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利佳 編

私が守る

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 ダイエット成功後もその考えは役立ち、相手を分析して、何を求めているのかをすぐに察知できるようになった。

 慎也に言わせるとそれが「気配りができる」らしいのだけれど……。
 私が考えている間も、正樹は利佳さんとバチバチ火花を散らしている。

「僕を異常者だと罵るのはいい。もう聞き飽きたからな。でも僕以外の人に暴言を吐くのはやめろ。慎也の婚約者だぞ? 名誉毀損で法的処置を執られてもいいのなら、好きにすればいいけど」

「やだわ。なに真剣になってるの? ごめんなさいね、彼女さん。知っていると思うけど、この人といい別れ方をしなかったの。顔を合わせればこんな感じだったから、つい毒が出てしまったわ」

 っていうか、いつまでも私を〝彼女さん〟呼ばわりするのも、「お前の名前なんて覚える価値もない」っていう意味なんだろうな。

 プライドが高くて、自己愛も高いタイプ。

 正樹を拒絶した理由からして、自分と付き合う人は、男性でも友達でもレベルの高い人ではないと許せない人。
 相手に利用価値、見返りを求め、常に自分が他者にパーフェクトに見られるのを一番に望む……。こんなトコかな。

「はぁ」

 私は一つ息をつき、自分が取るべき態度を決めた。

 慎也は正樹と利佳さんの言い合いにはうんざりしているのか、横で苛ついた表情のまま口を出せないでいる。

 恐らく毎回こんな風になったら、慎也までも利佳さんに攻撃されていたんだろう。
 利佳さんにとって慎也は義弟ではあったけれど、憎い元夫の弟であり、今はどうでもいい存在……かもしれない。

 少なくとも、表面上丁寧に接してはいるものの、慎也の彼女だっていう私を堂々と馬鹿にする辺り、何の遠慮もないのが分かる。
 きっと慎也が見かねて口をだしても、「私が悪いっていうの!?」と逆ギレするタイプかもしれない。

 ……よし、それなら。

 私は気持ちをスッと仕事の営業モードにした。

「まぁまぁ、利佳さん。正樹さんも。ここは公衆の面前ですし」

 私が口を挟むと、罵り合っていた二人はハッとした。

「そ、そうね……」

 彼女みたいにプライドの高い人なら、みっともなく言い合いをしている姿を、不特定多数に見られるなんて一番避けたい醜態だろう。

 まず、現在の状況を理解させ、我に返させる。それが初手。

 それから私は一歩利佳さんに近付き、彼女に顔を寄せて小さい声で言った。

「確かに私たちは利佳さんの推察される通りの仲です」

 認めると、彼女は汚物でも見るような目で私を見てきた。

「ですが、利佳さんは正樹さんと違う道を歩まれたのですよね? 街頭で出くわしたのは不可抗力で、あなたに何の落ち度もありません。そこで元夫の顔を見たとしても、大人らしく見なかったふりをしようじゃないですか」

「落ち度がない」と言ったのを聞いて、彼女は昂ぶっていた感情を落ち着かせていく。

 この手の女性には、まず肯定して褒めて、「あなたは何も悪くない」と思わせるのが重要だ。
 そして自分が演じたい〝品の良さ〟を再認識させ、冷静にさせる。
 こうする事で、ヒートアップしていた感情は大分落ち着くはずだ。

 プライドが高いからこそ、みっともない姿を見せられないと瞬時に我に返るのを利用する。

「そうね……」

「利佳さんが仰る通り、正樹さんの本質は変わっていないでしょう。けれど今のあなたには何の関係もない。そうですよね?」

「ええ」

 利佳さんに話し掛ける私を、慎也と正樹は呆然として見ている。

 そのまま、そこで見守っていてほしい。

 私の時は二人が守ってくれた。

 だから、二人の時は私が守る。

 良くない別れ方をした二人だからこそ、関係者が入るとより泥沼化する。

 今回は一番関係ない私が、適任なのだ。

「あなたにとって正樹さんとの結婚生活は、振り返りたくない過去だったかもしれません。ですが、何もかも最悪だった訳ではありませんよね? 世の中の女性が皆憧れる、ハイスペックイケメンと結婚できたんですから」

 グッと正樹の価値を上げると、彼と結婚できた利佳さんの価値も上がる。
 それを認めるため、彼女は溜め息をつきつつも、まんざらでもない顔をする。

「そうね、家柄と仕事ぶりは認めるわ。表向き、紳士的だったし」

 認めた彼女に対し、私はニコッと笑いかけた。

「なら、思い出をそこで留めておきましょう。過去を美化させるのです。あなたの結婚は、失敗していなかった」

 とにかく彼女を肯定し、完璧主義者であろう彼女に「失敗していなかった」とアピールする。
 すると利佳さんの目の中にあった、怒りや憎しみがスッと薄れていった。

「性格の不一致は、どのカップルにもあり得ます。利佳さんは悪くなかったですし、正樹さんも悪くなかった。お互いがノット・トゥ・ミーだったんです。しかもお見合いだったから、利佳さんたちのようなお金持ちの方々には、避けきれなかった出会いだったと思います」

「……そうね。〝合わなかった〟んだと思うわ」

 冷静になった利佳さんは、ぽつんと呟き認める。
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