【R-18】SとMのおとし合い

臣桜

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第一話・初夜①

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「おいで、雅」
 侯爵家の九条西家に二十歳という少し遅い年齢で嫁いだ筈の雅は、目の前の現実に戸惑っていた。
 大きなフランスベッドの上で浴衣の胸元を肌蹴させて自分を招いているのは、年下の夫の宗一郎。十八だと聞いたが、上背も体の作りもしっかりしていて頭脳も申し分なく、上流階級としてのしっかりとした将来を約束されているらしい。
 浴衣を素肌の上に身に纏っただけの雅は、その薄い布が唯一の頼りだと言わんばかりに握り締めて開け放たれたドアの前で立ち尽くしていた。

 こわい。

 知らずと小さな顔も、繊細な指先も体も、ぶるぶると震えている。
 「はじめての男が怖いの? 大丈夫、俺が優しくしてあげるから」
「あの……堪忍して……。まだ、私たち夫婦らしい空気にもなってへん。それやのにいきなりこないな……」
 はんなりとした線の細い声さえも震えて目の前の誘惑を辞退しようとすると、宗一郎の目がスッと細められた。
「なに? 俺のいう事がきけないの?」
「え?」
 大きな黒い目が見開かれて桃色の小さな唇から声が漏れると、宗一郎がベッドから下りてつかつかと裸足のまま毛足の長い絨毯を踏んで雅に近付いてくる。
「あの……私、まだ……」
 その迫力に思わず逃げ腰になった雅が小さく頭を下げて廊下に逃げ出そうとすると、後ろからぐっと肩を押さえつけられた。
「真田……、さん」
 雅の後ろには、この部屋まで彼女を連れて来た執事の真田が立っていた。
「雅様、今宵は契りの夜になります。どうぞお覚悟を」
 年若いが有能な執事らしい彼は、眼鏡の奥から冷たくて理知的な目を光らせて暗に「逃がさないぞ」と視線で彼女を脅している。
「そやかて……私、こわい」
「生娘は皆そう言います。が、一度快楽を知ってしまえばその虜になるでしょう。貴女もそんな可能性を秘めた体つきをしてらっしゃる」
 白い手袋をはめた真田の指先が、く、と雅の肩に食い込むと、彼女の背筋に怖気が走った。
 何だろう、この感覚は。
 今まで京都の屋敷にいた時に、周囲から「お嬢様」と一人前のレディ扱いされていたのとは違う。セクシャル的な意味合いでの『女』をことさらに強調され、不快感に思わず眉根が寄った。
「やめて下さい」と言いかけた時、手首が強く引かれる。
「えっ?」
「ぐずぐずしていないでおいで」
 宗一郎が雅の細い手首を掴み、乱暴にベッドへ導いてゆく。
「あの……っ、あっ!」
 ぐいっと強く手を引かれて放られると、雅の細い体は大きなベッドの上に乗り上げてしまう。
「夫婦になるんだから、恥ずかしがらないで」

 こわい。

 宗一郎の秀麗な顔は、なるほど侯爵家の子息として申し分ない気品と整った美しさがあるが、それが年齢不相応に妖しく微笑んでいるのから見て、雅は彼が女性経験がこれが初めてではないのだろうと察した。
「あの……私、はじめてやさかい」
「勿論だよ。そういう君だからこそ、この家に受け入れたんだから」
「……生娘やから許婚にしたん?」
「事情がある」
 言いたい事が沢山ありそうな雅の目に、宗一郎は短くそれだけを言うと彼女を大きなベッドの上に組み敷いた。
「あのっ……」
 しゅるりと浴衣の帯が引かれて大きな手があわせを肌蹴てくる。
「まだ何か?」
「真田さん……、なんでいはるまんまやの?」
 ドアを閉じた部屋の内側には、直立不動の姿勢を貫いた真田が立っていた。
 これから曲がりなりにも夫婦になろうとしている二人の営みが始まろうとしているのに、部屋の中から立ち去る気配がない。
「私はお目付け役で御座います。雅様が無事にお役目を果たせたのかどうかを、旦那様に報告する義務が御座います」
「いや、いやや!」
 晒された肌を守る様に肌蹴た浴衣を両手で掻き合わせると、宗一郎が雅の細い顎を強く掴んで自分の方を向かせる。
「いいかい? 雅。君がこの家で生きていくには俺に従って、この家のやり方に慣れるしかないんだ。郷に入っては郷に従えという言葉を知っているね?」
「……」
 怯えた目がそれでも気丈に強く宗一郎を睨んでみせると、目の前の夫になる青年が酷薄に笑った。
「こういう事は言いたくないが、君の家との繋がりがなくなってしまってもいいのかい?」
 その声に雅が目元を渋く細めて長い睫毛を震わせる。
 実家の大御門家は同じ華族でも九条西家より位階が下の子爵家だ。この度の結婚で、大御門家が九条西家の栄光にあやかろうという心積もりがない訳ではない。大御門家も没落貴族という訳ではないが、金を湯水の様に使って豪華な生活をしているという訳でもないからだ。
 黙ってしまった雅を見て満足そうに小首を傾げると、宗一郎が試す様に形のいい唇を開く。
「分かったのなら返事は?」
 暫く雅は黙っていた。
 結婚する意志でこの九条西家の門をくぐり、こうやって屋敷で最初の一夜が悪夢の様に訪れようとしていた。それでも相手が宗一郎なら夫となる相手なので納得がいくが、それを使用人に見られているというのが恥ずかしいし屈辱で堪らない。
 大切に育てられてきたこの体は、夫にに肌を見られる為であって、他人に見られる為ではない。
 ぐ、と奥歯を噛み締めていると、今度は先ほどよりも低くなった声がもう一度問う。
「返事は?」
「……」
 それでも子爵家の令嬢という立場が雅に簡単に肯定させる事をよしとしない。
 黙っていると宗一郎の大きな手が無遠慮に雅のまろい胸の肉を強く掴んだ。
「ぃあっ」
「外国にピアスという風習があるのは知っているかい? 体に穴を開けてそこに装飾具をつけるらしいよ」
「……?」
 宗一郎の言っている事が分からずに、不安に揺れる黒い瞳が日本人にしては色素の薄い琥珀色に近い目を見詰めると、それが優しく細められた。
「いう事を聞かないと、針で君の綺麗な体に穴を開けてそこに綺麗な宝石でも飾ってもいいんだよ?」
 人形の様な綺麗な笑顔の裏にこめられた感情を読み取って雅の腰に寒気が走ると、とうとう彼女は観念して小さく呟いた。
「……いう事、聞きます」
「はじめからそうやって素直になっていればいいんだよ。じゃあ、素直になった証に自分で脱いでみて」
 宗一郎が小さな子供の様に邪気のない笑みを浮かべてベッドの上に胡坐をかき、自分と真田の前でストリップをする様に命じる。
 雅は居た堪れなくなってしまうが、それでも宗一郎の言葉に従わないとと思い、ベッドの上に膝立ちになると帯の解かれた浴衣をゆっくりと肌蹴てゆく。
「いいね、君は肌が白い。胸の先も綺麗な色だ。黒髪との対比が美しい」
 ちら、と視線だけで真田を気にすると、先ほどと変わらない直立不動でドアの前に立っているままだ。恐らく雅が部屋から逃げ出さない様に、退路を断っているつもりなのだろう。
 スル、と細い肩から浴衣が滑ると柔らかい布の音が小さく耳に聞こえて、雅は一糸纏わぬ姿になってしまった。
 浴衣に包まれていた肌が外気に晒されて温度変化と緊張とで粟立ち、鳥肌が立つのと同時に乳首がつんと尖ってしまう。
「ふふ、見られただけで感じているの?」
「……いけず、言わんといて」
 すらりとした細い脚の付け根にある黒い茂みを隠す様に、正座をして両手を重ねると、宗一郎が今度は別の注文をつけてくる。
「じゃあ、今度は君が処女だという証拠を見せて」
「え?」
 訳が分からず間抜けな声が出てしまうと、宗一郎が十代とは思えない妖艶な笑みを浮かべて彼女を辱める。
「脚を大きく開いて処女膜を見せて」
「!」
 言葉の意味を理解した瞬間、さっと雅の顔に朱が走った。
「そないな……」
「君のご家族がどうなってもいいの?」
 が、宗一郎の一言で綺麗な顔を歪めると、ゆっくりと白い尻をシーツにつけて細い脚を僅かに広げる。
「ちゃんと寝転んで脚をもっと開いて」
 きゅ、と赤い唇が喰いしばられ、細い脚が震えながらもう少し広げられる。黒い茂みの下にある慎ましやかな裂け目は綺麗な桜色で、それが何とも肌の白さと毛の黒さとの対比で淫靡に見えた。
「ふぅん、吉原の遊女と違って綺麗な色をしているんだね」

 そんなものと比べないで。

 普段の彼女なら、職業婦人でもある遊女に対してもっと言うべき言葉もあるのだろうが、極限状態にある今では緊張と羞恥心で冷静な判断が出来ないでいる。
「自分の手でちゃんと孔を広げてご覧。そうでないと俺には見えない。脚ももっと蛙みたいに開いて」
「……っ」
 屈辱で雅の顔が真っ赤になり、涙が零れる。

 蛙、だなんて。
 ひどい。

 噛み締めすぎた唇が裂けて血が滲み、口の中にじわりと血の味が広がってゆく。
 それでも細い指先が震えながら秘められた場所へ伸び、綺麗な色の花びらを引っ張る。白い脚も震えながら広げられるだけ広げた。
「ふふ、そうやると本当に君は白い蛙みたいだね。可愛らしい」
「……酷い事いわんといて」
 年頃の娘にかけられるにはあんまりな言葉を浴びせられ、雅の綺麗な顔が涙でぐしゃぐしゃになる。宗一郎から顔を背けるつもりで首を横にすると、こちらをじっと見ている真田と目が合って更にその場から消えてしまいそうになりたくなる羞恥心に煽られる。
 ぎゅっと目を閉じると、宗一郎が雅の白い内腿を優しく撫でながら飽く迄優しい口調で命令してきた。
「もっと指に力を入れて開いて。……そう、いい子だね」
 誰にも触らせた事のない腿を触られて、腰の辺りをゾクゾクとした感覚が抜けていった。思わず腰を揺らしてしまいそうな妙な感覚。
「綺麗な色だね。もっと見せて」
 今まで排泄の為にしか意識した事のない場所に、婚約者の綺麗な顔が近付いてその吐息すら感じられる。思わずつま先に力が入ってぎゅっと指先の間隔が狭められると、宗一郎が雅の緊張に気付いて、広げられた花びらにふっと吐息を吹きかけた。
「ひっ」
 緊張している所にその刺激は強すぎて、思わず括約筋に力が入ると花びらとその下にある窄まった不浄の孔がきゅっと締まる。
「ははは! 実に可愛らしいね!」

 笑われた。
 ひどい。

 悔しくて、恥ずかしくて、ボロボロ、ボロボロと涙が零れる。おまけにこんな格好をしているのを、真田にまで見られているのだ。
「じゃあ、君の身の潔白を見せて貰おうか」
 雅の内腿にちゅっと口付けをしてから、宗一郎が目一杯広げられた狭隘な孔を覗き込む。
 が、
「うーん、あまりよく見えないな。雅、ちょっといいかい?」
 宗一郎の大きな手が雅の膝の裏にかかると、それにぐっと力を入れて秘部が天井を向いてしまうほどに抱え上げ、膝がそのまま雅の頭の両側に着いてしまうまで雅の体は二つに折り畳まれてしまった。
「いやあぁっ!」
「雅、指を離したらお仕置きだよ」
 咄嗟に抗おうとして花びらを固定していた指先が動くが、宗一郎の声に辛うじて手の位置を維持したまま、改めて指先で花びらを広げ直す。
「恥ずかしい……っ」
「うん、これならよく見える」
 天井のシャンデリアが雅の白い肌を照らし、普段は頑なに隠そうとしている場所を暴いてゆく。
 宗一郎が再び雅の恥部へ顔を近付けると、小さな孔の奥には柔らかそうな肉の壁が続き、その壁を囲む様にして少し白っぽい桃色の膜がちゃんとあった。
「確かに。君が処女だという証はちゃんと見せて貰ったよ」
「そんなら……」
 安堵して抱え上げられた腰を下ろして貰えるのかと思うと、宗一郎がまた信じられない事を言う。
「目付け役として真田も見てご覧」
「! いやや! 嫌どす! 真田さんやめて下さい!」
 だが、雅の悲鳴にも関わらず視界の端で真田の黒い執事服が近付いてくると、無情にも雅の視界を黒いズボンが遮り、白い手袋を嵌めた手がヘッドボードにかかる。
「ほら、真田も証人になるんだ。父に報告をするのなら、彼女がちゃんとした処女だという事もお前の口から報告した方がいい」
「宗一郎、やめて!」
 雅が悲鳴を上げて脚をばたつかせるが、膝の裏を押さえられている上に背中を宗一郎の膝がしっかり支えていて姿勢を戻せない。
「見てご覧、真田。綺麗な色だろう?」
「美しいですね」
「いやぁ……ほんまにやめてぇ……」
 綺麗な顔をぐしゃぐしゃに歪めて雅が哀願しても、二人は彼女の恥部を覗き込む。
「ほら、真田。これが雅が処女だという証拠だ」
 雅の細い指先が震えてしまっているのを、宗一郎がしっかりとした指先を添えてぐっと力を入れて小さな孔を目一杯広げた。
「壁の内側に膜が見えるだろう?」
「はい、確かに。美しい色です」
 自分の尻の上で交わされる会話を、雅は歯を喰いしばり鼻を啜りながら聞いていた。本当は聞きたくなんかない。自分を貶める言葉も、辱める言葉も、何もかも聞きたくない。
 それでも自分はこの九条西家へ嫁ぐ為にわざわざ京都から遠路をやって来、自分達がいる洋館と繋がっている和館では、まだ両親と九条西家との祝いの宴が続けられている筈だ。ここで宗一郎の機嫌を損ねて結婚を白紙にしてしまえば、大御門家にも大きな痛手になるし、後から両親に何を言われるか分からない。
「じゃあ雅。確認も終わったし、名実共に夫婦になろうか」
 やっと腰を落とされて力なくベッドの上に横たわる雅に宗一郎が圧し掛かり、彼女の体に彼の影が落ちる。
 真田は忠実な犬の様に、自分の元いた位置へと静かに戻って行った。
「……優しゅうして」
 ぐすぐすと鼻声で哀願すると、近い距離で自分を見下ろしていた宗一郎の顔が綺麗な笑顔を作る。それを見て安堵し、雅の胸元から先ほどまでの屈辱感が僅かなしこりを残して消えてゆこうとした時、ゆっくりと宗一郎の端正な顔が近付いて柔らかく唇が重なった。

 あ……、柔らかい。

 人生で初めて味わう口付けは、柔らかくて温かな肉の感触と、少しだけ酒の味がした。
 唇が重なって一体感が増した頃になって、そっと宗一郎の舌がぬるりと雅の口腔に滑り込んでくる。唇をぬって前歯をこじ開け、そっと舌先で歯列をなぞってきた。雅の舌を求め、つるつると弄ぶ。
「ん……、ん、……ふ」
 雅が懸命になって息を止めていると、少しだけ顔を離した宗一郎が笑った。
「鼻で息をしてご覧。それでは息が止まってしまう」
「でも……」
「恥ずかしい?」
 こくりと頷くと、優しく笑っていた筈なのにまた先ほどまでの意地悪な笑顔に戻ってしまう。
「あんなに恥ずかしい場所を俺と真田に晒しておいて、今更鼻で息をするのが恥ずかしいのかい?」
「……いけず」
 まだ涙の溜まった大きな目で訴えると、宗一郎が甘く笑って再び唇を重ねてきた。
 大きな手はやわやわと白い乳房を揉みながら指先で先端を弄り、次第に刺激を与えられて桜色がしこり立っていく。口元はうっとりとする様な口付けが続けられ、ぷっくりと立ち上がった乳首の周りを宗一郎の指先が優しく円を描く様にくるくると撫で回ると、雅の鼻から甘ったれた息が抜けていった。
「そう、それでいい」
 宗一郎が雅の耳元で涼やかな声を囁き込んでから、優しく額に口付ける。
 なんだ、酷い事をする人なのかと思っていたら、ちゃんと優しい人だ。
 雅が安心して宗一郎を見上げると、日本人にしては色素の薄い赤い髪と琥珀色の目が雅を捉え、大きな両手がそっと雅の太腿にかかって優しく広げる。

 恥ずかしい。

 けれど、これは夫婦になるのに大切な事なんだと思い込み、緊張して強張ってしまう体で深く呼吸を整えた。
 宗一郎の唇が体に触れると顔が熱を持つ。
 宗一郎の指先が優しく触れてくれると、体の奥に何かじわりとしたものが込み上げてくる。
 長い指が喘ぐ様に小さく開かれた雅の唇をそっとなぞり、視線が絡み合う。

 どきん

 琥珀色の目が甘く細められて柔らかな唇が顔に降って、雅のしなやかな体が優しく愛撫されてゆく。先ほどまでの恥ずかしい仕打ちが嘘の様で、雅はいつのまにかすっかりふわふわとした気持ちになっていた。

 この人、きっと不器用だけれど優しい人なんだ。
 まだ十八だから人を愛するという事が分からなくて、きっとさっきの事も自分が年下だからといって舐められない様に、男としての権威を誇示しようとした行動なのかもしれない。

 そう思うと、心の底にあった先ほどまでのわだかまりが少しずつ溶けていった。

 受け入れよう。
 私はこの人と一緒になって幸せになる。
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