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久賀城家挨拶 編
よく頑張ったね!
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『今の君みたいに不当な扱いを受けたら、愚痴を吐く権利はある。愚痴と悪口は違うよ』
ポンポンと慎也に腕を叩かれ、私は安堵する。
『大切なのは、あなた自身が誇り高く、自分に恥じない生き方をする事です。悪口を言われても〝ゴミの言っている事だから〟と気にしないメンタルを身につけるか、言わせないために力をつけるか』
微笑む正樹も、当時二十歳なりに相応の修羅場をくぐってきた顔をしていた。
――メンタルを身につけるか、言わせない力をつけるか。
その二択は、私の前に降ってきた人生の岐路に思えた。
――変わりたい。
この時、私は強く思った。
このイケメン兄弟二人に、私が釣り合うはずがない。
見るからにお金持ちのお坊ちゃん風で、きっと私なんかよりもっと美人で性格のいい彼女がいるに決まっている。
でもあとから、この二人にどこかで出会えた時、「頑張ったね」と言われる人間になりたいと思った。
『両方……択ります』
心の奥底で強く決意をして、私は返事をする。
『強い心も身につけるし、言わせないように痩せてみせます!』
その時の言葉が私の人生を大きく変えたとは、二人は想像すらしなかっただろう。
彼らは非常階段で客が泣いていたから慰めて、前向きになったから「良かった」と思った程度で、大した事をしたとは思っていないだろう。
けれど恩を受けた側は、一生覚えているものだ。
彼らは、私の恩人になった。
『じゃあ、従姉さんの結婚式に出られますか?』
正樹が立ち上がり、お姫様にするように私に手を差し出してきた。
『はい!』
非常階段から出た私は、二人に送られてチャペルのあるフロアまで向かった。
別れる前に、慎也が『ちょっと動かないで』と言って、こよったティッシュで私の目元をちょいちょいと拭ってくれる。
きっと、落ちたマスカラを綺麗にしてくれたのだろう。
『ありがとうございます!』
私はハキハキとお礼を言って、深く一礼をした。
二人は微笑んで手を振ってくれ、「頑張って」と激励してくれる。
その時はまだ、決意したばかりだから何も変われていない。
けれど気持ちだけは強く、気高くいようと思った。
幅広甲高の足に履いたパンプスで、一歩。
――いつか、モデルが履くような美しいハイヒールを履いてみせる。
胸の奥に高い夢を掲げ、私は自分の戦場に戻った――。
**
昔の事を話し終えた私を、左右から慎也と正樹がポカンとした顔で見ている。
「それ……、覚えてる……」
「えええ……? あの時の……?」
本当は昔の話をしたら、〝あの時のデブ〟って二人が見限るかもしれないのが怖くて、ずっと言えなかった。
けれど二人が私を結婚相手に……と決めてくれたのなら、すべてを打ち明けようと思ったのだ。
「……元デブでごめんなさい。……がっかりしたでしょう」
自嘲した私は、何と言われるか不安で視線を落としていたけれど――。
「よく頑張ったね!」
左から正樹に手を握られ、右からも慎也に手を握られる。
「ほんと、大したもんだわ」
顔を上げると、二人とも驚いてはいるけれど、予想外の喜びを得たという表情をしていた。
「……ぇ……」
ポカンとする私に向かって、慎也が笑う。
「俺たちが呆れるとでも思った? 昔の姿を知って心離れするとでも? 見くびられたら困るんだけど」
晴れやかに笑う慎也の声を聞きホッとしたあと、左側から正樹も言ってくる。
「僕、あの子はどうしたかな? って時々思い出してたんだ。心ない言葉で傷つく人を今まで沢山見てきたけど、ああいう風にじっくり話をする事はそんなにない。また会う事は多分ないだろうしな……とは思っていた。けど、僕らの言葉で、あの子が勇気づけられたならいいなと思ってた」
そして正樹は私の頭をポンポンと撫でてきた。
「頑張ったね、優美ちゃん。さすが僕の大好きな女性だ」
昔と変わらない無限の優しさを向けられ、私は思わずポロッと涙を流してしまった。
「あーあー、せっかくメイクしてるんだから」
焦った慎也がティッシュに手を伸ばし、昔のようにこよったそれで私の目元を綺麗にしてくれる。
「凄いわね……。運命的だわ。今の話を聞いて、二人には優美さんしかいないんだと思い知らされた感じがしたわ」
玲奈さんも言い、九十キロから現在の体型に至った努力を認めてくれた……気がする。
ポンポンと慎也に腕を叩かれ、私は安堵する。
『大切なのは、あなた自身が誇り高く、自分に恥じない生き方をする事です。悪口を言われても〝ゴミの言っている事だから〟と気にしないメンタルを身につけるか、言わせないために力をつけるか』
微笑む正樹も、当時二十歳なりに相応の修羅場をくぐってきた顔をしていた。
――メンタルを身につけるか、言わせない力をつけるか。
その二択は、私の前に降ってきた人生の岐路に思えた。
――変わりたい。
この時、私は強く思った。
このイケメン兄弟二人に、私が釣り合うはずがない。
見るからにお金持ちのお坊ちゃん風で、きっと私なんかよりもっと美人で性格のいい彼女がいるに決まっている。
でもあとから、この二人にどこかで出会えた時、「頑張ったね」と言われる人間になりたいと思った。
『両方……択ります』
心の奥底で強く決意をして、私は返事をする。
『強い心も身につけるし、言わせないように痩せてみせます!』
その時の言葉が私の人生を大きく変えたとは、二人は想像すらしなかっただろう。
彼らは非常階段で客が泣いていたから慰めて、前向きになったから「良かった」と思った程度で、大した事をしたとは思っていないだろう。
けれど恩を受けた側は、一生覚えているものだ。
彼らは、私の恩人になった。
『じゃあ、従姉さんの結婚式に出られますか?』
正樹が立ち上がり、お姫様にするように私に手を差し出してきた。
『はい!』
非常階段から出た私は、二人に送られてチャペルのあるフロアまで向かった。
別れる前に、慎也が『ちょっと動かないで』と言って、こよったティッシュで私の目元をちょいちょいと拭ってくれる。
きっと、落ちたマスカラを綺麗にしてくれたのだろう。
『ありがとうございます!』
私はハキハキとお礼を言って、深く一礼をした。
二人は微笑んで手を振ってくれ、「頑張って」と激励してくれる。
その時はまだ、決意したばかりだから何も変われていない。
けれど気持ちだけは強く、気高くいようと思った。
幅広甲高の足に履いたパンプスで、一歩。
――いつか、モデルが履くような美しいハイヒールを履いてみせる。
胸の奥に高い夢を掲げ、私は自分の戦場に戻った――。
**
昔の事を話し終えた私を、左右から慎也と正樹がポカンとした顔で見ている。
「それ……、覚えてる……」
「えええ……? あの時の……?」
本当は昔の話をしたら、〝あの時のデブ〟って二人が見限るかもしれないのが怖くて、ずっと言えなかった。
けれど二人が私を結婚相手に……と決めてくれたのなら、すべてを打ち明けようと思ったのだ。
「……元デブでごめんなさい。……がっかりしたでしょう」
自嘲した私は、何と言われるか不安で視線を落としていたけれど――。
「よく頑張ったね!」
左から正樹に手を握られ、右からも慎也に手を握られる。
「ほんと、大したもんだわ」
顔を上げると、二人とも驚いてはいるけれど、予想外の喜びを得たという表情をしていた。
「……ぇ……」
ポカンとする私に向かって、慎也が笑う。
「俺たちが呆れるとでも思った? 昔の姿を知って心離れするとでも? 見くびられたら困るんだけど」
晴れやかに笑う慎也の声を聞きホッとしたあと、左側から正樹も言ってくる。
「僕、あの子はどうしたかな? って時々思い出してたんだ。心ない言葉で傷つく人を今まで沢山見てきたけど、ああいう風にじっくり話をする事はそんなにない。また会う事は多分ないだろうしな……とは思っていた。けど、僕らの言葉で、あの子が勇気づけられたならいいなと思ってた」
そして正樹は私の頭をポンポンと撫でてきた。
「頑張ったね、優美ちゃん。さすが僕の大好きな女性だ」
昔と変わらない無限の優しさを向けられ、私は思わずポロッと涙を流してしまった。
「あーあー、せっかくメイクしてるんだから」
焦った慎也がティッシュに手を伸ばし、昔のようにこよったそれで私の目元を綺麗にしてくれる。
「凄いわね……。運命的だわ。今の話を聞いて、二人には優美さんしかいないんだと思い知らされた感じがしたわ」
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