リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

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206話 考察

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「……先生、私は職務中ですのでそのような事を言われても困ります。時と場所をわきまえて下さい。どこで誰が聞いているかも分からないのですよ。ご自重を」

「あーあ、俺はいつだってセディのことを想ってるっていうのに。お前はつれない態度ばっかり」

「心外ですね。私だって先生の事を気にかけておりますよ。こんなにあなたのケガを心配しているのですから。ほら、無理をせず横になっていて下さい」

「取り付く島も無いな。ま、そういうとこも好きなんだけどね。俺自分はどちらかといえばSだと思ってたんだけど、Mの気質もあったのかもしれない。お前に袖にされるのが快感になってきてるもの。やべ……今もちょっとゾクゾクしてる。知らないうちに調教されてたのかな」

 起こしていた体をゆっくりと倒して、先生はベッドへと横たわった。またわけのわからない事言ってるな……無視だ、無視。

 先生に抱いている感情の正体を自覚した。観念したという方がしっくりくるかもしれない。本当は気付いていたのに認めるのが嫌で必死に抵抗していただけなのだから。それほどまでの往生際の悪さを発揮していた癖に、不思議と胸の内は重石が無くなったかのようにすっきりとしている。己自身すら偽り続けていたのが相当負担だったのか……
 
「つか、俺だってただ寝てたわけじゃないんだぜ。一応事件についても考えてたんだよって……セディ、どうした?」

 先生の表情が変わった。彼はこうやって俺の感情の機微を目敏く発見してしまう。まさか本当に心が読まれているわけでもないだろうに。

「……どうもしてませんよ。それより、考えてみて何か気付かれたことはありましたか? 先生のお話を聞かせて下さい」

「ほんっと、クソ真面目なんだから。わかったよ……」

 慕情を認めはしたが、これを本人に伝える気は無い。自分に嘘を吐くのをやめただけ。対外的な振る舞いはこれからも変わらないだろう。互いに同じ気持ちを向けているのだとしても、俺はこの方とこれ以上関係を深めようとは思わないし、できないから……

「ジェフェリーさんが会ったっていう魔法使い……名前は確かエルドレッドだったっけ? そいつについてちょっとね」

「まさか子供だとは思いませんでした。以前先生が仰っていたように、シエルレクト神はやはり独自が定めた基準で契約する人間を選出しているようですね」

 選定基準……それは、神の口に合うかどうか。つまり『美味い人間』だ。シエルレクト神は人を好んで食すが、現地の人間達とのいざこざを回避するために命まで取ることは稀だという。人を喰らいたい神と、神の力を手にしたい人間。双方が利益を得るために作られたのが魔法使いという存在だった。神の方から取引きを持ちかけたのか……まさか人間側から? 13歳の少年がどのようにして至ったのだろう。

「ああ。管理できる人数が最大で30程度だとすると、契約者はかなり厳選しているだろうね。だから俺は、その基準を単純に味の良し悪しだと考えていた。シエルは人間を食糧としか見ていない。契約する人間の容姿性格諸々に興味はないと、実際に本人が言っていたからな」

 どう見てもその辺のチンピラにしか見えなかったグレッグが力を得ていたことからしても、契約者の人となりは重要ではないのだろう。ニュアージュの魔法使いはシエルレクト神が認めた美味しい人間の集まりなのか……

「仮にどこぞの権力者が契約を望んだとしても、神好みの味でなければ撥ね除けられるというわけですね。契約できる人数が限られているので致し方ないのでしょうが……」

「それがなぁ……あるかもしれないんだよ。その権力者枠ってのが」

「権力者枠?」

「食用ではなく、特定の人間が持つ社会的地位を利用するために繋がりを作っているかもしれないってことだ」

 ルーイ先生は語る。シエルレクト神は抜け目ないと。人間を食い物と断言しつつも、契約なんてまるで対等とも呼べるような物を結んでいるのは、徹底的に面倒ごとを避けるため。人間達と対立せずに好きな物を食べるにはどうすべきかと考えた結果である。そして、そんな神が食よりも重きを置いてるものがあるらしい。

「それは睡眠だ。シエルは1日の半分以上をフラウムの木の上で寝て過ごしている。寝ているのを邪魔されるのが、シエルはこの上なく嫌いなんだよ」

 神々は自分達の領域が荒されるのを嫌う。これも前に先生が言っていたな。安定した食糧の確保。そして誰にも邪魔されない睡眠。神の寝床を守るために必要なことは……

「フラウムの木があるのは『ジェナシティ』ニュアージュの首都だな。首都を治めているのは基本的にその国のトップだろう。つまり……」

「王族……シエルレクト神はニュアージュの王族と別枠で契約を結んでいる可能性があると?」

「断定はできないけどな。人間に食糧以上の興味を持てないとシエルは嘯くが、自身が身を置く国の統治者と懇意にしておいて損は無いと思うはず。シエルは……いや、あの3匹は俺に嘘は吐かないけど、聞かれなければ答えないっていう小賢しい真似は普通にするからね」
 
 人喰いなんて習性があるにも関わらず、シエルレクト神はニュアージュで神としての地位を磐石なものとしている。それには発言に影響力のある地位の高い者との密な関係性があってこそと考えた方が自然なのかもしれない。

「先生。あなたはその権力者をエルドレッドだと考えておられるのですね」

「……だから、まだわかんないって。カレンちゃんのエルドレッド少年に向ける態度がいかにもやんごとなき人にお仕えしてますーって感じだったからさ。想像してみただけ」

 カレン嬢のエルドレッドに対する強い忠誠心には少なからず圧倒された。自分と似ているなんて……思わず感じてしまうほどに。

「王族……もしくはそれに近しい立場の人間。もしそうだとしたら、単身で旅をしているというのも一気に疑わしくなる。面倒くさい事になりますね」

「お前達の調査もより慎重にならざるを得ない。カレンちゃんから情報を引き出せるといいんだけどね」

 厳しいだろうな。主を売るような真似をするくらいなら彼女は迷わず自死を選ぶ。カレン嬢の仲間が最低でもひとり……そう遠くない場所にいるはずだ。彼女が拘束されていることに気付けば、何らかのアクションを起こすだろう。まともに話ができるような人物であることを祈るか……
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