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利佳 編

弱い部分があってもいいんだよ

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 そうなりたい、と強く思いながら、なれないでいる自分が浮き彫りになるような言葉だ。

「二人にも文香にも、沢山褒めてもらえてる。だから、その期待と好意に応えたくて、もっと理想の自分になろうって自分自身を雁字搦めにしてる。結局は、周りからよく思われたいから、嫌われたくないから。……究極の自己愛だよ」

「まー、さ」

 正樹がまたゴロンと横になる。

「人間だから、『好かれたい』って思うの、当たり前じゃない? 生存本能だよ。僕は悪い事だって思わない。中には誰に好かれようが嫌われようが、まったく気にしないっていう人もいるから、世の中広いけどね」

「それな。俺だってできるだけ色んな人に好かれるよう努力はしている。プライベートな好意はいらないけど、自分を好きになってもらうって、結局は仕事や社会的地位とか、色んな事に繋がるだろ? だから自己愛だけの問題じゃないんだよ。嫌われ続けたら、人は孤独になる。孤独になったら生きていけない。生きるための本能でもあると思うよ」

 自分のグズグズした面を見せてしまい、私は溜め息をつく。

「……ごめんね。私、本当はとても弱い。いつもはズバズバと強い女を演じてるけど、たまにその強さで人を傷付けていないか、気になって仕方がないんだ。それで、誰かに『優美は悪くないよ』って肯定してもらって、安心してる……」

「ねぇ、優美ちゃん」

 ポンポンと私の頭を撫で、正樹が私の顔を自分のほうに向かせる。

「僕ら、優美ちゃんの強いところだけが好きって言ったかな?」

「…………?」

 困惑している私の手を、慎也が握る。

「誰の助けも要らないパーフェクトウーマンなら、結婚相手も要らなくて、一人で生きていけるんじゃないか? 結婚とか恋人とかは、自分にないものを他人に求めるから一緒にいるんだろ? 波長が合って、一緒にいて楽しくて、自分のプラスになると思えて、それでいて自分とはまったく違う〝他人〟だから面白い」

 慎也の言葉のあとを、正樹が続ける。

「弱い部分があってもいいんだよ。今みたいに不安になったら、僕たちがいつでも話を聞くよ。大好きな優美ちゃんの話なら何でも聞くし、どこまでも慰める。……あ、でももしも何か間違えてるって思ったら、遠慮なく言うけどね」

「ありがとう」

 正樹のあっけらかんとした言い方に、今ほど救われた事はない気がする。

「人間、誰にだってネガティブな面はある。でも、それをひっくるめて『いい』って思った人が、側にいるんだろ? 五十嵐とか浜崎とか、利佳さんも、俺たちには合わなかったけど、こんなに広い世界なんだから、どこかでピッタリ合う人がいるのは事実だ」

「……そう、だね」

 慎也に言われ、一つ納得した。

「優美ちゃんが一番大切にするのは、不特定多数じゃなくて僕らでしょ? 僕らが『いい』って言ってるんだから、僕らが好きになった優美ちゃんを、君が否定したら駄目だよ?」

 その言葉に、ポロリと鱗が落ちた気がした。

「……自分の価値を、自分が決めたら駄目?」

「そう」

 二人がにっこり笑う。

「『自分なんて』って思ってしまう、〝落ち期〟がきたらいつでも言えよ? 俺たちは優美が好きで、家族になりたいと思ってる。家族の調子が悪い時は、全力でサポートする。だから、調子のいい時は優美が好きな〝いつもの自分〟でグイグイ行っていいんだよ」

 心の奥底に、丸くて小さな光が凛と宿る。

 ――あぁ、この二人は何があってもこうやって、ずっと励ましてくれるんだ。

「ありがとう。……多分、結婚を意識して、さらに利佳さんに嫉妬して弱気になっていたんだと思う」

「だろ? 不調な時はちゃんと理由があるんだよ」

 慎也は私の頬に手を当て、チュッと唇にキスをしてきた。

「あとね、ぶっちゃけ、僕はちょっと欠点や弱点があったほうが燃える。最初に言ったよね? 3Pに燃えるのって、自分が好きになった女の子が、他の男に抱かれて汚されてる姿が見たい訳。僕を愛して信頼しながら、一番汚い姿を見せてくれるのに、バッキバキに勃つの」

 あははっ、と正樹が笑う。

「僕は優美ちゃんの心の奥底にある泥も、美味しく食べるよ」

 目を細めて笑った正樹が、とても妖艶に思える。
 つい雰囲気に呑まれてしまった私を、後ろから慎也がギュッと抱き締めた。

「優美だって、俺たちが完璧じゃないって分かってるだろ? 自分だけ完璧で綺麗でいようとしなくていいんだよ? 真っ白な無菌室にいて落ち着かないのと同じ。人はちょっと生活感があって雑然としているほうが、楽になれるんだ。俺はそういう、人間らしい温度のある結婚生活を送りたい」
そのたとえは、とてもしっくりきた。

「うん……。ありがとう。勇気をもらえた」

 お礼を言うと、二人は両側から抱き締めて「どう致しまして!」と言ってくれた。

「……ねぇ、優美。一つ聞きたいけど、十八歳の時に俺たちに出会って、変わる覚悟を持ったって教えてくれただろ?」

「うん」

 慎也に言われ、私は頷く。
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