愛を知らない新妻は極上の愛に戸惑い溺れる

雪宮凛

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第二章

12:男たちの集会/ガヴェイン視点

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 ダラットリ邸内の客間が並ぶ一画。そのうちのドアが開いている一部屋の前に、ガヴェインはたたずんでいた。

「エルバ、すまないが一晩メリッサを頼む」

「おまかせください、といっても、旦那様たちも屋敷内におりますし、何よりカインが居ますから防犯面は強固かと」

 ガヴェインの見つめる先には、夜着に身を包み、すっかり寝る準備を整えた妻メリッサと、メイドのエルバが微笑んでいる。
 メリッサは今夜一晩、エルバと共にこの客室で眠るのだ。
 一方で、二人を除いたダラットリ家の男たちは別室に集まり、二日後に迫った湖への遠出について最終確認をする。
 そのため、今夜は男女わかれての就寝となった。

「今夜は、エルバと一緒にお話をするんです。女の子同士の秘密です」

 メイドへ向けていた視線を、すぐ隣にいる愛しい妻へ向ける。
 するとメリッサは、子供の様にきらきらと目を輝かせ、自分を見上げていた。
 きっと、故郷で家族から虐げられていた彼女にとっては、女性同士で一晩過ごすことすら初めてなのだろう。

(秘密は……他人に喋るものじゃないんだがな)

 内容は口にしていないものの、今夜この客間で何をするのか話してしまう妻の素直さに、ガヴェインは内心苦笑する。
 そのまま視線をまたエルバに戻せば、彼女がメリッサへ向ける視線もどこか困った様子ながら、とてもあたたかいものだった。





 メリッサたちと別れ、ガヴェインは屋敷の二階にある客間から、階段を下りて一階にあるカインの自室へ向かう。
 部屋の前に着き、コンコンとドアをノックすれば、五秒と経たず目の前の扉は開いた。
 ドアを開けたのは、部屋の主であるカインだ。

「誰が来たかくらい、確認してからドアを開けろ」

「そんな面倒なことをしなくても、聞こえてくる足音でガヴェイン様とわかりましたから」

 ドアの開閉について咎めると、主の言葉など大して気にも留めない様子で肩をすくめるカインと目が合う。
 現役を辞しても相変わらずな男の姿に、小さく息を吐いたガヴェインは、促されるまま部屋の中へ入り、カチャリとドアに鍵をかけた。



「遅れてすまなかった」

 室内に所狭しと並べられた椅子のうち、一脚だけ空いていたそれに腰を下ろしたガヴェインは、室内にいる全員の顔を見まわす。
 部屋の主でもあるカイン、料理人ロベルト、庭師エドガー、そして――数日ぶりに会うミカエル。
 順番にそれぞれと目を合わせ、最後にミカエルを見つめた瞬間、すぐ横にいる彼が重々しく口を開く。

「ガヴェイン、話があるって聞いたけど……こんな夜に、一体何を?」

「話があるのは俺じゃない。そっちの二人だ」

 自分がここに呼ばれた理由が分からないと首を傾げる友人の様子に、ガヴェインは斜め向かいに座るエドガーとロベルトを顎で示した。

「旦那様を使いっ走りにでもするように、伝言を頼んで申し訳ねえ。でも……出来るだけ早く、確認しときたいことが出来たんで」

 ガシガシと頭を掻き、平謝りをしながら事情を説明するのはロベルトだった。
 彼の声に続き、隣に座っていたエドガーが、カイン、ガヴェイン、ミカエルの三人へ視線を向ける。

「とうとう決めたんだな。メリッサ様を三人で守るって」

 大きな身体を椅子の背もたれに預け、ロベルトが砕けた口調で問いを口にする。
 その問いに、質問を受けた三人は無言のまま頷いた。





 今や多民族国家となったアザット国では、昔からの政策で今でも重婚が推奨されている。
 別に一夫一妻がいけないわけではない。
 しかし、金や地位、その他様々な力を有する男たちは、複数の妻を娶るか、唯一愛した女性を自分が認めた男と共に愛でる。
 ガヴェインが選んだのは後者だった。

 最初こそガヴェインは、一夫一妻で良いのではと考えていた。
 だが、メリッサの純粋無垢な姿を日々目の当たりにするたび、彼の中で焦りが募った。

 ――自分が居ない間、誰が彼女を守るのだ、と。

 アザット国の男たちは、国王の政策や、今も語り継がれている疫病騒動のこともあり、基本的に女性を大切にする者が多い。
 しかし、そんな考えを持たないよそ者や、他国の考えに毒された男がいるのも事実だ。
 そのため、基本的に女性の一人歩きは禁止されている。
 必ず家族や、恋人、信頼のおける友人男性、雇った護衛と共に外を出歩かなければならない。
 こんなことは女性にとって、かなり窮屈な決まりだ。
 しかし、こうでもしないと、誘拐などに発展することもあるため、止めることは出来ない。
 日々騎士団でも街の見回りを行い、女性に手荒な真似をしようとする男が居れば即捕まえたりもしている。

 ガヴェインは、そんな騎士たちをまとめる団長だ。仕事量は人一倍多いし、勝手に仕事を休むなど、その場の思いつきで出来るような立場の人間じゃない。
 そんな彼が何より気がかりだったのは、愛する妻の身の安全だ。
 何も彼女を籠の鳥にしたいわけじゃない。
 行きたい店があるなら連れて行きたいし、今後友達でも作ったのなら、友人同士気兼ねなく話せる時間を作ってあげたい。
 ガヴェインはそんな思いを、常日頃から抱き、対策を考えていた。

 メリッサの目立つ容姿は、いくら色々な国の人間が行き来し、生活するヤーラでも隠し通せない。
 愛しい妻の容姿に眼の眩んだ男たちの魔の手が、いつ襲い掛かるかもわからないのだ。
 欲の混じったゲスな眼差しだけに留まらず、誘拐され裏ルートで取引を、なんてことになったら元も子もない。
 それに、疑うことを知らない彼女なら、普通なら騙されない嘘を信じ込んで、厄介ごとに自ら首を突っ込みかねない。

 多くの危機を回避するために、愛するメリッサがアザットを好きになってくれるように、そして何より彼女が毎日笑って幸せに暮らせるようにするために考えた結果が重婚だった。
 その後もガヴェインは考え抜いた挙句、夫候補として二人の男に白羽の矢を立てることにした。
 それが、家令のカインと友人ミカエル。二人共アザットで生まれ育った男だ。
 彼らが揃って、最愛の妻メリッサに好意を寄せていることに、ガヴェインは割と早くから気づいていたのだ。
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