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本編
第49話★
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寝室のベッドと、リビングのソファーとテーブル、そして冷蔵庫に洗濯機など、一通りの家具や電化製品は揃っている。
その気になれば、このまま住めそうな程快適な空間は、内見に来た時とあまり変わらない。
あの時と唯一違う点は、電気やガス、水道が通っているくらいだろう。
『今回のように急遽部屋を使う場合や、内見後すぐに住むって流れになった時のために、一応最低限の家具は、空き部屋にいつも揃えてるんです。実際住むことになった時、大体皆さんは自分たちで家具を買いますから、今ここにある家財は政府で引き取るんですよ』
数時間前のタブレットの画面越しにわかりやすく説明する志郎を夢に見ながら、美奈穂は光志の腕の中でスヤスヤと寝息を立てた。
イチャイチャしろ、と言われたところで、実際何をすればいいのか。
美奈穂は最初疑問しか湧かなかったものの、一晩明けてみれば、さほど問題は無さそうに思えた。
「光志さっ、そこ、やっ……あぅ!」
光志に背後から抱きすくめられた美奈穂は、蜜壺を出入りする光志の太い指が生み出す快感に、何度目かわからない嬌声をあげる。
「こっちか?」
ビクビク身体を震わせる恋人の言葉に、背後から真っ赤に染まった顔を覗き込んだ光志は、差し込んだ指先をクイっと曲げ、これまでと違う箇所に刺激を与える。
「ひゃああっ!」
指先は偶然にも美奈穂のイイ所を刺激した様で、ビクビクと身体を震わせた彼女は、もう何度目かわからない絶頂を味わった。
事前に用意されていた大量のシーツは、何度新しいものと取り換えても瞬く間に汚れていく。
その理由は、美奈穂たちが過ごす場所の大半がベッドの上だからだろう。
お泊り二日目の朝、目覚めた美奈穂がまず行ったのは、汗と精液、そして愛液で汚れたシーツの洗濯だった。
恥ずかしさで止まりそうになる手を懸命に動かし、光志にも手伝ってもらい洗濯とシーツ交換を終えたのだ。
そこからは、シャワーを浴びたり、食事を作って食べたりと、普段の休日とさほど変わらない。
だけど、気がつくといつも光志に口づけられ、いつの間にかベッドの上にいる。
光志が熱烈に自分を求めてくれている。それは、恥ずかしさと同時に嬉しいさを美奈穂に与えてくれた。
そのため、ささやかな抵抗こそするものの、光志が自分に触れようとする手を、本気で跳ねのけたりはしない。
自分だって光志に触れたいと、ぎこちなく手を、舌をのばすと、美奈穂の行動を褒めるように小さく喉を鳴らして笑う声が聞こえる。
その音がとても心地よいと思えた。
美奈穂たちは、必要最低限の家事と、食事、そして入浴に割く時間以外の大半を、相手を求めることに費やした。
光志が面白がって、美奈穂の全身を舐めあげようとすれば、美奈穂も負けじと光志の身体を舐めまわす。
その最中、光志が一際入念に美奈穂の秘部を舐め、蜜壺に舌先を挿入れ愛撫してくる。
あまりの強い刺激に達した美奈穂は、乱れた呼吸を整えながら反撃に出た。
彼女の乱れた姿に興奮し、すっかり勃起した光志の昂りに、彼女はまた恐る恐る舌を這わせはじめた。
「んっ! はぁ……まさか、二回もフェラしてくれるなんて、な……あっ」
恥ずかしさをこらえ、チロチロと先端を舐める美奈穂の耳に息が上がりだした光志の声が聞こえる。
「……?」
フェラの意味がわからず、一旦舐めるのをやめて顔を上げると、頬を上気させ自分を見下ろす恋人の顔が見えた。
「今、俺の舐めてんだろ? それがフェラだ。この硬くなったのを、グチョグチョにした美奈穂のナカに今すぐ入れてえ……はぁ」
光志の口から、艶のある熱い吐息と一緒に言葉が吐き出される。
それを聞いた瞬間、蜜壺から愛液が溢れる感覚に気づき、美奈穂は無意識に太ももをこすり合わせた。
「ハハッ、腰揺れてるぞ。欲しいか? 俺の……」
俺の、と言った後に何も言葉を続けず、光志はただ熱い視線を美奈穂へ向ける。
恋人の眼差しに耐え切れなくなった美奈穂は、俯いた勢いでパクリと目の前にある昂りを口に含んだ。
そのままクチュクチュと、不慣れなりに一生懸命舌で愛撫を始めると、まるで誘うようにスルリとお尻から腰にかけてのラインを大きな手で撫でられる。
肌を愛撫する光志の手に対抗し、昂りを舐める舌の動きは、次第に大胆になっていった。
「美奈穂がまだ怖いなら、昨日みたいに抜き合うだけにする。本番、するなら……ちゃんと、あっ、避妊するし……はぁ……お前が痛くないように、頑張る、から」
そのせいか、頭上から聞こえてくる声は時々上擦り、呻き声が混ざりだす。
光志にも段々余裕が無くなっていることを示す声に、美奈穂の心は大きく揺れた。
次第にビクビクと口内で震える爆発寸前のそれが、余計に愛おしくなる。
(もっと……ほしい……)
光志のことや、自分が今咥えているもののことを考えるだけで、じれったい快感が全身をかけていく。
はしたないと、かすかに残る理性が叫び声をあげるが、その声はすでに美奈穂には響いていなかった。
目じりを下げ、無意識に目を細めながら、咥えていたモノからゆっくり口を離す。
「ん……ぁ……ッ」
すると、溜まった唾液と、舐めとった先走りが混ざって、中途半端に開いた唇同士をつなぐ糸に変わった。
「はぁ……エロい顔。そんな顔、ぜってぇ誰にも見せんなよ。俺にだけ、見せろ」
数分ぶりに新鮮な空気を吸い込む美奈穂の扇情的な表情に、ずっと彼女へ熱い視線を送っていた光志の目つきが一気にギラつく。
かすかに苛立ちがまざった声が聞こえると、次の瞬間全身が震えるような喜びに包まれた。
美奈穂は、そのまま無意識に両腕を伸ばし、光志の首に抱きつく。
「……っ、たしが欲しいのは、こーじさん……だけでしゅ。こーじさん、して、ください」
小さな口には不釣り合いすぎる昂りをしゃぶっていたせいか、思うように声が出ない。
それでも美奈穂は、途切れに、時々舌ったらずな声で精一杯に続きを強請る。
震える唇を、すぐそばにある恋人のそれに重ねると、すぐに熱い舌が割り込んできた。
それから光志は、約束を守るように美奈穂と身体を重ねた。
終始優しく、ガラス細工に触れるかのような優しい手つきはどこまでも甘く、そしてくすぐったい。
昨夜からおよそ一日。散々恋人によってドロドロにとかされた美奈穂の蜜壺は、初めてとは思えない程スムーズに光志の熱を受け入れた。
「はあ、はあ、は、美奈穂……あっ、気持ち、いいか?」
「あっあっ、あぁ! もち、いい……ああん」
勢いを殺しながら、美奈穂を責め立てる声に本能にも近い返事をし、襲い来る快感に喘ぐ。
ベッドに寝かされ、シーツと背中が擦れる刺激すら気持ちいい。
その感覚に、ふと頭の片隅で以前バイト中に聞いた言葉が蘇った。
運命の番は、心の相性、身体の相性……そのすべてにおいて、まさにパーフェクトな存在と言えるでしょう。
あの時聞いた言葉は、まさにこのことだったのか。
到底入るわけがないと思っていた光志の昂りを、割とすんなり受け入れられたことに驚いたのは他ならぬ美奈穂自身。
だけどその衝撃は、愛しい恋人に求められる快感に溺れ、徐々に薄れていった。
そして最後には、もうすぐそばにある熱のことしか考えられなくなった。
熱く勃起した昂りを、美奈穂の中に馴染ませるように動く。
光志の動きに、最初は快感を拾うことで精一杯だったが、慣れてくるとだんだん物足りなさを感じるようになった。
そのせいか無意識に腰が揺れ、美奈穂は強請るように恋人を誘う。
彼女の行動にすぐ気づいた光志は、ククッと喉を鳴らして笑うと、グッと身体を前方へ倒し、美奈穂の耳元へ口を寄せる。
「そんなに俺が欲しいか?」
「ほ、しい、です……こ、じさん……ほしい」
「ん……俺も美奈穂が欲しい。お前の全部、俺にくれ」
――俺のすべても、お前だけにくれてやるから。
間近で言葉を交わす二人。その瞳にお互いを映した瞬間、美奈穂が何か言葉を返すよりも先に唇が重なる。
それはまるで、相手が吐き出す息さえ逃さないとばかりの熱烈な口づけ。
互いの背中に両腕を回し、目の前にある身体を力いっぱい抱きしめながら求めあった二人は、これまでで一番の幸福を感じ、ほとんど同時に果てていった。
美奈穂と光志がマンションで濃密な三日間を過ごしてから、およそ一か月後。
早朝、あの時と同じ部屋の玄関で、二人は向き合うように立っていた。
「それじゃあ、行ってくる。スケジュール通りなら、帰りは予定通りだと思うけど……何かあったら連絡入れるから」
「はい、わかりました」
玄関先で靴を履く光志の言葉に、エプロン姿の美奈穂が頷く。
光志が靴を履き終え体勢を元に戻すと、美奈穂はあることに気づき「光志さん、ちょっとしゃがんでください」とお願いを口にする。
「……? どうした?」
突然の言葉にキョトンと首を傾げた光志が、言われるまま姿勢を低くする。
その首元に両手をのばした美奈穂は、インナーの襟元から飛び出したドッグタグを服の中へ隠すようにしまった。
「タグが出てましたよ。光志さん、これ見られるのあまり好きじゃないでしょう?」
「サンキュ。ただのアクセサリーって説明しても、どこで買っただの、自分も欲しいだの言われるからな。めんどくせーのなんの」
クスクスと笑う美奈穂の指摘に、光志の口からため息が零れる。
指摘した美奈穂の首元にも、まだ装飾用の石が入っていないタグがぶら下がっている。
一か月前、志郎たちの計らいによってひと時の逢瀬をした二人は、その後本格的に同棲の準備を始め、十日ほど前からこのマンションで暮らしだした。
まだ慣れないことだれけだが、毎日愛しい恋人と過ごせるこの家を、美奈穂はとても気に入っている。
今日は朝早くから打ち合わせがある光志を美奈穂が見送り、少しして美奈穂も仕事へ出かける予定だ。
「無理しないで、休む時はちゃんと休むんだぞ。んっ」
「……んっ」
まだ体力が戻り切っていない美奈穂を心配し声をかけた光志は、すぐに彼女の細い腰を抱き寄せ口をふさぐ。
流れるような仕草に驚き、ピクっと肩を震わせた美奈穂は、ゆっくり目を細めながら自分より太い首に両腕を回した。
その後、離れたくない思いを押し殺しながら、何度も手を振り合って美奈穂は一足先に出かけていく光志を見送る。
恋人を見送ろうと振り続ける彼女の細い右手薬指には、光志から贈られた指輪がきらりと輝いていた。
タグの石入れも行っている店で注文し、数日前に出来上がったばかりのそれは、宝石が三種類埋め込まれたオーダーメイド品だ。
パールの石言葉は、長寿と健康。
ダイヤモンドの石言葉は、変わらぬ愛。
ラピスラズリの石言葉は、永遠の誓い。
最愛の人が三つの石を選んだ理由を、美奈穂はまだ知らず、これからもしばらく気付かないままかもしれない。
おわり
その気になれば、このまま住めそうな程快適な空間は、内見に来た時とあまり変わらない。
あの時と唯一違う点は、電気やガス、水道が通っているくらいだろう。
『今回のように急遽部屋を使う場合や、内見後すぐに住むって流れになった時のために、一応最低限の家具は、空き部屋にいつも揃えてるんです。実際住むことになった時、大体皆さんは自分たちで家具を買いますから、今ここにある家財は政府で引き取るんですよ』
数時間前のタブレットの画面越しにわかりやすく説明する志郎を夢に見ながら、美奈穂は光志の腕の中でスヤスヤと寝息を立てた。
イチャイチャしろ、と言われたところで、実際何をすればいいのか。
美奈穂は最初疑問しか湧かなかったものの、一晩明けてみれば、さほど問題は無さそうに思えた。
「光志さっ、そこ、やっ……あぅ!」
光志に背後から抱きすくめられた美奈穂は、蜜壺を出入りする光志の太い指が生み出す快感に、何度目かわからない嬌声をあげる。
「こっちか?」
ビクビク身体を震わせる恋人の言葉に、背後から真っ赤に染まった顔を覗き込んだ光志は、差し込んだ指先をクイっと曲げ、これまでと違う箇所に刺激を与える。
「ひゃああっ!」
指先は偶然にも美奈穂のイイ所を刺激した様で、ビクビクと身体を震わせた彼女は、もう何度目かわからない絶頂を味わった。
事前に用意されていた大量のシーツは、何度新しいものと取り換えても瞬く間に汚れていく。
その理由は、美奈穂たちが過ごす場所の大半がベッドの上だからだろう。
お泊り二日目の朝、目覚めた美奈穂がまず行ったのは、汗と精液、そして愛液で汚れたシーツの洗濯だった。
恥ずかしさで止まりそうになる手を懸命に動かし、光志にも手伝ってもらい洗濯とシーツ交換を終えたのだ。
そこからは、シャワーを浴びたり、食事を作って食べたりと、普段の休日とさほど変わらない。
だけど、気がつくといつも光志に口づけられ、いつの間にかベッドの上にいる。
光志が熱烈に自分を求めてくれている。それは、恥ずかしさと同時に嬉しいさを美奈穂に与えてくれた。
そのため、ささやかな抵抗こそするものの、光志が自分に触れようとする手を、本気で跳ねのけたりはしない。
自分だって光志に触れたいと、ぎこちなく手を、舌をのばすと、美奈穂の行動を褒めるように小さく喉を鳴らして笑う声が聞こえる。
その音がとても心地よいと思えた。
美奈穂たちは、必要最低限の家事と、食事、そして入浴に割く時間以外の大半を、相手を求めることに費やした。
光志が面白がって、美奈穂の全身を舐めあげようとすれば、美奈穂も負けじと光志の身体を舐めまわす。
その最中、光志が一際入念に美奈穂の秘部を舐め、蜜壺に舌先を挿入れ愛撫してくる。
あまりの強い刺激に達した美奈穂は、乱れた呼吸を整えながら反撃に出た。
彼女の乱れた姿に興奮し、すっかり勃起した光志の昂りに、彼女はまた恐る恐る舌を這わせはじめた。
「んっ! はぁ……まさか、二回もフェラしてくれるなんて、な……あっ」
恥ずかしさをこらえ、チロチロと先端を舐める美奈穂の耳に息が上がりだした光志の声が聞こえる。
「……?」
フェラの意味がわからず、一旦舐めるのをやめて顔を上げると、頬を上気させ自分を見下ろす恋人の顔が見えた。
「今、俺の舐めてんだろ? それがフェラだ。この硬くなったのを、グチョグチョにした美奈穂のナカに今すぐ入れてえ……はぁ」
光志の口から、艶のある熱い吐息と一緒に言葉が吐き出される。
それを聞いた瞬間、蜜壺から愛液が溢れる感覚に気づき、美奈穂は無意識に太ももをこすり合わせた。
「ハハッ、腰揺れてるぞ。欲しいか? 俺の……」
俺の、と言った後に何も言葉を続けず、光志はただ熱い視線を美奈穂へ向ける。
恋人の眼差しに耐え切れなくなった美奈穂は、俯いた勢いでパクリと目の前にある昂りを口に含んだ。
そのままクチュクチュと、不慣れなりに一生懸命舌で愛撫を始めると、まるで誘うようにスルリとお尻から腰にかけてのラインを大きな手で撫でられる。
肌を愛撫する光志の手に対抗し、昂りを舐める舌の動きは、次第に大胆になっていった。
「美奈穂がまだ怖いなら、昨日みたいに抜き合うだけにする。本番、するなら……ちゃんと、あっ、避妊するし……はぁ……お前が痛くないように、頑張る、から」
そのせいか、頭上から聞こえてくる声は時々上擦り、呻き声が混ざりだす。
光志にも段々余裕が無くなっていることを示す声に、美奈穂の心は大きく揺れた。
次第にビクビクと口内で震える爆発寸前のそれが、余計に愛おしくなる。
(もっと……ほしい……)
光志のことや、自分が今咥えているもののことを考えるだけで、じれったい快感が全身をかけていく。
はしたないと、かすかに残る理性が叫び声をあげるが、その声はすでに美奈穂には響いていなかった。
目じりを下げ、無意識に目を細めながら、咥えていたモノからゆっくり口を離す。
「ん……ぁ……ッ」
すると、溜まった唾液と、舐めとった先走りが混ざって、中途半端に開いた唇同士をつなぐ糸に変わった。
「はぁ……エロい顔。そんな顔、ぜってぇ誰にも見せんなよ。俺にだけ、見せろ」
数分ぶりに新鮮な空気を吸い込む美奈穂の扇情的な表情に、ずっと彼女へ熱い視線を送っていた光志の目つきが一気にギラつく。
かすかに苛立ちがまざった声が聞こえると、次の瞬間全身が震えるような喜びに包まれた。
美奈穂は、そのまま無意識に両腕を伸ばし、光志の首に抱きつく。
「……っ、たしが欲しいのは、こーじさん……だけでしゅ。こーじさん、して、ください」
小さな口には不釣り合いすぎる昂りをしゃぶっていたせいか、思うように声が出ない。
それでも美奈穂は、途切れに、時々舌ったらずな声で精一杯に続きを強請る。
震える唇を、すぐそばにある恋人のそれに重ねると、すぐに熱い舌が割り込んできた。
それから光志は、約束を守るように美奈穂と身体を重ねた。
終始優しく、ガラス細工に触れるかのような優しい手つきはどこまでも甘く、そしてくすぐったい。
昨夜からおよそ一日。散々恋人によってドロドロにとかされた美奈穂の蜜壺は、初めてとは思えない程スムーズに光志の熱を受け入れた。
「はあ、はあ、は、美奈穂……あっ、気持ち、いいか?」
「あっあっ、あぁ! もち、いい……ああん」
勢いを殺しながら、美奈穂を責め立てる声に本能にも近い返事をし、襲い来る快感に喘ぐ。
ベッドに寝かされ、シーツと背中が擦れる刺激すら気持ちいい。
その感覚に、ふと頭の片隅で以前バイト中に聞いた言葉が蘇った。
運命の番は、心の相性、身体の相性……そのすべてにおいて、まさにパーフェクトな存在と言えるでしょう。
あの時聞いた言葉は、まさにこのことだったのか。
到底入るわけがないと思っていた光志の昂りを、割とすんなり受け入れられたことに驚いたのは他ならぬ美奈穂自身。
だけどその衝撃は、愛しい恋人に求められる快感に溺れ、徐々に薄れていった。
そして最後には、もうすぐそばにある熱のことしか考えられなくなった。
熱く勃起した昂りを、美奈穂の中に馴染ませるように動く。
光志の動きに、最初は快感を拾うことで精一杯だったが、慣れてくるとだんだん物足りなさを感じるようになった。
そのせいか無意識に腰が揺れ、美奈穂は強請るように恋人を誘う。
彼女の行動にすぐ気づいた光志は、ククッと喉を鳴らして笑うと、グッと身体を前方へ倒し、美奈穂の耳元へ口を寄せる。
「そんなに俺が欲しいか?」
「ほ、しい、です……こ、じさん……ほしい」
「ん……俺も美奈穂が欲しい。お前の全部、俺にくれ」
――俺のすべても、お前だけにくれてやるから。
間近で言葉を交わす二人。その瞳にお互いを映した瞬間、美奈穂が何か言葉を返すよりも先に唇が重なる。
それはまるで、相手が吐き出す息さえ逃さないとばかりの熱烈な口づけ。
互いの背中に両腕を回し、目の前にある身体を力いっぱい抱きしめながら求めあった二人は、これまでで一番の幸福を感じ、ほとんど同時に果てていった。
美奈穂と光志がマンションで濃密な三日間を過ごしてから、およそ一か月後。
早朝、あの時と同じ部屋の玄関で、二人は向き合うように立っていた。
「それじゃあ、行ってくる。スケジュール通りなら、帰りは予定通りだと思うけど……何かあったら連絡入れるから」
「はい、わかりました」
玄関先で靴を履く光志の言葉に、エプロン姿の美奈穂が頷く。
光志が靴を履き終え体勢を元に戻すと、美奈穂はあることに気づき「光志さん、ちょっとしゃがんでください」とお願いを口にする。
「……? どうした?」
突然の言葉にキョトンと首を傾げた光志が、言われるまま姿勢を低くする。
その首元に両手をのばした美奈穂は、インナーの襟元から飛び出したドッグタグを服の中へ隠すようにしまった。
「タグが出てましたよ。光志さん、これ見られるのあまり好きじゃないでしょう?」
「サンキュ。ただのアクセサリーって説明しても、どこで買っただの、自分も欲しいだの言われるからな。めんどくせーのなんの」
クスクスと笑う美奈穂の指摘に、光志の口からため息が零れる。
指摘した美奈穂の首元にも、まだ装飾用の石が入っていないタグがぶら下がっている。
一か月前、志郎たちの計らいによってひと時の逢瀬をした二人は、その後本格的に同棲の準備を始め、十日ほど前からこのマンションで暮らしだした。
まだ慣れないことだれけだが、毎日愛しい恋人と過ごせるこの家を、美奈穂はとても気に入っている。
今日は朝早くから打ち合わせがある光志を美奈穂が見送り、少しして美奈穂も仕事へ出かける予定だ。
「無理しないで、休む時はちゃんと休むんだぞ。んっ」
「……んっ」
まだ体力が戻り切っていない美奈穂を心配し声をかけた光志は、すぐに彼女の細い腰を抱き寄せ口をふさぐ。
流れるような仕草に驚き、ピクっと肩を震わせた美奈穂は、ゆっくり目を細めながら自分より太い首に両腕を回した。
その後、離れたくない思いを押し殺しながら、何度も手を振り合って美奈穂は一足先に出かけていく光志を見送る。
恋人を見送ろうと振り続ける彼女の細い右手薬指には、光志から贈られた指輪がきらりと輝いていた。
タグの石入れも行っている店で注文し、数日前に出来上がったばかりのそれは、宝石が三種類埋め込まれたオーダーメイド品だ。
パールの石言葉は、長寿と健康。
ダイヤモンドの石言葉は、変わらぬ愛。
ラピスラズリの石言葉は、永遠の誓い。
最愛の人が三つの石を選んだ理由を、美奈穂はまだ知らず、これからもしばらく気付かないままかもしれない。
おわり
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