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本編
第19話
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「二人とも、まだ寝ていたらどうするんですか。やっぱりここは、書置きを扉の隙間から部屋の中へ入れた方が……」
「良晴は本当に心配性なんだから」
「美奈穂ちゃんは寝ていても、流石に藤沢さんは起きてると思うんだけど……」
「美奈穂ちゃん達が参加者連中に気づかれず移動するんなら、あと少ししか無いだろ」
慎重にドアを開けた先で見かけたのは、美奈穂の予想に反する面々。
医務室で目覚めた時にその場にいた須藤夫妻と下野夫妻の四人だった。
「…………」
現在進行形で多忙を極めるメンバーが、何故こんなところに。
美奈穂は驚きを隠せず、ポカンと言い争う彼らを見つめるしかない。
そんななか、彼女が部屋から顔を出したことにいち早く気づいたのは、スタッフ達の頼れるリーダー良晴だった。
彼が一言おはようございますとほほ笑んだので、美奈穂も慌てて挨拶を返す。
すると、リーダーに続けと他の三人も笑顔で挨拶を口にし、美奈穂ももう三回ペコペコと頭を下げた。
「皆さん、どうしてここにいるんですか? 今、朝ごはんの配膳中ですよね?」
「そうなんですけど……少しばかり抜け出してきました。美奈穂さんは……」
「美奈穂ちゃん! 朝ごはん、食べられそう?」
ひと通り挨拶を終えた後、改めて首を傾げると、穏やかな口調の良晴が口を開く。
だけど、ゆったりとした彼の言葉を遮るように、突如、妻の亜沙美が明るさ全開で割り込んできた。
慌てて彼女の方を向けば、視界の端に、あからさまなため息をつく良晴の姿が映り込む。
(良晴さん……怒ったりしないんだ)
話に割り込まれたというのに、良晴は妻の行動には声を荒げず、一度だけ亜沙美の頭頂部をペシリと叩き注意するだけ。
その行動に不満そうな顔をする亜沙美。だけど、二人の間には確かな信頼関係があることがはたから見てもよくわかった。
「美奈穂ちゃんの体調さえ良ければ、もう少ししたら一緒にご飯を……と思って誘いに来たんだけど。どう? 少しは食べられそう?」
若干二人の世界に入りかけた良晴たちの言葉を引き継ぐように、今度は美智子さんが話しかけてくる。
妻の言葉に続き「なんか食べたいもんがあったら、作ってやるって皆言ってるぜ」と哲夫さんが笑った。
「私も、皆さんと一緒に食べられたらと思っていました。メニューは同じもので大丈夫です。ご飯を食べた後から、お昼の仕込みに参加しようと思ってたんですけど……いいですか?」
「それはもちろん大歓迎だけど……体調の方は本当に大丈夫? 無理そうなら、休んだっていいんだよ?」
こっちの要望を伝えれば、その言葉に美智子は笑顔で頷いてくれた。
だけど彼女はすぐ眉を下げ、心配そうに美奈穂の顔を覗き込む。
美奈穂の様子を気に掛けるのは彼女だけにとどまらず、気づけば先輩四人の視線が自分へ集中していた。
昨日から色んな人にたくさん迷惑をかけている。その事実が、不意に美奈穂の肩に重く圧し掛かっていく。
その重みに耐えかね、口からはつい謝罪の言葉が飛び出しそうになる。
だけど次の瞬間、頭頂部に新たな重みを感じた彼女は、無意識に目線を頭上へ向けた。
「朝っぱらから、人の部屋の前に集まって何やってるんすか。あんたら……」
頭の上なんて、自分じゃ確認出来ない。そのことに気づいたのは、目線を上げた後。
でも、背後から感じた熱と、頭上から降り注ぐ声がすぐに重みの正体を教えてくれる。
「……っ」
モゾモゾと身動ぎして後ろを振り向けば、濡れた頭にタオルを被せ、上半身裸な光志がすぐ目の前にたたずんでいた。
「光志、さん……もう、お風呂はいいんですか?」
「ん? ああ、うん。風呂場出たら、部屋に美奈穂が居ないからびっくりした。そんで……須藤さん達は、朝っぱらから何の用っすか?」
美奈穂が声をかけると、すぐそばに居た光志が一歩後退する。
そのまま、彼はガシガシと自分の頭をタオルで拭きながら、美奈穂と、そして彼女の後ろにいるスタッフ達へ視線を向けた。
堂々と立ち振る舞い、そして上半身を躊躇なくみんなの前で晒す彼とは対照的に、美奈穂は困惑するばかり。
こんなに間近で誰かの裸を見るなんて、きっと子供の時以来だろう。
しかも相手は異性。目のやり場に困りはてた彼女は、目元を覆いながら俯くことしか出来ない。
「お二人を朝食に誘おうと思って来ました。……っと。それより藤沢さん、いくら番になった女性の前と言っても、美奈穂さん相手に素肌を晒すのは、いかがなものかと思いますよ?」
両手で顔を覆うと、背後から苦笑混じりな良晴の声が聞こえる。
「ああ、そろそろ飯の時間か。……そんな事言ったって、あっちいんだから仕方な……ん?」
彼の声に応えるように、今度は前方から光志が反応する。どこか気怠い雰囲気を纏った声に気づくと、不意に彼の声が止んだ。
何かあったのかと思い、顔を上げようとした美奈穂。すると突然つむじ部分をグイグイと指で誰かに突かれた。
「美奈穂、何俺の裸見て興奮してんだよ」
「こっ!? そんなことしてません!」
この状況でこんな悪戯をする人なんて、光志以外あり得ない。美奈穂は確信めいた気持ちを抱く。
からかうような光志の声が頭上から降り注ぎ、確信が当たった事実に背中を押され思わず顔をあげ反論を口にする。
だけど、顔をあげた途端、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる彼と目が合った。
その様子に、自分がからかわれていると悟った美奈穂は、すぐさま俯き、より一層熱くなる頬に戸惑う。
目を覚ましてから。いやきっと、自分が目覚める前から、光志は自分の言葉に慌てふためく美奈穂を見て楽しんでいるに違いない。
美奈穂の方は、こんなにドキドキして、困惑ばかりが襲ってくるというのに。不公平にもほどがある。
そんな余裕綽々な彼の態度が次第に憎らしくなってくると、今まで顔を覆っていた手を外した彼女は、火照って赤くなった顔をあげ、精一杯光志を睨みつける。
「そんな可愛い顔で睨むな。……マジで理性吹っ飛びそうになるから」
「ふぇっ!?」
すると光志は、最初こそ余裕のある笑みを浮かべていたものの、何故か急に視線を逸らしだす。かと思えば、急に声量を落とし、ボソボソと独り言を呟き始めた。
本人は隠しているつもりかもしれない。
けれど、すぐ目の前にいる美奈穂には最後までバッチリ聞こえ、驚きのあまり声をあげていた。
そんなやりとりが続くなか、これまでとは別方向から、ガチャリとドアノブが動く音が聞こえる。
反射的に音のした方を向くと、すぐ隣の部屋のドアが開き、大あくびをしながら廊下へ出てくる兼治の姿が見えた。
「ああ? 何やってんだ、みんなして集まって。……えっ。藤沢、お前……もしかしなくても、ヤっちゃった?」
「……は? 馬鹿か? 死ね」
そのままこっちを向いた彼は、キョトンとした顔で美奈穂たちを見回した後、その視線を上半身裸の光志へ固定する。
そして、まるで彼を軽蔑するかのような視線を向けた瞬間、美奈穂の背後で絶対零度な怒りをあらわにする番の声が聞こえた。
「良晴は本当に心配性なんだから」
「美奈穂ちゃんは寝ていても、流石に藤沢さんは起きてると思うんだけど……」
「美奈穂ちゃん達が参加者連中に気づかれず移動するんなら、あと少ししか無いだろ」
慎重にドアを開けた先で見かけたのは、美奈穂の予想に反する面々。
医務室で目覚めた時にその場にいた須藤夫妻と下野夫妻の四人だった。
「…………」
現在進行形で多忙を極めるメンバーが、何故こんなところに。
美奈穂は驚きを隠せず、ポカンと言い争う彼らを見つめるしかない。
そんななか、彼女が部屋から顔を出したことにいち早く気づいたのは、スタッフ達の頼れるリーダー良晴だった。
彼が一言おはようございますとほほ笑んだので、美奈穂も慌てて挨拶を返す。
すると、リーダーに続けと他の三人も笑顔で挨拶を口にし、美奈穂ももう三回ペコペコと頭を下げた。
「皆さん、どうしてここにいるんですか? 今、朝ごはんの配膳中ですよね?」
「そうなんですけど……少しばかり抜け出してきました。美奈穂さんは……」
「美奈穂ちゃん! 朝ごはん、食べられそう?」
ひと通り挨拶を終えた後、改めて首を傾げると、穏やかな口調の良晴が口を開く。
だけど、ゆったりとした彼の言葉を遮るように、突如、妻の亜沙美が明るさ全開で割り込んできた。
慌てて彼女の方を向けば、視界の端に、あからさまなため息をつく良晴の姿が映り込む。
(良晴さん……怒ったりしないんだ)
話に割り込まれたというのに、良晴は妻の行動には声を荒げず、一度だけ亜沙美の頭頂部をペシリと叩き注意するだけ。
その行動に不満そうな顔をする亜沙美。だけど、二人の間には確かな信頼関係があることがはたから見てもよくわかった。
「美奈穂ちゃんの体調さえ良ければ、もう少ししたら一緒にご飯を……と思って誘いに来たんだけど。どう? 少しは食べられそう?」
若干二人の世界に入りかけた良晴たちの言葉を引き継ぐように、今度は美智子さんが話しかけてくる。
妻の言葉に続き「なんか食べたいもんがあったら、作ってやるって皆言ってるぜ」と哲夫さんが笑った。
「私も、皆さんと一緒に食べられたらと思っていました。メニューは同じもので大丈夫です。ご飯を食べた後から、お昼の仕込みに参加しようと思ってたんですけど……いいですか?」
「それはもちろん大歓迎だけど……体調の方は本当に大丈夫? 無理そうなら、休んだっていいんだよ?」
こっちの要望を伝えれば、その言葉に美智子は笑顔で頷いてくれた。
だけど彼女はすぐ眉を下げ、心配そうに美奈穂の顔を覗き込む。
美奈穂の様子を気に掛けるのは彼女だけにとどまらず、気づけば先輩四人の視線が自分へ集中していた。
昨日から色んな人にたくさん迷惑をかけている。その事実が、不意に美奈穂の肩に重く圧し掛かっていく。
その重みに耐えかね、口からはつい謝罪の言葉が飛び出しそうになる。
だけど次の瞬間、頭頂部に新たな重みを感じた彼女は、無意識に目線を頭上へ向けた。
「朝っぱらから、人の部屋の前に集まって何やってるんすか。あんたら……」
頭の上なんて、自分じゃ確認出来ない。そのことに気づいたのは、目線を上げた後。
でも、背後から感じた熱と、頭上から降り注ぐ声がすぐに重みの正体を教えてくれる。
「……っ」
モゾモゾと身動ぎして後ろを振り向けば、濡れた頭にタオルを被せ、上半身裸な光志がすぐ目の前にたたずんでいた。
「光志、さん……もう、お風呂はいいんですか?」
「ん? ああ、うん。風呂場出たら、部屋に美奈穂が居ないからびっくりした。そんで……須藤さん達は、朝っぱらから何の用っすか?」
美奈穂が声をかけると、すぐそばに居た光志が一歩後退する。
そのまま、彼はガシガシと自分の頭をタオルで拭きながら、美奈穂と、そして彼女の後ろにいるスタッフ達へ視線を向けた。
堂々と立ち振る舞い、そして上半身を躊躇なくみんなの前で晒す彼とは対照的に、美奈穂は困惑するばかり。
こんなに間近で誰かの裸を見るなんて、きっと子供の時以来だろう。
しかも相手は異性。目のやり場に困りはてた彼女は、目元を覆いながら俯くことしか出来ない。
「お二人を朝食に誘おうと思って来ました。……っと。それより藤沢さん、いくら番になった女性の前と言っても、美奈穂さん相手に素肌を晒すのは、いかがなものかと思いますよ?」
両手で顔を覆うと、背後から苦笑混じりな良晴の声が聞こえる。
「ああ、そろそろ飯の時間か。……そんな事言ったって、あっちいんだから仕方な……ん?」
彼の声に応えるように、今度は前方から光志が反応する。どこか気怠い雰囲気を纏った声に気づくと、不意に彼の声が止んだ。
何かあったのかと思い、顔を上げようとした美奈穂。すると突然つむじ部分をグイグイと指で誰かに突かれた。
「美奈穂、何俺の裸見て興奮してんだよ」
「こっ!? そんなことしてません!」
この状況でこんな悪戯をする人なんて、光志以外あり得ない。美奈穂は確信めいた気持ちを抱く。
からかうような光志の声が頭上から降り注ぎ、確信が当たった事実に背中を押され思わず顔をあげ反論を口にする。
だけど、顔をあげた途端、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる彼と目が合った。
その様子に、自分がからかわれていると悟った美奈穂は、すぐさま俯き、より一層熱くなる頬に戸惑う。
目を覚ましてから。いやきっと、自分が目覚める前から、光志は自分の言葉に慌てふためく美奈穂を見て楽しんでいるに違いない。
美奈穂の方は、こんなにドキドキして、困惑ばかりが襲ってくるというのに。不公平にもほどがある。
そんな余裕綽々な彼の態度が次第に憎らしくなってくると、今まで顔を覆っていた手を外した彼女は、火照って赤くなった顔をあげ、精一杯光志を睨みつける。
「そんな可愛い顔で睨むな。……マジで理性吹っ飛びそうになるから」
「ふぇっ!?」
すると光志は、最初こそ余裕のある笑みを浮かべていたものの、何故か急に視線を逸らしだす。かと思えば、急に声量を落とし、ボソボソと独り言を呟き始めた。
本人は隠しているつもりかもしれない。
けれど、すぐ目の前にいる美奈穂には最後までバッチリ聞こえ、驚きのあまり声をあげていた。
そんなやりとりが続くなか、これまでとは別方向から、ガチャリとドアノブが動く音が聞こえる。
反射的に音のした方を向くと、すぐ隣の部屋のドアが開き、大あくびをしながら廊下へ出てくる兼治の姿が見えた。
「ああ? 何やってんだ、みんなして集まって。……えっ。藤沢、お前……もしかしなくても、ヤっちゃった?」
「……は? 馬鹿か? 死ね」
そのままこっちを向いた彼は、キョトンとした顔で美奈穂たちを見回した後、その視線を上半身裸の光志へ固定する。
そして、まるで彼を軽蔑するかのような視線を向けた瞬間、美奈穂の背後で絶対零度な怒りをあらわにする番の声が聞こえた。
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