45 / 45
第二章
44:ホッとする空気
しおりを挟む
メリッサが目覚めた日の夜、カインに連れられジュリアとイザークがダラットリ邸を訪れた。
どうやら、主が目覚めてからすぐに、カインが貧民街へ向かい、ジュリアたちに報告してくれた様だ。
主寝室でガヴェインとともに過ごすメリッサのもとへ、カインに案内された二人がやってくる。
すると、すぐさまジュリアはベッドの上に起き上がっていたメリッサのもとへ駆け寄り、友人の手を両手で包むように握りしめた。
「メリッサ、目が覚めて本当によかった!」
「心配をかけてしまってごめんなさい。でも、頭の怪我も、しばらくすれば良くなるからと、お医者様がおっしゃてくれて」
友人の目覚めを心底喜ぶジュリアの目には、薄っすら涙が浮かんでいる。
同時に、笑顔を浮かべるメリッサを見てか、彼女はホッとした表情を浮かべ口角を上げた。
メリッサがいるベッドを皆で囲み、二言、三言話した後、今度はミカエルのもとへ行きたいと、イザークが遠慮がちに申し出た。
彼の言葉に頷いたのはガヴェインで、自ら案内すると言って、ベッドそばで座っていた椅子から立ち上がる。
「ガヴェイン様、私も一緒に」
なんて願い出たメリッサは、最初渋い顔をしながら頷いてくれた夫の腕に抱えられ、廊下を進んでいく。
その後ろにはイザークとジュリアが続き、カインは仕事があると言って、同行せず階段の方へ向かっていった。
ミカエルが寝泊まりする部屋を尋ねると、運よく彼は起きていて、すぐに入室が許可された。
皆でぞろぞろと入室し、ベッドの住人よろしくうつ伏せ状態のミカエルに、それぞれが労いの言葉をかけていく。
話をしているうちに、隣の客室からガヴェインが足りない分の椅子を調達してきた。
しかし、その数は一つ足りない。
(ガヴェイン様ったら、間違えたのかしら?)
「ほら、お前はここだ」
「ふえっ!?」
ベッドの周辺に並ぶ椅子を何度も数え確認していた時、不意にメリッサの身体がふわりと浮き上がる。
唐突な浮遊感に彼女が驚きの声をあげた直後、けがを負い目覚めたばかりな妻を心配する旦那様の膝上――特等席へ案内されてしまった。
「しばらくは不自由するってカインさんから聞いたけど、内臓に損傷は無いらしいし、安心しました。思ってたより、ミカエルさん元気そうで」
「あの時は本当にすみません。俺が無理やりにでも、メリッサ様を引っ張れば、二人共怪我なんてせずに済んだのに……」
皆でミカエルを囲んで話をしていると、ジュリアの表情に安堵の色が浮かんだ。
だが、イザークの様子は対照的で、自責の念にかられているのか、しょんぼりと肩を落とし「俺、ジュリアを守るだけで精一杯で……」とぼやいてばかりだ。
「イザークさん、そんなに自分を責めないで。貴方はジュリアさんを、僕はメリッサ様を守りたかった。その想いに突き動かされて行動を起こし、それぞれが結果を残したんですよ」
そんなイザークへ声をかけるのは、にっこりとほほ笑むミカエル。
彼の笑みと、優しくも確かな言葉を聞き、イザークは涙目になりながら何度も頷き返した。
話にはなを咲かせていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
ミカエルが「どうぞ」と声をかければ、カインたち使用人が料理を乗せたカートを押し、室内へ入ってくる。
「どうせなら、今日はここで夕食をと思いまして。手づかみで気軽に食べられるものをお持ちしました」
そう言うと、カインとエルバが、室内にあるテーブルを主たちの前へセッティングしていく。
他にも、ミカエルが手を伸ばしやすい位置や、ジュリアとイザークが一緒に使える位置などにテーブルを並べ、最後に使用人四人で囲むように二つ分並べたカインたちは、周りに次々と椅子もセッティングしていく。
足りないテーブルや、使用人用の椅子は、エドガーがガヴェイン同様近隣の客室から調達したものだ。
そして料理人のロベルトがテーブルの上へ並べていくのは、以前湖畔でピクニックをした際にメリッサが初めて目にした、手づかみで食べられる軽食たち。
「……? ここでは、手づかみで食べる料理が流行ってるの?」
目の前に並べられる料理の数々に、ジュリアがふと疑問を漏らす。
この前のピクニックで、メリッサが庶民的な料理にハマったのかと、不思議がる彼女に、クスクスと笑いながら進言したのは他のテーブルに料理を並べていたロベルトだ。
「今日は単純に、ミカエル様が寝転がった状態でも食べやすいものをと思って作ったんですよ。それと……カインから、事件のその後について報告も兼ねてるとも聞いたので、あんまり堅苦しくならない方がいいかと」
説明を聞き「なるほど」と頷くジュリアと違って、一人話についていけないメリッサは、キョトンと首を傾げた。
そのまま、訳が分からず、助けを求めるように後ろを振り向いた彼女は、ガヴェインを見上げ、無言の問いかけをする。
「メリッサが眠っている間に進展したことを、掻いつまんで報告する予定になっているんだ。この場に居る全員が、今回の関係者みたいなものだからな」
一人、置いてけぼり状態の妻の状況を悟ったのか、ガヴェインは不安げな表情を浮かべるメリッサの髪を一掬いする。
そして、サラリと指通りの良い髪束にチュッとキスを落とす。
その顔に浮かんでいたのは、メリッサが大好きな、絶対な安心感を与えてくれる優しい笑顔だった。
どうやら、主が目覚めてからすぐに、カインが貧民街へ向かい、ジュリアたちに報告してくれた様だ。
主寝室でガヴェインとともに過ごすメリッサのもとへ、カインに案内された二人がやってくる。
すると、すぐさまジュリアはベッドの上に起き上がっていたメリッサのもとへ駆け寄り、友人の手を両手で包むように握りしめた。
「メリッサ、目が覚めて本当によかった!」
「心配をかけてしまってごめんなさい。でも、頭の怪我も、しばらくすれば良くなるからと、お医者様がおっしゃてくれて」
友人の目覚めを心底喜ぶジュリアの目には、薄っすら涙が浮かんでいる。
同時に、笑顔を浮かべるメリッサを見てか、彼女はホッとした表情を浮かべ口角を上げた。
メリッサがいるベッドを皆で囲み、二言、三言話した後、今度はミカエルのもとへ行きたいと、イザークが遠慮がちに申し出た。
彼の言葉に頷いたのはガヴェインで、自ら案内すると言って、ベッドそばで座っていた椅子から立ち上がる。
「ガヴェイン様、私も一緒に」
なんて願い出たメリッサは、最初渋い顔をしながら頷いてくれた夫の腕に抱えられ、廊下を進んでいく。
その後ろにはイザークとジュリアが続き、カインは仕事があると言って、同行せず階段の方へ向かっていった。
ミカエルが寝泊まりする部屋を尋ねると、運よく彼は起きていて、すぐに入室が許可された。
皆でぞろぞろと入室し、ベッドの住人よろしくうつ伏せ状態のミカエルに、それぞれが労いの言葉をかけていく。
話をしているうちに、隣の客室からガヴェインが足りない分の椅子を調達してきた。
しかし、その数は一つ足りない。
(ガヴェイン様ったら、間違えたのかしら?)
「ほら、お前はここだ」
「ふえっ!?」
ベッドの周辺に並ぶ椅子を何度も数え確認していた時、不意にメリッサの身体がふわりと浮き上がる。
唐突な浮遊感に彼女が驚きの声をあげた直後、けがを負い目覚めたばかりな妻を心配する旦那様の膝上――特等席へ案内されてしまった。
「しばらくは不自由するってカインさんから聞いたけど、内臓に損傷は無いらしいし、安心しました。思ってたより、ミカエルさん元気そうで」
「あの時は本当にすみません。俺が無理やりにでも、メリッサ様を引っ張れば、二人共怪我なんてせずに済んだのに……」
皆でミカエルを囲んで話をしていると、ジュリアの表情に安堵の色が浮かんだ。
だが、イザークの様子は対照的で、自責の念にかられているのか、しょんぼりと肩を落とし「俺、ジュリアを守るだけで精一杯で……」とぼやいてばかりだ。
「イザークさん、そんなに自分を責めないで。貴方はジュリアさんを、僕はメリッサ様を守りたかった。その想いに突き動かされて行動を起こし、それぞれが結果を残したんですよ」
そんなイザークへ声をかけるのは、にっこりとほほ笑むミカエル。
彼の笑みと、優しくも確かな言葉を聞き、イザークは涙目になりながら何度も頷き返した。
話にはなを咲かせていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
ミカエルが「どうぞ」と声をかければ、カインたち使用人が料理を乗せたカートを押し、室内へ入ってくる。
「どうせなら、今日はここで夕食をと思いまして。手づかみで気軽に食べられるものをお持ちしました」
そう言うと、カインとエルバが、室内にあるテーブルを主たちの前へセッティングしていく。
他にも、ミカエルが手を伸ばしやすい位置や、ジュリアとイザークが一緒に使える位置などにテーブルを並べ、最後に使用人四人で囲むように二つ分並べたカインたちは、周りに次々と椅子もセッティングしていく。
足りないテーブルや、使用人用の椅子は、エドガーがガヴェイン同様近隣の客室から調達したものだ。
そして料理人のロベルトがテーブルの上へ並べていくのは、以前湖畔でピクニックをした際にメリッサが初めて目にした、手づかみで食べられる軽食たち。
「……? ここでは、手づかみで食べる料理が流行ってるの?」
目の前に並べられる料理の数々に、ジュリアがふと疑問を漏らす。
この前のピクニックで、メリッサが庶民的な料理にハマったのかと、不思議がる彼女に、クスクスと笑いながら進言したのは他のテーブルに料理を並べていたロベルトだ。
「今日は単純に、ミカエル様が寝転がった状態でも食べやすいものをと思って作ったんですよ。それと……カインから、事件のその後について報告も兼ねてるとも聞いたので、あんまり堅苦しくならない方がいいかと」
説明を聞き「なるほど」と頷くジュリアと違って、一人話についていけないメリッサは、キョトンと首を傾げた。
そのまま、訳が分からず、助けを求めるように後ろを振り向いた彼女は、ガヴェインを見上げ、無言の問いかけをする。
「メリッサが眠っている間に進展したことを、掻いつまんで報告する予定になっているんだ。この場に居る全員が、今回の関係者みたいなものだからな」
一人、置いてけぼり状態の妻の状況を悟ったのか、ガヴェインは不安げな表情を浮かべるメリッサの髪を一掬いする。
そして、サラリと指通りの良い髪束にチュッとキスを落とす。
その顔に浮かんでいたのは、メリッサが大好きな、絶対な安心感を与えてくれる優しい笑顔だった。
20
お気に入りに追加
1,518
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる