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バレンタイン 編

普通に付き合いできる人のスキル

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「さて……と」

 慎也がわざとらしく言って、私をチラッと見る。

 ディナーは十八時半から始まって約二時間。
 現在は二十一時前で、……分かるよ。分かりますよ。これから致しタイムなのは分かってます。

 けど、何て言うか、今まで和やかにご飯食べて笑ってたのに、部屋に入ったから「はい、十八禁な雰囲気で」ってやられると、照れる……!

「あ、そうだ」

 いいごまかし方を思いだし、私は声を出す。

「まず座ろうよ。今日はバレンタイン。まずチョコをあげる」

「ありがと!」

「楽しみにしてたんだ」

 毎度ながら不思議になる。

 この二人はどんな高級チョコだって、三時のおやつとして気やすく買える財力があるのに、どうして小学生男子みたいにバレンタインチョコってなったら、別物になるのか……。

 まぁ、それが日本人男性の悲しい性なのかな。

 私がロングソファに腰かけると、隣に正樹、一人掛けに慎也が座った。

「隠れて持ち歩く用に、小さめのにしちゃった。ごめん」

「全然!」

「もらえるだけで無問題」

 ……本当にほしいんだな。

 やけに感心しながら、私は茶色い箱にピンクのリボンがかかったチョコレートの箱を出す。

 下品な事にお値段の話をすると、一人五千円ぐらいはかかってる。
 けど二人がいつも私に買ってくれるチョコレートの箱は一番たっぷり入っているやつなので、その辺りの感覚がもうバグってきているのかもしれない。

 文香にもこれぐらいの値段のチョコをあげてるし、埼玉の友達にも、もうちょっとはお値段抑えめにするけどブランドチョコはあげている。

 何て言うか、変な見栄がついてしまって、「大人ならブランドチョコあげないと」みたいな価値観になっている。

 とはいえ、今年はパティスリーのチョコレートがめちゃくちゃ美味しいと知ったので、今後は路線変更していくかもだけど。

 お値段どうこうより、自分で食べてみて美味しくて「これをあげたい!」と思ったやつだよね、結局。

 周りの人が凄い人たちばっかりなので、私は自分の中身が伴っていないのに価値観だけ引き上げられてしまっている。

 そこは、一歩間違えると破産してしまいかねない道なので、気をつけないと。

 今の私は二人や文香に守られているけれど、自分自身は大した財力を持っていないのに、周りに感化されて自分がお金持ちになったように勘違いするのは避けたい。

 二人に捨てられるかもとか、文香との友情が壊れるかもとか、疑ってる訳じゃない。

 けど、自分のいるべき位置をしっかり定めておきたいな、は思う。

「文香が買ってるから私も買おう」で買い物をしていたら、あっという間に破産してしまう。

「お金ない」って言うのは恥ずかしいけど、無理して相手に合わせてあとから破産するほうがもっと恥ずかしい。

 ちゃんと口に出して伝えれば、相手もこっちの懐事情を察してくれる。
 それが普通に付き合いできる人のスキルだ。

 ……まぁ、私も物凄く貧乏な訳じゃないし、そこそこ稼いでる。
 二人に五千円のチョコをあげても、まぁ大丈夫だし、文香と一緒に一万円ぐらいのコース料理も食べる。

 ただ、それを日常と思ったら駄目だ、という話だ。

 文香もそれは分かってくれていて、毎回とんでもなくセレブなお店ばかりチョイスする訳じゃない。
 グルメだから色んな料理やお菓子に興味があって、高級路線からカジュアルなのまで色んな店に行く。

 そのうち、SNSでグルメ系の投稿もメインになるのでは……と思うほどだ。
 なんか、ホテルの紹介もできそうだけど。

 それはさておき。

 彼女が「ここ行ってみよう」って誘ってくれた所は、結構良心的な値段の所が多くて、それでいて美味しいから本当に名店を見つけられた気持ちになる。
 高いところに行けたらそれでいい、じゃなくて、やっぱり味とかもう一回行きたいお店とか、そういうのも大事だなと思う。

 ……とはいえ、文香さんはベースが底上げされているので、やっぱり時によっては高級店も普通に行く。

 そういう時は「食べたい物があるから奢られて」と言ってくるので、ありがたくご馳走になっている。

 文香の存在を知っている埼玉の友人には、「格差があって関係が破綻しないの?」って心配されている。

 確かにご馳走されてばっかり、旅行まで奢られて……と、彼女におんぶに抱っこされっぱなしだ。
 私にだってプライドはあるし、自分の分は自分で払いたいとは思う。

 でも、〝そういう関係〟があってもいいのかな? は感じている。
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