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第二話・縁談
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京都の屋敷にいた雅に縁談の話がきたのは、彼女が三月に誕生日を迎えて二十歳になり三月が終わろうとしていた頃だった。
「お相手は大層名のある華族のご子息でな。お前にも大御門家にもええ話やと思うねん」
呼び出された座敷で父はご機嫌で茶を啜り、その隣で母もにこにことしている。
「これがお相手の宗一郎さんのお写真どす」
母が座卓の上にすっと手を滑らせると、白い紙に包まれたお見合い写真が雅に差し出された。緊張と不安に彩られた細い指がそれに伸ばされ、手に取って開くと白黒の写真の中には清涼な顔つきをした着物姿の若者が、椅子に掛けてこちらを見ている。
「この方が……宗一郎様?」
「そうや。わてが東京へ行った折に、道に迷うた挙句ごろつきに金品を巻き上げられそうになってもうた時、宗司はんが通りかかって、一緒にいはった宗一郎はんが……いやぁ、あれはえらい強かったなぁ。柔道の技でばったばったとごろつきを倒していかはって」
「まぁ……お強いんやね」
「それでわての懐から出たお前の写真を見て、宗一郎はんがえらいお前を気に入らはってなぁ。洋風のお屋敷と和風のお屋敷が両方ある広い敷地の立派なお部屋で、あんなに立派な青年に『是非に』と言われてもうたら、そらかなんわ。わても九条西はんに恩があるし、相手は侯爵家のご子息や。お前にも大御門家にもええ話や」
父が満足そうに頷いて口元の髭を撫でつけ、母も頷く。
「お前は婚期の遅い娘やと思うてましたが、こないなご縁にあやかるなんて逆に神様がそういうご縁をずぅっと守らはっていたんやねぇ。良かったなぁ、雅」
「……はい」
突然な話だったのでスッと心には馴染まなかったが、それでもこうして両親が喜んでくれている。それに兄の所には既に子供がいるというのに、長女の自分には未だにいい縁談が来ていなかった。これは好機とも言えるのだろう。
写真の中の凜とした青年に目を落として呟く。
「お優しい方やったんならええなぁ」
「お相手は大層名のある華族のご子息でな。お前にも大御門家にもええ話やと思うねん」
呼び出された座敷で父はご機嫌で茶を啜り、その隣で母もにこにことしている。
「これがお相手の宗一郎さんのお写真どす」
母が座卓の上にすっと手を滑らせると、白い紙に包まれたお見合い写真が雅に差し出された。緊張と不安に彩られた細い指がそれに伸ばされ、手に取って開くと白黒の写真の中には清涼な顔つきをした着物姿の若者が、椅子に掛けてこちらを見ている。
「この方が……宗一郎様?」
「そうや。わてが東京へ行った折に、道に迷うた挙句ごろつきに金品を巻き上げられそうになってもうた時、宗司はんが通りかかって、一緒にいはった宗一郎はんが……いやぁ、あれはえらい強かったなぁ。柔道の技でばったばったとごろつきを倒していかはって」
「まぁ……お強いんやね」
「それでわての懐から出たお前の写真を見て、宗一郎はんがえらいお前を気に入らはってなぁ。洋風のお屋敷と和風のお屋敷が両方ある広い敷地の立派なお部屋で、あんなに立派な青年に『是非に』と言われてもうたら、そらかなんわ。わても九条西はんに恩があるし、相手は侯爵家のご子息や。お前にも大御門家にもええ話や」
父が満足そうに頷いて口元の髭を撫でつけ、母も頷く。
「お前は婚期の遅い娘やと思うてましたが、こないなご縁にあやかるなんて逆に神様がそういうご縁をずぅっと守らはっていたんやねぇ。良かったなぁ、雅」
「……はい」
突然な話だったのでスッと心には馴染まなかったが、それでもこうして両親が喜んでくれている。それに兄の所には既に子供がいるというのに、長女の自分には未だにいい縁談が来ていなかった。これは好機とも言えるのだろう。
写真の中の凜とした青年に目を落として呟く。
「お優しい方やったんならええなぁ」
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