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浜崎&五十嵐トラブル 編
愛されたかったら、まず自分を愛する努力をしたら?
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「確かに恥ずかしかったし、被害妄想だった事もあった。でも友達や分かってほしい人は、私をバカにしなかった。だから、私は前向きでいられたんだと思う」
「綺麗事で誤魔化すつもりですかー? あー、うつくしー」
棒読みでせせら笑う五十嵐さんに、私は緩く首を横に振る。
「汗っかきだったし、ズボンをはいたら股ずれできるし、短いチェーンのネックレスはできないし、指輪は嵌まんないし、惨めなもんだったよ? 運動は嫌いだったし、体育の授業をサボれないか日々考えてた。そんな情けない毎日だったけど……」
ハハッと笑い、私は昔を思いだす。
「変わりたいな、って思ったんだ。身も心も、前向きで綺麗な人になりたかった」
昔の私はとても卑屈で、事あるごとに「ごめんね」と謝っていた。
友達には「必要以上に謝らなくていいよ」「『ごめん』の価値が下がるよ」と言われて、ハッとしたものだ。
そして「私たちは優美の外見で友達になったんじゃなくて、気が合うから友達になった。そこを間違わないで」と怒られた。
「健康的な理由もあるし、可愛い服を楽しみたかった。高校の恩師が『人生は一度きりしかない。何かをしたいと思った時はすぐに行動。〝今〟より早い時なんてない』って言ったの。大学は地元を離れるし、変わるタイミングだって思って、春休みにめちゃくちゃ頑張った。動機はごくありふれた理由だった」
水を一口飲んで喉を潤し、私は続きを話す。
「勿論すぐ激痩せなんてしなかったし、停滞期もあった。けど努力してる私にアドバイスしてくれる友達ができたし、地元の友達も応援してくれた。色んな人の助けがあって、今の私がある。トレーナーさんのお陰で、つよつよメンタルも手に入れられた。でも本当はいつ〝デブ〟に戻るか分からなくて不安に思ってる。ふとした時に情けない自分が顔を出して『だから無理なんだ』って言ってくる。……でも『負けたくない』って思ったから、今も努力し続けていられるし、仕事でも頑張れた」
浜崎くんはすっかり毒気の抜かれた顔をしていた。
私は彼に向き合わず、自分の弱さを見せなかった。
だから「もともと勝ち気で鼻持ちならない女」と思われていたのかもしれない。
「社会人になって仕事するのが楽しかった。痩せてテキパキ動けるのも嬉しかったし、『仕事ができそうだね』って言ってもらえるのも嬉しかった。〝強い女〟でいると皆が喜んでくれるから、そうあろうと思っていた。……浜崎くんにも〝強い女〟のまま接してしまって、浜崎くんが望む〝甘えてくれる彼女〟になれなかったのは悪かった。当時の私は頑張る事で精一杯で、誰かに寄りかかる心の余裕はなかったんだと思う」
彼は小さく頷く。
「正樹があなたに私の過去を話したのは、とっくに乗り越えていて、問題にしていないと判断したからだよ。私は信頼されてるの」
彼が嫌がらせで言う訳がない。
自信満々に言うと、隣から正樹が私の手を握ってきた。
「私は自信に溢れたスーパーウーマンじゃない。弱さも、狡い所もあるし、たまにふてくされる。……でもね」
私は瞳の奥にグッと強い光を宿して、五十嵐さんを見る。
「苦しんできたからこそ、私は人を外見で判断しない。見た目も、財産も、社会的地位も、上っ面のものに惑わされないようにしてる。それで付き合う人を選んだら、一生後悔する」
五十嵐さんは私を激しい目で睨んだ。
「善人ぶるなよ! イケメン御曹司を選んだくせに、『外見で判断しない』!? イケメンに抱かれてヒイヒイ善がって、贅沢三昧してるんだろうが! それを棚に上げて綺麗事言うんじゃねーよ!」
…………確かに、エッチうまくて喘がされてるな……。
一瞬、私はスンッと真顔になった。
「私と彼のなれそめを、あなたに説明する義理はない。でもこれだけは言っておく。同じ条件の違う人に求められても、私はまったく靡かない。私は正樹だから惹かれた。その選択を侮辱しないでほしい」
隣で慎也が溜め息をついたのが聞こえる。
機嫌悪くしてるだろうなぁ……。あとでご機嫌取りしないと。
「あと、あなたに言いたいんだけど」
自分の事を説明するのに時間が掛かってしまったけれど、ここからが本番だ。
「コンプレックスのある人が他人を馬鹿にする理由って、自分が〝上〟になりたいからだと思う。そんな事でしか自分の価値を認められないのは悲しいよ。すればするほど惨めになるから、やめたほうがいい。誰も幸せになれない」
スパッと言うと、五十嵐さんが鼻白んだ。
「分かった風な口を利くんじゃねーよ!」
「愛されたかったら、まず自分を愛する努力をしたら?」
乱暴な口調で否定されても、私はまったくたじろがない。
「綺麗事で誤魔化すつもりですかー? あー、うつくしー」
棒読みでせせら笑う五十嵐さんに、私は緩く首を横に振る。
「汗っかきだったし、ズボンをはいたら股ずれできるし、短いチェーンのネックレスはできないし、指輪は嵌まんないし、惨めなもんだったよ? 運動は嫌いだったし、体育の授業をサボれないか日々考えてた。そんな情けない毎日だったけど……」
ハハッと笑い、私は昔を思いだす。
「変わりたいな、って思ったんだ。身も心も、前向きで綺麗な人になりたかった」
昔の私はとても卑屈で、事あるごとに「ごめんね」と謝っていた。
友達には「必要以上に謝らなくていいよ」「『ごめん』の価値が下がるよ」と言われて、ハッとしたものだ。
そして「私たちは優美の外見で友達になったんじゃなくて、気が合うから友達になった。そこを間違わないで」と怒られた。
「健康的な理由もあるし、可愛い服を楽しみたかった。高校の恩師が『人生は一度きりしかない。何かをしたいと思った時はすぐに行動。〝今〟より早い時なんてない』って言ったの。大学は地元を離れるし、変わるタイミングだって思って、春休みにめちゃくちゃ頑張った。動機はごくありふれた理由だった」
水を一口飲んで喉を潤し、私は続きを話す。
「勿論すぐ激痩せなんてしなかったし、停滞期もあった。けど努力してる私にアドバイスしてくれる友達ができたし、地元の友達も応援してくれた。色んな人の助けがあって、今の私がある。トレーナーさんのお陰で、つよつよメンタルも手に入れられた。でも本当はいつ〝デブ〟に戻るか分からなくて不安に思ってる。ふとした時に情けない自分が顔を出して『だから無理なんだ』って言ってくる。……でも『負けたくない』って思ったから、今も努力し続けていられるし、仕事でも頑張れた」
浜崎くんはすっかり毒気の抜かれた顔をしていた。
私は彼に向き合わず、自分の弱さを見せなかった。
だから「もともと勝ち気で鼻持ちならない女」と思われていたのかもしれない。
「社会人になって仕事するのが楽しかった。痩せてテキパキ動けるのも嬉しかったし、『仕事ができそうだね』って言ってもらえるのも嬉しかった。〝強い女〟でいると皆が喜んでくれるから、そうあろうと思っていた。……浜崎くんにも〝強い女〟のまま接してしまって、浜崎くんが望む〝甘えてくれる彼女〟になれなかったのは悪かった。当時の私は頑張る事で精一杯で、誰かに寄りかかる心の余裕はなかったんだと思う」
彼は小さく頷く。
「正樹があなたに私の過去を話したのは、とっくに乗り越えていて、問題にしていないと判断したからだよ。私は信頼されてるの」
彼が嫌がらせで言う訳がない。
自信満々に言うと、隣から正樹が私の手を握ってきた。
「私は自信に溢れたスーパーウーマンじゃない。弱さも、狡い所もあるし、たまにふてくされる。……でもね」
私は瞳の奥にグッと強い光を宿して、五十嵐さんを見る。
「苦しんできたからこそ、私は人を外見で判断しない。見た目も、財産も、社会的地位も、上っ面のものに惑わされないようにしてる。それで付き合う人を選んだら、一生後悔する」
五十嵐さんは私を激しい目で睨んだ。
「善人ぶるなよ! イケメン御曹司を選んだくせに、『外見で判断しない』!? イケメンに抱かれてヒイヒイ善がって、贅沢三昧してるんだろうが! それを棚に上げて綺麗事言うんじゃねーよ!」
…………確かに、エッチうまくて喘がされてるな……。
一瞬、私はスンッと真顔になった。
「私と彼のなれそめを、あなたに説明する義理はない。でもこれだけは言っておく。同じ条件の違う人に求められても、私はまったく靡かない。私は正樹だから惹かれた。その選択を侮辱しないでほしい」
隣で慎也が溜め息をついたのが聞こえる。
機嫌悪くしてるだろうなぁ……。あとでご機嫌取りしないと。
「あと、あなたに言いたいんだけど」
自分の事を説明するのに時間が掛かってしまったけれど、ここからが本番だ。
「コンプレックスのある人が他人を馬鹿にする理由って、自分が〝上〟になりたいからだと思う。そんな事でしか自分の価値を認められないのは悲しいよ。すればするほど惨めになるから、やめたほうがいい。誰も幸せになれない」
スパッと言うと、五十嵐さんが鼻白んだ。
「分かった風な口を利くんじゃねーよ!」
「愛されたかったら、まず自分を愛する努力をしたら?」
乱暴な口調で否定されても、私はまったくたじろがない。
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