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久賀城家挨拶 編

私の話を聞いて頂けますか?

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「そうじゃなくて。表向き慎也と優美さんが結婚式を挙げるなら、正樹が蚊帳の外になってしまうでしょう? 慎也と優美さんの結婚式のあと、参列者はここにいる七人だけになってしまうけれど、優美さんにはもう一度ドレスを着てもらって、正樹とどこかでケーキを切ってもらうとか、どう?」

「やだ! ママったらノリノリ!」

 美望ちゃんが喜んで歓声を上げる。
 クスクス笑った玲奈さんは、ポカンとしている私たちを見て言う。

「私もね、昌明さんと再婚した事で、当初は色々言われたの。岬の家は名のある会社を経営しているけれど、規模的には久賀城に敵わない。だから政略結婚とか、若さを売りにして取り入ったとか、財産目当てとか、色々ね……。まぁ、経営者一族の家庭なら、今でも政略結婚なんて珍しくないんだけれどね」

 そこで初めて、私たちは玲奈さんの苦労を知った。

「だから私は、息子たちのお嫁さんにはうんと優しくしたいって思っていたの。久賀城家に入って周りに何と言われようとも、姑になる私だけは絶対的な味方になりたい。そう決めていたわ」

 微笑んだ玲奈さんは、おっとりとして美人なお嬢様なだけでなく、底知れない度量を湛えた人格者だった。

「私は正樹にも慎也にも幸せになってほしい。勿論、二人を幸せにしてくれる優美さんにも」

 言ったあと、玲奈さんは私に尋ねてきた。

「ご両親には本当の事を言わなくて大丈夫? 必要があるのなら、私が助力します」

 彼女の気遣いに、私は心の底からの笑みを浮かべた。

「大丈夫です。言う必要があると思ったら、自分の親ですもの。自分で説得します」

 強がりではなく、素直な言葉だと分かったからか、玲奈さんは「そう」と頷いた。

「何だかワクワクするわね。息子が二人とも幸せになるんですもの。二回も結婚式を楽しめるし、お祭りを前にした気持ちよ」

〝母〟っていう感じだなぁ。
 ゆったりとしてて優しくて穏やかで。とてつもない母性と心の広さがある。

「私も、お義母さんのような、心の広い母になりたいです」

 そう言うと、玲奈さんは嬉しそうに笑ってくれた。

「私こそ、優美さんのような女性が二人のお嫁さんになってくれて、嬉しいわ」

 彼女が手放しで喜んでくれる姿を見て、私は最後に自分の心の奥底にあるドアを開こうと思った。

「もし良ければ、私の話を……、聞いて頂けますか?」

 改まった様子に気づき、全員が「ん?」と目を瞬かせる。

「優美、何か……」

 慎也が不安そうな顔をするから、私は「違うの」と首を左右に振る。

 そして、腕を広げて両脇にいる二人の手を握り、昔の話を始めた。



**



 私は埼玉県で生まれ育ち、高校生まで地元の学校に通っていた。

 今まで慎也と正樹に何度も言っていたけれど、私は子供時代はとてもふくよかな体型をしていた。

 実家は祖父母と同居する二世帯住宅で、私は弟ともども可愛がられていた。
 両親が共働きな分、お祖母ちゃんが家事をしていて、お祖父ちゃんはレンタル畑で作物を育てる……という生活を送っていた。

 お祖母ちゃんが作るご飯が美味しくて、私はスクスク育った。
 でも高校一年生になる頃には、九十キロ近くになっていて、ヤバイと思い始めた。

 周りの大人がニコニコして甘やかしてくれるので、子供の頃は成長期で何を食べても良く、大人になったら自然に痩せるものと思い込んでいたので、気づくのが完全に遅くなった。

 体育の時間がとても苦痛で、なぜか……と考えると体を動かすのが嫌い、汗を掻くのが嫌という結論になる。
 動かずに食べてばっかりなら、そりゃあ横にどんどん成長する訳だ。

 それに自分の体型を気にする理由がもう一つあった。

 友達はいい子ばかりで、ボディタッチも多かった。
 すぐ腕を組み、手を握ってくる。

 その直接的な好意の表し方がとても嬉しかったからこそ、自分が汗っかきである事や体の大きさで迷惑を掛けないかビクビクするようになってしまった。

 きっかけは、ある日弟と手の大きさを比べて「ねーちゃん手汗すげーな」と言われて初めて自分が汗っかきだと気づいた時だ。

 芋づる式に思いだしたのは、電車でラッキーにも座れた時、私の左右がギュウギュウになってとても申し訳ない気持ちになった事だ。
 通学電車の中で友達が「あのおじさん加齢臭がきつかった」と言っていたのも思いだし、もしかしたら口にしないだけで私も汗臭いのでは……? と怖くなった。

 それ以来、私は中学生までの陽気な性格はどこへやら、常に人の目を気にする性格になってしまった。

 無理なダイエットをしては体調を崩し、家族、友達に心配を掛けた。

 幸いにも親しくしている友達は、体型をいじるような人ではなかった。

 けれどクラスの男子や目立ってる系の女子の視線やクスクス笑う声が怖く、私一人が必要以上に色んな事を気にして、勝手に傷ついていた。
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