を食べた。

 さらに大好きなチョコレートを、たっぷりもらえたので幸せMAXだ。

 ……勿論、食べた分動かないとだけど。



**



 バレンタインの買い物で、文香と未望ちゃんはファーストコンタクトだった。

 けど私が彼女を実の妹のように可愛がっているのもあり、文香も「素直で可愛い女の子」は大好きなのですぐに受け入れてくれた。

 たびたび女子会ランチ、ディナーやアフターヌーンティーも楽しんだ。

 美望ちゃんは箱入りで育ったようだけれど、玲奈さんは私たちが一緒なら安心と、夜まで遊ぶ事を許可してくれているようだ。

 と言っても、日をまたぐほど遅くなる訳ではない。
 遅くても二十二時には帰る流れになり、時間になると慎也か正樹、もしくは両方が迎えに来る。

 美望ちゃんも迎えの車を頼んでいて、車が来るまでは私たちと一緒に過ごす。

 という事で、誰から見ても安心安全なのだった。





 最初の計画では、一年は遊んでから結婚を考えようと言っていた。

 けれど思い切って「挨拶してみる?」と一歩踏み出せば、周囲からあっさり祝福された。
そして色んな事がトントン拍子に進んでいく。

 その幸運に私は深く感謝した。

 婚約指輪はもらったけれど、結婚指輪は結婚の日取りが決まったらゆっくり……と思っていた。

 けれどそれも、「じゃあ、買いに行こうか!」となってしまった。

 三月末に私は、六本木けやき坂通りにある、高級時計で有名なスイスブランドの某ストアにいたのだった。

 警備員さんが守る入り口から店内に入ると、金色のシャワーのような印象のシャンデリアが目に入る。
 店内は白を基調とし、赤い絨毯が敷かれた店内にはショーケースがある。

 私たちは二階に上がって、品の良さそうな店員さんと指輪の打ち合わせをした。
 ショーケースにある指輪を一通り見て印象を掴み、さらに二階の個室でカタログを見せてもらい、デザインやサイズなどを決めていく。

 相手もさすがプロなだけあって、私たちが〝三人〟で店を訪れても鉄壁のスマイルを浮かべたままだ。

 私たちの〝お目当て〟は、重ねづけできる指輪だ。

 正樹と慎也は、特に乗り気になって指輪のカタログを見ている。
 私は最初こそ張り切っていたものの、ゼロが幾つも並ぶ指輪を前に、すでに戦意喪失している。

 シンプルなタイプの指輪なら十万円以内で収まるのだが(それでも高い!)二人は「どうせならダイヤ入ってる方がいいよね」と言ってどうしても私に豪華な物をつけたがる。

 結局、私は結婚指輪を二つ嵌める事になった。
 それぞれとの誓いの指輪を二本重ねて着けるのだけれど、デザインのお陰かしっくりくるので流石だ。

 慎也との指輪はレッドゴールドの指輪にメレダイヤが嵌まった物。
 彼は同じく色の、ダイヤが入っていないシンプルな指輪だ。

 正樹との指輪は、慎也と同じデザインの色違いだ。
 私はホワイトゴールドのリングに、ワンポイントでダイヤがついている物をする事になった。

 アドバイザーさんは絶対「こいつら何なの?」って思ってそうだ。
 なのに、終始上品な笑みを浮かべてニコニコ対応してくださるので、もっと居たたまれなくなる。

 サイズとデザインは確認したので、在庫確認の他、刻印を入れれば完璧だ。

 刻印について三人であれこれ話し合い、アドバイザーさんからも助言を頂いた。

 その結果、私たち三人が出会った日――ハプバーの翌日の日付に、私の指輪にはfromSとfromMが刻まれる事になった。

 二人はもっと、英語や他の言葉で愛のメッセージ……というのを提案してきたけれど、私がちょっと恥ずかしくなって辞退した。

 すまない……。

 しかし、ピカピカのダイヤがついた指輪を、常につけるのを受け入れたので、お互い譲歩としてほしい。



**
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