怪しい高額バイトをしていたら、運命のつがいに出会いました

雪宮凛

文字の大きさ
上 下
58 / 69
番外編

“知る”ということ5/光志視点

しおりを挟む
「なあ……別館の部屋より広くね? ここ」

 美奈穂が寝泊まりする部屋へ着いた光志は、すぐにベッドの上に彼女を寝かせる。
 そして、すっかり赤みが引いた頬を一撫でした後、室内を見回しながら自分が感じたことを口にした。

「そりゃそうだ。だってここは、番用の部屋だからな!」

「は?」

 別館にある自分の部屋と、今いる本館の部屋。
 部屋の造りや物の配置は似通っているけれど、ベッドの大きさから、イスやテーブルの種類など、相違点を上げれば明らかに違う点が多く見つけられる気がしてくる。
 そんな光志の疑問に返答したのは、なぜか兼治だった。彼は二人掛けのソファーに近づくと、手を引いていた千草を先に座らせ、自分もその横に腰を下ろす。
 我が物顔で振舞う彼の言動は、少しばかり光志をイラつかせた。

「さっき食堂で話したでしょう? 基本政府は番贔屓だって」

 だけど、彼の妻である千草がいる手前罵るわけにもいかず、頭を悩ませる。
 すると今度は、食堂で話を聞いた時とは逆に志郎が説明を引き継ぎ、言葉を続けた。

「ここの裏方スタッフは、基本参加者より上の年齢層で、一通りこの集まりの事情を把握している番夫婦に頼んでいるんだ。バイト代が出るって言っても、貴重な夫婦、家族の時間を一週間も奪ってガキの世話を頼む。その対価として、基本裏方スタッフは、本館の最上階に泊まってもらって、部屋も他よりグレードアップってわけ」

 ちなみに、一階下にある俺たち派遣男連中の部屋は、参加者と同じ一人部屋だよ。
 そう言って肩をすくめる志郎。その口から聞こえたガキの一言に、つい光志の口元が無意識に引きつる。

「ガキって……参加してるやつらと、そう大して年齢なんて変わらな」

「十分すぎる程変わるよ。夕食の時、あんたの隣に腕を骨折してた女の人、いたでしょう? 彼女達の所、二番目の子供まで成人式終えてる。四、五十代にとって、二十代から三十前半のやつらなんて、自分の子供でもおかしくない歳なんだよ」

 自分なりの意見を口にしようとしても、途中でその声は遮られる。その代わりに聞こえてくるのは、今日何かと色んな表情を見せている志郎の声だけだった。


「……ん。あと数分もすりゃ目覚めるだろ。ってことで、俺達はそろそろ部屋戻っていいか? 今日は千草も疲れただろうから早めに休ませたいし。美奈穂ちゃんが目覚ましたら、様子見に来るからよ。どうせ部屋隣だし」

 美奈穂の状態を再度確認した兼治が、両腕を大きく天井へ突き上げ身体をのばしながら志郎と光志へ視線を向ける。
 最後に右手を軽く握り、親指を立てながら隣の部屋を示すように指差しながら、彼は自分達の部屋の場所を教えてくれた。

「そうだね。女性スタッフの誰かを呼んで、美奈穂さんが目を覚ますまでついててもらおうか。目を覚ましたら、すぐに中原を呼びに行ってもらうように……」

「俺が残る」

 彼の言葉にすぐ頷いた志郎は、スタッフリーダーの良晴へ連絡を入れようとスマホを取り出した。
 だけど次の瞬間光志が放った言葉が、電話をかけようとしていた彼の動きを止める。

「藤沢さん、今……なんて?」

「俺がこの部屋に残って、美奈穂の世話をする。なんなら、別館にある荷物全部持ってきて、今日から俺もここで過ごす」

 光志が何を言ったのかわからない。そう言いたげに首を傾げる志郎を正面から見つめ、光志はもう一度自分の願いを口にした。しかも、今度は詳細付きで。

「いやいやいや、あんたの部屋は三〇八だから。自分の部屋があるんだから、自分の部屋に戻ってゆっくりしなよ」

「自分の部屋なんか戻ったって、美奈穂のことが気になって落ち着かねえ。あんた、さっき言ったよな? ここは番の部屋だって。俺は美奈穂の番になったんだから、ここの部屋使ったって何の問題も無いだろう? 政府は……番贔屓、なんだよな?」

 突然のことに、これまで割と冷静だった志郎の顔に戸惑いが浮かんだ。そんな彼が口を開き、自室へ戻るよう促す。
 でも光志は断固としてそれを拒否し、ある一点を指差した。彼の顔には、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かんでいる。
 その様子を目の当たりにした志郎は、慌てて光志が指し示す方を振り向いた。
 その先にあったのは、ソファーに座ったまま、運命の番認定証が入った筒を持った手を掲げ、肩をすくめる兼治の姿だ。

「諦めろ相楽。発情期の男には、俺たちが何言っても無駄だ。特例として許可してやれよ」

「あー、もうっ! 今回は参加者とスタッフなんていう異例尽くしで、色々報告しなきゃいけないことが山積みだって言うのにぃ!」

 彼はそのまま、援護射撃とばかりに光志の味方としかとれない言葉を口にする。
 そんな友人の姿を前にした志郎は、イラつきがピークに達したようで、金切り声を上げながら髪が乱れるのも気にせず、自分の髪を掻きむしった。


「もしもし、須藤さんですか? はい、相楽です。ちょっと、美奈穂さんが目を覚ますまででいいので、誰か一人女性スタッフをお借りでき……」

「藤沢、ちょっとちょっと」

「……?」

 数分後、声と一緒に心の中のモヤモヤを少しは吐き出せたのか、志郎はスタッフリーダーの相楽へ電話をかけ始める。
 そんな様子を横目に、光志は出入口の方へ足を一歩進めた。
 人が居るうちに、別館の部屋にある荷物を運びこもう。そんな意気込みと共に歩き出そうとした。それなのに、兼治の声が自分を呼び止める。
 こっちに来い。そう手招きをする彼の態度に怪訝な表情を浮かべながら、光志は進行方向を変え、ソファーの後ろへ近づいた。

「別館の部屋。ベッド横にある棚の一番下の引き出し、抜いてみろ。ちょっと出っ張ってるからすぐわかる。その奥に、ゴムひと箱隠してあっから一応持ってこい」

「……っ!」

 耳を貸せと言われ、彼の言いたいことがわからず耳をその口元へ近づける。
 すると聞こえたのは、これまでとは違う意味で衝撃的な言葉だった。

「この集まり、毎回どっかこっかで、番とか関係なく盛り上がった勢いでヤりたがる奴らが居るんだよ。ここへ来る連中がゴムなんて持ってるわけねえからな。念には念を入れて、男部屋には準備してんだ。ただあからさまには置いとけないからな……見つけたもん勝ちってこと」

 話し終えた兼治が顔を耳元から離すのと同時に、即行動とばかりに光志は部屋を出ていく。
 速すぎだろうとケラケラ笑う彼の声を聞きながら、彼は一目散に別館にある自室を目指した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...