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王太子

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ある日、婚約者の王太子が神殿に来ていてカミリヤは応対をしていた。

「カミリヤ、君はお人形さんみたいだな」

王太子が果物の乗った皿を前にしてカミリヤに話しかける。

王太子には今恋している人がいる。一夫多妻が一般的なこの国では妻達に差をつけないために贈り物をするときは全ての妻に同等の贈り物をしなければならない。

それを王太子は恋人達にも行っている。カミリヤは最近、王太子から頻繁に贈り物をされる。それは王太子がお気に入りの恋人にもたくさん贈り物をしているということだ。

「カミリヤは怒らないし、拗ねないし、妬まない。感情なんてないみたいだな」

王太子の言い様にカミリヤはどう対処したらいいかわからない。ただ曖昧に微笑んでいる。

「カミリヤ、お願いがあるんだ。聞いてくれるか」
「私が叶えられることでしたらおっしゃってください」
「婚約を解消したいんだ」

王太子はカミリヤに言う。にこやかに、残酷に。カミリヤが絶句しているとそのままなんでもないように話を続ける。

「僕の好きな人が、他に恋人がいるのを嫌がるんだ。僕は彼女の気持ちに応えてあげたい」
「……」
「その子は手間のかかる子でね、君は僕に何の未練もないだろうし」

カミリヤは涙が出なかった。悲しかったけれど涙を流すことも出来なかった。泣いたら王太子は困ってしまうだろうし、きっと泣かない方がいいだろうと思った。

王太子は手間のかかる子が好きなのだ。世話をするのが好きなのだ。それをカミリヤは叶えてあげられない。無欲であるよう父に諭され続けたカミリヤにはもう自分の願望はわからない。

「王太子様がそうおっしゃるなら、私は身を引きます」

そう、言うしかなかった。
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