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番外編
闇夜に潜む秘密2/志郎視点
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ダーク風味なおまけと言っていた話の2話目になります。
第32話と同じ夜に起こっていた出来事を志郎視点で書いています。
主人公たちが知ることの無い内容になるので、甘々で幸せな話だけ読みたいの!という方は、今すぐブラウザバックしてください。
閲覧は自己責任でお願いします。
深夜十一時四十分を過ぎた頃。
施設地下にある一室には四つの影があった。
扉に背を預け傍観を決め込む兼治。
部屋の中央には、立ったまま一点を見つめる菊田と、少し離れた場所でパイプ椅子を前後逆にして腰掛ける志郎。
そして、志郎たちに挟まれる形で、気絶したまま別にパイプ椅子に座らされ後ろ手に拘束された香里奈。
気絶中の香里奈をのぞく三人は一言も喋らず、ただジッと眠り姫の目覚めを待ち続けた。
「……う、うぅ。……っ、な、何、ここ」
さらに数分ほど経てば、ようやく視線を一心に集める女が目を覚ます。
ノロノロと顔を上げた彼女は、見たことも無い部屋に自分が居ると気づき狼狽え始めた。
薄暗く生活感の無い部屋の中央に座らされる自分。そして自分を見つめる視線に、みるみる香里奈の顔が青ざめていく。
「ちょっとアンタ、ここはどこよ! どうして私をこんな所……なっ!?」
すぐさま敵を見据えるように志郎を睨みつければ、勢いよく立ち上がり彼に掴みかかろうとする。
だが、自分の両腕が後ろ手に椅子ごと固定されていると気づいた瞬間、青くなっていたはずの顔が、怒りでみるみる赤みを帯び始めた。
「ま、まさか……私を監禁する気?」
怒りと怯えが、交互に浮かぶ香里奈の表情はひどく滑稽だ。他人事なら、思わず笑ってしまうかもしれないが、現状を思うとクスリとも頬の筋肉が動かない。
「いいえ、そんなことしませんよ」
身体を小刻みに震わせる彼女の言葉に、志郎はニコリを笑いながら否定する。
「だったら、なんで縛ってるのよ。早く外して!」
「外してと言われても……外したら、逃げるでしょう? だから外しません」
手首を縛るロープを外そうと試行錯誤しているのか、香里奈の身体はパイプ椅子と一緒にガタガタと揺れだす。
彼女の悲痛な叫びに、志郎は言葉だけで否を示し、自分が座るパイプ椅子の背に両腕を乗せ、その上に自分の顎を乗せ寄りかかった。
「少し静かにしてください。耳障りです」
香里奈が騒ぎ出して一分もしないうちに、抵抗する音が止んだ。
軽く伏せていた目を開くと、彼女の背後に陣取っていた菊田が、香里奈の座る椅子の背もたれを押さえ動きを封じている。
冷静さを欠いて、前方にいる志郎しか目に入っていなかった香里奈は、突然後ろから聞こえた声に驚き、恐る恐る声のした方を振り向いた。
そして、自分を冷酷に見下ろす若い男を認識し「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。
「本当に……何なのよ、アンタたち。昨日のこと、まだ怒ってるの? あの女のことなら、謝ったじゃない」
一時は激高した表情もすぐに勢いを無くし、困惑のなか香里奈は自分を見つめる男たちを見返す。
(さっきのピッキングについては、謝らないのか)
香里奈の言葉に内心呆れを抱く志郎は、冷静に観察を続ける。
彼女の言う通り、美奈穂に言いがかりをつけた件に関しては、施設にいる間彼女へ不用意に近づかないことを約束させる念書を書かせた。
他の職員がこってり説教をしたと、志郎は報告を受けている。
だが、今の彼女を見る限り心の底から反省しているとは到底思えない。
表面上は反省したふりをし、図太い神経と行動力が無ければ、夜這いなどバカなことは考えないだろう。
「反省している人間に暴力なんて……政府の役人だか何だか知らないけど、頭おかしいんじゃない? ここを出て駅に着いたら、真っ先に警察に駆け込んで、今日のことを訴えてやるんだから!」
口を閉ざしたままの志郎たちとは対照的に、香里奈の口はよく回る。
抵抗こそ止めたものの、達者な口は相変わらずで、自分は被害者という主張を曲げなかった。
突然のことに困惑した香里奈の主張を、全面的に否定するのは難しい。
しかし普通なら、自分に何か非があるかもと少なからず考えるはずだ。
香里奈には、その兆候がまったく見られない。
自分は悪くないと一貫して主張し続ける姿に、彼女を除く三人の男たちは内心呆れかえっている。
尚もギャーギャー騒ぐ香里奈の声を、右から左に聞き流していた時、背後から兼治の盛大なため息が聞こえてきた。
ため息を吐きたいのは、むしろこっちだと心の中で悪態をつきつつ、志郎はゴソゴソと椅子の背もたれにかけていた上着の胸ポケットを弄る。
目的のモノを掴んだと気づけば「ゴホン」と、わざとらしく大きめな咳ばらいをした。
「伊藤香里奈さん、散々警察に行くと言ってますけど……それも無意味ですよ」
「はあ!? そんなの、実際に言って話さなきゃわからないじゃな……」
「俺たちが市民の安全を守る警察ですから」
眉間に皺を寄せる香里奈の訴えを遮り、志郎は手に持ったモノ――警察手帳を目の前に掲げる。
「改めて自己紹介をさせて頂きます。警察庁警備局警備企画課所属、相楽志郎と申します」
志郎の言葉がしっかり届いたのか、香里奈はみるみる大人しくなっていく。
背中を丸めパイプ椅子に座る目の前の男と、彼が持つ手帳の写真に写る男。二人の顔が同じことに気づいた彼女は、これまでが嘘のように口を閉ざすと、目を見開いたまま言葉を失っていた。
第32話と同じ夜に起こっていた出来事を志郎視点で書いています。
主人公たちが知ることの無い内容になるので、甘々で幸せな話だけ読みたいの!という方は、今すぐブラウザバックしてください。
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深夜十一時四十分を過ぎた頃。
施設地下にある一室には四つの影があった。
扉に背を預け傍観を決め込む兼治。
部屋の中央には、立ったまま一点を見つめる菊田と、少し離れた場所でパイプ椅子を前後逆にして腰掛ける志郎。
そして、志郎たちに挟まれる形で、気絶したまま別にパイプ椅子に座らされ後ろ手に拘束された香里奈。
気絶中の香里奈をのぞく三人は一言も喋らず、ただジッと眠り姫の目覚めを待ち続けた。
「……う、うぅ。……っ、な、何、ここ」
さらに数分ほど経てば、ようやく視線を一心に集める女が目を覚ます。
ノロノロと顔を上げた彼女は、見たことも無い部屋に自分が居ると気づき狼狽え始めた。
薄暗く生活感の無い部屋の中央に座らされる自分。そして自分を見つめる視線に、みるみる香里奈の顔が青ざめていく。
「ちょっとアンタ、ここはどこよ! どうして私をこんな所……なっ!?」
すぐさま敵を見据えるように志郎を睨みつければ、勢いよく立ち上がり彼に掴みかかろうとする。
だが、自分の両腕が後ろ手に椅子ごと固定されていると気づいた瞬間、青くなっていたはずの顔が、怒りでみるみる赤みを帯び始めた。
「ま、まさか……私を監禁する気?」
怒りと怯えが、交互に浮かぶ香里奈の表情はひどく滑稽だ。他人事なら、思わず笑ってしまうかもしれないが、現状を思うとクスリとも頬の筋肉が動かない。
「いいえ、そんなことしませんよ」
身体を小刻みに震わせる彼女の言葉に、志郎はニコリを笑いながら否定する。
「だったら、なんで縛ってるのよ。早く外して!」
「外してと言われても……外したら、逃げるでしょう? だから外しません」
手首を縛るロープを外そうと試行錯誤しているのか、香里奈の身体はパイプ椅子と一緒にガタガタと揺れだす。
彼女の悲痛な叫びに、志郎は言葉だけで否を示し、自分が座るパイプ椅子の背に両腕を乗せ、その上に自分の顎を乗せ寄りかかった。
「少し静かにしてください。耳障りです」
香里奈が騒ぎ出して一分もしないうちに、抵抗する音が止んだ。
軽く伏せていた目を開くと、彼女の背後に陣取っていた菊田が、香里奈の座る椅子の背もたれを押さえ動きを封じている。
冷静さを欠いて、前方にいる志郎しか目に入っていなかった香里奈は、突然後ろから聞こえた声に驚き、恐る恐る声のした方を振り向いた。
そして、自分を冷酷に見下ろす若い男を認識し「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。
「本当に……何なのよ、アンタたち。昨日のこと、まだ怒ってるの? あの女のことなら、謝ったじゃない」
一時は激高した表情もすぐに勢いを無くし、困惑のなか香里奈は自分を見つめる男たちを見返す。
(さっきのピッキングについては、謝らないのか)
香里奈の言葉に内心呆れを抱く志郎は、冷静に観察を続ける。
彼女の言う通り、美奈穂に言いがかりをつけた件に関しては、施設にいる間彼女へ不用意に近づかないことを約束させる念書を書かせた。
他の職員がこってり説教をしたと、志郎は報告を受けている。
だが、今の彼女を見る限り心の底から反省しているとは到底思えない。
表面上は反省したふりをし、図太い神経と行動力が無ければ、夜這いなどバカなことは考えないだろう。
「反省している人間に暴力なんて……政府の役人だか何だか知らないけど、頭おかしいんじゃない? ここを出て駅に着いたら、真っ先に警察に駆け込んで、今日のことを訴えてやるんだから!」
口を閉ざしたままの志郎たちとは対照的に、香里奈の口はよく回る。
抵抗こそ止めたものの、達者な口は相変わらずで、自分は被害者という主張を曲げなかった。
突然のことに困惑した香里奈の主張を、全面的に否定するのは難しい。
しかし普通なら、自分に何か非があるかもと少なからず考えるはずだ。
香里奈には、その兆候がまったく見られない。
自分は悪くないと一貫して主張し続ける姿に、彼女を除く三人の男たちは内心呆れかえっている。
尚もギャーギャー騒ぐ香里奈の声を、右から左に聞き流していた時、背後から兼治の盛大なため息が聞こえてきた。
ため息を吐きたいのは、むしろこっちだと心の中で悪態をつきつつ、志郎はゴソゴソと椅子の背もたれにかけていた上着の胸ポケットを弄る。
目的のモノを掴んだと気づけば「ゴホン」と、わざとらしく大きめな咳ばらいをした。
「伊藤香里奈さん、散々警察に行くと言ってますけど……それも無意味ですよ」
「はあ!? そんなの、実際に言って話さなきゃわからないじゃな……」
「俺たちが市民の安全を守る警察ですから」
眉間に皺を寄せる香里奈の訴えを遮り、志郎は手に持ったモノ――警察手帳を目の前に掲げる。
「改めて自己紹介をさせて頂きます。警察庁警備局警備企画課所属、相楽志郎と申します」
志郎の言葉がしっかり届いたのか、香里奈はみるみる大人しくなっていく。
背中を丸めパイプ椅子に座る目の前の男と、彼が持つ手帳の写真に写る男。二人の顔が同じことに気づいた彼女は、これまでが嘘のように口を閉ざすと、目を見開いたまま言葉を失っていた。
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