リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

文字の大きさ
上 下
216 / 250

215話 7人目(2)

しおりを挟む
 シルヴィアの登場で殿下との会話が中断されてしまった。俺の疑問に殿下は何と答えて下さるつもりだったのだろう。またしてもため息がこぼれそうになる。いまだに終わる気配のない雑談をシルヴィアは続けているのだ。こんな廊下でどれだけ殿下を足止めする気なんだ。空気扱い継続中である俺もいい加減見過ごせなくなってきたので、シルヴィアを諭そうとしたのだが……

「おすすめの本なら俺よりもクレハに紹介してやってくれないか? あの子も最近本を読むようになったそうだから」

 殿下はシルヴィアと読書について語り合っていた。最近読んだ本や、おすすめはどれだとか……。側から聞いてると他愛もない話だったのだが、まさかここでクレハ様の名前が飛び出すとは想像していなかった。それはシルヴィアも同じだったようで、にこやかだった表情がみるみる変化していく。

「えっと……ジェムラート家のご令嬢に?」

「そう、あの子と会っていないのはもうシルヴィアだけだ。最後で気まずいなら付き添ってやるから、顔だけでも見せてやってくれ。俺の婚約者なんだぞ」

 殿下に言われて思い出した。『とまり木』のヤツらでクレハ様に挨拶をしていないのはシルヴィアだけなんだ。ユリウスには雑貨屋で遭遇したとレナードから聞いた。あいつがちゃんと挨拶と呼べるようなものをしたのかは疑わしいが……それでもクレハ様との顔合わせは終了したことになる。
 容姿や行動の派手さで兄弟の方が悪目立ちしてるけど、ユリウスとシルヴィアも大概問題児だ。でも殿下が側近に求めているのは自身に対する忠誠心と人並み優れた能力。素行の良さなど二の次だった。

「うーん……まだちょっと無理かもです。レオンさま、ヴィーが恥ずかしがり屋なの知ってるでしょ?」

「クレハも人見知りで社交の場を苦手としてる。最初はお互いぎこちなくても読書好きという共通点もあるし、すぐに仲良くなれるさ」

「でも、ヴィーの心の準備が……」

 殿下の頼みなら即断即決なシルヴィアが愚図ついていた。彼女は恥ずかしがり屋というより殿下以外の人間に興味が無いから、その他の交流に気が乗らないだけではないだろうか。レナードとルイスもクレハ様と会う前はどうでもよさそうに好き勝手言ってたっけ。それが今はどうだ。殿下がやきもきするくらい甲斐甲斐しく世話を焼いている。あれは本当に驚いた。
 兄弟の前例があるから、シルヴィアもクレハ様と親しくなれると殿下はお考えなのだろうか。共通の趣味を持ち出して場を和ませるという提案には賛成だが、そんなに上手くいくのか。
 挨拶だけでも早くしろと思っていたけど、いざその時になるとクレハ様に失礼なことをしないか不安になる。殿下が付き添うと言って下さっているのに、シルヴィアは煮え切らない返事を繰り返すばかりなのだ。

「仕方ないなぁ……じゃあ、また今度にするか。クレハは明日には王宮を離れるし、お前も気まぐれでいつこっちに来るか分からないのに。次の機会はいつになることやらだ」

「公爵家のご令嬢、王宮から出ていくのですか?」

 こいつ……嬉しそうにしやがって。クレハ様が王宮を離れると殿下が口にした途端、曇った空が晴れていくかのように表情が明るくなる。変わり身の速さに呆れてしまう。この顔で確信した。やはりシルヴィアは恥ずかしがっているのではない。クレハ様に会いたくなくて避けているのだ。

「俺と一緒にジェムラート邸に行くんだよ。事件の調査のためにね。シルヴィアにもいつ協力を頼むか分からないから、連絡だけはつくようにしておいてくれ」

「……分かりました」

 殿下も同行するのだと分かると、またシルヴィアの表情が陰る。一喜一憂……如実に顔に現れているな。殿下の言葉で感情が乱高下している。
 これまで殿下に一番近しい同世代の異性はシルヴィアだった。信頼のおける部下としてはもちろんのこと、時には軽口を言い合う友人のような存在。けれど今、殿下が最も大切にしておられるのはクレハ様だ。まさかシルヴィアは、それが気に入らなくてこのような態度を取っているのではないだろうな。そうだとしたら的外れもいいところ。シルヴィアとクレハ様では立場が全く違うじゃないか。比べる由もない。対抗意識を持つことさえ烏滸がましいのに。

 








「どうやらシルヴィアはクレハにあまり会いたくないようだね」

 ようやくシルヴィアから解放され、俺と殿下は再び廊下を歩いていた。先ほどのシルヴィアの態度に殿下は苦笑いを浮かべている。分かりやす過ぎたから誰だって気付くよな。シルヴィアは殿下がクレハ様の名前を出すたびに話題を逸らそうとしていた。表面上は穏やかに会話は続いていたが、自分の婚約者に対してこのような扱いをする部下のことを殿下はどう思われただろう。

「レナードとルイスが良い感じだったから、この流れを維持できるかもと期待したけど現実は厳しいな」

「殿下、差し出がましいかもしれませんが、シルヴィアにはもう少しきつく注意をすべきではないでしょうか? あのような振る舞いは殿下とクレハ様に対して不敬です」

 殿下の足が止まった。それに合わせて俺も歩みを止める。どうしたのだろう……俺の進言が気に障ったのだろうか。沈黙が続く。この状況にいくらか焦りを感じ始めたころ、殿下はようやく口を開いて下さった。

「クライヴも知っているだろう。シルヴィアは……いや、俺の隊の者たちは皆俺個人に忠義立てをしている。いくらクレハが婚約者という立場であっても関係ないんだよ。その他大勢と同じなんだ」
 
 知っている。だから兄弟の変わりように驚いたのだ。それでも、その仕えている主が大切にしているお方なんだぞ。最低限の敬意を払うのが当然ではないのか。

「このくらいの反応は想定内だ。隊員間の交流すらろくにしないシルヴィアだからな。命令違反をしたわけでもないし、残念だとは思うが叱りつけるほどではないよ。これから変わっていく可能性もあるから長い目で見てやってくれ」

「……はい」

 殿下は残念だと口にしつつも、あまり気に留めていないようだ。クレハ様と直接関わる機会が多いのは護衛を勤めているクラヴェル兄弟だから、シルヴィアについてはそこまで深刻に捉える必要はないということか。腹の中がモヤモヤする。シルヴィアのクレハ様に対する反応には明確に悪意を感じたというのに……
 せめて殿下が俺のように怒ってくれていれば良かった。そうすればいくらか溜飲は下がっただろう。期待が外れてしまったせいで、俺はこの消化不良を起こしているような不快感を抱えたまま仕事に戻るハメになってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...