怪しい高額バイトをしていたら、運命のつがいに出会いました

雪宮凛

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本編

第30話★

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「もう少ししたら、おにぎりでも作ってもらって、また来るよ。今度は千草さんも一緒に」

 また来ると言い残した志郎を見送ってから三十分くらい経った頃。
 おにぎりと軽くつまめるおかずが乗ったトレーを手に、彼は千草と一緒に戻ってきた。
 美奈穂の体調チェックと軽い聞き取りをするからと、すぐに光志と志郎は部屋の外に追い出される。

「美奈穂ちゃん。今後、怖い夢を見た時は、我慢せず誰かに愚痴るのよ。起きている時も、今日のことがフラッシュバックする可能性がゼロじゃないから、すぐ誰かに相談すること。藤沢くんに言いづらい時は、女性スタッフの誰かでもいいからね」

「うっ……は、はい」

(千草さん、エスパーみたいだな)

 先手を打たれ続けた美奈穂は、話が終わる頃にはすっかりグウの音も出なくなっていた。
 すべてを見通した千草の笑顔には、どうしても逆らえない。
 そのことに気づいたのは、千草が光志たちを呼び戻した後だった。



 仕事のことは気にせず、今日はもうゆっくりして構わない。そう言って出ていく二人を見送った後、光志と一緒におにぎりへ手をのばす。

「そう言えば……マネージャーさんへの電話、どうでした? オッケー貰えましたか?」

 しばらくは、お互いに無言で食事をしていたものの、あまり食欲がわかない美奈穂は、気を紛らわそうと、ソファーに並んで座る光志の方を向く。
 ごみ置き小屋での件について話を振ってこないのは、きっと彼なりの気遣い。
 そう考えた美奈穂は、聞くチャンスを逃していた話題を口にした。

「ん? ああ……それに関しては即オッケーだったんだけど……」

「……?」

 食べかけのおにぎりを口に放り込んだ彼の返事は、何故か歯切れが悪い。その様子に美奈穂が首を傾げると、眉間に皺を寄せた光志がまた口を開く。

「そのマネージャーも……多分ここで番を見つけたっぽい。今の奥さん」

「えっ!?」

 次の瞬間聞こえて来た言葉は、美奈穂の心に残っていた嫌なザラつきをほんの少し消し去ってくれた。





 夕食を食べ終わり、食器は洗面所で軽く水洗いをしておく。明日の朝、美奈穂が調理場へ行く時に持って行けば大丈夫なはずだ。

『俺がササッと調理場行って返してくるぞ?』

 なんて光志は言ってくれたけど、すぐに首を横に振る。
 部屋へ戻ってくる時、野次馬っぽい好奇心まみれな声を聞いた。もし今、彼が部屋の外へ出て参加者と鉢合わせしたらと思うと、素直に頷けない。

 その後は、二人揃って騒動には触れず他愛もない話をしながら過ごした。
 順番にお風呂へ入った後も、ソファーに座って話を続ける。
 光志と話すほど、恐怖で棘だらけになった心がゆっくり治っていく気がした。

『今日は早めに寝ような』

 そして、ほほ笑む恋人の言葉に、美奈穂は素直に頷いた、はずなのに――。



「ん、は……ふぁっ」

「んん、ふ……クスッ、可愛い」

 楽しいお喋りを始めてから数十分後、二人はソファーではなくベッドの上に居た。
 眠る様子はまったく無く、美奈穂は光志が着ているTシャツを、光志は美奈穂のパジャマを掴み抱き合っている。
 口内を蹂躙する光志の熱い舌の動きに戸惑う美奈穂。その姿すら可愛いと、光志は満足そうに笑った。

「ひゃあっ!」

 執拗に口内をねぶっていた舌が離れていき、ようやく息が吸えることに美奈穂はホッと息を吐く。
 だけどそれも束の間。光志の舌が新しい標的を定めてしまった。美奈穂の首筋や耳たぶ、そして胸元を這う舌の予測不可能な動きに、甘く戸惑う声がいくつも零れていく。

 普通に会話をしていたはずが、いつの間にか相手の指や手に触れたり、じゃれ合うようになっていた。
 触れ合いは次第にエスカレートし、啄むようなキスから濃厚なキスへ、そして光志は美奈穂が知らない新たなステップを教えてくれた。

 ソファーの上じゃ、いつずり落ちるかわからないと、言われるままベッドへ移動してから一体どれくらい時間が経ったか。
 今の美奈穂にとって、そんな些細なことを気にする余裕は無い。
 目の前にいる恋人、そして彼が与えてくれる熱と未知の快感を、必死に受け入れるのだけで精一杯だった。



 舌だけではおさまらず、時折指でくすぐるような愛撫も加わっていく。
 与えられる刺激に、美奈穂の息はすっかり上がり、気づけば一人ベッドの上に横たわっていた。

「光志さ、やっ! はずかし、あぁっ!」

「んんっ。恥ずかしがらなくて大丈夫だ、今の美奈穂はいつも以上に綺麗だ」

 いつの間にか照明が落とされ、ベッドサイドに置かれた淡い明かりを漏らす照明だけが二人を照らす。
 光志からのキスや、愛撫にばかり気を取られていた美奈穂は、恋人の前に素肌をさらけ出していると気づき、一気に顔が熱くなる。
 反対に、美奈穂の気を逸らしながら服を脱がせた光志自身は、服を着たままだ。

「私、ばっか……ひゃああっ」

 何度目かわからない文句を口にすると、視界から消えた光志が返答の代わりに強い快感を与えてくる。
 丁度太ももの間、身体の中心から全身へ駆け抜ける甘く強い刺激に襲われた美奈穂は、必死にシーツを握りしめ未知の感覚に震えた。

「ん、ふ……美奈穂のここ、舐めても舐めても溢れてくる。気持ちいいか? ん?」

「ふぁ、や……光志さ、そこ、駄目。おかしく、なっちゃう」

 愛する人から念入りな愛撫を受けたせいか、美奈穂の蜜口からは絶えず愛蜜が溢れ出す。
 それをすする光志はとても満足そうなのに対して、状況を理解しきれない美奈穂は戸惑ってばかりだ。

「おかしくなっていいぜ? おかしくなって……今日の記憶塗り替えろよ。あんなこと、思い出せないくらい、俺のことだけ見て、俺のことだけ考えて……今日の記憶は全部、俺との楽しい思い出だけだ」

 太ももの間に顔を埋めていた光志が、不意に顔をあげ真っ直ぐこっちを見つめてくる。
 小さな明かりでぼんやりとしか見えない視界。
 そんな美奈穂の瞳に映るのは、薄暗い室内に浮かび上がる恋人の姿。

「……っ!」

 口の周りについた蜜を美味しそうに舐めとり、愛おしそうにギラついた目線を向けてくる彼の姿に、心臓が大きく高鳴るのがわかった。
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