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箱根クリスマス旅行 編

クリスマスプレゼント

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(エッチは昨日したしな……)

 考えていると、正樹が浴衣の袖からリングケースを取りだした。

 ……………………ん?

「クリスマスプレゼント」

 ネイビーのボックスを左右にカパッと開くと、中にはでっかいダイヤモンドが嵌まった指輪が燦然と輝いていた。

 ちょ……っ!

 私はその指輪が意味する事よりも、ダイヤモンドの大きさにビビってジリッと後ろに下がる。

「はい、慎也。御用」

「うい」

 あっという間に私は慎也から羽交い締めにされ、テーブルを回り込んでこちらに来る正樹を見て、プルプルと震える。

「優美ちゃん、僕らの言葉をまじめに聞いてくれる?」

「ウ……、ハイ」

 大人しく頷くと、慎也が羽交い締めを解いてくれ、二人が私の前で真剣な顔で座る。

「優美、俺と結婚してほしい」

 慎也に真剣な顔でプロポーズされ、私はまじめに話を聞くために正座をした。

 確かに一緒に暮らしていて問題はないし、二人とも私をとても大切にしてくれる。
 私も二人の事は好きだけど、でも……いいのかな。

 何と言おうか迷って黙っていると、緊張を表情に滲ませた慎也が口を開いた。

「迷ってる? やっぱり嫌だ?」

「ち、違うの! 二人とも好きだよ。けっ、……結婚、したい。……この上ない良縁だと思ってる」

 いきなり結婚の話になったので、ギクシャクとした返事しかできない。

 彼らの事を受け入れると決めたものの、この旅行はただのデートで、まさかプロポーズされるとは思っていなかったのだ。

 今までドラマや映画のプロポーズシーンを見て、ほんのり憧れていた。
 けど現実は〝強くて逞しい折原さん〟を女性扱いしてくれる人などいなかった。
 妄想では色んなロマンチックな事を考えていたけれど、浜崎くんと別れたあとはやけっぱちになって、恋愛や結婚なんて無縁だと拗ねていた。

 なのに今、こんな極上の男からプロポーズされている。

「優美ちゃん、もう一回確認したいんだ。僕っていうお邪魔虫がいる状態で、慎也と結婚できる?」

 けれど――、正樹の言い方にムカッと腹が立った。

「自分の事、そういう風に言ったらだめ!」

 ビシッと叱ったからか、正樹が破顔する。

「うん、ありがとう。それで僕らはね、慎也が優美ちゃんと結婚して戸籍上の夫になって、実質三人で暮らせたらって思ってる」

「うん。それは……何となく予想してた」

 私の返事を聞き、正樹は柔らかく笑う。

「慎也の子供を産める? 久賀城家の息子で、産んだらそれなりに周囲から期待されて、お受験とかお坊ちゃま学校とか、そういう世界の住人になる。〝ママ友〟たちも色んなタイプの人がいると思う」

 それは、考えなかった訳じゃない。

 慎也が久賀城家の人とは知らなかったけれど、分かったあとはぼんやりと、凄い家の跡取りの奥さんになるのかもしれないとは考えた。

 大企業の経営者一家の生活なんて、もちろん知らない。
 同じ都内に住んでいても、タワマン高層階とか、都内にある一等地の大邸宅、高級外車とか、高級レストランとかは別世界だ。

 彼らと同棲するようになって、そんな世界を垣間見たけれど、あまり現実と思えないでいるのが現状だ。

「社交界なんて言ったら、中世ヨーロッパとかを考えそうだけど、現代日本でもあるんだ。政治家や企業の経営者が集まって、パーティーを開く。または懇意にしている人の誕生日会とか、そういうのがあるたびに付き合いで出席しなきゃいけない。とっても面倒な世界だ」

 正樹の言葉を聞いて、私は素直に頷く。

 確かに、面倒臭そう。

「俺は〝岬慎也〟としての生き方をやめた。本来在るべき場所に戻って、優美も子供も守りながら、久賀城家の男として生きていきたい。……その隣に、妻として立っていてほしいんだ」

 慎也は真剣な顔で私を見つめている。

 私はチラッとどでかいダイヤを見て、彼らの本気を知る。

 もともとジュエリーなんて大して興味がない。
 若い女性に人気のプチプラブランドの、五万以下のアクセサリーでも「うーん」と思ってしまう。

 正樹が手にしているのは、ハイブランドに疎い私でも知っている、海外の物凄いハイジュエリーブランドだ。
 そのエンゲージリングを用意するという事は、恐らく何百万もかけた〝本気〟だ。

 だから私も、〝本気〟で応える。

「……私は、二人といたい。プロポーズしてくれるなら、……謹んでお受けします」

 私は正座をしたまま、畳の上に手をついて頭を下げる。

 ソロリと顔を上げると、二人とも破顔していた。
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