上 下
10 / 539
ハプバー~同居開始 編

付き合いたいです

しおりを挟む
「私、優美の友達の円城寺えんじょうじ文香と言います。とりあえず私が代理で用件だけ聞きますね」

 受け答えをしたあと、文香はスマホをタップして電話をスピーカーにする。

『折原さん、どうしていますか?』

 岬くんの声が聞こえ、私はドキッとする。
 文香は私の方を見て「しー」と指を唇の前に立て、黙っているよう指示する。

「いま、お手洗いに行っているんです。昨日の事は彼女から聞いていて、気まずいと言っていたので勝手に電話に出ました。ごめんなさい」

『いえ、電話が通じて安心しました』

「ていうか、あの子にハプバーを教えたの私なんです。だからあの子が日常的にああいう所に行く訳じゃないっていう事は、承知してくださいね? 見た目に似合わずまじめで繊細なところもある子なので、勘違いをされたら困るんです」

 うう、文香。心の友よ……。

 私は手を合わせて文香を拝む。
 彼女は私に対して「まぁまぁ」というジェスチャーを取り、会話を続ける。

「優美は途中で怖くなって店を出たって言っていましたけど、それについて怒ってはいませんよね? あそこは女性優位の場所ですし、途中で帰られて怒る権利はないはずです」

『それについてはご心配なく。というか、折原さんを傷付けていないか心配だったんです』

 思っていたのとまったく逆の返事があり、私は息を呑む。

『それに、思っていたよりずっと折原さんが可愛くて……。今まで仕事のできる、尊敬する先輩と思っていました。憧れてはいたのですが、そういう目では見てもらえなくて……。だから昨日の事は運命だと思っていたんです。あわよくば個人的にお付き合いできないかと思って……』

 ……嘘でしょ……?

 まさかハプバーから始まる恋があるなんて、と思い、私はどう反応したらいいのか分からなくなる。
 文香は私の様子を見てニヤリと笑う。

「それって、優美とエッチして具合が良かったから、付き合いたいって事?」

『そう見えて仕方ありませんが、まったく違います。いま言ったように、折原さんの事はずっと前から気になっていました。そして昨日彼女を抱いて、思っていた……というか、本当はこういう人なんじゃないかっていう予想が当たりました。強がっている仮面が外れて、中身はとても可愛い人で……。この人と付き合って、もっと素の顔を見てみたいって思ったんです』

 文香はそれまでの面白がっていた顔とは打って変わって、「見てなさい」という表情で私を見る。

「優美は途中で帰ったから、君を傷付けて怒らせたんじゃないかって心配してたけど。男ってエッチに関する事について、プライドへし折られたら態度が酷くなる事もあるでしょ? あの子の元彼もそうだったし」

 文香の口調が、遠慮のないものになっていく。

『浜崎さんの事でしたら、彼がクズだっただけです。自分が勃たなかった恥ずかしさを女性のせいにして、不名誉な噂を流すって相当タチが悪いですよ。折原さんは被害者で、何も悪くありません。それに、俺はこんな事で怒ったりしません。最初にも言いましたが、慣れてなさそうな彼女を傷付けなかったか心配だったんです』

 スピーカーから聞こえる岬くんの言葉を聞き、私はテーブルに頬杖をついて溜め息をつく。

 ハプバーに来るぐらいだから、遊び慣れている人だと思っていた。
 どうしてあの店に来たかは置いておいて、彼が思っていたよりずっとまともな人だっていう事は、理解しなきゃ。
 王子様的に扱われているからって、軽いパリピと思うのは偏見だ。
 私が自棄になってハプバーに行ったように、岬くんだって事情があって店に来たかもしれない。

 ……というか、文香だって面白がって行った訳だしね。
 SMプレイに興味がない人が、社会勉強の一つとしてSMバーに行く事もあるし、ゲイバーで面白いママと話をしたいっていうのも、そう。
 興味関心が、行動原理になる事だってある。

 私は勇気を出して口を開いた。

「……岬くん、折原です。ずっと電話を無視していてごめんなさい。怒っていると思っていたの。明日から、会社でまた新しい悪口が広まるんじゃないかって思って、とても怖かった」

『折原さん、やっぱりいたんですね。話してくれて良かった』

 岬くんはいつも通りの素直な部下という様子で返事をする。

『会社で悪口を言うなんて、浜崎さんみたいな事は決してしないので安心してください。明日からもいつものようにお願いします』

「分かった。ありがとう」

『あと、さっき言っていたのも本当で、俺、折原さんと付き合いたいです。今フリーなら考えてくれませんか?』

「えっ……」

 ハプバーでのお楽しみからいきなりお付き合いときて、私はたじろぐ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...