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利佳 編
誰が下品な女だって?
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それで私はようやく理解した。
正樹の、元奥さんだ。
「そーいや、銀座ってお前の縄張りだっけ」
私の隣に立った正樹が、いつになく皮肉げな声で言う。
「縄張りなんて下品な言い方をしないで。私だってお気に入りのお店に足を運ぶ権利はあると思うけど」
冷たい微笑で言い返され、正樹は乱暴に溜め息をつく。
あー、いつもこういう感じだったのかな。
居心地悪くしていると、利佳さんがようやく私を見て微笑んできた。
「慎也くんの彼女?」
「はい」
「そう。慎也くんなら料理もできるし、何をやらせても優秀で、何よりまともな人だから、きっと幸せになれると思うわ。お幸せにね」
すっごい棘のある言い方をされ、私は表情を強張らせる。
けれど聞き逃せなくて、つい口を挟んだ。
「正樹さんも十分〝まとも〟な方ですよ? 気が利きますし優しいですし、明るくて素敵な男性です」
私はにっこり笑顔で、なるべく嫌みが滲みでないように言った。
けれど彼女のような女性には通用しないようだ。
というか、彼女は自分に対する敵意にとても敏感らしい。
「そう、優しいのね。でも慎也くんがいるのに正樹を庇ったら、慎也くんが可哀想よ? あなたが恋多き女性のように思われるから、あまり人前では言わない方がいいんじゃない?」
うわ……。
なんて言うか、強いな。
私が引いていると、ムッとした正樹が言い返す。
「もう他人なんだから、よそで会っても関わらないって約束しただろ」
「やだ、不可抗力だわ。私はこれからお店に入るところだったの。まさかあなた達が出てくるとは思わなかったわ。正樹、こういうカフェで甘い物を食べるタイプじゃないでしょ」
チラリと私の前で正樹の情報を出すところで、利佳さんのマウントが見えた気がした。
「あなたなんかより、私のほうがこの二人をよく知っているのよ」というマウントだ。
喧嘩別れしても、なぜだか女性というものは新しい女に勝ちたがるものらしい。
「彼女に美味しい物を食べさせたいと思って、店を選んだだけだけど」
正樹の声もこの上なくギスギスしている。
利佳さんは私をジッと見つめ、何かを読み取ろうとしている。
な……、何……。
私も思わず見つめ返したけど、急に彼女はフッと私を鼻で嗤った。
「もう関わりのない人だからどうでもいいけど、〝そういう事〟なら私は口出ししないわ。良かったわね。下品な行為に付き合ってくれる女性が見つかって。それも弟と三人で? 気が知れないけど、せいぜい醜聞にならないようにね」
あまりに鋭すぎる利佳さんの推察に、私は背筋を凍らせた。
利佳さんが「じゃあね」と言って通り過ぎようとした時、「おい」と正樹が利佳さんに壁ドンした。
壁ドンと言っても、漫画とかにある甘い感じのではない。
へたすれば正樹の腕に利佳さんの顔が引っかかっても構わない、という勢いで、正樹は彼女の前に腕を突きだした。
「もっかい言ってみろよ。誰が下品な女だって?」
正樹がマジギレしている姿を、初めて見たかもしれない。
いつも飄々としているから、キレた時の迫力が半端ない。
慎也も正樹も、私の前でマイナスの感情を露わにした事はなかった。
先日の〝話し合い〟では怒りを示したけれど、あの時は終始冷静さを保ったままだった。
今、正樹は本能的な怒りを剥き出しにしている。
けれどその迫力にも、利佳さんはたじろがない。
「へぇ、本気なのね。良かったわね、あなたみたいな異常な人を受け入れてくれる、相応の女性が見つかって」
……あ、これは私もカチーンときた。
っていうかこの人、人の神経を逆撫でするのが凄く上手だな。
一歩引いたところから利佳さんへの感想を抱いた時、冷静になって彼女を分析する事にした。
昔から分析癖がついていた訳じゃないけど、ジムのパーソナルトレーナーさんに色々と教えられた。
停滞期になってつらくなった時、なぜ体重が減っていないかの分析をすると共に、自分のメンタルも分析して、理解していく事が大事だと言われた。
取り乱しても何にもならないし、ネガティブな感情が残るだけだ。
なぜ自分は落ち込んでいるのか原因を知り、何をすれば這い上がれるか。
今すぐそれは可能か、不可能なら何をすべきか。
そういう風に、メンタルをコントロールする術を教わった。
そのトレーナーさんはとても勉強熱心な人で、一般的にジムで教える体の動かし方、食事量法などの他に、メンタルの保ち方など精神的なケアもしっかりしてくれた。
だから私は、最終的にダイエットを成功させられた頃には、メンタル共につよつよに生まれ変わる事ができた。
正樹の、元奥さんだ。
「そーいや、銀座ってお前の縄張りだっけ」
私の隣に立った正樹が、いつになく皮肉げな声で言う。
「縄張りなんて下品な言い方をしないで。私だってお気に入りのお店に足を運ぶ権利はあると思うけど」
冷たい微笑で言い返され、正樹は乱暴に溜め息をつく。
あー、いつもこういう感じだったのかな。
居心地悪くしていると、利佳さんがようやく私を見て微笑んできた。
「慎也くんの彼女?」
「はい」
「そう。慎也くんなら料理もできるし、何をやらせても優秀で、何よりまともな人だから、きっと幸せになれると思うわ。お幸せにね」
すっごい棘のある言い方をされ、私は表情を強張らせる。
けれど聞き逃せなくて、つい口を挟んだ。
「正樹さんも十分〝まとも〟な方ですよ? 気が利きますし優しいですし、明るくて素敵な男性です」
私はにっこり笑顔で、なるべく嫌みが滲みでないように言った。
けれど彼女のような女性には通用しないようだ。
というか、彼女は自分に対する敵意にとても敏感らしい。
「そう、優しいのね。でも慎也くんがいるのに正樹を庇ったら、慎也くんが可哀想よ? あなたが恋多き女性のように思われるから、あまり人前では言わない方がいいんじゃない?」
うわ……。
なんて言うか、強いな。
私が引いていると、ムッとした正樹が言い返す。
「もう他人なんだから、よそで会っても関わらないって約束しただろ」
「やだ、不可抗力だわ。私はこれからお店に入るところだったの。まさかあなた達が出てくるとは思わなかったわ。正樹、こういうカフェで甘い物を食べるタイプじゃないでしょ」
チラリと私の前で正樹の情報を出すところで、利佳さんのマウントが見えた気がした。
「あなたなんかより、私のほうがこの二人をよく知っているのよ」というマウントだ。
喧嘩別れしても、なぜだか女性というものは新しい女に勝ちたがるものらしい。
「彼女に美味しい物を食べさせたいと思って、店を選んだだけだけど」
正樹の声もこの上なくギスギスしている。
利佳さんは私をジッと見つめ、何かを読み取ろうとしている。
な……、何……。
私も思わず見つめ返したけど、急に彼女はフッと私を鼻で嗤った。
「もう関わりのない人だからどうでもいいけど、〝そういう事〟なら私は口出ししないわ。良かったわね。下品な行為に付き合ってくれる女性が見つかって。それも弟と三人で? 気が知れないけど、せいぜい醜聞にならないようにね」
あまりに鋭すぎる利佳さんの推察に、私は背筋を凍らせた。
利佳さんが「じゃあね」と言って通り過ぎようとした時、「おい」と正樹が利佳さんに壁ドンした。
壁ドンと言っても、漫画とかにある甘い感じのではない。
へたすれば正樹の腕に利佳さんの顔が引っかかっても構わない、という勢いで、正樹は彼女の前に腕を突きだした。
「もっかい言ってみろよ。誰が下品な女だって?」
正樹がマジギレしている姿を、初めて見たかもしれない。
いつも飄々としているから、キレた時の迫力が半端ない。
慎也も正樹も、私の前でマイナスの感情を露わにした事はなかった。
先日の〝話し合い〟では怒りを示したけれど、あの時は終始冷静さを保ったままだった。
今、正樹は本能的な怒りを剥き出しにしている。
けれどその迫力にも、利佳さんはたじろがない。
「へぇ、本気なのね。良かったわね、あなたみたいな異常な人を受け入れてくれる、相応の女性が見つかって」
……あ、これは私もカチーンときた。
っていうかこの人、人の神経を逆撫でするのが凄く上手だな。
一歩引いたところから利佳さんへの感想を抱いた時、冷静になって彼女を分析する事にした。
昔から分析癖がついていた訳じゃないけど、ジムのパーソナルトレーナーさんに色々と教えられた。
停滞期になってつらくなった時、なぜ体重が減っていないかの分析をすると共に、自分のメンタルも分析して、理解していく事が大事だと言われた。
取り乱しても何にもならないし、ネガティブな感情が残るだけだ。
なぜ自分は落ち込んでいるのか原因を知り、何をすれば這い上がれるか。
今すぐそれは可能か、不可能なら何をすべきか。
そういう風に、メンタルをコントロールする術を教わった。
そのトレーナーさんはとても勉強熱心な人で、一般的にジムで教える体の動かし方、食事量法などの他に、メンタルの保ち方など精神的なケアもしっかりしてくれた。
だから私は、最終的にダイエットを成功させられた頃には、メンタル共につよつよに生まれ変わる事ができた。
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