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第二章
41:目覚めた場所
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デニス・べスター準男爵並びに、関係者捕縛から二日後。
ショックを受けて気絶し、眠り続けていたメリッサが、ようやく意識を取り戻した。
(……? わ、たし)
怠さが残る瞼をゆっくり押し上げたメリッサは、視界に広がる明るさに驚き思わず眉間に皺が寄る。
そのまま半分ほど狭めた視野に映し出されたのは、見慣れた主寝室の天井だった。
「どうして、ここに……」
パチパチと瞬きを繰り返しながら口を開くと、何故か口から飛び出した疑問の声は掠れている。
ますます訳が分からず、ここは一度起き上がってみるべきかと考えた時、バタバタと騒がしい足音が近づいてきた。
「メリッサ、目が覚めたのかっ!」
不意に足音が止まると、焦った表情の中に安堵の色が浮かぶ夫の顔が視界に飛び込んでくる。
パチパチと瞬きをしながら彼を見上げれば、ガヴェインはホッと安堵の息を漏らす。
「ガヴェイ……ケホケホッ」
「無理に喋らなくていい。今、医者を呼んでくるからな、少しだけ待っていてくれ」
反射的にその名を呼ぼうとするものの、喉の奥がカサついているのか上手く声が出ない。
咳をする妻の頭を軽く撫でたガヴェインは、前髪を退けた額に口づけると、目元に薄っすら涙を浮かべ、一度その場を離れていった。
寝室を出ていったガヴェインが戻ってくると、使用人たちもぞろぞろと入室し、皆でベッドの上にいるメリッサを取り囲んでいく。
皆心の底から喜び、安堵の表情を浮かべている様子から、自分が目覚めたことを喜んでくれていると知れたものの、メリッサは疑問を感じるにはいられなかた。
ただ目を覚ましただけで、どうして家の者たちはこんなにも喜ぶのだろう、と――。
その後、ガヴェインに支えられゆっくりベッドの上に起き上がったメリッサは、カインが背中に挟んでくれたクッションに寄りかかる。
そのまま「苦しくないか?」「辛くないか?」と問いかけてくる二人に軽く首を横に振って答えている。
すると、起き上がっている最中に部屋を出ていったエルバが、水の入ったグラスを手に戻ってきた。
彼女の手から渡されたグラスを受け取ったメリッサは、チビチビとその水を飲んでいく。
冷たいそれが喉を通るたび潤いに満たされ、気がつくと、安堵にも似た吐息を小さく吐き出していた。
目覚めから数十分程経った頃。メリッサの往診をするために、ガヴェインが呼んだ医師がやってきた。
使用人たちには一旦廊下に出てもらい、主寝室には、目覚めたばかりの当人と夫のガヴェイン、そして医師が残る。
少しふくよかな体型をした初老の彼がニコリとほほ笑むと、不思議とつられて目を細めてしまう。
「ご自分のお名前はわかりますか?」
「はい。メリッサ・ダラットリと申します」
医師は、エルバがベッド脇に用意した椅子に座ると、いくつかメリッサに質問を投げかけてきた。
自分の名前や、今住んでいる国や都市の名前、指を使った簡単な足し算など、いくつかやりとりを行いながら、脳に異常が無いかを確認していく。
そして十分程で診察を終えた医師は、最後に椅子から立ち上がってメリッサの頭部に巻かれた包帯を取ると、何かを確認し小さく頷いた。
傷の具合を確認しようと医師が外した包帯を目にしたメリッサは、この時初めて自分が怪我を負っていると知った。
「頭部の怪我も軽傷で済みましたし、記憶などに影響も出ておりません。薬を塗って、包帯も毎日変えていけば、怪我の方は数日で良くなるでしょう」
「ありがとうございます、先生」
医師は「少ししみますよ」と言って、傷口に軟膏を塗ると、そこに布を押し当て手早く包帯を巻いていく。
その間、メリッサはベッドの上で大人しくしながら、夫たちの会話に耳を傾ける。
塗った薬がしみる痛みで、ようやく自分が怪我をしていると本格的に認識出来たものの、まだ現実への理解が追いつかない。
周りばかりが状況を把握し、一人取り残されている感覚に陥ったメリッサの手が、不意にそばにいたガヴェインの手へ伸びる。
「ん? どうした、メリッサ」
自分より太くてカサついた左手小指と薬指を思わず掴めば、肌越しに感じるぬくもりに気づいた夫が、先生との話を中断し、柔らかな声色と眼差しを向けてくれた。
「あ、いえ……何でもありません」
あまりにも優しい眼差しに、夫たちの話を邪魔してしまった後悔に襲われる。
そんなことではいけないと、慌てて握った指を離そうとすれば、何故か指を握った手の上に、ガヴェインのもう片方の手を重ねられてしまい、離せなくなってしまった。
ショックを受けて気絶し、眠り続けていたメリッサが、ようやく意識を取り戻した。
(……? わ、たし)
怠さが残る瞼をゆっくり押し上げたメリッサは、視界に広がる明るさに驚き思わず眉間に皺が寄る。
そのまま半分ほど狭めた視野に映し出されたのは、見慣れた主寝室の天井だった。
「どうして、ここに……」
パチパチと瞬きを繰り返しながら口を開くと、何故か口から飛び出した疑問の声は掠れている。
ますます訳が分からず、ここは一度起き上がってみるべきかと考えた時、バタバタと騒がしい足音が近づいてきた。
「メリッサ、目が覚めたのかっ!」
不意に足音が止まると、焦った表情の中に安堵の色が浮かぶ夫の顔が視界に飛び込んでくる。
パチパチと瞬きをしながら彼を見上げれば、ガヴェインはホッと安堵の息を漏らす。
「ガヴェイ……ケホケホッ」
「無理に喋らなくていい。今、医者を呼んでくるからな、少しだけ待っていてくれ」
反射的にその名を呼ぼうとするものの、喉の奥がカサついているのか上手く声が出ない。
咳をする妻の頭を軽く撫でたガヴェインは、前髪を退けた額に口づけると、目元に薄っすら涙を浮かべ、一度その場を離れていった。
寝室を出ていったガヴェインが戻ってくると、使用人たちもぞろぞろと入室し、皆でベッドの上にいるメリッサを取り囲んでいく。
皆心の底から喜び、安堵の表情を浮かべている様子から、自分が目覚めたことを喜んでくれていると知れたものの、メリッサは疑問を感じるにはいられなかた。
ただ目を覚ましただけで、どうして家の者たちはこんなにも喜ぶのだろう、と――。
その後、ガヴェインに支えられゆっくりベッドの上に起き上がったメリッサは、カインが背中に挟んでくれたクッションに寄りかかる。
そのまま「苦しくないか?」「辛くないか?」と問いかけてくる二人に軽く首を横に振って答えている。
すると、起き上がっている最中に部屋を出ていったエルバが、水の入ったグラスを手に戻ってきた。
彼女の手から渡されたグラスを受け取ったメリッサは、チビチビとその水を飲んでいく。
冷たいそれが喉を通るたび潤いに満たされ、気がつくと、安堵にも似た吐息を小さく吐き出していた。
目覚めから数十分程経った頃。メリッサの往診をするために、ガヴェインが呼んだ医師がやってきた。
使用人たちには一旦廊下に出てもらい、主寝室には、目覚めたばかりの当人と夫のガヴェイン、そして医師が残る。
少しふくよかな体型をした初老の彼がニコリとほほ笑むと、不思議とつられて目を細めてしまう。
「ご自分のお名前はわかりますか?」
「はい。メリッサ・ダラットリと申します」
医師は、エルバがベッド脇に用意した椅子に座ると、いくつかメリッサに質問を投げかけてきた。
自分の名前や、今住んでいる国や都市の名前、指を使った簡単な足し算など、いくつかやりとりを行いながら、脳に異常が無いかを確認していく。
そして十分程で診察を終えた医師は、最後に椅子から立ち上がってメリッサの頭部に巻かれた包帯を取ると、何かを確認し小さく頷いた。
傷の具合を確認しようと医師が外した包帯を目にしたメリッサは、この時初めて自分が怪我を負っていると知った。
「頭部の怪我も軽傷で済みましたし、記憶などに影響も出ておりません。薬を塗って、包帯も毎日変えていけば、怪我の方は数日で良くなるでしょう」
「ありがとうございます、先生」
医師は「少ししみますよ」と言って、傷口に軟膏を塗ると、そこに布を押し当て手早く包帯を巻いていく。
その間、メリッサはベッドの上で大人しくしながら、夫たちの会話に耳を傾ける。
塗った薬がしみる痛みで、ようやく自分が怪我をしていると本格的に認識出来たものの、まだ現実への理解が追いつかない。
周りばかりが状況を把握し、一人取り残されている感覚に陥ったメリッサの手が、不意にそばにいたガヴェインの手へ伸びる。
「ん? どうした、メリッサ」
自分より太くてカサついた左手小指と薬指を思わず掴めば、肌越しに感じるぬくもりに気づいた夫が、先生との話を中断し、柔らかな声色と眼差しを向けてくれた。
「あ、いえ……何でもありません」
あまりにも優しい眼差しに、夫たちの話を邪魔してしまった後悔に襲われる。
そんなことではいけないと、慌てて握った指を離そうとすれば、何故か指を握った手の上に、ガヴェインのもう片方の手を重ねられてしまい、離せなくなってしまった。
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