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第二章
18:予期せぬ再会
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森の奥から響く叫び声に、メリッサをはじめ、その場にいる全員に緊張が走った。
初めて聞く声に驚いたメリッサは、思わず恐怖し身体が小刻みに震える。
すると、妻の変化を感じ取ったガヴェインは、更にメリッサを自分の方へ抱き寄せ、怖がる妻の耳元で「大丈夫だ。俺がついている」と囁く。
「カインの声じゃないな。だが……あれは一体」
「ミカエル様が、遅れて合流する予定だったとかは?」
「いいや、それは無い。あいつは今日、どうしても外せない案件があって、城に詰めているはずだ」
服に皺が寄ることをいとわず、メリッサはガヴェインの胸に縋るように顔を埋める。
その最中、頭上から夫とロベルトの会話が聞こえ、数日ぶりに聞く名前にピクンと肩が震えた。
「ロベルト。てめえは、エルバのことしっかり守ってろよ」
「わかった。だけど、エドガーお前……」
「なーに、ガヴェイン様やカインまでとはいかねえが、俺も多少は腕っぷしに自信はあっからよっ!」
続けてエドガーとロベルトの会話が聞こえ、ブンブンと何かが風を切る音が聞こえる。
こみ上げる恐怖心を堪え、恐る恐る顔をあげ、ほんの少しだけ音が聞こえた方を向く。
すると、シーツの上に胡坐をかいて寛いでいたエドガーがいつの間にかその場に立ち上がっていた。
その手には、シーツを敷く際重石代わりにしたと言う太い木の枝が握られており、肩慣らしでもするように数回枝を持った手を宙で振りぬいている。
普通の女性なら、エドガーの姿を見て頼もしく感じるのだろう。
しかし、様々な知識と常識が欠落しているメリッサにとって、目の前にいるエドガーに対する感情は頼もしさより恐怖が勝っていた。
愛する家族や自分たちが仕える夫妻を守ろうとするエドガーの立ち振る舞いが、メリッサの不安を否が応でも掻き立てていく。
「……っ」
もうこれ以上無理と悟ったメリッサは、周囲の状況確認を最後まですることなく、再びガヴェインの胸板に顔を埋めた。
そのまま、プルプルと子犬の様に震える妻を、ガヴェインは咎めたりせず、メリッサを抱き込む腕に力を込めた。
「あっ! カインのやつ、戻ってきたみてぇだな」
「誰か……一緒、だな」
「カインより小柄だ。やはりミカエルでは無いな」
叫び声が聞こえてから数分後。エドガー、ロベルト、ガヴェインがそれぞれ自身の目で見た光景について、それぞれの想いを吐露する。
(カイン……無事だったのね)
メリッサはいまだ夫の胸に額を押しつけながら、男たちの声を聞き心底ホッとしていた。
しかし、カインが誰かを連れて戻ってきたこと。
そして、その人物が自分たちと面識のない人物と知り、まだ顔を上げる気にはなれなかった。
「離せっ! 離せっての! いきなり拉致るとか、アンタ頭おかしいんじゃねえの!?」
「はいはい、とりあえず落ち着いて。話を聞いて、こちらが納得したら解放してあげますから。あんまり暴れると、少々手荒な真似をしなくちゃいけなくなりますよ」
「くっ……」
しばらくすると、自分たちの方へ近づく二人分の足音と、カインと誰かが言い合う声が聞こえてきた。
待ち望んだカインの声が聞こえ、その声に焦りが無いとわかったメリッサは、恐る恐るながらほんの少し顔をあげ振り向く。
その瞳に映ったのは、別段焦った様子もない家令の姿と、彼に両腕を背中で囚われている誰かの姿。
薄汚れた七分丈のズボンとシャツを着たその人は、明るいブラウンの髪を振り乱しながら、自分を拘束するカインに何度も吠えていた。
しかし、その主張を軽くいなしながら、カインの視線はエドガーへ向く。
「エドガー。ちょっと、この人が逃げないように、腕を掴んでおいてください。実は、もう一人誰かが居るみたいで――」
「ジュリアーッ!」
そのまま、カインが捕らえた人物をエドガーに引き渡そうと声をかける。
だが、その願いを最後まで伝える前に、森の方から駆け寄ってくる人影の気配と叫び声がした。
その声に驚くあまり、メリッサは反射的に姿勢を正し、しっかりと顔を上げた。
すると、何かを背中に背負い、全力疾走で自分たちのもとへ駆け寄る男の姿が嫌でも目に留まる。
同時に、カインに捕まっている人物の横顔を目にし、ただでさえ見開いていた瞳を更に大きくせざるを得なかった。
(あ、あの方はっ!)
「イザーク、こっちに来るな! こいつら、何かヤバい!」
駆け寄ってくる男の声に応えるように、カインに捕らえられた人物――ジュリアは叫ぶ。
しかし、彼女の必死な主張を聞き入れず、イザークと呼ばれた男は尚もメリッサたちの方へ向かって来た。
「カイン、お願いします。今すぐその方を解放してください!」
そんな二人の様子を目にしたメリッサは、すぐにジュリアたちへ向けていた視線をカインへ移す。
そして震えは残るものの、気の弱い彼女にしては精一杯声を張り、ジュリアの解放を懇願した。
「っ!? メリッサ、突然何を――」
「ガヴェイン様、この方は私たちに危害を加えたりなどいたしません。この方は……彼女は、私と共にダナン国からアザットへ嫁いできた女性の一人です」
初めて見る妻の様子に、ガヴェインは唖然とし、慌てて口を開く。
だが次の瞬間、にこりとほほ笑むメリッサと目が合い、彼女が紡ぐ言葉に大きく目を見開く。
驚きを隠せないと言いたげな表情は、その場にいたダラットリ家の関係者全員の顔に浮かんだ。
その中で、突然の事態に呆然とするジュリアは、メリッサの姿を目にした途端「アンタ、船で……」と小さく声を漏らした。
初めて聞く声に驚いたメリッサは、思わず恐怖し身体が小刻みに震える。
すると、妻の変化を感じ取ったガヴェインは、更にメリッサを自分の方へ抱き寄せ、怖がる妻の耳元で「大丈夫だ。俺がついている」と囁く。
「カインの声じゃないな。だが……あれは一体」
「ミカエル様が、遅れて合流する予定だったとかは?」
「いいや、それは無い。あいつは今日、どうしても外せない案件があって、城に詰めているはずだ」
服に皺が寄ることをいとわず、メリッサはガヴェインの胸に縋るように顔を埋める。
その最中、頭上から夫とロベルトの会話が聞こえ、数日ぶりに聞く名前にピクンと肩が震えた。
「ロベルト。てめえは、エルバのことしっかり守ってろよ」
「わかった。だけど、エドガーお前……」
「なーに、ガヴェイン様やカインまでとはいかねえが、俺も多少は腕っぷしに自信はあっからよっ!」
続けてエドガーとロベルトの会話が聞こえ、ブンブンと何かが風を切る音が聞こえる。
こみ上げる恐怖心を堪え、恐る恐る顔をあげ、ほんの少しだけ音が聞こえた方を向く。
すると、シーツの上に胡坐をかいて寛いでいたエドガーがいつの間にかその場に立ち上がっていた。
その手には、シーツを敷く際重石代わりにしたと言う太い木の枝が握られており、肩慣らしでもするように数回枝を持った手を宙で振りぬいている。
普通の女性なら、エドガーの姿を見て頼もしく感じるのだろう。
しかし、様々な知識と常識が欠落しているメリッサにとって、目の前にいるエドガーに対する感情は頼もしさより恐怖が勝っていた。
愛する家族や自分たちが仕える夫妻を守ろうとするエドガーの立ち振る舞いが、メリッサの不安を否が応でも掻き立てていく。
「……っ」
もうこれ以上無理と悟ったメリッサは、周囲の状況確認を最後まですることなく、再びガヴェインの胸板に顔を埋めた。
そのまま、プルプルと子犬の様に震える妻を、ガヴェインは咎めたりせず、メリッサを抱き込む腕に力を込めた。
「あっ! カインのやつ、戻ってきたみてぇだな」
「誰か……一緒、だな」
「カインより小柄だ。やはりミカエルでは無いな」
叫び声が聞こえてから数分後。エドガー、ロベルト、ガヴェインがそれぞれ自身の目で見た光景について、それぞれの想いを吐露する。
(カイン……無事だったのね)
メリッサはいまだ夫の胸に額を押しつけながら、男たちの声を聞き心底ホッとしていた。
しかし、カインが誰かを連れて戻ってきたこと。
そして、その人物が自分たちと面識のない人物と知り、まだ顔を上げる気にはなれなかった。
「離せっ! 離せっての! いきなり拉致るとか、アンタ頭おかしいんじゃねえの!?」
「はいはい、とりあえず落ち着いて。話を聞いて、こちらが納得したら解放してあげますから。あんまり暴れると、少々手荒な真似をしなくちゃいけなくなりますよ」
「くっ……」
しばらくすると、自分たちの方へ近づく二人分の足音と、カインと誰かが言い合う声が聞こえてきた。
待ち望んだカインの声が聞こえ、その声に焦りが無いとわかったメリッサは、恐る恐るながらほんの少し顔をあげ振り向く。
その瞳に映ったのは、別段焦った様子もない家令の姿と、彼に両腕を背中で囚われている誰かの姿。
薄汚れた七分丈のズボンとシャツを着たその人は、明るいブラウンの髪を振り乱しながら、自分を拘束するカインに何度も吠えていた。
しかし、その主張を軽くいなしながら、カインの視線はエドガーへ向く。
「エドガー。ちょっと、この人が逃げないように、腕を掴んでおいてください。実は、もう一人誰かが居るみたいで――」
「ジュリアーッ!」
そのまま、カインが捕らえた人物をエドガーに引き渡そうと声をかける。
だが、その願いを最後まで伝える前に、森の方から駆け寄ってくる人影の気配と叫び声がした。
その声に驚くあまり、メリッサは反射的に姿勢を正し、しっかりと顔を上げた。
すると、何かを背中に背負い、全力疾走で自分たちのもとへ駆け寄る男の姿が嫌でも目に留まる。
同時に、カインに捕まっている人物の横顔を目にし、ただでさえ見開いていた瞳を更に大きくせざるを得なかった。
(あ、あの方はっ!)
「イザーク、こっちに来るな! こいつら、何かヤバい!」
駆け寄ってくる男の声に応えるように、カインに捕らえられた人物――ジュリアは叫ぶ。
しかし、彼女の必死な主張を聞き入れず、イザークと呼ばれた男は尚もメリッサたちの方へ向かって来た。
「カイン、お願いします。今すぐその方を解放してください!」
そんな二人の様子を目にしたメリッサは、すぐにジュリアたちへ向けていた視線をカインへ移す。
そして震えは残るものの、気の弱い彼女にしては精一杯声を張り、ジュリアの解放を懇願した。
「っ!? メリッサ、突然何を――」
「ガヴェイン様、この方は私たちに危害を加えたりなどいたしません。この方は……彼女は、私と共にダナン国からアザットへ嫁いできた女性の一人です」
初めて見る妻の様子に、ガヴェインは唖然とし、慌てて口を開く。
だが次の瞬間、にこりとほほ笑むメリッサと目が合い、彼女が紡ぐ言葉に大きく目を見開く。
驚きを隠せないと言いたげな表情は、その場にいたダラットリ家の関係者全員の顔に浮かんだ。
その中で、突然の事態に呆然とするジュリアは、メリッサの姿を目にした途端「アンタ、船で……」と小さく声を漏らした。
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