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久賀城家挨拶 編
私は賛成しよう
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「……兄貴、何言ってんの?」
芳也くんが呆然として言い、美望ちゃんも目をまん丸にしている。
「父さん、母さん。それに芳也と美望も。大事な話だから、正樹の言う事をしっかり聞いてほしい。先に言っておくけど、これは俺たち三人で話し合って『こうしたい』とすでに決めた事なんだ」
慎也が言ったあと、いまだ動揺して口を開けずにいる家族たちに、正樹が事情を説明し始めた。
正樹が長らく、幼い頃に目の前で見た、実母の死によってトラウマを得ていた事。
それから何に対しても「どうせ喪ってしまう」という諦めを持っていて、期待を持たない人生を送っていた事。
昌明さんが玲奈さんと再婚してからは、優しくしてくれ、分け隔てなく兄弟を愛してくれた事に心から感謝し、その愛情は疑っていないと念を押した。
誰も悪くなく、正樹自身が心に抱えた闇と対峙していかなければならず、それを長年ずっと解決できなかった事。
結婚した女性には精神的DVを受け、一度は死のうかと思った事。今後お見合いや紹介されても、決して頷かないと彼はしっかりと述べた。
「僕は優美ちゃんが好きだ。でも、彼女と慎也の仲を引き裂きたい訳じゃない。二人の幸せをお裾分けしてもらいたいつもりで、今後も側にいたいと思っている」
「……三人で結婚生活を送るという事?」
いまだ信じられないという顔をした玲奈さんに言われ、私たちは頷く。
「優美さんは……、それでいいの? 実質夫が二人いる状態なのよ?」
「はい」
私は玲奈さんに向けてしっかりと頷いた。
「非常識なのは、重々承知しております。ですが私は二人から過去、再婚したご家庭で生まれた兄弟だからこそできた軋轢を聞きました。二人の言い分に心から共感して、どちらの想いにも寄り添いたいと思っています。二人の事を愛していますし、二人を大切にして、心の安らぎになりたいです。一般的に恋人などの事をカップルと言いますが、三人での関係を表したスループルという言葉もあります。今は多様性の世界で、そういう愛のあり方、家庭があってもいいと思うのです」
背筋を伸ばし、私は堂々と意見を述べる。
隣で慎也が口を開いた。
「三人で結婚生活を送る事について、どうか変な目で見ないでほしいんだ。世間的に見れば変かもしれないけど、俺と正樹が精神的に救われるためには、これが最良の選択だと思っている。それを受け入れてくれて、俺たちが好きになれたのは優美しかいない。ただそれだけのシンプルな話なんだ」
正樹が続ける。
「この事はうちの家族だけの秘密にしたい。優美のご両親にも、世間にも、彼女は慎也の妻として世間体を守る。僕は二人の幸せのお裾分けをもらうだけ。長男の僕に対して『再婚しないのか』っていう声があったなら、〝女嫌い〟でも何でも、好きに言ってほしい」
四人はしばらく黙っていたけれど、玲奈さんが溜め息をついたあとに痛々しく笑った。
「そんな想いをさせていたのに、気付かなくてごめんなさい」
彼女の謝罪に、正樹は首を左右に振る。
「誰も悪くない。これは僕の問題だ。そして僕が選んだ道について、謝らないでほしい。慎也にも変わらず息子として接して、優美ちゃんを嫁として可愛がってほしい。僕の願いはそれだけだ」
しばらく全員黙っていたけれど、昌明さんが口を開いた。
「私は賛成しよう。ここまで決めてしまった三人の決定を、無理に覆そうとするのは良くない。私は久賀城の跡継ぎをほしいと思うより、子供たちの幸せを願っている。正樹には無理にお見合い結婚をさせてしまい、ああいう形になって後悔していた。本人が望まない結婚をさせるより、正樹には自分の心に沿った幸せを掴んでほしい」
その言葉だけで、昌明さんが子供たちを深く愛しているのがよく分かった。
「そうね。私は正樹を本当の息子だと思っているわ。あなたが死を選ばなくて本当に良かった。昌明さんに、これ以上愛する人を喪ってほしくないもの。……生きていてくれるのなら、人の幸せはそれぞれでいい。私も異論はないわ」
玲奈さんも、スッキリとした笑みを浮かべた。
そのタイミングで、美望ちゃんが前のめりになって口を開いた。
「ねぇっ! 三人って禁断の三角関係なの? 私、そういう話大っ好きで……!」
おやぁ?
これは……。
彼女の反応を見て、私は思わず笑う。
「大丈夫! 秘密は絶対守ります! 優美さんって格好いいし、絶対お姉ちゃんに欲しいタイプだもん! 絶対絶対仲良くなりたいから、宜しくお願いします!」
最後には立ち上がって挙手する美望ちゃんを見て、私は破顔した。
「俺も文句はないよ。兄貴たちが幸せなら、それでいいんじゃない? 法的に問題なく本人たちも納得してるなら、口を出す問題じゃないよ。今ってそれぞれの幸せも生き方も、優美さんが言ったように多様性、だろ?」
芳也くんも大人びた答えを出して、久賀城家の意見は纏まった。
「ありがとう、皆」
慎也は本当に嬉しそうに笑っていて、正樹も肩の荷が下りた表情をしている。
「正樹は、他の女性となら再婚したくなくても、優美さんとなら結婚してもいいと思っているの?」
「そうだけど……。でも慎也の邪魔をする気はない」
玲奈さんの言葉に、正樹は念を押す。
芳也くんが呆然として言い、美望ちゃんも目をまん丸にしている。
「父さん、母さん。それに芳也と美望も。大事な話だから、正樹の言う事をしっかり聞いてほしい。先に言っておくけど、これは俺たち三人で話し合って『こうしたい』とすでに決めた事なんだ」
慎也が言ったあと、いまだ動揺して口を開けずにいる家族たちに、正樹が事情を説明し始めた。
正樹が長らく、幼い頃に目の前で見た、実母の死によってトラウマを得ていた事。
それから何に対しても「どうせ喪ってしまう」という諦めを持っていて、期待を持たない人生を送っていた事。
昌明さんが玲奈さんと再婚してからは、優しくしてくれ、分け隔てなく兄弟を愛してくれた事に心から感謝し、その愛情は疑っていないと念を押した。
誰も悪くなく、正樹自身が心に抱えた闇と対峙していかなければならず、それを長年ずっと解決できなかった事。
結婚した女性には精神的DVを受け、一度は死のうかと思った事。今後お見合いや紹介されても、決して頷かないと彼はしっかりと述べた。
「僕は優美ちゃんが好きだ。でも、彼女と慎也の仲を引き裂きたい訳じゃない。二人の幸せをお裾分けしてもらいたいつもりで、今後も側にいたいと思っている」
「……三人で結婚生活を送るという事?」
いまだ信じられないという顔をした玲奈さんに言われ、私たちは頷く。
「優美さんは……、それでいいの? 実質夫が二人いる状態なのよ?」
「はい」
私は玲奈さんに向けてしっかりと頷いた。
「非常識なのは、重々承知しております。ですが私は二人から過去、再婚したご家庭で生まれた兄弟だからこそできた軋轢を聞きました。二人の言い分に心から共感して、どちらの想いにも寄り添いたいと思っています。二人の事を愛していますし、二人を大切にして、心の安らぎになりたいです。一般的に恋人などの事をカップルと言いますが、三人での関係を表したスループルという言葉もあります。今は多様性の世界で、そういう愛のあり方、家庭があってもいいと思うのです」
背筋を伸ばし、私は堂々と意見を述べる。
隣で慎也が口を開いた。
「三人で結婚生活を送る事について、どうか変な目で見ないでほしいんだ。世間的に見れば変かもしれないけど、俺と正樹が精神的に救われるためには、これが最良の選択だと思っている。それを受け入れてくれて、俺たちが好きになれたのは優美しかいない。ただそれだけのシンプルな話なんだ」
正樹が続ける。
「この事はうちの家族だけの秘密にしたい。優美のご両親にも、世間にも、彼女は慎也の妻として世間体を守る。僕は二人の幸せのお裾分けをもらうだけ。長男の僕に対して『再婚しないのか』っていう声があったなら、〝女嫌い〟でも何でも、好きに言ってほしい」
四人はしばらく黙っていたけれど、玲奈さんが溜め息をついたあとに痛々しく笑った。
「そんな想いをさせていたのに、気付かなくてごめんなさい」
彼女の謝罪に、正樹は首を左右に振る。
「誰も悪くない。これは僕の問題だ。そして僕が選んだ道について、謝らないでほしい。慎也にも変わらず息子として接して、優美ちゃんを嫁として可愛がってほしい。僕の願いはそれだけだ」
しばらく全員黙っていたけれど、昌明さんが口を開いた。
「私は賛成しよう。ここまで決めてしまった三人の決定を、無理に覆そうとするのは良くない。私は久賀城の跡継ぎをほしいと思うより、子供たちの幸せを願っている。正樹には無理にお見合い結婚をさせてしまい、ああいう形になって後悔していた。本人が望まない結婚をさせるより、正樹には自分の心に沿った幸せを掴んでほしい」
その言葉だけで、昌明さんが子供たちを深く愛しているのがよく分かった。
「そうね。私は正樹を本当の息子だと思っているわ。あなたが死を選ばなくて本当に良かった。昌明さんに、これ以上愛する人を喪ってほしくないもの。……生きていてくれるのなら、人の幸せはそれぞれでいい。私も異論はないわ」
玲奈さんも、スッキリとした笑みを浮かべた。
そのタイミングで、美望ちゃんが前のめりになって口を開いた。
「ねぇっ! 三人って禁断の三角関係なの? 私、そういう話大っ好きで……!」
おやぁ?
これは……。
彼女の反応を見て、私は思わず笑う。
「大丈夫! 秘密は絶対守ります! 優美さんって格好いいし、絶対お姉ちゃんに欲しいタイプだもん! 絶対絶対仲良くなりたいから、宜しくお願いします!」
最後には立ち上がって挙手する美望ちゃんを見て、私は破顔した。
「俺も文句はないよ。兄貴たちが幸せなら、それでいいんじゃない? 法的に問題なく本人たちも納得してるなら、口を出す問題じゃないよ。今ってそれぞれの幸せも生き方も、優美さんが言ったように多様性、だろ?」
芳也くんも大人びた答えを出して、久賀城家の意見は纏まった。
「ありがとう、皆」
慎也は本当に嬉しそうに笑っていて、正樹も肩の荷が下りた表情をしている。
「正樹は、他の女性となら再婚したくなくても、優美さんとなら結婚してもいいと思っているの?」
「そうだけど……。でも慎也の邪魔をする気はない」
玲奈さんの言葉に、正樹は念を押す。
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