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箱根クリスマス旅行 編

体にいい

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 チェックインする前には余裕で到着できた。
 時間前だというのに、車を見ただけで法被を着た男性と着物姿の仲居さん、そして女将さんが出迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました」

 挨拶をしたあと、荷物は男性が持ってくれた。

 宿は外見から立派な格式ある旅館という様子で、毛筆で書かれたロゴに家紋がついている暖簾が凄い。
 お金持ちの邸宅なのではと思える門から中に入ると、整えられた美しい庭園が続く向こうに本館があった。

 案内されたのは離れで、住宅で言う〝離れ〟と同じように一軒家のような作りをしていた。
 部屋の案内を受けたあと、女将さん自らお茶を点ててくれる。
 茶道に詳しくないので緊張したけれど、二人がフランクな雰囲気で流れを教えてくれたので、体験して楽しむ事ができた。

 やがて女将さんと仲居さんは去り、私たちは座椅子に座ってのんびり寛ぐ。

「凄いね……。こんな立派な宿に連れて来てくれて、ありがとう」

 室内は広々としていて、十畳と八畳の和室が続いている。
 十畳はいま私達がいる居間みたいな場所で、八畳のほうにはツインベッドが置かれてあった。
 女将さんの話では、就寝時には布団を一組敷に来てくれるようだ。
 ベッドの奥にはテラスに通じる大きな窓があり、外に露天風呂がある。
 庭は目隠しの生け垣に囲まれ、露天風呂から楽しめるように美しく整えられていた。

 洗面所はウッド調で落ち着きがありながら、上品な雰囲気だ。
 顔を洗うボウルと大きな鏡の横に、別途女性がメイクをしやすいように、椅子と女優ライトのついた鏡がある。こういう気配りは嬉しいものだ。
 露天風呂とは別に檜の内風呂とシャワーボックスもあり、そちらも雰囲気たっぷりで楽しめる。

「気に入った?」

「勿論! 贅沢なところに連れてきてくれて、ありがとう!」

 にっこり笑うと、慎也も正樹も嬉しそうに笑う。

 ……宿の人も、男二人に女一人で泊まるのに、余計な詮索をせず表情にも出さないのでプロだなと思う。
 もしかしたら〝掃除〟に関して何か裏で言っているかもしれないけれど、それは……なるべく考えないようにしよう。

 一応、お客として来ているので。
 でも、なるべく汚さないように心がけるので……、あの、許してください……。

 人様にご迷惑を掛けるのが苦手な私は、なるべくハメを外さないようにしようと心の中で固く誓った。

 ……のだけれど。

「じゃあ、一息ついたらさっそく温泉に入ろうか」

 歓迎のお茶とお菓子をペロッと食べた慎也が、にこやかに提案する。

「いいね! 僕もこないだトレーニングでちょっと負荷かけ過ぎちゃったから、体を休めたい」

 あ、湯治の意味か……。良かった。

「お湯があると道具を冷たいまま使わずに済むから、優美の体にいいよな」

「だねー」

 体にいいの意味が違う!

 私は心の中で突っ込みを入れ、何とかして温泉からセックスへの流れを回避できないか、ゆーっくりお菓子を食べつつ思考を巡らせる。

「体に負担が掛かってるなら、少しエッチを控えたら?」

「何言ってんの? 僕がその程度で優美ちゃんとのセックスを控えるはずがないでしょ」

 彼は真顔で突っ込みを入れ、心底分からないという顔で私を凝視してくる。
 ……その、「常識を疑われた」っていう顔、やめい。

「優美、靴下脱がせてあげる」

 慎也が座椅子を後ろに押しやり、テーブルの下に潜って私の足に触れてきた。

「ちょっと! そんなんいいから、ゆっくりお菓子食べさせて」

 横浜で少し歩いたし、足は蒸れている。
 匂いが気になる場所に触れられるのは、お風呂に入った直後でない限り抵抗がある。
 とっさに足を引っ込めようとするが、その前に足首を掴まれてしまった。

「っもぉぉぉ……!」

 私が嫌がる姿を見て、目の前で正樹がテーブルに頬杖をつきニヤニヤしている。
 靴下が引っ張られ、素足が空気に触れる。

「……お願いだから、匂い嗅がないで。蒸れてるから嫌なの」

「そういうつもりはなかったけど、そう言われたらリクエストに応えたくなるなぁ」

 テーブルの下にいるというのに、慎也がニヤニヤ笑っているのが分かる。
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