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二〇五〇年 十二月
美弥が不安定になる時期とシンクロするように、時人も不安定になっていた。
冷静さを貫いて美弥の成長を見守ろうと思うのに、目の前の美弥はどうしても葵に見える。
ふとした瞬間に美弥を抱き締めたくなる衝動と、時人はいつも戦っていた。
大学受験を控えた高校三年生になって、時人の家庭教師は真剣に行われたものの、それ以外での二人のプライベートはやや微妙な空気になっていた。
相変わらず美弥は時人を好きで堪らないというオーラを全開にしているのだが、その気持ちが自分の想いなのか、『誰か』の想いなのか判別がつかず、悩んでいる。
そして時人もまた、目の前の美弥が微笑んで「時人さん」と名前を呼ぶ姿が葵に見え、それから逃げるようにして理由をつけ、早々に帰っていた。
「ねぇ、ママ。私、時人さんに避けられてる?」
「美弥は今大切な時期でしょう? 時人さんも遠慮してくれているのよ」
「そう……?」
母はいつも優しくしてくれるのに、その優しさからか美弥はきちんと納得する事ができない。
寂しい。
包み込んでくれるような見守る愛情は小さい頃からたっぷりと感じているのに、思春期になってから美弥が望む異性としての愛情を、時人は向けようとしてくれない。
自分一人だけが変わってしまったような気がする。
そんな心の葛藤がありながらも、美弥の成績は着実に伸びていた。
全国模試でもいい結果を出し、目指している有名大学にも安全圏だと担任教師に鼻高々に言われる。
それは全て、美弥が時人に褒められたいという一心で勉強をした結果だ。
友人との遊びは登下校のお喋りやたまに休日に遊びに行く程度に済ませ、その他はただ時人を思ってひたすらに勉強し、家での空き時間はやはり時人のために美容に気を付け、スタイルを維持する努力をした。
今の美弥の成績も、外見的な美しさも、全て時人への想いゆえの努力の賜物だ。
なのに、時人は上辺だけ褒めてくれても、一番美弥が欲しいと思っている事は何もしてくれない。
子供のように撫でてくれる事はあっても、抱きしめてくれたり大人扱いしてくれない。
高校三年生になって、胸も膨らんで体だってモデル体型ながらもちゃんとした女性のラインになってきているのに、時人は相変わらず『保護者』の顔のままだ。
周りには「綺麗になったね」と絶賛されていて、友人に嫉妬されながらも芸能界入りを期待されているのに。
学校の男の子に数え切れないぐらい告白をされて、他校の男子生徒にも告白されて、ファンクラブのようなものまであるのに。
時人だけが、振り向いてくれない。
「……悔しい」
勉強を終え、一日の終わりにストレッチや腹筋などを終えてから、バスルームで美弥が呟いた。
お湯に浸かっている自慢の体は、時人のために磨き上げたものなのに、努力と報酬が伴わない。
どれだけ運動が辛くてさぼりたいと思っても、完璧な時人の隣に立つためなら我慢できる。
そう思って頑張り続けているのに。
「どうして……っ、叶わないの……!」
ゆるゆると波打っていた湯面に涙が落ち、小さな波紋が幾つも幾つもできた。
気持ちが絡まる。
時人も美弥も互いを想っているのに、どうしてもそれが互いに届かない。
保護者としての愛、年下から年上への切ない片思いは互いに分かっているのに、その奥に隠された秘密には気付けないでいる。
時人と沙夜の約束を美弥は知らないし、美弥が『誰か』の記憶と想いを抱えている事を時人は知らない。
沙夜だけが二人の戸惑いを感じ取っていて、けれども中立という立場上何も言う事はできない。
大学受験を迎え、美弥が大学三年生になるまで時人は安心してはいけないのだ。
葵と同じ魂を持つ美弥が、呪われた運命の鎖から解き放たれて無事に亡き葵の享年を超えるまでは、時人は決して美弥を一人の女性として見てはいけない。
あと三年。
時人は沈黙を守り、美弥は何も知らず自分の空回る気持ちと戦わなければならない。
「……大丈夫? 美弥」
風呂の中で娘が泣きじゃくる声が反響し、ドライヤーの音が止んでからリビングに姿を現した美弥に、沙夜が声を掛けた。
「……うん、大丈夫」
「美弥が時人さんを好きで堪らないのは、ママも分かってるのよ」
泣いていた娘を慰めてやろうと、沙夜はレモネードを作ってやっていた。
「……ありがとう、ママ」
ストローが差された冷たいグラスを見て美弥が礼を言い、喉を通った甘酸っぱい冷たさにホッと息をつく。
「最近はどうなの? 声がするとか……、気持ちが溢れるとか言っていたの」
母の沙夜には、最近の娘を支配している正体が葵なのだと薄々気付いているのだが、それをどう扱うかは美弥次第だ。
「うん……、変わらない」
「それがあるから時人さんが好きなの?」
「違う! 違うよ!」
ストローを離した美弥の唇から放たれたのは、痛切な叫びだった。
「私、物心ついた時から時人さんしか見えてないもん! 最近の気持ちの揺れがあるから好きになったんじゃない! ママは分かってくれてたと思ってたのに……!」
「あぁ、違うの。ごめんね? 美弥」
美弥の大きな目に涙が溜まり、すぐに溢れて頬を伝ってゆく。
「聞いて? 美弥。ママが言いたいのはそういう事じゃないの」
「じゃあ何!?」
大好きな母親にこんな風に当たる事は、本来ならしたくないのだが、情緒不安定になっている時にデリケートな題材で刺激をされると、さすがの美弥も爆発してしまう。
「ママはね、今美弥がどんな気持ちに支配されていても、本来自分が持っていた気持ちを大切にしなさい、って言いたかったの」
「…………」
ふっくらとした頬にポロポロと透明な涙を流し、美弥は母の言葉を聞く。
「美弥の心に溢れる気持ちは、もしかしたら誰かの気持ちかもしれない。誰かが一時的に美弥の心に住んでいるのかもしれない。ママも不思議な事を目にした事はあるから、美弥の言う事は信じるつもりなの」
「……うん」
「自分の胸に手を当てて、美弥自身の気持ちと、美弥じゃない気持ちを分けてみなさい」
「分ける?」
美弥は怪訝な顔で沙夜を見る。
心の中に溢れる気持ちは一方的なものなのに、それを分けるとはどういう事だろうか。
「自分の気持ちに向き合って、解きほぐしていきなさい。紙に書いてもいいし、必要なら学校の先生が言うようにカウンセリングでお手伝いをしてもらってもいいし。混乱した気持ちで時人さんを想っていても、辛いだけでしょう?」
母から提示されたのは、ごく現実的な対処法だ。
「美弥がどういう風に時人さんを好きでも、ママもパパも応援するから。美弥が時人さんのためにずっと頑張っていたのも分かっているつもりだし、親だからこそ子供に幸せになってほしいっていう気持ちもあるのよ」
「うん……、ありがとう」
時人の前で子供扱いをする母親を、少し嫌だなと思ったり時人との仲を疑う事があって申し訳なくも思うが、やはり沙夜は自分の母親だと思う。
「ママもね、ずっと長い間時人さんのお友達として生きてきて、時人さんには幸せになって欲しいと思うの。美弥を娘として大事に思うのと、同じぐらいに時人さんも大事なのよ」
「それは……、どういう感情なの? 友達?」
友達という単語を使うには、沙夜はもう四十一歳で時人の外見はまだ三十ぐらいに見える。
まだ子供の美弥には同年代同士での友達という概念しかなく、年の離れた大人同士の友情というものが分からない。
思春期ゆえの思い込みが酷い時は、時人と沙夜が不倫をしているのではないかと思ってしまった事もある。
「時人さん、美弥に年齢の事を言っているでしょう? 自分はおじさんだって」
「うん」
「美弥はまず、時人さんの色んな『不思議』を信じてあげなさい」
「…………」
「好きな人の言う事を信じて、この世界には色んな『不思議』がある事を受け入れたら、きっと美弥の世界は変わるとママは思うわ」
「不思議……」
自分は五十代だと言った時人。
もしあれが、冗談ではなく全て真実だったら。
何かに思い当たった表情をする美弥を見て、沙夜は学生時代の自分を思い出す。
「ママも美弥より少し大人だった時、時人さんの『不思議』を知ったの。勿論、初めは信じられないし自分が育ってきた常識を基準に考えていたわ。でも、自分で決めてしまった常識の中で生きる事ほど、つまらない事ってないんじゃない?」
「常識が……つまらない?」
目の前にいる母は、知らない顔を見せている気がした。
いつも美弥の目に映るのは、家で家事をして現実的な母の姿を維持していて、我慢強くてそれでも怒る時は少し厳しくて。
そんな『いつもの母親』が、夢みる少女のような顔をしている。
「ママにとって時人さんは、この世界の不思議の片鱗を教えてくれた恩人なの。ママといち伯母さんが側にいてあげないと、すぐに泣いてしまう泣き虫なお兄ちゃんでね、純粋で優しくて。お金持ちの家の人だから時々色々してくれたっていうご恩はあるけれど、ママといち伯母さんは、時人さんの事を家族みたいに思っていたから、ずっと大好きで側にいたくて、味方になってあげたいと思ったの」
沙夜が話すのは、美弥の知らない世界だった。
「その『不思議』って、なんなの?」
純粋な興味を示す美弥に、沙夜は人差し指を唇の前に立ててそっと笑ってみせる。
「それはママ達と時人さんの間での、親友としての秘密。でも、美弥が望んだらきっと話してくれるわ。だからその時まで美弥は時人さんを信じて待ちなさい」
「信じて……待つ」
「そう。今不安なのは分かるつもりだけれど、何かを信じるなら……美弥だったら、大好きな時人さんを信じるなら、きっと乗り越えられるでしょう?」
「……うん」
母の声は優しく美弥に響き、甘酸っぱいレモネードが火照った体と心をクールダウンしてくれる気がした。
美弥が不安定になる時期とシンクロするように、時人も不安定になっていた。
冷静さを貫いて美弥の成長を見守ろうと思うのに、目の前の美弥はどうしても葵に見える。
ふとした瞬間に美弥を抱き締めたくなる衝動と、時人はいつも戦っていた。
大学受験を控えた高校三年生になって、時人の家庭教師は真剣に行われたものの、それ以外での二人のプライベートはやや微妙な空気になっていた。
相変わらず美弥は時人を好きで堪らないというオーラを全開にしているのだが、その気持ちが自分の想いなのか、『誰か』の想いなのか判別がつかず、悩んでいる。
そして時人もまた、目の前の美弥が微笑んで「時人さん」と名前を呼ぶ姿が葵に見え、それから逃げるようにして理由をつけ、早々に帰っていた。
「ねぇ、ママ。私、時人さんに避けられてる?」
「美弥は今大切な時期でしょう? 時人さんも遠慮してくれているのよ」
「そう……?」
母はいつも優しくしてくれるのに、その優しさからか美弥はきちんと納得する事ができない。
寂しい。
包み込んでくれるような見守る愛情は小さい頃からたっぷりと感じているのに、思春期になってから美弥が望む異性としての愛情を、時人は向けようとしてくれない。
自分一人だけが変わってしまったような気がする。
そんな心の葛藤がありながらも、美弥の成績は着実に伸びていた。
全国模試でもいい結果を出し、目指している有名大学にも安全圏だと担任教師に鼻高々に言われる。
それは全て、美弥が時人に褒められたいという一心で勉強をした結果だ。
友人との遊びは登下校のお喋りやたまに休日に遊びに行く程度に済ませ、その他はただ時人を思ってひたすらに勉強し、家での空き時間はやはり時人のために美容に気を付け、スタイルを維持する努力をした。
今の美弥の成績も、外見的な美しさも、全て時人への想いゆえの努力の賜物だ。
なのに、時人は上辺だけ褒めてくれても、一番美弥が欲しいと思っている事は何もしてくれない。
子供のように撫でてくれる事はあっても、抱きしめてくれたり大人扱いしてくれない。
高校三年生になって、胸も膨らんで体だってモデル体型ながらもちゃんとした女性のラインになってきているのに、時人は相変わらず『保護者』の顔のままだ。
周りには「綺麗になったね」と絶賛されていて、友人に嫉妬されながらも芸能界入りを期待されているのに。
学校の男の子に数え切れないぐらい告白をされて、他校の男子生徒にも告白されて、ファンクラブのようなものまであるのに。
時人だけが、振り向いてくれない。
「……悔しい」
勉強を終え、一日の終わりにストレッチや腹筋などを終えてから、バスルームで美弥が呟いた。
お湯に浸かっている自慢の体は、時人のために磨き上げたものなのに、努力と報酬が伴わない。
どれだけ運動が辛くてさぼりたいと思っても、完璧な時人の隣に立つためなら我慢できる。
そう思って頑張り続けているのに。
「どうして……っ、叶わないの……!」
ゆるゆると波打っていた湯面に涙が落ち、小さな波紋が幾つも幾つもできた。
気持ちが絡まる。
時人も美弥も互いを想っているのに、どうしてもそれが互いに届かない。
保護者としての愛、年下から年上への切ない片思いは互いに分かっているのに、その奥に隠された秘密には気付けないでいる。
時人と沙夜の約束を美弥は知らないし、美弥が『誰か』の記憶と想いを抱えている事を時人は知らない。
沙夜だけが二人の戸惑いを感じ取っていて、けれども中立という立場上何も言う事はできない。
大学受験を迎え、美弥が大学三年生になるまで時人は安心してはいけないのだ。
葵と同じ魂を持つ美弥が、呪われた運命の鎖から解き放たれて無事に亡き葵の享年を超えるまでは、時人は決して美弥を一人の女性として見てはいけない。
あと三年。
時人は沈黙を守り、美弥は何も知らず自分の空回る気持ちと戦わなければならない。
「……大丈夫? 美弥」
風呂の中で娘が泣きじゃくる声が反響し、ドライヤーの音が止んでからリビングに姿を現した美弥に、沙夜が声を掛けた。
「……うん、大丈夫」
「美弥が時人さんを好きで堪らないのは、ママも分かってるのよ」
泣いていた娘を慰めてやろうと、沙夜はレモネードを作ってやっていた。
「……ありがとう、ママ」
ストローが差された冷たいグラスを見て美弥が礼を言い、喉を通った甘酸っぱい冷たさにホッと息をつく。
「最近はどうなの? 声がするとか……、気持ちが溢れるとか言っていたの」
母の沙夜には、最近の娘を支配している正体が葵なのだと薄々気付いているのだが、それをどう扱うかは美弥次第だ。
「うん……、変わらない」
「それがあるから時人さんが好きなの?」
「違う! 違うよ!」
ストローを離した美弥の唇から放たれたのは、痛切な叫びだった。
「私、物心ついた時から時人さんしか見えてないもん! 最近の気持ちの揺れがあるから好きになったんじゃない! ママは分かってくれてたと思ってたのに……!」
「あぁ、違うの。ごめんね? 美弥」
美弥の大きな目に涙が溜まり、すぐに溢れて頬を伝ってゆく。
「聞いて? 美弥。ママが言いたいのはそういう事じゃないの」
「じゃあ何!?」
大好きな母親にこんな風に当たる事は、本来ならしたくないのだが、情緒不安定になっている時にデリケートな題材で刺激をされると、さすがの美弥も爆発してしまう。
「ママはね、今美弥がどんな気持ちに支配されていても、本来自分が持っていた気持ちを大切にしなさい、って言いたかったの」
「…………」
ふっくらとした頬にポロポロと透明な涙を流し、美弥は母の言葉を聞く。
「美弥の心に溢れる気持ちは、もしかしたら誰かの気持ちかもしれない。誰かが一時的に美弥の心に住んでいるのかもしれない。ママも不思議な事を目にした事はあるから、美弥の言う事は信じるつもりなの」
「……うん」
「自分の胸に手を当てて、美弥自身の気持ちと、美弥じゃない気持ちを分けてみなさい」
「分ける?」
美弥は怪訝な顔で沙夜を見る。
心の中に溢れる気持ちは一方的なものなのに、それを分けるとはどういう事だろうか。
「自分の気持ちに向き合って、解きほぐしていきなさい。紙に書いてもいいし、必要なら学校の先生が言うようにカウンセリングでお手伝いをしてもらってもいいし。混乱した気持ちで時人さんを想っていても、辛いだけでしょう?」
母から提示されたのは、ごく現実的な対処法だ。
「美弥がどういう風に時人さんを好きでも、ママもパパも応援するから。美弥が時人さんのためにずっと頑張っていたのも分かっているつもりだし、親だからこそ子供に幸せになってほしいっていう気持ちもあるのよ」
「うん……、ありがとう」
時人の前で子供扱いをする母親を、少し嫌だなと思ったり時人との仲を疑う事があって申し訳なくも思うが、やはり沙夜は自分の母親だと思う。
「ママもね、ずっと長い間時人さんのお友達として生きてきて、時人さんには幸せになって欲しいと思うの。美弥を娘として大事に思うのと、同じぐらいに時人さんも大事なのよ」
「それは……、どういう感情なの? 友達?」
友達という単語を使うには、沙夜はもう四十一歳で時人の外見はまだ三十ぐらいに見える。
まだ子供の美弥には同年代同士での友達という概念しかなく、年の離れた大人同士の友情というものが分からない。
思春期ゆえの思い込みが酷い時は、時人と沙夜が不倫をしているのではないかと思ってしまった事もある。
「時人さん、美弥に年齢の事を言っているでしょう? 自分はおじさんだって」
「うん」
「美弥はまず、時人さんの色んな『不思議』を信じてあげなさい」
「…………」
「好きな人の言う事を信じて、この世界には色んな『不思議』がある事を受け入れたら、きっと美弥の世界は変わるとママは思うわ」
「不思議……」
自分は五十代だと言った時人。
もしあれが、冗談ではなく全て真実だったら。
何かに思い当たった表情をする美弥を見て、沙夜は学生時代の自分を思い出す。
「ママも美弥より少し大人だった時、時人さんの『不思議』を知ったの。勿論、初めは信じられないし自分が育ってきた常識を基準に考えていたわ。でも、自分で決めてしまった常識の中で生きる事ほど、つまらない事ってないんじゃない?」
「常識が……つまらない?」
目の前にいる母は、知らない顔を見せている気がした。
いつも美弥の目に映るのは、家で家事をして現実的な母の姿を維持していて、我慢強くてそれでも怒る時は少し厳しくて。
そんな『いつもの母親』が、夢みる少女のような顔をしている。
「ママにとって時人さんは、この世界の不思議の片鱗を教えてくれた恩人なの。ママといち伯母さんが側にいてあげないと、すぐに泣いてしまう泣き虫なお兄ちゃんでね、純粋で優しくて。お金持ちの家の人だから時々色々してくれたっていうご恩はあるけれど、ママといち伯母さんは、時人さんの事を家族みたいに思っていたから、ずっと大好きで側にいたくて、味方になってあげたいと思ったの」
沙夜が話すのは、美弥の知らない世界だった。
「その『不思議』って、なんなの?」
純粋な興味を示す美弥に、沙夜は人差し指を唇の前に立ててそっと笑ってみせる。
「それはママ達と時人さんの間での、親友としての秘密。でも、美弥が望んだらきっと話してくれるわ。だからその時まで美弥は時人さんを信じて待ちなさい」
「信じて……待つ」
「そう。今不安なのは分かるつもりだけれど、何かを信じるなら……美弥だったら、大好きな時人さんを信じるなら、きっと乗り越えられるでしょう?」
「……うん」
母の声は優しく美弥に響き、甘酸っぱいレモネードが火照った体と心をクールダウンしてくれる気がした。
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