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201話 謝罪

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「さあ、温かいうちにどうぞ」

「ありがとうございます、セドリックさん」

「良い匂い……いただきます」

 リズさんとジェフェリーさんは、お茶の入ったカップを口元へ運んだ。ジェムラート家の厨房を借りて、俺がふたりに用意した飲み物はハーブティー。前にリズさんが王宮で俺に飲ませてくれたカモミールだ。今回はこれにオレンジピールをブレンドした。オレンジの爽やかですっきりとした風味が加わって飲みやすくなるのだ。
 カモミールには鎮静作用がある。緊張と不安でいっぱいであろうふたりが、リラックスできるお手伝いになれば良いけれど……

「初めて飲んだけど、とっても美味しいです」

「セドリックさんが淹れたお茶……私が前に淹れたお茶と全然違います。こっちのほうがずっと美味しい」

 お茶自体は気に入って貰えたので良かった。しかし、リズさんはまるで検分でもしているかのようにカップの中身を凝視していた。これから込み入った話をすることもあり、心を落ち着けて貰うために用意したのに……それと、いつぞやのお返しのつもりでもあった。それなのに、なんだか変な空気にしてしまったな。

「そりゃ、セドリックさんはカフェで働いてるプロだもの。比べちゃダメだって。リズちゃんもこれからもっと上手くなるよ」

 落ち込んでしまったリズさんをジェフェリーさんが慰めている。彼の言う通りだ。これから上達していくのだから悲観しなくていい。リズさんはハーブティーの淹れ方を覚えたばかりだと言っていた。それを念頭において考えれば、彼女はとても上手に淹れられていたと思う。

「あっ、すみません。軍人が本業なんですよね。しかも王太子殿下の側近……」

 ジェフェリーさんは気まずそうに後頭部を掻いた。『王太子殿下の側近』……初日にそれを彼に打ち明けた時は大層驚かせてしまったな。でも、だからといってジェフェリーさんはその事実に臆することはなく、俺からクレハ様の状況を聞き出そうとした。クレハ様に対する強い思いが窺い知れる出来事だった。加えて先ほどの中庭での事件……彼だけはカレン嬢に目を掛けて貰える立場であったのに、彼女からの提案を拒否して、怪我をしたルーイ先生を介抱したのだ。あの状況で保身に走らずに他を気遣えるのはなかなか出来ることではない。

「……ジェフェリーさん、あなたに謝らなければなりません」

「はっ? 謝るって……何を」

「私達がジェムラート家を訪れた本当の理由をお話しさせて頂きます。それと、これからについて……」

 本格的に捜査が始まる前にやらなければならないことのひとつだ。特にニュアージュの魔法使い『エルドレッド』に関連した事柄を明らかにするには、ジェフェリーさんの協力が不可欠である。
 ジェフェリーさんへの疑念が晴れた今、彼にもリズさんと同様に、クレハ様をお守りするために我々と袂を連ねて欲しいという思いが俺にはあった。クレハ様が心から信頼できる味方は多いに越したことはない。
 











「……自分の知らないところでそんな大事になっていたなんて」

 事の経緯を聞いたジェフェリーさんはショックを隠しきれない。一歩間違えたら罪人にされてしまうところだったのだ。彼からしたら困っている子供を親切心で助けただけなのに理不尽極まりないだろう。問題はその助けた子供が他国の魔法使いだったこと。そして、その子供と同種の力を持つ魔法使いが島で事件を起こしたことだった。運が悪かったとしかいえない。

「クレハ様とリズさんは、ジェフェリーさんに限ってあり得ないと信じておられました。私もおふたりほどではありませんが、あなたの人柄は存じております。事件に関与している可能性は低いと分かってはいました。ですが、魔法使いに関する情報があまりに少なく、その僅かな可能性ですら突き詰めなければならない状況なのです。どうかご理解下さい」

 そして何より、捜査に私情は厳禁だ。知り合いだからといって見逃すことはできない。

「ジェフェリーさんが魔法使いかもしれないと、セドリックさん達に伝えたのは私なんです。……ジェフェリーさん、ごめんなさい」

 ジェフェリーさんに捜査の手が及んだきっかけは、リズさんの目撃情報からだ。知り合いを告発するのは辛かっただろうに。彼女は感情を押し殺して我々に協力してくれたのだ。

「リズちゃんが謝る必要はないよ。クレハお嬢様が危ない目にあったんだから当然だ。それに、俺はやましいことは何ひとつしていないからね」

 探られて困る腹は無いとジェフェリーさんは笑った。ぎこちない笑顔……リズさんを安心させるために強がっているのが丸わかりだ。そんなジェフェリーさんの気持ちを知ってか知らずか……彼の気遣いに応えるよう、リズさんも笑顔を返したのだった。

「ところで、セドリックさん。俺にこの話をしたということは、俺に対する疑いは完全に晴れたと思っていいんですか?」

「私はそう判断致しました。レオン様……殿下への報告書にもそのように記載しております。ですが、今後は要らぬ嫌疑をかけられないよう、ジェフェリーさんにはしばらくの間我々の保護下に入って頂くことをお勧め致します」

 保護下という名の監視。そう言うと聞こえが悪いが、他の隊員達を納得させるためにも必要だ。恐らくレオン様もジェフェリーさんに直接会って確かめようとなさるだろう。

「ジェフェリーさん、レオン殿下にもニュアージュの魔法使いと遭遇した時の状況を詳しくお話しして頂けませんか? 私も付き添いますので……」

「えっ、王太子殿下にお会いするんですか? 俺が!?」

「はい。クレハ様と懇意にしているあなたのことを、殿下は非常に興味を持っておられますので……事件を早期解決に導くためにも、ご協力お願い致します」

 ここまで俺の話に驚きつつも、落ち着いた態度を崩さなかったのに……レオン様と話をして欲しいというのがよほど衝撃だったのだろうか。ジェフェリーさんは声を上げて固まってしまったのだった。
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