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利佳 編

二回も二人に救われちゃった

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「俺、あからさまに好意を出してたつもりだったけど」

「ん……。気付いてて、ドキドキしてたけど、『そんなはずはない』って自分に言い聞かせてた」

「っあー!」

 慎也が大きい声を出し、私を抱き締めてくる。

「じゃあ、ほんっとうにあのハプバーの勢いがなかったら、俺が昼間のトーンで告白しても駄目だったんじゃないか? あっぶね!」

「……かも……」

 つよつよ女の本当の姿は、自尊心がとても低い普通の女だ。

「っはは……っ! 優美ちゃんってさ、〝普通の女の子〟だよね」

 正樹が笑い、私の首筋にチュッとキスをしてきた。

「先日の席でも『スーパーウーマンじゃない』って言って、自覚はしてる。でも周りから見ると、君はとてもポジティブな善人で、〝綺麗な人〟に見える。だからきっと、五十嵐みたいな女からすれば、『根本的に合わない嫌な女』って思われるだろうね」

「そうかもね」

 私も、五十嵐さんについては、あのままなら残念ながら受け入れられない。

 改心したら友達になれるかも、とは思うけれど、その〝改心〟というのだって私の基準に合わせる考え方だ。
 彼女には彼女の生まれ育ちからの〝今〟がある。

 それをあたかも間違えているように言うのは失礼だ。

 あわよくば色んな人と仲良くなって、友達になりたい。

 そう思うものの、世の中には色んな人がいて、決定的に〝合わない〟人がいる。
 正樹と利佳さんみたいに、社会的地位もお金もある人だって、それらでは解決できない事がある。

「人を好きになりたい。好かれたい。…………でも肝心の私が、自分を心の底から愛せていないなら、人を受け入れられなくても仕方ない……、と思っちゃう」

「優美はさ、聖人にでもなりたい訳?」

 慎也が私の額をトンとつついてくる。

「ううん」

「〝善く〟ありたいと願う姿は、美しいよ。でも聖人じゃないから、万人を愛そうとしなくていいし、万人に好かれようとしなくていい。キリストだって結局は処刑されてしまったんだから」

「……だよね」

 私から見れば、嫌う要素のない芸能人、アーティストにも、なぜかアンチという存在がいる。

「そういう風に悩む姿は、とても〝普通〟で僕は安心した」

 私の肩口に顎をのせ、正樹が息をつく。

「優美ちゃんの〝いい子〟なところが大好きだけど、僕は人の汚さ、醜さも愛してる。そういうものを愛するからこそ、自分の歪みを正当化できている」

 正樹の言葉を、私は深く納得する。

「そうだね。潔癖症みたいな生き方をしていたら、他の人の些細なミスも許せない人になりそう。自分にも汚いところがあるから、人の汚さを許さないといけない。……人ってそういうものなんだよね」

 話し合って納得していくうちに、私は少しずつ自分が抱えていた弱さを許せるような気がしてきた。

「自分の汚さを無視して、他人の揚げ足ばっかり取って攻撃するのはクズだ。でも俺が知る限り、大体の人は自分の感情をコントロールできると思ってるよ。優美だって、過去の弱さと闘いながら、懸命に強いふりをして生きてる。俺はそれを虚勢とは思わない」
「……ありがとう」

 思わず涙が滲み、私は指で雫を拭う。

「何回でも言う。俺たちは完璧な女性なんて求めてない。あの時の彼女が、俺たちのために努力してくれたんだっていう事が、堪らなく嬉しい。その弱さが愛しいんだ」

 瞬きをすると、ポツリ、と涙の雫が零れる。

「これからは一人で強くならなくていいからね。今まで通りに過ごしていていいけど、〝外〟で頑張る分、〝家〟では素のままでいていいんだ。僕らにありのままの姿を見せて? 家族の前でまで、自分を良く見せようとしなくていいから」

「うん……」

 ゆっくり、肩の力が抜けていく。

 強くいなきゃ、理想の女性にならなきゃ、と思い続けていた気持ちが、氷解していく。

 不意に、和人くんと付き合い始めた頃の文香の言葉が蘇った。



『私は唯一、男性では和人の前でだけ素の自分でいられるの。優美も恋人を探すなら、そういう人を見つけて大事にしな』



 ……うん。そうするね、文香。

 私はここにいない親友に微笑みかけた。

「……ありがとう。大好き」

 私は起き上がり、慎也と正樹の頬にちゅっちゅっとキスをした。

「なんか、二回も二人に救われちゃった」

 いまだ涙の残る目でクシャッと笑う私を見て、慎也と正樹も起き上がり、ギュウッと抱き締めてきた。

「ありがとう。……もう、隠し事はないよ」

「僕に聞きたい事はもうない?」

 正樹が穏やかに尋ねてくる。
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