124 / 539
利佳 編
弱い部分があってもいいんだよ
しおりを挟む
そうなりたい、と強く思いながら、なれないでいる自分が浮き彫りになるような言葉だ。
「二人にも文香にも、沢山褒めてもらえてる。だから、その期待と好意に応えたくて、もっと理想の自分になろうって自分自身を雁字搦めにしてる。結局は、周りからよく思われたいから、嫌われたくないから。……究極の自己愛だよ」
「まー、さ」
正樹がまたゴロンと横になる。
「人間だから、『好かれたい』って思うの、当たり前じゃない? 生存本能だよ。僕は悪い事だって思わない。中には誰に好かれようが嫌われようが、まったく気にしないっていう人もいるから、世の中広いけどね」
「それな。俺だってできるだけ色んな人に好かれるよう努力はしている。プライベートな好意はいらないけど、自分を好きになってもらうって、結局は仕事や社会的地位とか、色んな事に繋がるだろ? だから自己愛だけの問題じゃないんだよ。嫌われ続けたら、人は孤独になる。孤独になったら生きていけない。生きるための本能でもあると思うよ」
自分のグズグズした面を見せてしまい、私は溜め息をつく。
「……ごめんね。私、本当はとても弱い。いつもはズバズバと強い女を演じてるけど、たまにその強さで人を傷付けていないか、気になって仕方がないんだ。それで、誰かに『優美は悪くないよ』って肯定してもらって、安心してる……」
「ねぇ、優美ちゃん」
ポンポンと私の頭を撫で、正樹が私の顔を自分のほうに向かせる。
「僕ら、優美ちゃんの強いところだけが好きって言ったかな?」
「…………?」
困惑している私の手を、慎也が握る。
「誰の助けも要らないパーフェクトウーマンなら、結婚相手も要らなくて、一人で生きていけるんじゃないか? 結婚とか恋人とかは、自分にないものを他人に求めるから一緒にいるんだろ? 波長が合って、一緒にいて楽しくて、自分のプラスになると思えて、それでいて自分とはまったく違う〝他人〟だから面白い」
慎也の言葉のあとを、正樹が続ける。
「弱い部分があってもいいんだよ。今みたいに不安になったら、僕たちがいつでも話を聞くよ。大好きな優美ちゃんの話なら何でも聞くし、どこまでも慰める。……あ、でももしも何か間違えてるって思ったら、遠慮なく言うけどね」
「ありがとう」
正樹のあっけらかんとした言い方に、今ほど救われた事はない気がする。
「人間、誰にだってネガティブな面はある。でも、それをひっくるめて『いい』って思った人が、側にいるんだろ? 五十嵐とか浜崎とか、利佳さんも、俺たちには合わなかったけど、こんなに広い世界なんだから、どこかでピッタリ合う人がいるのは事実だ」
「……そう、だね」
慎也に言われ、一つ納得した。
「優美ちゃんが一番大切にするのは、不特定多数じゃなくて僕らでしょ? 僕らが『いい』って言ってるんだから、僕らが好きになった優美ちゃんを、君が否定したら駄目だよ?」
その言葉に、ポロリと鱗が落ちた気がした。
「……自分の価値を、自分が決めたら駄目?」
「そう」
二人がにっこり笑う。
「『自分なんて』って思ってしまう、〝落ち期〟がきたらいつでも言えよ? 俺たちは優美が好きで、家族になりたいと思ってる。家族の調子が悪い時は、全力でサポートする。だから、調子のいい時は優美が好きな〝いつもの自分〟でグイグイ行っていいんだよ」
心の奥底に、丸くて小さな光が凛と宿る。
――あぁ、この二人は何があってもこうやって、ずっと励ましてくれるんだ。
「ありがとう。……多分、結婚を意識して、さらに利佳さんに嫉妬して弱気になっていたんだと思う」
「だろ? 不調な時はちゃんと理由があるんだよ」
慎也は私の頬に手を当て、チュッと唇にキスをしてきた。
「あとね、ぶっちゃけ、僕はちょっと欠点や弱点があったほうが燃える。最初に言ったよね? 3Pに燃えるのって、自分が好きになった女の子が、他の男に抱かれて汚されてる姿が見たい訳。僕を愛して信頼しながら、一番汚い姿を見せてくれるのに、バッキバキに勃つの」
あははっ、と正樹が笑う。
「僕は優美ちゃんの心の奥底にある泥も、美味しく食べるよ」
目を細めて笑った正樹が、とても妖艶に思える。
つい雰囲気に呑まれてしまった私を、後ろから慎也がギュッと抱き締めた。
「優美だって、俺たちが完璧じゃないって分かってるだろ? 自分だけ完璧で綺麗でいようとしなくていいんだよ? 真っ白な無菌室にいて落ち着かないのと同じ。人はちょっと生活感があって雑然としているほうが、楽になれるんだ。俺はそういう、人間らしい温度のある結婚生活を送りたい」
そのたとえは、とてもしっくりきた。
「うん……。ありがとう。勇気をもらえた」
お礼を言うと、二人は両側から抱き締めて「どう致しまして!」と言ってくれた。
「……ねぇ、優美。一つ聞きたいけど、十八歳の時に俺たちに出会って、変わる覚悟を持ったって教えてくれただろ?」
「うん」
慎也に言われ、私は頷く。
「二人にも文香にも、沢山褒めてもらえてる。だから、その期待と好意に応えたくて、もっと理想の自分になろうって自分自身を雁字搦めにしてる。結局は、周りからよく思われたいから、嫌われたくないから。……究極の自己愛だよ」
「まー、さ」
正樹がまたゴロンと横になる。
「人間だから、『好かれたい』って思うの、当たり前じゃない? 生存本能だよ。僕は悪い事だって思わない。中には誰に好かれようが嫌われようが、まったく気にしないっていう人もいるから、世の中広いけどね」
「それな。俺だってできるだけ色んな人に好かれるよう努力はしている。プライベートな好意はいらないけど、自分を好きになってもらうって、結局は仕事や社会的地位とか、色んな事に繋がるだろ? だから自己愛だけの問題じゃないんだよ。嫌われ続けたら、人は孤独になる。孤独になったら生きていけない。生きるための本能でもあると思うよ」
自分のグズグズした面を見せてしまい、私は溜め息をつく。
「……ごめんね。私、本当はとても弱い。いつもはズバズバと強い女を演じてるけど、たまにその強さで人を傷付けていないか、気になって仕方がないんだ。それで、誰かに『優美は悪くないよ』って肯定してもらって、安心してる……」
「ねぇ、優美ちゃん」
ポンポンと私の頭を撫で、正樹が私の顔を自分のほうに向かせる。
「僕ら、優美ちゃんの強いところだけが好きって言ったかな?」
「…………?」
困惑している私の手を、慎也が握る。
「誰の助けも要らないパーフェクトウーマンなら、結婚相手も要らなくて、一人で生きていけるんじゃないか? 結婚とか恋人とかは、自分にないものを他人に求めるから一緒にいるんだろ? 波長が合って、一緒にいて楽しくて、自分のプラスになると思えて、それでいて自分とはまったく違う〝他人〟だから面白い」
慎也の言葉のあとを、正樹が続ける。
「弱い部分があってもいいんだよ。今みたいに不安になったら、僕たちがいつでも話を聞くよ。大好きな優美ちゃんの話なら何でも聞くし、どこまでも慰める。……あ、でももしも何か間違えてるって思ったら、遠慮なく言うけどね」
「ありがとう」
正樹のあっけらかんとした言い方に、今ほど救われた事はない気がする。
「人間、誰にだってネガティブな面はある。でも、それをひっくるめて『いい』って思った人が、側にいるんだろ? 五十嵐とか浜崎とか、利佳さんも、俺たちには合わなかったけど、こんなに広い世界なんだから、どこかでピッタリ合う人がいるのは事実だ」
「……そう、だね」
慎也に言われ、一つ納得した。
「優美ちゃんが一番大切にするのは、不特定多数じゃなくて僕らでしょ? 僕らが『いい』って言ってるんだから、僕らが好きになった優美ちゃんを、君が否定したら駄目だよ?」
その言葉に、ポロリと鱗が落ちた気がした。
「……自分の価値を、自分が決めたら駄目?」
「そう」
二人がにっこり笑う。
「『自分なんて』って思ってしまう、〝落ち期〟がきたらいつでも言えよ? 俺たちは優美が好きで、家族になりたいと思ってる。家族の調子が悪い時は、全力でサポートする。だから、調子のいい時は優美が好きな〝いつもの自分〟でグイグイ行っていいんだよ」
心の奥底に、丸くて小さな光が凛と宿る。
――あぁ、この二人は何があってもこうやって、ずっと励ましてくれるんだ。
「ありがとう。……多分、結婚を意識して、さらに利佳さんに嫉妬して弱気になっていたんだと思う」
「だろ? 不調な時はちゃんと理由があるんだよ」
慎也は私の頬に手を当て、チュッと唇にキスをしてきた。
「あとね、ぶっちゃけ、僕はちょっと欠点や弱点があったほうが燃える。最初に言ったよね? 3Pに燃えるのって、自分が好きになった女の子が、他の男に抱かれて汚されてる姿が見たい訳。僕を愛して信頼しながら、一番汚い姿を見せてくれるのに、バッキバキに勃つの」
あははっ、と正樹が笑う。
「僕は優美ちゃんの心の奥底にある泥も、美味しく食べるよ」
目を細めて笑った正樹が、とても妖艶に思える。
つい雰囲気に呑まれてしまった私を、後ろから慎也がギュッと抱き締めた。
「優美だって、俺たちが完璧じゃないって分かってるだろ? 自分だけ完璧で綺麗でいようとしなくていいんだよ? 真っ白な無菌室にいて落ち着かないのと同じ。人はちょっと生活感があって雑然としているほうが、楽になれるんだ。俺はそういう、人間らしい温度のある結婚生活を送りたい」
そのたとえは、とてもしっくりきた。
「うん……。ありがとう。勇気をもらえた」
お礼を言うと、二人は両側から抱き締めて「どう致しまして!」と言ってくれた。
「……ねぇ、優美。一つ聞きたいけど、十八歳の時に俺たちに出会って、変わる覚悟を持ったって教えてくれただろ?」
「うん」
慎也に言われ、私は頷く。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,767
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる