229 / 252
228話 調査(1)
しおりを挟む
「お嬢様がお作りになった押し花のカード……俺感動しちゃって。王宮のバラなんて貴重なのに本当に良かったのですか?」
「ちゃんと許可を取りましたから安心して下さい。喜んで貰えて私も嬉しいです。ジェフェリーさんには以前ブックマーカーも頂きましたし、私からも何かプレゼントがしたかったんです」
ジェフェリーさんが言うように温室のバラはとても厳しく管理されていて、基本持ち出し厳禁だ。でも、この規則には抜け道が存在する。ある一定の条件を満たせば規則が適用されなくなるのだ。
「禁止されてるのは生花の持ち出しだからね。押し花はギリセーフになったんだよ。姫さんのお願いだったから、ジェラール陛下も甘々判定だったみたいだけどね」
「こっ、国王陛下の許可が必要なんですね。やっぱり……俺には身に余る御品です」
ルイスさんが陛下の名前を出したため、ジェフェリーさんが恐縮し過ぎてぷるぷるしてる。このままではせっかくあげたプレゼントを突き返されてしまう。貴重な花を材料にしているのはその通りなのだけど、一生懸命作ったものを拒否されたら悲し過ぎる。ジェフェリーさんと久しぶりに花の話をしたかったけど、押し花に関してはこれ以上余計なことは言うべきではないな。
「カードはジェフェリーさんだけじゃなく、他の使用人にも贈っていますから、遠慮なく受け取って下さいね。それよりも、先ほどお願いしたお花のことなんですけど……」
「あっ! そうでした。食堂に飾る花をご所望でしたよね。急いで準備致します。花の種類や色の希望はありますか?」
「いいえ。ジェフェリーさんのお任せで……よろしくお願いします」
私たちが花を求めて訪ねてきたことを思い出したようで、ジェフェリーさんは慌てて作業に取り掛かった。これで料理に続いてお花もOKだ。
「お昼までに間に合いそうで良かったですね。クレハ様」
「うん」
ジェフェリーさんは手際良く花束を作っていく。その様子を眺めながらお父様……家族のことを考えた。今は決して良い雰囲気とはいえない状況だけど、悪いことのあとにはきっと良いことがある。俯かず前を向いて頑張っていこう。
「怪我の具合はどうですか? ルーイ先生。心配していたんですよ。大変でしたね」
「待ってたよ、レオン。報告した通り、怪我は大したことないから。数日安静にしてれば大丈夫って医者も言ってる」
「それは良かった。セドリックもご苦労だったな。先生の側には俺がついているから、少し休んでくるといい」
「ありがとうございます。私は平気ですのでお気遣いなく」
レオン様がルーイ先生の部屋を訪れた。そろそろいらっしゃる頃だろうと思っていたが予想通りだったな。
「……確かに、ここに来る前より良い顔をしている」
「レオンさぁ……お前の目は節穴かな。あれだけ色んなことがあったんだから疲労困憊に決まってるでしょ。俺がいくら寝ろって言ってもセディは聞く耳持たないんだから。お前の方からビシッと言ってやって」
「先生っ……私は大丈夫ですから」
レオン様の命令になら従うだろうと、先生は嫌味ったらしく告げた。仰る通りなので反論できない。
今の自分は不思議と体調が良い。疲れていないわけではないが休むほどでもないのだ。それに、レオン様は先生のお見舞いがてら捜査の進捗状況についても触れるだろう。ここで席を外しても、おふたりの会話内容が気になってしまい、落ち着いて眠ることなどできはしない。
「すみません。言い方が悪かったですね。そういう意味ではなくて……何というか、数日前よりもすっきりとした表情をしているなと。まるで憑き物でも落ちたような……公爵邸にいる間に、彼の心情を劇的に変化させる特別な出来事でもあったんでしょうかね」
上げそうになった悲鳴を必死に飲み込んだ。レオン様は俺と先生の顔を交互に見つめる。意味あり気な視線の動きにますます動揺してしまう。俺と先生の間にあったことを察している。これは主が賢くて鋭いからなんて理由では片付けられない。やはり紫色の瞳には心を読む力があると思わざるを得ないな。
「先生はセドリックとずっと行動を共にしていましたよね。理由をご存知ではないのですか?」
「分かってる癖に白々しい。デリケートな問題なんだから、興味本位で首突っ込むんじゃないよ。俺らには俺らのペースがあるの」
「俺だってむやみやたら詮索したいわけじゃありません。臣下を思うがゆえですよ。以前俺が先生に言ったこと……覚えていらっしゃいますよね」
「当たり前だ。いい加減なことをするつもりは微塵も無い。だからほっといてくれよ。折を見てお前にはちゃんと説明するから」
「約束ですよ。先生」
「もうー、レオンはこんな話をしに来たんじゃないでしょ。俺たちのことはいいから。さっさと本題に入りなさいよ」
当事者であろう俺は置いてけぼりで、おふたりの中で話がまとまってしまったな。しかも先生の様子がいつもと違う。普段の彼であればレオン様に振られた話題に嬉々として乗っかり、言わなくても良いことを自分からペラペラ喋っていただろう。それがどうだ。話に乗るどころか、レオン様を窘めるような言動をしている。俺が本音を伝えたことで、先生の内面に何かしらの影響を与えることができたのかもしれない。
先生と俺の関係がどのようなものになろうと、レオン様には経緯も含めて報告をしなければならないだろう。お仕えする主とはいえ、10歳の子供に話すような内容でないのは承知の上だ。
からかいの気持ちも多少はあるかもしれないが、レオン様はずっと俺を気遣ってくれていた。先生からの求愛に悩み続けていた俺に助言をし、背中を押してくれたのだから。
「ちゃんと許可を取りましたから安心して下さい。喜んで貰えて私も嬉しいです。ジェフェリーさんには以前ブックマーカーも頂きましたし、私からも何かプレゼントがしたかったんです」
ジェフェリーさんが言うように温室のバラはとても厳しく管理されていて、基本持ち出し厳禁だ。でも、この規則には抜け道が存在する。ある一定の条件を満たせば規則が適用されなくなるのだ。
「禁止されてるのは生花の持ち出しだからね。押し花はギリセーフになったんだよ。姫さんのお願いだったから、ジェラール陛下も甘々判定だったみたいだけどね」
「こっ、国王陛下の許可が必要なんですね。やっぱり……俺には身に余る御品です」
ルイスさんが陛下の名前を出したため、ジェフェリーさんが恐縮し過ぎてぷるぷるしてる。このままではせっかくあげたプレゼントを突き返されてしまう。貴重な花を材料にしているのはその通りなのだけど、一生懸命作ったものを拒否されたら悲し過ぎる。ジェフェリーさんと久しぶりに花の話をしたかったけど、押し花に関してはこれ以上余計なことは言うべきではないな。
「カードはジェフェリーさんだけじゃなく、他の使用人にも贈っていますから、遠慮なく受け取って下さいね。それよりも、先ほどお願いしたお花のことなんですけど……」
「あっ! そうでした。食堂に飾る花をご所望でしたよね。急いで準備致します。花の種類や色の希望はありますか?」
「いいえ。ジェフェリーさんのお任せで……よろしくお願いします」
私たちが花を求めて訪ねてきたことを思い出したようで、ジェフェリーさんは慌てて作業に取り掛かった。これで料理に続いてお花もOKだ。
「お昼までに間に合いそうで良かったですね。クレハ様」
「うん」
ジェフェリーさんは手際良く花束を作っていく。その様子を眺めながらお父様……家族のことを考えた。今は決して良い雰囲気とはいえない状況だけど、悪いことのあとにはきっと良いことがある。俯かず前を向いて頑張っていこう。
「怪我の具合はどうですか? ルーイ先生。心配していたんですよ。大変でしたね」
「待ってたよ、レオン。報告した通り、怪我は大したことないから。数日安静にしてれば大丈夫って医者も言ってる」
「それは良かった。セドリックもご苦労だったな。先生の側には俺がついているから、少し休んでくるといい」
「ありがとうございます。私は平気ですのでお気遣いなく」
レオン様がルーイ先生の部屋を訪れた。そろそろいらっしゃる頃だろうと思っていたが予想通りだったな。
「……確かに、ここに来る前より良い顔をしている」
「レオンさぁ……お前の目は節穴かな。あれだけ色んなことがあったんだから疲労困憊に決まってるでしょ。俺がいくら寝ろって言ってもセディは聞く耳持たないんだから。お前の方からビシッと言ってやって」
「先生っ……私は大丈夫ですから」
レオン様の命令になら従うだろうと、先生は嫌味ったらしく告げた。仰る通りなので反論できない。
今の自分は不思議と体調が良い。疲れていないわけではないが休むほどでもないのだ。それに、レオン様は先生のお見舞いがてら捜査の進捗状況についても触れるだろう。ここで席を外しても、おふたりの会話内容が気になってしまい、落ち着いて眠ることなどできはしない。
「すみません。言い方が悪かったですね。そういう意味ではなくて……何というか、数日前よりもすっきりとした表情をしているなと。まるで憑き物でも落ちたような……公爵邸にいる間に、彼の心情を劇的に変化させる特別な出来事でもあったんでしょうかね」
上げそうになった悲鳴を必死に飲み込んだ。レオン様は俺と先生の顔を交互に見つめる。意味あり気な視線の動きにますます動揺してしまう。俺と先生の間にあったことを察している。これは主が賢くて鋭いからなんて理由では片付けられない。やはり紫色の瞳には心を読む力があると思わざるを得ないな。
「先生はセドリックとずっと行動を共にしていましたよね。理由をご存知ではないのですか?」
「分かってる癖に白々しい。デリケートな問題なんだから、興味本位で首突っ込むんじゃないよ。俺らには俺らのペースがあるの」
「俺だってむやみやたら詮索したいわけじゃありません。臣下を思うがゆえですよ。以前俺が先生に言ったこと……覚えていらっしゃいますよね」
「当たり前だ。いい加減なことをするつもりは微塵も無い。だからほっといてくれよ。折を見てお前にはちゃんと説明するから」
「約束ですよ。先生」
「もうー、レオンはこんな話をしに来たんじゃないでしょ。俺たちのことはいいから。さっさと本題に入りなさいよ」
当事者であろう俺は置いてけぼりで、おふたりの中で話がまとまってしまったな。しかも先生の様子がいつもと違う。普段の彼であればレオン様に振られた話題に嬉々として乗っかり、言わなくても良いことを自分からペラペラ喋っていただろう。それがどうだ。話に乗るどころか、レオン様を窘めるような言動をしている。俺が本音を伝えたことで、先生の内面に何かしらの影響を与えることができたのかもしれない。
先生と俺の関係がどのようなものになろうと、レオン様には経緯も含めて報告をしなければならないだろう。お仕えする主とはいえ、10歳の子供に話すような内容でないのは承知の上だ。
からかいの気持ちも多少はあるかもしれないが、レオン様はずっと俺を気遣ってくれていた。先生からの求愛に悩み続けていた俺に助言をし、背中を押してくれたのだから。
10
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。
※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。
※只今、不定期更新中📝
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる