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利佳 編

私の方が幸せだもん

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「ありがと。でも私は気にしてないから大丈夫!」

 グッとサムズアップしてみせると、二人の表情がフッと和らぐ。

「だって私、彼女よりずっと幸せだもん。彼女より性格がいいと思うし、素敵な彼氏がいて満たされてる。通りすがりの人に喧嘩売ったりしないしね!」

 そう言うと、二人は「ぶはっ!」と爆笑しだした。

「確かに!」

「優美ちゃんは性格いいし、あいつよりずっと幸せだわ」

 二人はタン、タンと階段を下りて、ケラケラ笑いながら私と一緒に外に向かう。

 誰かに嫌な事を言われても、大体は「私のほうが幸せだしな」と思えば、大して気にならなくなる。

 自分が幸せだと思うのは自分の価値観からだから、口にしない限り失礼な事じゃない。

 幸せの基準は、お金を持っているとか結婚しているしてないじゃない。恋人の有無、家庭、生活環境も関係ない。
 自分が満たされているかどうかだ。

 毎日の生活の中で不満やストレスは生まれるけど、それを上手に自己処理できる力を持っていれば、他人に不満をぶつける人間にはならない。

 毎日の生活の中で、いかに幸せを見つけるのがうまいか、それが鍵だ。

 そして自己肯定感を上げるのが上手な人は、〝幸せな人〟だ。

 私はそういう自分になれた事を誇っている。

 だから大体の事は「ふーん」と思って終わらせられる。

「今日の私、百点満点じゃない?」と思えば、誰かに「バーカ、ブース」って言われても、「は? 私の仕上がり舐めんなよ?」と思える鋼鉄の心ができる。

 誰かを下げて自分を上げるんじゃなくて、自分で自分を上げている訳だから、誰にも迷惑を掛けていない最強メンタル術だ。

 そう思えるように、日頃から自分をおざなりにせず、「どうせ私なんて……」というマインドは捨て、自分を褒め、ご褒美をあげて大切に育てていく。
 こうやって、外見の美醜や年齢なんて関係ない〝幸せな人〟ができあがる。

 言ってしまえば、トレーニング万歳。筋肉万歳である。

「もっと〝今〟を見なよ。私と慎也は結婚目前で、正樹との楽しい生活も待ってる。久賀城家の皆さんにも受け入れてもらえた。傷ついた過去があるのは皆同じだけど、振り返っていても時間が勿体ないよ。仕事に、恋に、家庭に、これからの楽しい事に、全力で取り組まないといけないから、私たち忙しいんだから!」

 人目を気にせず二人の腕を組み、私は「イケメン独り占め!」と笑う。

「……そうだな。……僕はずっと、離婚したあとも利佳に囚われ続けてきた気がする」

 正樹が気が抜けたように呟き、小さく笑う。

「こんなにいい女が目の前にいるんだから、他の女性の事を考えたら駄目だからね!」

 冗談めかして言うと、正樹が「あはは! 確かに!」と笑った。

「はー。俺、優美に何か買ってあげたくなった。このままどっかショッピング行こうか」

「賛成! それいいね!」

「良くない! 何でそうなるの!」

 またとんでもない買い物をされそうで、私は二人から腕を放して逃亡しようとした。

 けれど腕をしっかり組まれて連行されてしまう。

 その後、私は銀座にあるお高い宝飾店に連れて行かれ、マリッジリングの相談をし、〝ついで〟でピアスを買ってもらったのだった……。



**



 夕方には家に帰り、夕食は焼き肉をして、テイクアウトしたシーザーサラダ(大)をたっぷり食べた。

 落ち着いてからマンション内にあるジムでトレーニングをして、お風呂に入ったあと入念にストレッチをする。
 さて寝よう……という事になったんだけれど。

「すっかり、三人で寝るのが普通になったな」

「なんか、ごめんね。もともと兄弟で大きいベッドをそれぞれ独り占めしてたのに」

 といってもキングサイズのベッドなので、大人三人で寝ても問題ないけれど。

「んーん。僕は人肌寂しかったから、嬉しい」

 正樹はそう言って、私の頬を撫でてきた。
 それから少し、喋るのか寝るのか決めあぐねての沈黙が訪れる。

「……ねぇ」

「「ん?」」

 私の問いかけに、二人が返事をした。
 正樹への言葉なので、慎也がいじけてしまわないように彼の手を握る。

「私、正樹の事も好き」

「うん、ありがとう。僕も優美ちゃんが好きだよ」

 彼がモソリと動き、私の頬にキスをしてくる。
 反対側からは、妬いた慎也が私の太腿に触っていた。

「……だから、気になっちゃうの。利佳さんとどういう結婚生活を送ってたか、聞いていい?」

 私がそんな事を気にしていたとは思わなかったのか、正樹がハッとして黙る。

「……ごめんね。私、重たい女だ」

 自嘲した私を、正樹がギュッと抱き締めてきた。

「ううん。嬉しいよ」

 いつもの明るいトーンではなく、真剣な声音で言い、正樹は私に気持ちを込めてキスをする。
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