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バレンタイン 編

バレンタインチョコ

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 文香はお金を使う事を特に何とも思っていなくて、私に対してマウント取りたい訳でもない。
 ご馳走してもらったら「ありがとう、美味しかった」は言うけれど、それ以上の事を文香は求めない。

 勿論、自分の知的好奇心を満たすために、私に詳細な感想を求めたりはする。
 自分が美味しいと思った物を私はどう思うかとか、情報を共有したいみたいだ。

 もともと、私は彼女が手作りのバケ丸ぬいぐるみで、泣くほど喜ぶ子だと知っている。

 買えない物はほぼないという生活は、一般人の憧れだろう。
 けど文香本人は、それで友達がいないとも言える。

 だから彼女を、いい意味で特別扱いしない私を重宝がってくれている。

 ご馳走される事を当たり前とは思っていないし、あんまりにも高額だと心苦しくなる。

 でも「一人で来るの嫌だったんだ、付き合ってくれてありがとう」って心の底から言われると、彼女はそれ以上の事は望んでいないんだと分かる。

 だから、私が感じている、負い目や引け目みたいなものをちょっと我慢すれば、二人の関係は今後もうまくいく……と信じている。

 ……と、そんな事を考えている間に、二人はカサカサと包装を解いてチョコレートの箱を開けている訳で。

「いただきまーす!」

「ます!」

 差があるといじけるので、二人のチョコは同じ物だ。

 二人は同時に王冠型のチョコレートを摘まむと、ポンと口に入れた。

 ……甘い物苦手なはずなのになぁ。
 バレンタインチョコだけ特別なのか。変なの。

 おかしくなって笑っていると、口をモゴモゴさせながら二人が「ん?」とこちらを見る。

「あとは家でゆっくり食べて。数日はかかるでしょ」

 家にチョコレートボックスのでかいのがあっても、二人だけならまず減らない。
 ハイカカオのを選んで、たまに一つ摘まむかぐらいだ。

 それを分かった上で、言外で「この場で全部食べようとしなくていいからね」と伝えておく。

 二人は私から何かもらえるなら、心の底から喜んでくれる。
 でも苦手な物を無理に食べてほしくはない。

 そもそも、甘い物苦手な彼らがバレンタインチョコを欲しがるっていうのが、バグなんだけど。

 とはいえ、慎也もちょいちょい家でスイーツを作ってくれるけど、それはなぜだか自分で作るからOKなんだそうだ。

 よくわからない理屈だけど、何となく把握してる。

「ありがとね、大切に食べる」

「愛してる」

「どういたしまして」

 私は二人にショッパーを渡し「これに入れて持って帰ってね」と伝える。

「優美、何か落ちたよ」

「え?」

 慎也に足元を指さされ、私は下を見る。
 その前に親切で慎也が手を伸ばし、――巾着袋を拾ってくれた。

「ちょっ……!」

 私はとっさにバッと彼の手から巾着を取り上げた。
 そんな反応をされると思っていなかったので、慎也はポカンとしてる。

「慎也~、ダメじゃん。女の子のアレじゃん」

 ピンときたらしい正樹は、どうやらサニタリー用品を想像しているらしい。馬鹿野郎。

「あれ? じゃあ、今日はエッチなし?」

 慎也が尋ねてきて、私は真っ赤になって首を横に振る。

「……違う……」

「え? でも……」

 二人はまったく分かっていないみたいで、どう切り出したらいいか分からなくてつらい。

「……これ、オキガエです……」

 蚊が鳴くような声で白状すると、二人は一気にしたり顔になって頷き合った。現金だなホントに。

「……ブラジャーのカップ的な物を感じなかったけど、合ってる?」

 何の答え合わせか。

「……ああああ、もう……。あとで着用して見せるから、今は見逃して」

 両手を前に突き出して俯くと、二人はクスクス笑って受け入れてくれた。

「分かった。楽しみにしてる」

 慎也にポンポンと頭を撫でられ、私は息をついて顔を上げる。
 そして申し訳ないなと思って謝った。

「さっき乱暴な事をしてごめん」

「え?」

 突然謝られて彼は戸惑ったけれど、すぐ巾着袋のくだりだと分かったようだった。

「別にあんなの、わざわざ謝るような事じゃないだろ」


「や、でも態度が悪かった」

「優美がそう言うならいいけどさ」

 慎也は愛しそうに目を細め、私の頬にチュッとキスをしてきた。
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