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第六話・晩酌
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その晩。
晩餐を終えた二人は一階の応接室で晩酌をしていた。
二人が晩酌を、というよりも宗一郎が雅で晩酌をしていたと言った方が正しい。
雅は婚礼の時に使った色打掛を裸の上に羽織らされ、大理石のテーブルの上で少し膝を立てて仰向けに寝かされていた。
シャンデリアに照らされてまろく光る白い肌を大きな手が這う度に、ゾクゾクとした喜びが体を駆け巡る。
「しっかり脚を閉じておいで」
宗一郎の手が太腿を這い、思わず脚が震えそうになってしまうのを雅は必死になって堪える。
「真田、お代わりを」
「はい」
宗一郎が合図をすると、控えていた真田が恭しく硝子の徳利を手に取り、雅の体に注いだ。
揃った太腿の間を冷たい酒が伝って黒い茂みのある窪みに溜まり、雅の白い裸身が甘美な器となって夫を誘う。
息づく腹の上には蒔絵の箸が置かれ、白い乳房の間には酒の肴の蛸のぬたが盛り付けてあった。
「つめ……た、ぃ」
雅の背筋が震えて思わず声が漏れると、宗一郎が眉根を寄せて箸を手に取り、その箸先で雅の乳首を摘まんだ。
「ぁっ」
「また文句を言ったね」
容赦のない声が雅を責めるが、すっかり宗一郎が好きだと開き直ってしまった雅にとっては、彼に構って貰えるという取っ掛かりにしからならない。
「こら、嬉しそうな顔をするんじゃない」
呆れた宗一郎がぬたを口に運び、味わって嚥下してから雅の下腹に顔を近付けて、窪んだ場所から酒を啜った。
「美味しい?」
その肩に雅が手を掛けると、思いがけず拒絶されて手が払われた。
「あまり自分の立場を俺と公平と思わない事だ。君は飽く迄俺の妻。妻は夫から三歩引いた姿勢でいるものだ」
じろりと琥珀色の目が雅をねめつけるが、黒い大きな目はへこたれていない。
「そやかて好きなんやもん。触りたい」
はぁ、と宗一郎が大きな息を吐く。
「ほんっとうに君は図々しいな。俺は君の事なんか大嫌いだと言った筈だ」
「でも優しい」
宗一郎の表情がなくなり、彼は腰掛けていた上等な刺繍の施されたソファから立ち上がると、温度の低い目で雅を見下ろす。その大きな手が伸びて雅の顎を捉え、指先が頬に食い込んだ。
「いいか、俺は君なんて大嫌いだ。妻だからと言ってあまり舐めた態度を取っていれば昼間の様にまた使用人の前で犯してもいいし、折檻をしてもいい。もっと他のお仕置きをしてもいいし、初夜の時に脅した様に本当に針で君の肌に……そうだね、乳首にでも穴を開けて綺麗な宝石で飾りつけてもいい」
宗一郎に顎を掴まれて唇を突き出していた雅だったが、そこまで脅されてやっと彼女の表情に怯えの色が戻った。
それを確認して満足そうに鼻を鳴らした宗一郎が、「気分を害した。先に風呂に入る。真田は片付けておけ」と言葉を残して応接室を去って行った。
残されたのは股に酒を残し、胸元にぬたを乗せたままの雅と真田。
「……あの」
心細くなってそろりと真田を見上げれば、彼もどうしようかと考えあぐねている様な表情をしていた。
「宗一郎……怒ってもうたんどすやろか」
「分かりかねます。若奥様もいつまでもそのお姿でいらっしゃる訳にはいかないでしょう。お体を綺麗にして、宗一郎様の湯上りのお体でも拭いて差し上げればどうでしょう?」
初夜に股座を覗かれて真田には恥ずかしく気まずい思いしかなかったが、そう進言されて彼女は名案だと顔を輝かせると、無邪気に笑顔で「おおきに」と礼を言う。
「そうしたいんやけど……どないしたらええんどすやろ」
自分の体の現状に当惑して眉を寄せると、傍らに真田が跪いた。
「差し出がましいですが、胸元の物につきましては小鉢に戻すとしまして、お酒で大切な色打掛を汚してはなりません。僭越ながら宗一郎様のご用命も御座いましたし、私めが処理をしても宜しいでしょうか?」
「え? ……はい」
意味が分からず返事をすると、真田が両手で雅の腹と腿の裏を押さえ、顔を近付けると窪みに溜まっている酒を啜り始めた。
「えっ? やっ、真田さん!」
夫以外の人間に初めて触れられて雅の肌が粟立ち、逃れようとして体をくねらせるが大きな手が押さえつけてきて叶わない。
じゅっ ずずっ
「やめて! やめて下さい!」
片肘をついて上体を何とか起こし、片手で真田の体をぎゅうぎゅうと押すがびくともしない。上体を起こしたので胸元にあったぬたが少しずつ腹の方へずり落ちてゆく。
口で吸えるだけ吸った酒の名残を唇で吸引し、濡れた毛を唇でしごいて酒の残りを口に含むと、泣きそうになっているぐしゃぐしゃの顔がすぐ側にある。
「……成る程、宗一郎様が嗜虐的なお気持ちになられるのもよく分かります」
眼鏡の奥から熱を帯びた黒い目がじっと涙に潤んだ目を見詰め、その顔が傾いて雅の顔に重なろうとすると、雅がびっくりして顔を背ける。
真田が雅の細い顎に手を掛けて力を込めると、彼女は両手で唇を覆ってそれを拒絶した。
体はどれだけ辱められても、唇だけは一生好きな相手にしか許してはいけない。それだけが彼女の頭の中で最優先事項として点滅し、口元を両手で覆ったまま体をひねって真田を拒絶し続ける。
「……」
そんな雅の態度に真田は一つ息をつき、舌を出すと胸元から酢味噌の色をつけてずり落ちたぬたを口に含み、わざと雅の耳元で咀嚼音が聞こえる様に食べてみせた。
雅の耳元で真田の鼻息とクチャクチャとぬたを噛む音が聞こえ、涙が出そうになるほど気持ち悪い。
決して真田の見た目は悪くない。冷たそうで冷静そうな外見をしているが、きっと有能な男なのだろう。屋敷の中を移動している間に他の使用人から話しかけられている光景もちらほら目にし、頼られれているのだという事も察する。
それでもこうやって異性として肌に触れられるにしては、悪い冗談すぎる。
耳元でごくりと口の中のものを嚥下する音が聞こえた後、無礼な舌が胸元や腹を這い回る。
先ほどまで宗一郎の手が触れていて悦びを感じていた場所なのに、今はそれを汚されている気がした。
「処理が終わりました」
真田が身を起こしていつも通りの声音に戻ると、涙目になった雅が真田を睨みつけて体を起こす。
「今、お体を拭う物を持って参ります」
真田が慇懃に礼をして応接室を去って行った後、雅は色打掛の前を併せて体を隠し、テーブルの上で静かに泣いていた。
辱められた。
汚された。
大事な夫がいる身なのに、ここの使用人は何を考えているのだろう。
真田を待っている間、人の気配がして顔を上げてみれば、応接室の入り口の辺りに男の使用人がちらほらと顔を覗かせていた。
「見んといて!」
思わずきつい言葉が出てそれにびっくりした使用人が逃げてゆくと、その後姿を呆れた様に見送って真田が戻って来た。
「タオルを持って参りました。拭きますのでお立ち下さい」
「ええどす。一人で拭けます」
雅が細い腕を突き出すと、真田がふわふわのタオルを手渡した。
「入り口は私が守っております。若奥様はお体を綺麗にされて下さい」
そう言って真田が応接室の入り口へ向かうのを見てから、雅は彼に背中を向けてタオルで真田の舌が這った体を拭う。
「……このお屋敷の方は主人の妻に手を出しはるんどすか」
「使用人の前であんな痴態を晒しておきながらよく仰る」
皮肉を言ったつもりが、サラリと言い返されて雅の顔が赤くなる。
「わ、私は仮にもこのお屋敷の次の女主人になります」
「その割には威厳がない」
「主人のものに手を出しはるなんて」
「あれだけ変態の様な格好をして、人の前で折檻され、犯されて感じて失神し、あんな張り型を咥え込んでおいてよく仰る」
とうとう言い返せなくなり、雅は真っ赤になると体を拭き終わったタオルをテーブルの上に置き、色打掛の前を併せたまま足早に真田の横を通り過ぎて応接室を出て行った。
彼女の後姿を真田が熱っぽい目で見ているのを、勿論雅は知るよしもない。
晩餐を終えた二人は一階の応接室で晩酌をしていた。
二人が晩酌を、というよりも宗一郎が雅で晩酌をしていたと言った方が正しい。
雅は婚礼の時に使った色打掛を裸の上に羽織らされ、大理石のテーブルの上で少し膝を立てて仰向けに寝かされていた。
シャンデリアに照らされてまろく光る白い肌を大きな手が這う度に、ゾクゾクとした喜びが体を駆け巡る。
「しっかり脚を閉じておいで」
宗一郎の手が太腿を這い、思わず脚が震えそうになってしまうのを雅は必死になって堪える。
「真田、お代わりを」
「はい」
宗一郎が合図をすると、控えていた真田が恭しく硝子の徳利を手に取り、雅の体に注いだ。
揃った太腿の間を冷たい酒が伝って黒い茂みのある窪みに溜まり、雅の白い裸身が甘美な器となって夫を誘う。
息づく腹の上には蒔絵の箸が置かれ、白い乳房の間には酒の肴の蛸のぬたが盛り付けてあった。
「つめ……た、ぃ」
雅の背筋が震えて思わず声が漏れると、宗一郎が眉根を寄せて箸を手に取り、その箸先で雅の乳首を摘まんだ。
「ぁっ」
「また文句を言ったね」
容赦のない声が雅を責めるが、すっかり宗一郎が好きだと開き直ってしまった雅にとっては、彼に構って貰えるという取っ掛かりにしからならない。
「こら、嬉しそうな顔をするんじゃない」
呆れた宗一郎がぬたを口に運び、味わって嚥下してから雅の下腹に顔を近付けて、窪んだ場所から酒を啜った。
「美味しい?」
その肩に雅が手を掛けると、思いがけず拒絶されて手が払われた。
「あまり自分の立場を俺と公平と思わない事だ。君は飽く迄俺の妻。妻は夫から三歩引いた姿勢でいるものだ」
じろりと琥珀色の目が雅をねめつけるが、黒い大きな目はへこたれていない。
「そやかて好きなんやもん。触りたい」
はぁ、と宗一郎が大きな息を吐く。
「ほんっとうに君は図々しいな。俺は君の事なんか大嫌いだと言った筈だ」
「でも優しい」
宗一郎の表情がなくなり、彼は腰掛けていた上等な刺繍の施されたソファから立ち上がると、温度の低い目で雅を見下ろす。その大きな手が伸びて雅の顎を捉え、指先が頬に食い込んだ。
「いいか、俺は君なんて大嫌いだ。妻だからと言ってあまり舐めた態度を取っていれば昼間の様にまた使用人の前で犯してもいいし、折檻をしてもいい。もっと他のお仕置きをしてもいいし、初夜の時に脅した様に本当に針で君の肌に……そうだね、乳首にでも穴を開けて綺麗な宝石で飾りつけてもいい」
宗一郎に顎を掴まれて唇を突き出していた雅だったが、そこまで脅されてやっと彼女の表情に怯えの色が戻った。
それを確認して満足そうに鼻を鳴らした宗一郎が、「気分を害した。先に風呂に入る。真田は片付けておけ」と言葉を残して応接室を去って行った。
残されたのは股に酒を残し、胸元にぬたを乗せたままの雅と真田。
「……あの」
心細くなってそろりと真田を見上げれば、彼もどうしようかと考えあぐねている様な表情をしていた。
「宗一郎……怒ってもうたんどすやろか」
「分かりかねます。若奥様もいつまでもそのお姿でいらっしゃる訳にはいかないでしょう。お体を綺麗にして、宗一郎様の湯上りのお体でも拭いて差し上げればどうでしょう?」
初夜に股座を覗かれて真田には恥ずかしく気まずい思いしかなかったが、そう進言されて彼女は名案だと顔を輝かせると、無邪気に笑顔で「おおきに」と礼を言う。
「そうしたいんやけど……どないしたらええんどすやろ」
自分の体の現状に当惑して眉を寄せると、傍らに真田が跪いた。
「差し出がましいですが、胸元の物につきましては小鉢に戻すとしまして、お酒で大切な色打掛を汚してはなりません。僭越ながら宗一郎様のご用命も御座いましたし、私めが処理をしても宜しいでしょうか?」
「え? ……はい」
意味が分からず返事をすると、真田が両手で雅の腹と腿の裏を押さえ、顔を近付けると窪みに溜まっている酒を啜り始めた。
「えっ? やっ、真田さん!」
夫以外の人間に初めて触れられて雅の肌が粟立ち、逃れようとして体をくねらせるが大きな手が押さえつけてきて叶わない。
じゅっ ずずっ
「やめて! やめて下さい!」
片肘をついて上体を何とか起こし、片手で真田の体をぎゅうぎゅうと押すがびくともしない。上体を起こしたので胸元にあったぬたが少しずつ腹の方へずり落ちてゆく。
口で吸えるだけ吸った酒の名残を唇で吸引し、濡れた毛を唇でしごいて酒の残りを口に含むと、泣きそうになっているぐしゃぐしゃの顔がすぐ側にある。
「……成る程、宗一郎様が嗜虐的なお気持ちになられるのもよく分かります」
眼鏡の奥から熱を帯びた黒い目がじっと涙に潤んだ目を見詰め、その顔が傾いて雅の顔に重なろうとすると、雅がびっくりして顔を背ける。
真田が雅の細い顎に手を掛けて力を込めると、彼女は両手で唇を覆ってそれを拒絶した。
体はどれだけ辱められても、唇だけは一生好きな相手にしか許してはいけない。それだけが彼女の頭の中で最優先事項として点滅し、口元を両手で覆ったまま体をひねって真田を拒絶し続ける。
「……」
そんな雅の態度に真田は一つ息をつき、舌を出すと胸元から酢味噌の色をつけてずり落ちたぬたを口に含み、わざと雅の耳元で咀嚼音が聞こえる様に食べてみせた。
雅の耳元で真田の鼻息とクチャクチャとぬたを噛む音が聞こえ、涙が出そうになるほど気持ち悪い。
決して真田の見た目は悪くない。冷たそうで冷静そうな外見をしているが、きっと有能な男なのだろう。屋敷の中を移動している間に他の使用人から話しかけられている光景もちらほら目にし、頼られれているのだという事も察する。
それでもこうやって異性として肌に触れられるにしては、悪い冗談すぎる。
耳元でごくりと口の中のものを嚥下する音が聞こえた後、無礼な舌が胸元や腹を這い回る。
先ほどまで宗一郎の手が触れていて悦びを感じていた場所なのに、今はそれを汚されている気がした。
「処理が終わりました」
真田が身を起こしていつも通りの声音に戻ると、涙目になった雅が真田を睨みつけて体を起こす。
「今、お体を拭う物を持って参ります」
真田が慇懃に礼をして応接室を去って行った後、雅は色打掛の前を併せて体を隠し、テーブルの上で静かに泣いていた。
辱められた。
汚された。
大事な夫がいる身なのに、ここの使用人は何を考えているのだろう。
真田を待っている間、人の気配がして顔を上げてみれば、応接室の入り口の辺りに男の使用人がちらほらと顔を覗かせていた。
「見んといて!」
思わずきつい言葉が出てそれにびっくりした使用人が逃げてゆくと、その後姿を呆れた様に見送って真田が戻って来た。
「タオルを持って参りました。拭きますのでお立ち下さい」
「ええどす。一人で拭けます」
雅が細い腕を突き出すと、真田がふわふわのタオルを手渡した。
「入り口は私が守っております。若奥様はお体を綺麗にされて下さい」
そう言って真田が応接室の入り口へ向かうのを見てから、雅は彼に背中を向けてタオルで真田の舌が這った体を拭う。
「……このお屋敷の方は主人の妻に手を出しはるんどすか」
「使用人の前であんな痴態を晒しておきながらよく仰る」
皮肉を言ったつもりが、サラリと言い返されて雅の顔が赤くなる。
「わ、私は仮にもこのお屋敷の次の女主人になります」
「その割には威厳がない」
「主人のものに手を出しはるなんて」
「あれだけ変態の様な格好をして、人の前で折檻され、犯されて感じて失神し、あんな張り型を咥え込んでおいてよく仰る」
とうとう言い返せなくなり、雅は真っ赤になると体を拭き終わったタオルをテーブルの上に置き、色打掛の前を併せたまま足早に真田の横を通り過ぎて応接室を出て行った。
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