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第五王子クリストフ

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「クレール、俺は君が好きなのに君は俺の気持ちを分かってくれない」

クリストフの言葉にクレールはうんざりした顔を向けた。クリストフは構わず続ける。

「俺にはあんな笑顔見せてくれていない。もう何年も!」

クレールは「なんでこんな人に笑いかけちゃったのかしら、あの日のわたくしは」と頭を抱えたくなった。自然とクリストフと組んでいた腕を離す。

まだ純粋に社交界で誰かお友達が出来るのではとそわそわしていた時分、男性の声かけにニコニコしていたらあれよあれよと男性達によるクレールの取り合いになり、結局その場で最も地位の高かったクリストフ王子とお話しした。

それから三年ほど粘着され続けて、父の手回しによっていつの間にか婚約者という立場にされていたのである。

これは男性問題に悩まされてきたからこそのクレールの困った指向であるが、クレールは自身のことを愛している男をあまり好きになれない。

「さみしい。クレールに愛されたい。ううぅ」

泣きそうな声を出すクリストフに唐突に異母妹のカトリーヌが駆け寄ってきた。カトリーヌがクリストフに寄り添って言う。

「お姉様は酷いです!」

カトリーヌが口出ししてくるのはいつものことである。クレールはカトリーヌにクリストフの介護を任せる気持ちで言う。

「そうですわね、わたくしは酷い女ですわね。すこし部屋で反省いたしますので、クリストフ様にはカトリーヌがついてあげて」

カトリーヌがクリストフに「大丈夫ですか?」と言う声を聞きながらクレールは部屋へと戻った。




翌日、クレールは第三騎士隊の隊舎の女性休憩所で甲冑に着替えていた。

できることなら鍛練は毎日やりたい。身体を鈍らせないためにもクレールは出来るだけ剣術指南に参加していた。

「こんにちは、「甲冑の騎士」サマ!」
「あはは、何ですかそれ」

騎士隊の女性騎士アンヌに声を掛けられてクレールは笑って返事をした。アンヌはクレールと親しく話す仲である。

「街のご婦人達に評判なのよー。剣術指南役をしている甲冑で顔を隠した小柄な騎士サマが騎士隊で一番強いって。「どんなお顔なのかしらー」「きっと美しすぎて他の騎士様の集中力を削ぐから隠してるんじゃない?」って皆キャアキャア言ってさ。あながち間違いじゃないけど、まさか女の子だとは誰も思ってないみたいだね」

アンヌが準備しつつおしゃべりする。クレールは甲冑をつけ終わると剣を持った。

「素性がわからないのは好都合ですわね」

甲冑の騎士、クレールは第三騎士隊でそう呼ばれている。

アンヌが話し続ける。

「素性を隠さなきゃいけないのも面倒だねぇ。私は時々、クレールが本当に騎士だったらって思うよ。仕事を一緒にして、同じ寮で一緒に暮らして……」
「……ままならないものですわね」

クレールは甲冑の中で遠くに視線を向けた。
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