怪しい高額バイトをしていたら、運命のつがいに出会いました

雪宮凛

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本編

第16話☆

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 その後、今日はもう美奈穂を驚かすような事は話さないから、なんて笑い、お喋りを続ける志郎の話に耳を傾ける。もちろん、光志に抱き込まれた体勢のままで。

(もっと、ビックリするような話があるんだ……)

 一体いつ、どんな話をされるのか。ずっとドキドキしっぱなしの日々が続くのかと、美奈穂は内心ため息を吐いた。
 すると、そんな気持ちを察してくれたのか、後ろに居る番の指が耳の裏をこちょこちょと撫でてくる。
 その刺激に驚くあまり、慌てて彼の方を振り向く。
 そこで目にしたのは、もう何度目かわからない、彼の上機嫌な笑みだった。


 今日最後の話として志郎に教えられたのは、この集まりが終わった後の生活について。

 基本的に、番になった二人はお互いがそばにいないと落ち着かなくなるらしい。
 それは、まだなんとなくだけれど、美奈穂にも理解出来た。
 現に、自分も光志のそばにいると不思議と心強いと思えるような気がするし、何より彼のそばは安心する。
 そして光志のこれまでの言動を思い出しても、志郎から受けた説明に当てはまっているのは明白だった。

 そのため、二人が何事も無かったように赤の他人に戻るなんてことは、これまで政府が集めた情報内では確認されていないらしい。
 それもあって、番の男女がこの集まり後に取る行動は主に二つ、そして少数意見が一つと教えられた。

 一番多いのは、同棲から結婚というパターン。
 二番目は、即結婚、あるいは籍を入れての同棲というパターン。
 そしてごく稀にあるのが、お互いの家を行き来しながら、自分の気持ちを整理したり、結婚に向けて準備をするパターン。
 どれを選ぶにしろ、最終的なゴールは結婚。三分の二の確率で、同じ家に住む場合が多いんだとか。

 同棲を選ぶ理由は、一緒に居たいからという理由が大きい。けれど別の理由もある。
 なんと、番認定された人達は、政府が用意した賃貸マンションに住むことが出来ると教えられた。
 そのマンションの住人は全員、番になった夫婦、または恋人だと、志郎は教えてくれる。
 ここに居る番の人達も皆、政府から紹介されたマンションに、今でもそれぞれ住み続けているそうだ。

 二人の職業、年収に合わせてマンションは色々ランク分けされているらしい。
 だけど、一部は政府から補助が出るし、お金の兼ね合いを相談すれば住む場所のランク変更も可能だそうだ。
 国民的知名度を誇るバンドマンとして活躍している光志なら、夫婦揃って医師として働いている中原夫妻が住むマンションがいいんじゃないか、なんておすすめまでされてしまった。

「番本人たちは、即結婚って行動したいところなんだろうけど……周りがその展開についていけなくなるからね。籍入れた後に、別れろだなんだって、親戚連中とかうるさいパターンもあるっぽいから」

「そんな時の対処法は?」

「今すぐにでも新婚生活送りたい気持ちを強引に押し込んで、うるさく言ってくる連中を片っ端から黙らせて、堂々と結婚すればいいんだよ」

 説明の途中、また兼治がふざけ半分で、軽く握った拳をマイクに見立て志郎の口元へ近づける。
 そのエアマイクに向かって笑顔を向ける志郎の言葉を聞いた瞬間、美奈穂は無意識に顔を引きつらせた。

「まさか、それもあんたの実体験……とかって言うんじゃねえよな?」

(あり得そうで怖い)

 話を聞いた途端、耳元で聞こえた光志のぼやき。そして彼の声を聞き、つい心の中で同意してしまった美奈穂。
 二人の戸惑いを知ってか知らずか、志郎は否定も肯定もせず、ただにっこりと笑顔を浮かべるだけだった。





「さて……今日の説明はこのくらいでいいか。別にすぐにあれこれ決めろなんて言わないし、わからないことは俺にどんどん質問してくれて構わないよ。明日……は早すぎるか。明後日あたりにまた、まだ説明していないことを、今日みたいに説明させてもらえればって思うんだけど、どうかな?」

「は、はいっ!」

「わかった」

 今日はいろんなことが起こって疲れただろうから、何も考えずゆっくりすればいい。
 そう言って笑みを浮かべる志郎の言葉に、美奈穂は何度も、光志は一度、それぞれ頷いて承諾する。
 そんな二人を見た志郎は、本当に今日は終わりとばかりに、イスから立ち上がった。

「まだ仕事か?」

「そうだよ。急病人が出ない限り暇な中原とは違うんだ。あ、千草さん。長い間拘束してすみませんでした」

 この髭は適当にあしらってしっかり休んでくださいね。
 そう言ってほほ笑む志郎の言葉に、千草は苦笑しつつ「ありがとう」と言葉を返した。
 兼治が声をかけたかと思えば、志郎は忙しい自分と正反対な兼治に嫌味でも言うような口ぶりで言葉を投げつける。
 そして今度は、そんな医者の妻に対して、身体を気遣う言葉を優しく差し出す。
 ころころ、ころころと、まるで絶え間なく面を変え続けるサイコロのように、相楽志郎という男は表情や声色を、たやすく変化させていった。

「あ、そうだ! 一番大事なこと言うの、すっかり忘れてた」

「……?」

 志郎の七変化っぷりは、これまで何度もこの集まりを取り仕切る立場に立ってきたためなのかと、美奈穂はつい勝手な想像をしてしまう。
 すると次の瞬間、彼女の思考を遮るように志郎は声を発した。
 ハッとした様子で大きく目を見開いたかと思うと、食堂の出口へ向けていた視線を、彼は勢いよくこちらへ向けてくる。

「二人とも。ここに居る一週間は、絶対セックスしないでくださいね!」

(……セッ!?)

 そしてダンッと勢いよく両手をテーブルに叩きつけた彼は、真顔でとんでもない爆弾を放り投げた。
 その言葉は、初心な美奈穂には今日一番と言って良い程刺激の強いワードだった。
 そのせいか、これまでで一番の羞恥心が、一気に彼女の体温をあげていく。

「番になりたての頃を、俺たちの間では“発情期”って呼んでるんだけど……この時期に一度セックス始めたら、短くて数日、長くて十日近くヤり続けることになるんだよ。相手のことが好きだーって気持ちが暴走するのが大体この時期だから……って、あれ? 美奈穂ちゃん?」

「美奈穂ちゃん? しっかりして、美奈穂ちゃん!」

「おい! おい、しっかりしろ、美奈穂……美奈穂!」

 瞬く間に上がる体温は、全身を火照らせ、美奈穂の思考を鈍らせていく。
 まるで酷い風邪でも引いたかのように、頭の中に白いモヤがかかって、みんなの声が次第に遠のいていくのを、美奈穂はぼんやりと認識した。
 だけど、それに抗う気力を振り絞る力なんて無くて、彼女の意識は、志郎、千草、光志、その他次々とそばに駆け寄ってくる大人たちの焦り声を聞きながら、あっという間に遠のきプツリと切れてしまった。
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