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番外編
オカルトじみた集まりの謎4/光志視点
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「須藤、こっちだ! 早く!」
「待って、ください! どうして、そんな機敏に動けるんですか、私より大きな体で……」
美奈穂が倒れてから、ずっと二人きりだった空間。そこへ割り込むように、二人の男の声が木霊する。
ドタドタと慌ただしく階段を駆け上がる音。それが不規則なリズムとなって、だんだん近づいてきている。
そのことを光志が悟ったのは、間近でする荒い呼吸音を聞いた時。
訝しく思って顔をあげると、いつの間にか見知らぬ男が二人すぐそばに立っていた。
両膝に手をつき乱れた呼吸を整えようとする男達の視線は、光志の膝の上に横たわる美奈穂へ釘付けになっている。
(こいつらもスタッフ……なのか?)
光志は、突然あらわれた男達を前にし、大きな戸惑いを覚えた。
だけど、自分の腕の中に居る彼女と同じ色のエプロンを身につけているのを見て、二人が裏方スタッフだということに気づく。
良晴と、ガタイの良い美智子の夫哲夫がやってきたことで、光志はほんの少し冷静さを取り戻したのかもしれない。
「美奈穂ちゃんっ!? おい、アンタ! 美奈穂ちゃんに何をした!」
「俺は何もしてない! こいつが夕飯食えって言うから……っ、はあ……仕方なく、っ、う……部屋を出たんだ。そうしたら、急に、倒れて……」
冷静さを取り戻した途端、復活する息苦しさに、思わず眉をひそめる。
心臓を鷲掴みされるような苦しさに、つい左胸のあたりへ手がのびた。
「っ! もしかして、あなた達……」
すると、その仕草を目の当たりにした良晴が大きく目を見開き、そして息を呑んだ。
それは、隣に居た哲夫にも伝染し、二人はほぼ同時にお互いの顔を見合い頷く。
「藤沢さん、今は喋ること自体辛いはずです。私の質問に、頷くか、首を振るか……イエス、ノーで答えてください」
「はあ……はあ……?」
(一体なんだ? こいつ……)
光志は、おもむろに自分達の前に膝をつき、視線を合わせ喋り出す良晴の姿を不思議に思った。
だけど、一向に治まらない苦しさが、疑問を投げかける気力を彼から奪っていく。
「貴方が息苦しくなったのいつからですか。もしかして……彼女を、谷崎美奈穂さんの姿を見てからじゃないですか?」
「……っ! は、ぁ……っ」
良晴は、真っ直ぐ光志の顔を見つめ、どこか確信めいた問いを投げかける。
すると質問された光志は、たった今会ったばかりの人間に、自分の状況を言い当てられたことに驚愕し、大きく目を見開いた。
そして、荒い呼吸を繰り返しながら、言われた通り精一杯首を縦に振る。
本人は力いっぱい頷いたつもりだった。でも実際、頭は一、二センチ程度しか揺れていない。
その様子を、エプロンを身につけた男達は注意深く観察する。
「美奈穂さんが倒れる前、彼女の様子はどうでした? 今の貴方と同じように、苦しそうではありませんでしたか?」
続けて聞こえてきた問いに、光志は部屋を出ようとした時の記憶を頭の中で必死に掘り起こした。
そして、美奈穂が倒れる寸前、今の自分と同じように胸元へ手をのばしたこと、そして呼吸が乱れていたことを思い出し、また力なく頷く。
「これは……」
「確定、だな」
二つの質問を投げかけて来た男達は、何かを感じ取ったと言わんばかりな反応を見せる。
その態度は、ただでさえ苛立ちが無くならない光志の心を揺さぶった。
(自分達だけ、何わかったような顔してんだよ。お前ら……っ!)
衝動のままに声を上げたくなった。だけど今、その元気、そして気力は徹底的に削がれている。
酸素を求め荒々しい呼吸を続けることだけが、今出来る精一杯の行動だった。
「私は相楽さん達を呼びますので、哲夫さんは美奈穂さんを医務室に運ぶ準備を」
「まかせろ」
メガネをかけた男が、ズボンのポケットからおもむろにスマホを取り出し、隣にいるガタイの良い男へ指示を出す。
そして、メガネの男が立ちあがって数歩その場を離れてると、今度は哲夫と呼ばれた男が光志の前に膝をついた。
「はあ……はあ……こいつ、は……何か病気、なのか?」
「安心しろ。アンタも美奈穂ちゃんも病気なんかじゃねえ。すぐ楽になる。それより……良かったな」
(……よか、った?)
良晴の口から飛び出した医務室という言葉に、不安を募らせた光志は、眉をひそめ不安げな表情を浮かべる。そして、息苦しさを堪えて、普段ならあり得ない程の弱々しい声を発した。
すると、質問を投げかけられた哲夫は、二ッと白い歯を見せた笑顔を浮かべる。
質問に返答があったこと、そして彼が口にした病気じゃないという言葉に、無意識にホッとする。
ホッとしたはずなのに、最後に聞こえた“良かった”という言葉が示す意味が理解出来ないと、光志の中で新たな謎が増えた。
「もしもし、相楽さんですか? 須藤良晴です。大至急、相楽さんを含めた二、三名で別館へ来てください」
光志と哲夫が床に膝をついてやりとりをしている間、メガネをかけた男はどこかに電話をかけ、誰かと話し始めた。
別館に来て欲しい。部屋は三〇八号室の前。
そんな言葉が、かすかに聞こえてくる。
また人が増えるのかと思うと、光志の中で苛立ちが増幅する。
とは言うものの、どうして自分はこんなに苛立っているのか、その理由がわからない彼は、心の中で首を傾げるしかない。
「三〇八に泊まることになった藤沢さんと、臨時で来てくれた美奈穂さんが……」
「ほら兄ちゃん。美奈穂ちゃんのことは俺に任せて、アンタも医務室行こうぜ」
息苦しさの中で、だんだんとメガネ男の声が遠のいていく。
今にも途切れそうになる意識を繋ぎとめているのは、光志の膝の上に横たわる彼女の温もり。
男達を見上げていたはずの視線はいつの間にか下がり、気づけば起きる気配すら無い美奈穂と呼ばれる女の寝顔を見つめていた。
出来ることなら、その綺麗な顔をもっと見たい。
邪魔をする男達など居ない、二人きりになれる場所で。
そんな欲に塗れた想いを抱く光志。
すると次の瞬間、美しい寝顔を映していた彼の視界に、太い男の腕が映り込む。
その腕が向かう先、指先が美奈穂の身体へ近づいていると理解した途端、瞬時にかすんでいたはずの視界がクリアになった。そして、身体の奥から湧き上がった熱い血液が全身を駆け巡り、体を熱くさせる。
「こいつに触るなあああ!」
「っ!?」
息苦しさに負け、さっきまでか細い声しか出なかった光志の口から、感情に任せた怒号が飛び出す。
そして彼は、自分以外の者から美奈穂を守るように、眠る彼女を抱き起し、その華奢な身体を精一杯掻き抱いた。
中途半端に差し出した腕をそのままに唖然とこちらを見つめる哲夫。
そんな男を鋭く睨みつけるのは、ふう、ふうと荒い息遣いの光志。
美奈穂に触れようと手を差し出しただけで、哲夫はすっかり光志の中で敵と見なされてしまった。
今光志の頭の中にある意識は、自分が抱きしめている存在を守る。
ただそれだけだった。
(あ、やば……)
「……っ!」
「お、おいっ!」
しかし、使命感溢れる願いは、すぐに叶わなくなった。
ただでさえ普通の健康状態ではないにも関わらず、いきなり感情を昂らせ、思いのままに叫び声を荒げた結果、先に彼の身体が悲鳴をあげた。
本格的にブラックアウトしていく意識のなかで、光志は必死に腕の中にいる美奈穂を守ろうと彼女のぬくもりに身体を寄せる。
「今の叫び声、聞きましたよね? もうこれ、確定で間違いないでしょう?」
完全に意識が途切れる寸前、遠くからメガネ男の声が薄っすら聞こえた気がした。
「待って、ください! どうして、そんな機敏に動けるんですか、私より大きな体で……」
美奈穂が倒れてから、ずっと二人きりだった空間。そこへ割り込むように、二人の男の声が木霊する。
ドタドタと慌ただしく階段を駆け上がる音。それが不規則なリズムとなって、だんだん近づいてきている。
そのことを光志が悟ったのは、間近でする荒い呼吸音を聞いた時。
訝しく思って顔をあげると、いつの間にか見知らぬ男が二人すぐそばに立っていた。
両膝に手をつき乱れた呼吸を整えようとする男達の視線は、光志の膝の上に横たわる美奈穂へ釘付けになっている。
(こいつらもスタッフ……なのか?)
光志は、突然あらわれた男達を前にし、大きな戸惑いを覚えた。
だけど、自分の腕の中に居る彼女と同じ色のエプロンを身につけているのを見て、二人が裏方スタッフだということに気づく。
良晴と、ガタイの良い美智子の夫哲夫がやってきたことで、光志はほんの少し冷静さを取り戻したのかもしれない。
「美奈穂ちゃんっ!? おい、アンタ! 美奈穂ちゃんに何をした!」
「俺は何もしてない! こいつが夕飯食えって言うから……っ、はあ……仕方なく、っ、う……部屋を出たんだ。そうしたら、急に、倒れて……」
冷静さを取り戻した途端、復活する息苦しさに、思わず眉をひそめる。
心臓を鷲掴みされるような苦しさに、つい左胸のあたりへ手がのびた。
「っ! もしかして、あなた達……」
すると、その仕草を目の当たりにした良晴が大きく目を見開き、そして息を呑んだ。
それは、隣に居た哲夫にも伝染し、二人はほぼ同時にお互いの顔を見合い頷く。
「藤沢さん、今は喋ること自体辛いはずです。私の質問に、頷くか、首を振るか……イエス、ノーで答えてください」
「はあ……はあ……?」
(一体なんだ? こいつ……)
光志は、おもむろに自分達の前に膝をつき、視線を合わせ喋り出す良晴の姿を不思議に思った。
だけど、一向に治まらない苦しさが、疑問を投げかける気力を彼から奪っていく。
「貴方が息苦しくなったのいつからですか。もしかして……彼女を、谷崎美奈穂さんの姿を見てからじゃないですか?」
「……っ! は、ぁ……っ」
良晴は、真っ直ぐ光志の顔を見つめ、どこか確信めいた問いを投げかける。
すると質問された光志は、たった今会ったばかりの人間に、自分の状況を言い当てられたことに驚愕し、大きく目を見開いた。
そして、荒い呼吸を繰り返しながら、言われた通り精一杯首を縦に振る。
本人は力いっぱい頷いたつもりだった。でも実際、頭は一、二センチ程度しか揺れていない。
その様子を、エプロンを身につけた男達は注意深く観察する。
「美奈穂さんが倒れる前、彼女の様子はどうでした? 今の貴方と同じように、苦しそうではありませんでしたか?」
続けて聞こえてきた問いに、光志は部屋を出ようとした時の記憶を頭の中で必死に掘り起こした。
そして、美奈穂が倒れる寸前、今の自分と同じように胸元へ手をのばしたこと、そして呼吸が乱れていたことを思い出し、また力なく頷く。
「これは……」
「確定、だな」
二つの質問を投げかけて来た男達は、何かを感じ取ったと言わんばかりな反応を見せる。
その態度は、ただでさえ苛立ちが無くならない光志の心を揺さぶった。
(自分達だけ、何わかったような顔してんだよ。お前ら……っ!)
衝動のままに声を上げたくなった。だけど今、その元気、そして気力は徹底的に削がれている。
酸素を求め荒々しい呼吸を続けることだけが、今出来る精一杯の行動だった。
「私は相楽さん達を呼びますので、哲夫さんは美奈穂さんを医務室に運ぶ準備を」
「まかせろ」
メガネをかけた男が、ズボンのポケットからおもむろにスマホを取り出し、隣にいるガタイの良い男へ指示を出す。
そして、メガネの男が立ちあがって数歩その場を離れてると、今度は哲夫と呼ばれた男が光志の前に膝をついた。
「はあ……はあ……こいつ、は……何か病気、なのか?」
「安心しろ。アンタも美奈穂ちゃんも病気なんかじゃねえ。すぐ楽になる。それより……良かったな」
(……よか、った?)
良晴の口から飛び出した医務室という言葉に、不安を募らせた光志は、眉をひそめ不安げな表情を浮かべる。そして、息苦しさを堪えて、普段ならあり得ない程の弱々しい声を発した。
すると、質問を投げかけられた哲夫は、二ッと白い歯を見せた笑顔を浮かべる。
質問に返答があったこと、そして彼が口にした病気じゃないという言葉に、無意識にホッとする。
ホッとしたはずなのに、最後に聞こえた“良かった”という言葉が示す意味が理解出来ないと、光志の中で新たな謎が増えた。
「もしもし、相楽さんですか? 須藤良晴です。大至急、相楽さんを含めた二、三名で別館へ来てください」
光志と哲夫が床に膝をついてやりとりをしている間、メガネをかけた男はどこかに電話をかけ、誰かと話し始めた。
別館に来て欲しい。部屋は三〇八号室の前。
そんな言葉が、かすかに聞こえてくる。
また人が増えるのかと思うと、光志の中で苛立ちが増幅する。
とは言うものの、どうして自分はこんなに苛立っているのか、その理由がわからない彼は、心の中で首を傾げるしかない。
「三〇八に泊まることになった藤沢さんと、臨時で来てくれた美奈穂さんが……」
「ほら兄ちゃん。美奈穂ちゃんのことは俺に任せて、アンタも医務室行こうぜ」
息苦しさの中で、だんだんとメガネ男の声が遠のいていく。
今にも途切れそうになる意識を繋ぎとめているのは、光志の膝の上に横たわる彼女の温もり。
男達を見上げていたはずの視線はいつの間にか下がり、気づけば起きる気配すら無い美奈穂と呼ばれる女の寝顔を見つめていた。
出来ることなら、その綺麗な顔をもっと見たい。
邪魔をする男達など居ない、二人きりになれる場所で。
そんな欲に塗れた想いを抱く光志。
すると次の瞬間、美しい寝顔を映していた彼の視界に、太い男の腕が映り込む。
その腕が向かう先、指先が美奈穂の身体へ近づいていると理解した途端、瞬時にかすんでいたはずの視界がクリアになった。そして、身体の奥から湧き上がった熱い血液が全身を駆け巡り、体を熱くさせる。
「こいつに触るなあああ!」
「っ!?」
息苦しさに負け、さっきまでか細い声しか出なかった光志の口から、感情に任せた怒号が飛び出す。
そして彼は、自分以外の者から美奈穂を守るように、眠る彼女を抱き起し、その華奢な身体を精一杯掻き抱いた。
中途半端に差し出した腕をそのままに唖然とこちらを見つめる哲夫。
そんな男を鋭く睨みつけるのは、ふう、ふうと荒い息遣いの光志。
美奈穂に触れようと手を差し出しただけで、哲夫はすっかり光志の中で敵と見なされてしまった。
今光志の頭の中にある意識は、自分が抱きしめている存在を守る。
ただそれだけだった。
(あ、やば……)
「……っ!」
「お、おいっ!」
しかし、使命感溢れる願いは、すぐに叶わなくなった。
ただでさえ普通の健康状態ではないにも関わらず、いきなり感情を昂らせ、思いのままに叫び声を荒げた結果、先に彼の身体が悲鳴をあげた。
本格的にブラックアウトしていく意識のなかで、光志は必死に腕の中にいる美奈穂を守ろうと彼女のぬくもりに身体を寄せる。
「今の叫び声、聞きましたよね? もうこれ、確定で間違いないでしょう?」
完全に意識が途切れる寸前、遠くからメガネ男の声が薄っすら聞こえた気がした。
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