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第五話・ご褒美③
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パタン、と宗一郎の部屋のドアが閉まると、その内側で雅が膝から崩れ落ちて両手を床につく。張り型は無事膣に入ったままだった。
「よく持ったね。もっと濡らしておけば良かった」
「い」
「いけず」と呟きかけて口がとまり、俯いているので咳払いで誤魔化した。
「褒美にバナナはちゃんと食べさせてあげるし、いい物をあげるから服を脱いで」
そう言って宗一郎は机の方へ行ってしまう。
これからバナナを食べるのに裸になるのかと思うが、ここでまた歯向かったらバナナを食べさせてもらえないかもしれない。しょんぼりとしながら雅がメイド服の白いエプロンを外し、その下の黒いワンピースの胸元のボタンを外し始める。
ホワイトブリムとかいう頭の飾りと、腰部分から靴下を吊るすレースの他は踵が少し高いボタンブーツという格好になり、雅がベッドの上に脱いだワンピースを広げて畳み始めていると、背後に宗一郎が立って雅の目の前に繊細な作りのレースのリボンをひらりとかざした。
「わぁ……きれい」
「西洋のハンドメイドだよ」
暫く雅は目の前のアイボリーの美しい幅広のレースに見惚れていたが、宗一郎が彼女の前に回り込んで量の多い黒髪を肩から後ろに流し、そのリボンを雅の首に緩く巻き付けて蝶結びにするときょとんとした顔になる。
「……髪飾りやないの?」
「君に髪を結ったり、括る権利はない」
だが返って来たのは突き放した答えだった。
贈り物をされて浮き足立っていたものの、その言葉にまたがっくりとしてしまう。
「……私の事、好きやから贈り物してくれはるんやないの?」
「君の事なんて大嫌いだよ」
気持ちを確かめても返って来るのはそっけない返事。
その時、部屋のドアがノックされて雅が飛び上がり、裸以上に恥ずかしい姿なので慌てて宗一郎の陰に隠れた。
「入れ」
宗一郎が短く許可の言葉を伝えると、静かにドアが開いて執事の真田が入って来る。その手には銀盆があり、白い皿の上にはバナナが乗っていた。
「あっ、バナナ」
宗一郎の背中に隠れたままの雅が顔だけ覗かせて小さく声を上げ、宗一郎が眉を上げて笑う。その顔は優し気なものだったが、雅には見えていない。
「真田、テーブルに置いて」
宗一郎の言葉に真田が会釈をすると、豪華なソファセットの間にある艶のある木製のテーブルの上に、小さな音を立ててバナナの乗った皿が置かれた。それを雅が嬉しそうに眺めてにまにましていると、宗一郎がくるりと体の向きを変えて雅に向き直り、トンッと軽く突き飛ばすと雅がベッドの上に尻餅をつけてしまう。
「えっ?」
「真田、雅がこれからデザートを食べるから、膣に入っている物を抜いてあげて」
「かしこまりました」
「えぇっ?」
反射的に雅が脚を閉じるが、宗一郎がベッドに乗り上げて雅の後ろに回り、彼女の膝を抱え上げて真田に向けて丸出しにしてしまった。
「やぁっ!」
「雅」
が、後ろから宗一郎が強い口調でたしなめ、秘部を隠そうとしていた両手の動きを止める。その顔は真っ赤になって、またも涙が浮かんでいた。
「真田」
「はい」
黒い執事服を着た真田が雅の前に膝をつき、眼鏡の奥から冷たい目をじっと彼女に合わせる。
「み……見んといて下さい」
声が震えてしまう。
その小さな顔は赤く震え、白い靴下に包まれた細い脚もプルプルと震えている。決して慣れた訳ではないが、宗一郎に肌を見られるのなら兎も角、それ以外の人間にはやはり強い抵抗があった。
「真田、雅がまだ口答えをする元気があるみたいだから、少し戒めてやれ」
耳元で冷たい声がしてまた真田が「はい」と温度のない機械的な返事をすると、真田が手袋を外し、骨ばった大きな手が遠慮なく雅の股間に伸びると、指先を立てるようにしてはみ出ている張り型を掴んで前後させ始める。
ずぶずぶと膣壁をこすられて雅の中がぎゅっと締まり、声を出しそうになってしまうが唇が切れてしまうほどに強く白い前歯で下唇を噛み締めた。
夫以外の人間に体を弄られて声を出してなるものか。
その一心で雅は体を襲う甘い痺れに立ち向かう。大きな黒い目も、キッと真田を睨み付けたままだ。その視線を真田は受け止め、彼も眼鏡の奥から冷静な目を雅に向けてくる。
宗一郎の陰茎を模した張り型の先端がごりごりと奥を突いて来て、本来なら夫に愛される代理行為として雅は喜ぶべきなのだろうが、その張り型を動かしているのは執事だ。真っ赤な顔で唇を噛み締めて声を出さない雅に、宗一郎は詰まらなさそうに彼女の耳元で息をつき、真田に声をかける。
「真田、もういい。抜いてやれ」
「はい」
ずる……と真田が雅の膣から硝子の張り型を抜くと、それは少し白っぽい愛液にまみれて温まっていた。
「真田、特別に雅を味わってもいい」
宗一郎の声に雅が思わず「えっ」と声を出し、目の前の真田をまじまじと見ていると、彼は手にしている張り型と目の前の開かれた雅の脚の奥をちらりと見て迷ってから、張り型に着いた愛液を長い指先ですくい取り口に含む。
「いやぁ……」
雅が小さく悲鳴をあげ、宗一郎が満足そうに「よく味わえ」と言って後ろから雅の白い乳房を弄ぶ。
しょっぱくてぬるぬるした愛液を口に含んだ真田は、暫く味わう様に口と舌を動かしていたが、やがて小さく喉を鳴らして嚥下してから「美味しゅう御座いました」と膝をついたまま慇懃に頭を下げた。
雅は居た堪れなくなり俯いてしまう。
「さて、雅。約束だからバナナを食べようか。真田、張り型は机の上にでも置いて」
「……はい」
それでも宗一郎が約束を守ってくれるので安心し、少し力の入らない細い脚に力を入れてゆっくりと立ち上がる。だが服を着ていないので肌の感覚が頼りない。
「あの……」
恐る恐る宗一郎を見ても、先に豪奢なソファに座ってこちらを見ているだけだ。
何も言ってくれない。
しょんぼりとして胸元と黒い茂みを手で隠して小さな歩幅で宗一郎の向かいに座ると、宗一郎がシルバーのフォークとナイフを使ってバナナを器用に食べ始める。
「……どうしたんだい? 美味しいよ」
「……はい」
言われて雅が宗一郎に倣ってぎこちなくバナナをフォークに刺して食べると、それまで不満と不安、羞恥で曇っていた表情がパァッと明るくなった。
「冷たくて美味しい! それに……甘くて美味しいなぁ……」
もくもくと口を動かして口の中で冷えたバナナを味わい、単純にもにっこりとしてしまう。
「冷蔵庫で冷やしておいたからね」
「お気遣いおおきに」
バナナが美味しいのと、宗一郎の気遣いが嬉しくてにこにこしながら礼を言うと、また冷たい声が返って来る。
「別に君の為じゃない。俺が美味い物を食べたかっただけだ」
「美味しいなぁ」
「君は馬鹿かい? 冷たくされているのにそんなに嬉しそうにして」
「そやかてバナナが美味しいし、宗一郎が優しゅうしてくれはって嬉しいんやもん」
「優しくしてない。君の事なんか大嫌いだ」
「……」
優しい癖に。
と、めげずに雅は内心付け加え、バナナの最後の一口を食べた。
「美味しかった?」
「はい!」
「なら、特別にもう一本食べる?」
「え?」
ちら、と目を走らせればテーブルの上にはもう一枚皿があって、切れ目の入っていない皮ごとのバナナが二本ある。
「ええの?」
「いいよ。ただ、俺が食べさせてあげる」
その『食べさせる』という言葉に夫婦らしい仲のよさが窺えて、雅は嬉しくなって自分が裸でいる事も忘れ、思わず弾んだ声で「はい!」と笑顔で返事をした。
「おや、いい返事だね。真田は下がっていい」
「かしこまりました」
宗一郎の声に真田が折り目正しく礼をし、「失礼致します」と挨拶をしてから退室していった。
「みや、ベッドで食べさせてあげる」
「はい」
宗一郎が自分の事を人前では『雅』と呼んで、二人きりの時やそれっぽい雰囲気になっている時は『みや』と呼んでくれるのが、堪らなく嬉しい。胸に甘くて温かい感覚を覚えながら、雅は素直にベッドの上に正座をする。
「目を閉じて口を開けて」
「はい」
嬉しそうに目を閉じた雅を、宗一郎はじっと見詰めた。
西洋人形の様に長い睫毛、桃色の唇が誘う様に小さく広げられている。滑らかな白い肌に、飾り物の様な綺麗な桜色の乳首。繊細な指先は太腿の付け根で揃えられて黒い茂みを隠している。白いレースと薄い布に包まれた太腿は、太腿と呼ぶには細いが魅惑的だ。
全体的に肉感的で官能的な体とは言えないかもしれない。それでも自分がどう飾り付けるかで、どれだけでも妖艶にはなる。
嬉しそうに口を小さく開けてバナナを食べさせられるのを待っている邪気のない顔を見て思う。
こんな清純な表情をしていられない程に恥辱に染め上げて、いつかそれが当たり前と思い込んでしまう淫乱な妻に育て上げてみせる。それが彼女に対する復讐だ。
「まだ?」
宗一郎の胸中を何も知らないでわくわくとした様子を隠そうとせずに雅が問い、着物の裾が乱れるのも気にしない宗一郎がベッドの上に胡坐をかいて手の中のバナナの茎部分をぱきりと折る。皮を剥いてしまって白くて甘い実が現れると、カーブしたその果実の先端を雅の唇に押し当てた。
「ん」
ひやりとして甘い果実が唇に当たり、雅が嬉しそうに喉で甘えて口を開いてバナナを受け入れる。前歯に少し力を入れると、柔らかな果実は簡単に舌の上に転がる。
「美味しい?」
もくもくと口を動かす雅に訊ねると、ごくりと口の中の物を嚥下してから雅が「はい」とにっこり微笑んだ。
「俺にも食べさせて」
「はい!」
まさか宗一郎の方からそんな甘えた事を言ってくれるとは思っておらず、雅はすっかり有頂天になってにこにこし、宗一郎から手渡された皮付きのバナナを華奢な手で剥いてゆく。
「ただし、手ではない所で」
「え?」
口移しだろうか?
そう思って皮を剥いてしまったバナナを口に運ぼうとすると、「違う」と鋭い声が飛んだ。
「自分で下の口に入れてご覧。そしたら残りを食べさせてあげる」
「……」
正座をしたままの雅が俯いてレースに包まれた自分の太腿に目線を落とす。だが、夫はそんな妻を緩さない。
「返事は」
「……はい」
そう返事をするしか雅に選択肢はなかった。
「仰向けになって」
白いシーツの上に背中をつけ、仰向けになりながら雅が訊ねる。
「宗一郎の言うことを聞く素直な奥さんになったら、好きなってくれる?」
「さあね」
返って来るのはやはり冷たい返事。
だが、「さあね」という事は未来はまだ分からないという事だ。
その言葉に少しの希望を見た雅は、恥ずかしいが夫の言葉に従っていればそのうち彼が自分を好きになってくれるかもしれないと思い、なるべく恥ずかしい注文にも従順になろうかと思い始める。
恥ずかしい。
恥ずかしいけれども、宗一郎に好きになって貰いたいし、バナナを食べさせて貰いたい。
そう理由づけて恥ずかしいのを我慢し、白い脚を開くと少し躊躇ってから皮を剥いたバナナを股間に近づける。
「……食べ物でこないな事して、罰当たらんやろか」
「俺が許可するよ。見てるから入れて」
「……」
観念して震える手で持ったバナナの先をぷっくりと膨らんだ肉につけてみると、ひやりと冷たい。
それでも好きになって貰わないと。
幸い今なら宗一郎以外の人間はいない。意を決すると雅は恐る恐るバナナを花びらに押し当て、先ほどの張り型でまだぬるぬるしているそこで入れる孔を探し当ててから、ゆっくりと蜜壷にバナナを埋めていった。
「ひっ……」
冷たい。
思わず手を止めると、雅の細い手首を宗一郎が掴んで前後させる。
「君はまだ咥え込められる筈だよ。奥まで入れたら君に食べさせてあげるから」
「……口移しにしてくれる?」
涙目になって甘えると、宗一郎が呆れた声を出す。
「何だか君は図々しくなってきたね。そんなに俺が好きなの?」
「すき」
迷いのない真っ直ぐな声に宗一郎は少し閉口し、何か言い返す言葉を口にする間、戸惑いを誤魔化す様にバナナを前後させていた。
「なぁ、ほんまに好きやの。私になら何したってええさかい、私のこと好きになって」
「……君なんて大嫌いだ」
ぐっとバナナを最奥まで押し込むと、宗一郎は大きな溜息をつく。
雅の手からバナナを受け取り、それを一口くちに含んで軽く歯を立てる。仰向けになっている雅に唇を併せると、口の中で柔らかくなったバナナを送り込んだ。
「んむ……」
宗一郎の唾液にまみれて生温かくなったバナナが口の中に送り込まれる。正直不快感もあったが、彼が食べさせてくれているという事の方が雅にとっては重要だ。思わず両手を宗一郎の首に回して引き寄せると、彼の唇を貪る。
一方宗一郎は雅の変わり身に戸惑うしかない。
彼女の事が嫌いで酷い事をして、泣かせて従わせるつもりだったのに、自分を嫌うどころかますます好きだと言って懐いてくる逞しさに内心驚いていもいたのだ。
積極的に雅が宗一郎の唇を舐めて、ついばんでくる。
「宗一郎の唇、甘い」
唇が離れると下から雅の大きな目がくりくりと見詰めて来、嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔に宗一郎は苛ついた。
「君は自分の立場が分かっていないみたいだね」
残ったバナナをぐぽっと雅の小さな口の中に突っ込むと、乱暴に奥まで詰め込む。
「んぇっ、おえぇっ」
雅が涙目になって苦しがるが、琥珀色の目元を厳しくした宗一郎は冷たい声で「食べるんだ」と氷の様な声を出す。
一生懸命に口を動かして口の中に詰められたバナナをもぐもぐと噛み、目と鼻からは透明な物が光っている。
苦しい。
それでも大きな黒い目はじっと宗一郎を見上げたまま、股間に異物を生やした彼女は懸命に口の中の冷えたバナナを処理する為に顎を動かした。
目尻から透明な涙が落ちて耳を濡らした頃、口で一生懸命呼吸を整えながら、バナナを完食した雅は期待に満ちた目で宗一郎を見詰める。
「ちゃんとバナナ食べたえ。褒めて」
転ばせてもただで起きないというその姿勢がまた宗一郎を苛つかせる。
「ふぅん……じゃあ俺の事もちゃんと悦ばせられる?」
宗一郎の試す様な言い方に雅が大きな目を瞬かせると、夫が着物の角帯を解いてあわせを寛がせてしまい、雅の目の前に凶暴な肉棒が晒された。
「……」
決まりが悪くなって思わず目を逸らすと、厳しい声がそれを許してくれない。
「みや、ちゃんと見て。それから夫を悦ばせるのは妻の役目だよ」
しなやかな裸身を猫の様にくねらせてそっと起き上がると、じっと肉色の槍を見詰める。
「……舐めるの?」
「そう。手でしごいたり丁寧にしゃぶったりしてご覧」
言われておずおずと逞しい竿に手をかけるが、雅の柔らかな掌の中でガチガチに硬くなっているそれをどうすればいいのか分からず、言われた通りにそっと上下にさすってみた。
「もっと力を入れて。君の膣に入れて気持ちいいという事を前提にして考えてご覧。どういう状況になったら俺は感じると思う?」
宗一郎の質問に雅は頬を赤らめながら少し考え、もごもごと答え始める。
「締められて……ぬるぬる、して、る?」
「正解。ならそれを想像してから自分の手と口で実践してみてご覧」
宗一郎がごろりと仰向けに寝転がるので、雅はその開かれた筋肉質な脚に手を掛けるが、宗一郎に「俺の顔を跨いで」と命令されて恥ずかしがりながらバナナを生やした股を、「失礼します」と断ってから宗一郎の顔を跨がせた。
「おや、みやはいつの間に男になったんだい? 股間からそんなに反り返った立派なものを生やして」
むぐ、と奥歯を噛み締めた頬がむちむちと熱を持つ。
そんな意地悪な言い方をしなくてもいいのに。と思いながら、この九条西家へやって来て宗一郎がそういう意地悪をする人だと知ってしまった。
「宗一郎、食べて」
くい、と四つん這いになった腰を下げると宗一郎が嗤う。
「君も一日でとんだ淫乱になり下がったね。このままだと嫁入りしてどれだけで俺の気が済むのかな」
目の前にぶら下がるバナナの先に一口噛み付き、小さく顎を動かしていると彼の言葉に動揺した雅が肩越しに宗一郎を振り向く。
「そっ……宗一郎の気が済んでもうたら、私、お払い箱やの?」
「……」
暫く宗一郎が沈黙している。
「あのっ……あの、捨てんといて! お願いします!」
雅が宗一郎に向き直り、股にバナナが入っているので土下座は出来ないので四つん這いのまま頭を下げるのを、宗一郎は呆れた表情で見遣る。
「君は馬鹿かい? 夫が妻を手放す訳がないだろう。それに侯爵家の俺の家が君と離縁しただなんてスキャンダルが流れたら面倒な事になる。君の事は容姿も性格もそれなりに気に入っているし、君のお父上を助けた事への恩義については君の身を差し出す事で決着がついてる。だからそういう意味で君は心配しないでいいよ」
「はい……」
安心はするものの、宗一郎の言い方ではそれはまるで彼は本当に自分には興味がなく、形だけの夫婦だけと思っている様に聞こえた。
「……ほんまに……私のこと……嫌いやの?」
「……ああ、嫌いだよ」
「……私の事は容姿と性格がそれなりにええさかい、ここに置いとくの?」
「……さらりと今自画自賛したね。君も結構図々しい。続きは?」
言葉で催促され、雅がまたおずおずと「失礼します」と宗一郎の顔を跨いでから彼の肉棒をそっと手にする。
「腰を下ろしてちゃんと俺にバナナを食べさせて」
「はい」
大きな手が雅の丸くて白い尻をさわさわと撫で回し、長靴下を穿いた太腿も撫で回す。その手が彼女にとっては優しく感じて、それでも先ほど言われた事が意外にもショックで鼻の奥がつんとしてくる。
「ふぇぇ……」
ついには大粒の涙が頬を伝い、しゃくり上げながら雅は宗一郎の肉棒を舐め始める。先端から滲み出ていた液が苦くて嘔吐きそうになるが、それでも彼のものなら何だって愛しい。
「……何を泣いているんだ」
また一口バナナを咀嚼して飲み込んだ宗一郎が呆れた声を出すが、雅は子供の様に泣きじゃくりながら手で竿をしごき、亀頭を口に含む。
「なんれもおふぇん」
涙に曇った声で雅が返事をすると、彼女の意地を張っている様子にムッとした宗一郎がバナナの残りを咥えて一気に膣からズルンッと抜いてしまう。
「あんっ」
体をゾクッとした感覚が貫いて、悲しいのに感じてしまう。
スン、と鼻を鳴らしてまた口淫の続きを始めると、宗一郎が呆れた声を出す。
「泣きながらするぐらいならしなくていい」
その言葉が雅を拒絶している様に聞こえ、悲しくなり彼女はむきになって宗一郎の腰にしがみつき、肉棒に顔をすりつける。
「いやや、出来るもん」
「しゃくり上げながら言うんじゃない。君の嫌がる事をさせたり、淫らによがる姿を求めているのは俺だが、泣いている所を無理にさせるのは趣味じゃない」
ほら、こんなに優しい。
その優しさが逆に雅の涙腺をぼろぼろにしてしまう。
大粒の涙が宗一郎の股を濡らし、必死になって宗一郎の腰にしがみついている雅が彼の筋肉質な太腿に唇をつける。
その献身的な姿に宗一郎は大きな溜息をつき、ゆっくりと上体を起こすと雅の細い体を退かせる。
「えっ? ……あの」
ぐすぐすと鼻を啜っている雅が戸惑ってベッドの上に座り込むと、ヘッドボードにもたれかかって窓の外を見ている宗一郎を黒い目でじっと見詰める。
「あの、何でもしますさかい……嫌わんといて」
「おかしな事を言うね。俺は君の事なんて嫌いだと明言した筈なのに」
そう突き放した言い方をしているのに、その手は雅の頬を流れている涙を優しく拭っている。
「……優しくしんといて。嫌うならとことん嫌ってくれはった方が……ううん、優しくして」
べそべそと泣く雅の涙が頬を伝い、細い顎を滴って膨らんだ白い胸元に落ちて、また下へ伝って流れてゆく。腰のレースに差し掛かったあたりで、涙の雫は肌に馴染んでしまった。
「……君の言っている事は支離滅裂だね。どうやら混乱している様だ。昼食を食べて満腹になったのなら、ここで少し寝ればいい」
そのまま宗一郎は雅が寝るベッドのスペースを空けて自分はヘッドボードに寄りかかったまま、腕を組んで目を閉じる。
暫く雅はベッドの上にレースに包まれた裸体を正座させていたが、夫が昼寝をするという姿勢をとったので自分も彼の隣にちょこんと座り、上等な羽根布団を手繰り寄せて着物の前を肌蹴させている宗一郎が風邪を引かないように布団をかけてやる。
じっと整った横顔を見詰めても、彼は目を開けようとしない。
「……好き」
ぽつりと呟いてみても彼は何の反応もみせない。
眉を寄せて唇を尖らせてから、顔を近付けて宗一郎の耳元でもう一度「大好き」と囁き、頬にキスをする。
それでも何の反応も返って来なかった。
「……いけず」
そんな所が憎たらしいぐらいに愛しい。
シーツの上に置かれてある大きな手にそっと手を重ね、身を寄せると雅もそっと目蓋を伏せる。
その時になって宗一郎が薄く目を開いたのには、彼女は気付いていなかった。
「よく持ったね。もっと濡らしておけば良かった」
「い」
「いけず」と呟きかけて口がとまり、俯いているので咳払いで誤魔化した。
「褒美にバナナはちゃんと食べさせてあげるし、いい物をあげるから服を脱いで」
そう言って宗一郎は机の方へ行ってしまう。
これからバナナを食べるのに裸になるのかと思うが、ここでまた歯向かったらバナナを食べさせてもらえないかもしれない。しょんぼりとしながら雅がメイド服の白いエプロンを外し、その下の黒いワンピースの胸元のボタンを外し始める。
ホワイトブリムとかいう頭の飾りと、腰部分から靴下を吊るすレースの他は踵が少し高いボタンブーツという格好になり、雅がベッドの上に脱いだワンピースを広げて畳み始めていると、背後に宗一郎が立って雅の目の前に繊細な作りのレースのリボンをひらりとかざした。
「わぁ……きれい」
「西洋のハンドメイドだよ」
暫く雅は目の前のアイボリーの美しい幅広のレースに見惚れていたが、宗一郎が彼女の前に回り込んで量の多い黒髪を肩から後ろに流し、そのリボンを雅の首に緩く巻き付けて蝶結びにするときょとんとした顔になる。
「……髪飾りやないの?」
「君に髪を結ったり、括る権利はない」
だが返って来たのは突き放した答えだった。
贈り物をされて浮き足立っていたものの、その言葉にまたがっくりとしてしまう。
「……私の事、好きやから贈り物してくれはるんやないの?」
「君の事なんて大嫌いだよ」
気持ちを確かめても返って来るのはそっけない返事。
その時、部屋のドアがノックされて雅が飛び上がり、裸以上に恥ずかしい姿なので慌てて宗一郎の陰に隠れた。
「入れ」
宗一郎が短く許可の言葉を伝えると、静かにドアが開いて執事の真田が入って来る。その手には銀盆があり、白い皿の上にはバナナが乗っていた。
「あっ、バナナ」
宗一郎の背中に隠れたままの雅が顔だけ覗かせて小さく声を上げ、宗一郎が眉を上げて笑う。その顔は優し気なものだったが、雅には見えていない。
「真田、テーブルに置いて」
宗一郎の言葉に真田が会釈をすると、豪華なソファセットの間にある艶のある木製のテーブルの上に、小さな音を立ててバナナの乗った皿が置かれた。それを雅が嬉しそうに眺めてにまにましていると、宗一郎がくるりと体の向きを変えて雅に向き直り、トンッと軽く突き飛ばすと雅がベッドの上に尻餅をつけてしまう。
「えっ?」
「真田、雅がこれからデザートを食べるから、膣に入っている物を抜いてあげて」
「かしこまりました」
「えぇっ?」
反射的に雅が脚を閉じるが、宗一郎がベッドに乗り上げて雅の後ろに回り、彼女の膝を抱え上げて真田に向けて丸出しにしてしまった。
「やぁっ!」
「雅」
が、後ろから宗一郎が強い口調でたしなめ、秘部を隠そうとしていた両手の動きを止める。その顔は真っ赤になって、またも涙が浮かんでいた。
「真田」
「はい」
黒い執事服を着た真田が雅の前に膝をつき、眼鏡の奥から冷たい目をじっと彼女に合わせる。
「み……見んといて下さい」
声が震えてしまう。
その小さな顔は赤く震え、白い靴下に包まれた細い脚もプルプルと震えている。決して慣れた訳ではないが、宗一郎に肌を見られるのなら兎も角、それ以外の人間にはやはり強い抵抗があった。
「真田、雅がまだ口答えをする元気があるみたいだから、少し戒めてやれ」
耳元で冷たい声がしてまた真田が「はい」と温度のない機械的な返事をすると、真田が手袋を外し、骨ばった大きな手が遠慮なく雅の股間に伸びると、指先を立てるようにしてはみ出ている張り型を掴んで前後させ始める。
ずぶずぶと膣壁をこすられて雅の中がぎゅっと締まり、声を出しそうになってしまうが唇が切れてしまうほどに強く白い前歯で下唇を噛み締めた。
夫以外の人間に体を弄られて声を出してなるものか。
その一心で雅は体を襲う甘い痺れに立ち向かう。大きな黒い目も、キッと真田を睨み付けたままだ。その視線を真田は受け止め、彼も眼鏡の奥から冷静な目を雅に向けてくる。
宗一郎の陰茎を模した張り型の先端がごりごりと奥を突いて来て、本来なら夫に愛される代理行為として雅は喜ぶべきなのだろうが、その張り型を動かしているのは執事だ。真っ赤な顔で唇を噛み締めて声を出さない雅に、宗一郎は詰まらなさそうに彼女の耳元で息をつき、真田に声をかける。
「真田、もういい。抜いてやれ」
「はい」
ずる……と真田が雅の膣から硝子の張り型を抜くと、それは少し白っぽい愛液にまみれて温まっていた。
「真田、特別に雅を味わってもいい」
宗一郎の声に雅が思わず「えっ」と声を出し、目の前の真田をまじまじと見ていると、彼は手にしている張り型と目の前の開かれた雅の脚の奥をちらりと見て迷ってから、張り型に着いた愛液を長い指先ですくい取り口に含む。
「いやぁ……」
雅が小さく悲鳴をあげ、宗一郎が満足そうに「よく味わえ」と言って後ろから雅の白い乳房を弄ぶ。
しょっぱくてぬるぬるした愛液を口に含んだ真田は、暫く味わう様に口と舌を動かしていたが、やがて小さく喉を鳴らして嚥下してから「美味しゅう御座いました」と膝をついたまま慇懃に頭を下げた。
雅は居た堪れなくなり俯いてしまう。
「さて、雅。約束だからバナナを食べようか。真田、張り型は机の上にでも置いて」
「……はい」
それでも宗一郎が約束を守ってくれるので安心し、少し力の入らない細い脚に力を入れてゆっくりと立ち上がる。だが服を着ていないので肌の感覚が頼りない。
「あの……」
恐る恐る宗一郎を見ても、先に豪奢なソファに座ってこちらを見ているだけだ。
何も言ってくれない。
しょんぼりとして胸元と黒い茂みを手で隠して小さな歩幅で宗一郎の向かいに座ると、宗一郎がシルバーのフォークとナイフを使ってバナナを器用に食べ始める。
「……どうしたんだい? 美味しいよ」
「……はい」
言われて雅が宗一郎に倣ってぎこちなくバナナをフォークに刺して食べると、それまで不満と不安、羞恥で曇っていた表情がパァッと明るくなった。
「冷たくて美味しい! それに……甘くて美味しいなぁ……」
もくもくと口を動かして口の中で冷えたバナナを味わい、単純にもにっこりとしてしまう。
「冷蔵庫で冷やしておいたからね」
「お気遣いおおきに」
バナナが美味しいのと、宗一郎の気遣いが嬉しくてにこにこしながら礼を言うと、また冷たい声が返って来る。
「別に君の為じゃない。俺が美味い物を食べたかっただけだ」
「美味しいなぁ」
「君は馬鹿かい? 冷たくされているのにそんなに嬉しそうにして」
「そやかてバナナが美味しいし、宗一郎が優しゅうしてくれはって嬉しいんやもん」
「優しくしてない。君の事なんか大嫌いだ」
「……」
優しい癖に。
と、めげずに雅は内心付け加え、バナナの最後の一口を食べた。
「美味しかった?」
「はい!」
「なら、特別にもう一本食べる?」
「え?」
ちら、と目を走らせればテーブルの上にはもう一枚皿があって、切れ目の入っていない皮ごとのバナナが二本ある。
「ええの?」
「いいよ。ただ、俺が食べさせてあげる」
その『食べさせる』という言葉に夫婦らしい仲のよさが窺えて、雅は嬉しくなって自分が裸でいる事も忘れ、思わず弾んだ声で「はい!」と笑顔で返事をした。
「おや、いい返事だね。真田は下がっていい」
「かしこまりました」
宗一郎の声に真田が折り目正しく礼をし、「失礼致します」と挨拶をしてから退室していった。
「みや、ベッドで食べさせてあげる」
「はい」
宗一郎が自分の事を人前では『雅』と呼んで、二人きりの時やそれっぽい雰囲気になっている時は『みや』と呼んでくれるのが、堪らなく嬉しい。胸に甘くて温かい感覚を覚えながら、雅は素直にベッドの上に正座をする。
「目を閉じて口を開けて」
「はい」
嬉しそうに目を閉じた雅を、宗一郎はじっと見詰めた。
西洋人形の様に長い睫毛、桃色の唇が誘う様に小さく広げられている。滑らかな白い肌に、飾り物の様な綺麗な桜色の乳首。繊細な指先は太腿の付け根で揃えられて黒い茂みを隠している。白いレースと薄い布に包まれた太腿は、太腿と呼ぶには細いが魅惑的だ。
全体的に肉感的で官能的な体とは言えないかもしれない。それでも自分がどう飾り付けるかで、どれだけでも妖艶にはなる。
嬉しそうに口を小さく開けてバナナを食べさせられるのを待っている邪気のない顔を見て思う。
こんな清純な表情をしていられない程に恥辱に染め上げて、いつかそれが当たり前と思い込んでしまう淫乱な妻に育て上げてみせる。それが彼女に対する復讐だ。
「まだ?」
宗一郎の胸中を何も知らないでわくわくとした様子を隠そうとせずに雅が問い、着物の裾が乱れるのも気にしない宗一郎がベッドの上に胡坐をかいて手の中のバナナの茎部分をぱきりと折る。皮を剥いてしまって白くて甘い実が現れると、カーブしたその果実の先端を雅の唇に押し当てた。
「ん」
ひやりとして甘い果実が唇に当たり、雅が嬉しそうに喉で甘えて口を開いてバナナを受け入れる。前歯に少し力を入れると、柔らかな果実は簡単に舌の上に転がる。
「美味しい?」
もくもくと口を動かす雅に訊ねると、ごくりと口の中の物を嚥下してから雅が「はい」とにっこり微笑んだ。
「俺にも食べさせて」
「はい!」
まさか宗一郎の方からそんな甘えた事を言ってくれるとは思っておらず、雅はすっかり有頂天になってにこにこし、宗一郎から手渡された皮付きのバナナを華奢な手で剥いてゆく。
「ただし、手ではない所で」
「え?」
口移しだろうか?
そう思って皮を剥いてしまったバナナを口に運ぼうとすると、「違う」と鋭い声が飛んだ。
「自分で下の口に入れてご覧。そしたら残りを食べさせてあげる」
「……」
正座をしたままの雅が俯いてレースに包まれた自分の太腿に目線を落とす。だが、夫はそんな妻を緩さない。
「返事は」
「……はい」
そう返事をするしか雅に選択肢はなかった。
「仰向けになって」
白いシーツの上に背中をつけ、仰向けになりながら雅が訊ねる。
「宗一郎の言うことを聞く素直な奥さんになったら、好きなってくれる?」
「さあね」
返って来るのはやはり冷たい返事。
だが、「さあね」という事は未来はまだ分からないという事だ。
その言葉に少しの希望を見た雅は、恥ずかしいが夫の言葉に従っていればそのうち彼が自分を好きになってくれるかもしれないと思い、なるべく恥ずかしい注文にも従順になろうかと思い始める。
恥ずかしい。
恥ずかしいけれども、宗一郎に好きになって貰いたいし、バナナを食べさせて貰いたい。
そう理由づけて恥ずかしいのを我慢し、白い脚を開くと少し躊躇ってから皮を剥いたバナナを股間に近づける。
「……食べ物でこないな事して、罰当たらんやろか」
「俺が許可するよ。見てるから入れて」
「……」
観念して震える手で持ったバナナの先をぷっくりと膨らんだ肉につけてみると、ひやりと冷たい。
それでも好きになって貰わないと。
幸い今なら宗一郎以外の人間はいない。意を決すると雅は恐る恐るバナナを花びらに押し当て、先ほどの張り型でまだぬるぬるしているそこで入れる孔を探し当ててから、ゆっくりと蜜壷にバナナを埋めていった。
「ひっ……」
冷たい。
思わず手を止めると、雅の細い手首を宗一郎が掴んで前後させる。
「君はまだ咥え込められる筈だよ。奥まで入れたら君に食べさせてあげるから」
「……口移しにしてくれる?」
涙目になって甘えると、宗一郎が呆れた声を出す。
「何だか君は図々しくなってきたね。そんなに俺が好きなの?」
「すき」
迷いのない真っ直ぐな声に宗一郎は少し閉口し、何か言い返す言葉を口にする間、戸惑いを誤魔化す様にバナナを前後させていた。
「なぁ、ほんまに好きやの。私になら何したってええさかい、私のこと好きになって」
「……君なんて大嫌いだ」
ぐっとバナナを最奥まで押し込むと、宗一郎は大きな溜息をつく。
雅の手からバナナを受け取り、それを一口くちに含んで軽く歯を立てる。仰向けになっている雅に唇を併せると、口の中で柔らかくなったバナナを送り込んだ。
「んむ……」
宗一郎の唾液にまみれて生温かくなったバナナが口の中に送り込まれる。正直不快感もあったが、彼が食べさせてくれているという事の方が雅にとっては重要だ。思わず両手を宗一郎の首に回して引き寄せると、彼の唇を貪る。
一方宗一郎は雅の変わり身に戸惑うしかない。
彼女の事が嫌いで酷い事をして、泣かせて従わせるつもりだったのに、自分を嫌うどころかますます好きだと言って懐いてくる逞しさに内心驚いていもいたのだ。
積極的に雅が宗一郎の唇を舐めて、ついばんでくる。
「宗一郎の唇、甘い」
唇が離れると下から雅の大きな目がくりくりと見詰めて来、嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔に宗一郎は苛ついた。
「君は自分の立場が分かっていないみたいだね」
残ったバナナをぐぽっと雅の小さな口の中に突っ込むと、乱暴に奥まで詰め込む。
「んぇっ、おえぇっ」
雅が涙目になって苦しがるが、琥珀色の目元を厳しくした宗一郎は冷たい声で「食べるんだ」と氷の様な声を出す。
一生懸命に口を動かして口の中に詰められたバナナをもぐもぐと噛み、目と鼻からは透明な物が光っている。
苦しい。
それでも大きな黒い目はじっと宗一郎を見上げたまま、股間に異物を生やした彼女は懸命に口の中の冷えたバナナを処理する為に顎を動かした。
目尻から透明な涙が落ちて耳を濡らした頃、口で一生懸命呼吸を整えながら、バナナを完食した雅は期待に満ちた目で宗一郎を見詰める。
「ちゃんとバナナ食べたえ。褒めて」
転ばせてもただで起きないというその姿勢がまた宗一郎を苛つかせる。
「ふぅん……じゃあ俺の事もちゃんと悦ばせられる?」
宗一郎の試す様な言い方に雅が大きな目を瞬かせると、夫が着物の角帯を解いてあわせを寛がせてしまい、雅の目の前に凶暴な肉棒が晒された。
「……」
決まりが悪くなって思わず目を逸らすと、厳しい声がそれを許してくれない。
「みや、ちゃんと見て。それから夫を悦ばせるのは妻の役目だよ」
しなやかな裸身を猫の様にくねらせてそっと起き上がると、じっと肉色の槍を見詰める。
「……舐めるの?」
「そう。手でしごいたり丁寧にしゃぶったりしてご覧」
言われておずおずと逞しい竿に手をかけるが、雅の柔らかな掌の中でガチガチに硬くなっているそれをどうすればいいのか分からず、言われた通りにそっと上下にさすってみた。
「もっと力を入れて。君の膣に入れて気持ちいいという事を前提にして考えてご覧。どういう状況になったら俺は感じると思う?」
宗一郎の質問に雅は頬を赤らめながら少し考え、もごもごと答え始める。
「締められて……ぬるぬる、して、る?」
「正解。ならそれを想像してから自分の手と口で実践してみてご覧」
宗一郎がごろりと仰向けに寝転がるので、雅はその開かれた筋肉質な脚に手を掛けるが、宗一郎に「俺の顔を跨いで」と命令されて恥ずかしがりながらバナナを生やした股を、「失礼します」と断ってから宗一郎の顔を跨がせた。
「おや、みやはいつの間に男になったんだい? 股間からそんなに反り返った立派なものを生やして」
むぐ、と奥歯を噛み締めた頬がむちむちと熱を持つ。
そんな意地悪な言い方をしなくてもいいのに。と思いながら、この九条西家へやって来て宗一郎がそういう意地悪をする人だと知ってしまった。
「宗一郎、食べて」
くい、と四つん這いになった腰を下げると宗一郎が嗤う。
「君も一日でとんだ淫乱になり下がったね。このままだと嫁入りしてどれだけで俺の気が済むのかな」
目の前にぶら下がるバナナの先に一口噛み付き、小さく顎を動かしていると彼の言葉に動揺した雅が肩越しに宗一郎を振り向く。
「そっ……宗一郎の気が済んでもうたら、私、お払い箱やの?」
「……」
暫く宗一郎が沈黙している。
「あのっ……あの、捨てんといて! お願いします!」
雅が宗一郎に向き直り、股にバナナが入っているので土下座は出来ないので四つん這いのまま頭を下げるのを、宗一郎は呆れた表情で見遣る。
「君は馬鹿かい? 夫が妻を手放す訳がないだろう。それに侯爵家の俺の家が君と離縁しただなんてスキャンダルが流れたら面倒な事になる。君の事は容姿も性格もそれなりに気に入っているし、君のお父上を助けた事への恩義については君の身を差し出す事で決着がついてる。だからそういう意味で君は心配しないでいいよ」
「はい……」
安心はするものの、宗一郎の言い方ではそれはまるで彼は本当に自分には興味がなく、形だけの夫婦だけと思っている様に聞こえた。
「……ほんまに……私のこと……嫌いやの?」
「……ああ、嫌いだよ」
「……私の事は容姿と性格がそれなりにええさかい、ここに置いとくの?」
「……さらりと今自画自賛したね。君も結構図々しい。続きは?」
言葉で催促され、雅がまたおずおずと「失礼します」と宗一郎の顔を跨いでから彼の肉棒をそっと手にする。
「腰を下ろしてちゃんと俺にバナナを食べさせて」
「はい」
大きな手が雅の丸くて白い尻をさわさわと撫で回し、長靴下を穿いた太腿も撫で回す。その手が彼女にとっては優しく感じて、それでも先ほど言われた事が意外にもショックで鼻の奥がつんとしてくる。
「ふぇぇ……」
ついには大粒の涙が頬を伝い、しゃくり上げながら雅は宗一郎の肉棒を舐め始める。先端から滲み出ていた液が苦くて嘔吐きそうになるが、それでも彼のものなら何だって愛しい。
「……何を泣いているんだ」
また一口バナナを咀嚼して飲み込んだ宗一郎が呆れた声を出すが、雅は子供の様に泣きじゃくりながら手で竿をしごき、亀頭を口に含む。
「なんれもおふぇん」
涙に曇った声で雅が返事をすると、彼女の意地を張っている様子にムッとした宗一郎がバナナの残りを咥えて一気に膣からズルンッと抜いてしまう。
「あんっ」
体をゾクッとした感覚が貫いて、悲しいのに感じてしまう。
スン、と鼻を鳴らしてまた口淫の続きを始めると、宗一郎が呆れた声を出す。
「泣きながらするぐらいならしなくていい」
その言葉が雅を拒絶している様に聞こえ、悲しくなり彼女はむきになって宗一郎の腰にしがみつき、肉棒に顔をすりつける。
「いやや、出来るもん」
「しゃくり上げながら言うんじゃない。君の嫌がる事をさせたり、淫らによがる姿を求めているのは俺だが、泣いている所を無理にさせるのは趣味じゃない」
ほら、こんなに優しい。
その優しさが逆に雅の涙腺をぼろぼろにしてしまう。
大粒の涙が宗一郎の股を濡らし、必死になって宗一郎の腰にしがみついている雅が彼の筋肉質な太腿に唇をつける。
その献身的な姿に宗一郎は大きな溜息をつき、ゆっくりと上体を起こすと雅の細い体を退かせる。
「えっ? ……あの」
ぐすぐすと鼻を啜っている雅が戸惑ってベッドの上に座り込むと、ヘッドボードにもたれかかって窓の外を見ている宗一郎を黒い目でじっと見詰める。
「あの、何でもしますさかい……嫌わんといて」
「おかしな事を言うね。俺は君の事なんて嫌いだと明言した筈なのに」
そう突き放した言い方をしているのに、その手は雅の頬を流れている涙を優しく拭っている。
「……優しくしんといて。嫌うならとことん嫌ってくれはった方が……ううん、優しくして」
べそべそと泣く雅の涙が頬を伝い、細い顎を滴って膨らんだ白い胸元に落ちて、また下へ伝って流れてゆく。腰のレースに差し掛かったあたりで、涙の雫は肌に馴染んでしまった。
「……君の言っている事は支離滅裂だね。どうやら混乱している様だ。昼食を食べて満腹になったのなら、ここで少し寝ればいい」
そのまま宗一郎は雅が寝るベッドのスペースを空けて自分はヘッドボードに寄りかかったまま、腕を組んで目を閉じる。
暫く雅はベッドの上にレースに包まれた裸体を正座させていたが、夫が昼寝をするという姿勢をとったので自分も彼の隣にちょこんと座り、上等な羽根布団を手繰り寄せて着物の前を肌蹴させている宗一郎が風邪を引かないように布団をかけてやる。
じっと整った横顔を見詰めても、彼は目を開けようとしない。
「……好き」
ぽつりと呟いてみても彼は何の反応もみせない。
眉を寄せて唇を尖らせてから、顔を近付けて宗一郎の耳元でもう一度「大好き」と囁き、頬にキスをする。
それでも何の反応も返って来なかった。
「……いけず」
そんな所が憎たらしいぐらいに愛しい。
シーツの上に置かれてある大きな手にそっと手を重ね、身を寄せると雅もそっと目蓋を伏せる。
その時になって宗一郎が薄く目を開いたのには、彼女は気付いていなかった。
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