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利佳 編
結婚がすべてだと思う?
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「……正樹って私と結婚しないじゃない」
「うん。そうだね。日本の法律では一妻多夫は認められてないから」
「厳密に、正樹は私の〝夫〟にはならない。恋人ではあるかもしれないけど、『私のもの』って、法律で縛られてる訳じゃない」
私は正樹の鎖骨の辺りを見て言っていたから、彼が目をスッと細めたのを気付けなかった。
「今はこういう状態だけど、もしいつか正樹の望みに叶う女性が現れたなら、言ってほしい。私は――」
「『身を引くから』?」
温度の低い声で言われ、私はハッと顔を上げる。
「優美ちゃんさぁ、まだ分かってないみたいだね?」
「んっ」
顎を強めに掴まれ、私は顔を上向かされる。
顎に食い込む指先が、少し痛いと思うぐらい、正樹は手に力を込めていた。
「僕は前に、『慎也がいなかったら優美ちゃんと結婚したい』って言ったはずだよ? 慎也がいる目の前で」
「う、うん」
「こいつが好きになったのが先だから、その気持ちや、過去の事とか色々含めて譲りたいと思った。もう一回言うけど、慎也がいなかったら僕は優美ちゃんと再婚したいと思ってる」
正樹は冷笑を浮かべている。
後ろから慎也が溜め息をついたのが聞こえた。
「結婚したいって言ってる男に対して、法的拘束力がないから、他に気になる女ができたらそっちにいけって?」
あ……。
やば……。
「これってさ、アレだよね。『私よりもっといい女性がいるよ』って、好きで堪らない奴に向かって、一番残酷な事を言うやつ」
そんなセリフを正樹に言うつもりはなかったけど、彼がそう捉えたのなら、同義の事を言っていたに違いない。
「……ご、ごめん……。そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「正樹の気持ちを疑ってたとかじゃない」
「うん。でも僕の気持ちが揺るぎないって、信じてくれてなかったよね?」
私は言い返せず、唇を引き結ぶ。
「結婚がすべてだと思う? 結婚していない二人は、心の底から愛し合っていないと思う?」
「思わない! ……ごめんなさい」
正樹の胸板を両手で押し、私は息をつく。
「正樹は私のものって思ったけど、その気になったら他の女性を幾らでも抱く自由があるって思ったら、急に我に返ったというか」
「じゃあ、正樹に契約書でも書いてもらう?」
「え?」
慎也に言われ、私は彼を振り返る。
「そんなに心配なら、『お互い他の女、男を見ない』って契約書に一筆すればいいんだよ。正樹と法的拘束力がなくて不安なら、契約すれば安心するだろ?」
「あっ、それいいね!」
それまで冷めた表情をしていた正樹が、パッといつもの雰囲気に戻る。
「そっ、そこまでしなくても……」
「〝約束〟がなくてつい疑ってしまうって言ったのは、優美だろ?」
「……そ、そうです……けど」
「いいじゃん! 契約書を作っても、お互い約束を破るつもりはないんだから。〝形〟を作って優美ちゃんが安心するなら、それに越した事はないよ」
「うん」
確かに、正樹とは目で見える約束がないから、不安になってしまったのも否めない。
「あとさ、俺との結婚式を挙げたあと、正樹とも身内で式を挙げるだろ? その時、正樹ともお揃いの指輪するんだからな?」
慎也に言われ、私は玲奈さんの提案を思い出した。
「重ねづけの結婚指輪もあるんだって。優美が二本つけて、俺らがそれぞれペアになったのを付けたら問題なくない?」
「そんなのあるんだ。……ありがとう。そうしたい」
指輪の問題もクリアできそうで、私は安堵する。
……あーあ。結局、気を遣わせちゃった。
駄目だなぁ。
多分、結婚を前にして不安になっているんだろうけど。
少し落ち込んでいると、正樹に抱き締められてボフッと押し倒された。
「わっ」
私の上に馬乗りになった正樹は、ペロリと自身の唇を舐めた。
「さて、お仕置きしようか」
「私がされるの!?」
さっきとは逆の立場になり、私は慎也に助けを求めて彼を見る。
「うん。そうだね。日本の法律では一妻多夫は認められてないから」
「厳密に、正樹は私の〝夫〟にはならない。恋人ではあるかもしれないけど、『私のもの』って、法律で縛られてる訳じゃない」
私は正樹の鎖骨の辺りを見て言っていたから、彼が目をスッと細めたのを気付けなかった。
「今はこういう状態だけど、もしいつか正樹の望みに叶う女性が現れたなら、言ってほしい。私は――」
「『身を引くから』?」
温度の低い声で言われ、私はハッと顔を上げる。
「優美ちゃんさぁ、まだ分かってないみたいだね?」
「んっ」
顎を強めに掴まれ、私は顔を上向かされる。
顎に食い込む指先が、少し痛いと思うぐらい、正樹は手に力を込めていた。
「僕は前に、『慎也がいなかったら優美ちゃんと結婚したい』って言ったはずだよ? 慎也がいる目の前で」
「う、うん」
「こいつが好きになったのが先だから、その気持ちや、過去の事とか色々含めて譲りたいと思った。もう一回言うけど、慎也がいなかったら僕は優美ちゃんと再婚したいと思ってる」
正樹は冷笑を浮かべている。
後ろから慎也が溜め息をついたのが聞こえた。
「結婚したいって言ってる男に対して、法的拘束力がないから、他に気になる女ができたらそっちにいけって?」
あ……。
やば……。
「これってさ、アレだよね。『私よりもっといい女性がいるよ』って、好きで堪らない奴に向かって、一番残酷な事を言うやつ」
そんなセリフを正樹に言うつもりはなかったけど、彼がそう捉えたのなら、同義の事を言っていたに違いない。
「……ご、ごめん……。そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「正樹の気持ちを疑ってたとかじゃない」
「うん。でも僕の気持ちが揺るぎないって、信じてくれてなかったよね?」
私は言い返せず、唇を引き結ぶ。
「結婚がすべてだと思う? 結婚していない二人は、心の底から愛し合っていないと思う?」
「思わない! ……ごめんなさい」
正樹の胸板を両手で押し、私は息をつく。
「正樹は私のものって思ったけど、その気になったら他の女性を幾らでも抱く自由があるって思ったら、急に我に返ったというか」
「じゃあ、正樹に契約書でも書いてもらう?」
「え?」
慎也に言われ、私は彼を振り返る。
「そんなに心配なら、『お互い他の女、男を見ない』って契約書に一筆すればいいんだよ。正樹と法的拘束力がなくて不安なら、契約すれば安心するだろ?」
「あっ、それいいね!」
それまで冷めた表情をしていた正樹が、パッといつもの雰囲気に戻る。
「そっ、そこまでしなくても……」
「〝約束〟がなくてつい疑ってしまうって言ったのは、優美だろ?」
「……そ、そうです……けど」
「いいじゃん! 契約書を作っても、お互い約束を破るつもりはないんだから。〝形〟を作って優美ちゃんが安心するなら、それに越した事はないよ」
「うん」
確かに、正樹とは目で見える約束がないから、不安になってしまったのも否めない。
「あとさ、俺との結婚式を挙げたあと、正樹とも身内で式を挙げるだろ? その時、正樹ともお揃いの指輪するんだからな?」
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「重ねづけの結婚指輪もあるんだって。優美が二本つけて、俺らがそれぞれペアになったのを付けたら問題なくない?」
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多分、結婚を前にして不安になっているんだろうけど。
少し落ち込んでいると、正樹に抱き締められてボフッと押し倒された。
「わっ」
私の上に馬乗りになった正樹は、ペロリと自身の唇を舐めた。
「さて、お仕置きしようか」
「私がされるの!?」
さっきとは逆の立場になり、私は慎也に助けを求めて彼を見る。
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