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195話 魔法の石(2)
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私が初めて『コンティドロップス』を目にしたのは、ルーイ様が魔法の特訓をするといって無人島に連れて行ってくれた時だった。見せて貰った石は2種類。鮮やかな赤色の物と、今テーブルの上に並べられているような透明な物。ルーイ様はどちらも同じ『コンティドロップス』だと言っていた。赤く色付いた物にはコンティレクト様の魔力が詰まっていて、ローシュの魔法使いはこの石を食べ続けることで力を維持している。
ルーイ様は透明な方の石を使い、私の体内で眠っていたという力を引き出してくれた。透明な『コンティドロップス』には魔力を吸収する性質があるらしい。この時に吸い取った力の影響で石の色が変化するとされている。私の魔力を吸収した石は、透明から白色へと変化した。
レオンに貰った『コンティドロップス』のピアス。石には彼の魔力が込められていて、美しい瑠璃色をしている。メーアレクト様から枝分かれした力というのは同じなのに、私とレオンで石に現れる色が全く違う。風を操る力を持っている私を珍しいとレオンは言っていた。そんな彼は水に関連する魔法を最も得意としている。正に一族の直系というに相応しく、メーアレクト様の力をより濃く強く受け継いでいるのだ。
「口で説明するより実際に見て貰った方が分かりやすい。そうですね……では、姫君。手伝いをお願いしても良いですか?」
「はい……って、わたっ……私に!?」
穏やかで優しいコンティレクト様の口調に流されてしまった。レオン達の物言わぬ強い視線が私に突き刺さる。そんな簡単に返事をするなという声が聞こえてきそう。
「難しいことではありません。姫君はただ静かにじっとしていてくれるだけでよろしいのですよ。危険もありませんので、王子も側近の方々も静粛に願います」
レオン達への忠告もしっかりと。コンティレクト様は初手でいきなりレナードさんに剣を突き付けられたのだ。気にしてないと仰ったけど警戒はなさってるんだな。
「ローシュの人間達が口にしているのは、私の魔力が蓄積した色の付いた石です。こちらの透明な石は、まだ何も入っていない空っぽの状態なのです」
コンティレクト様はテーブルの上に並べていた石をひとつ摘み上げると、私の方へ近付けた。
「王子ほどではありませんが、姫君も魔力をお持ちだ。……彼女もディセンシアの系譜ですね」
「はい。クレハは俺のはとこになりますので……」
「それはそれは……傍系の御息女にこれほどはっきり力が宿るのも稀なのでは?」
「そのようですね。ジェムラート家の子供で魔力を持っているのはクレハだけですから」
魔力が人間の体に馴染まないという話は、ルーイ様も何度かしておられた。ディセンシア家の者ですら、必ずしも力を持って生まれてくるわけではない。こうして他の神様からも同じ内容を聞かされると、殊更実感させられてしまう。神の御技とも呼ばれる魔法。その特別な力の一部を与えられたのは、とても運が良かったのだと。
18歳で殺害されてしまった自分は、残念ながらその幸運を生かすことは出来なかったが、今回は絶対にそんな真似はしない。体術だって学んでいるし、魔法もこれからどんどん鍛えていくつもりだ。生き残るために……私は精一杯足掻こうと決めたのだから。
レオンとコンティレクト様の会話を耳に捉えながら、目の前に差し出された石を眺める。皆の注目が集まる中、石に変化が現れた。透明だった石が徐々に色付いていき、1分も経たないうちに白色に変化したのだった。
「石の色が変わった……?」
ルイスさんが声を上げた。私はこの現象を見るのは2度目なので、彼らほどの驚きは無かった。石が白色に変わったということは、私の力が吸収されたのを意味する。でも、私は石に全く触れていない。近くで見ていただけ。目眩や怠さなどといった体の異変も起こっていない。本当に石に魔力を奪われてしまったのだろうか。
「姫君、体におかしな所はありませんか?」
「はい。大丈夫です」
「良かった。ご協力ありがとうございます」
コンティレクト様は私にお礼を言うと、石についての説明を続けた。
「人間達が普段目にしているのは、私の力の影響を受けた赤色の石。本来の石は無色透明で、魔力を取り込むことで色が変化するのです。こちらの石は先ほど姫君の魔力を得たことで白色に変化しました。姫君のアクセサリーも同様で、そちらには王子の魔力が込められているようですね」
「姫さんのピアスって普通の宝石じゃなかったんだ。同じ奴ばっかり付けてるなとは思ってたけど……姫さん知ってた?」
「はい。前にルーイ様から外国の魔法について教えて頂いた時に『コンティドロップス』の話も聞きました。ピアスはレオンが御守りにとプレゼントしてくれたんですよ。石を食べる勇気はありませんでしたけど……」
「御守り……ですか。本当に王子は姫君の事を大切に思われているのですね」
コンティレクト様はレオンに向かって微笑んだ。それなのに何故かレオンは顔を背けてしまう。表情は強張っていて、照れているようにも見えない。どんな感情なんだろう。
「これまでの話でコスタビューテの方々にも『コンティドロップス』がどのような物なのか知って貰えたのではないかと思います。実際に石が魔力を吸収する所も見て頂きましたしね。王子への贈り物は、この魔力を吸収するという石の性質を利用して作りました。分かりやすく名前を付けるなら、そうですね……『簡易魔力感知』といった所でしょうか」
『魔力感知』はレオンもよく使っている魔力の気配を探る魔法だ。あの石はそれと同等とまではいかないけど、魔法使いが近くにいるか、そしてどんな能力を持っているのかなど、大まかに感知すること出来るのだという。あっけらかんと言い放つコンティレクト様に、私達は目を見開いて驚いてしまう。
表面的な特徴が出ないため、普通の人間の中に平然と紛れてしまう魔法使い。彼らを探しだす方法……私達が散々頭を悩ませた問題だった。それを解決する手段をこんなところで、しかもこんなあっさりと提示されてしまっては、唖然とするより他は無かった。
ルーイ様は透明な方の石を使い、私の体内で眠っていたという力を引き出してくれた。透明な『コンティドロップス』には魔力を吸収する性質があるらしい。この時に吸い取った力の影響で石の色が変化するとされている。私の魔力を吸収した石は、透明から白色へと変化した。
レオンに貰った『コンティドロップス』のピアス。石には彼の魔力が込められていて、美しい瑠璃色をしている。メーアレクト様から枝分かれした力というのは同じなのに、私とレオンで石に現れる色が全く違う。風を操る力を持っている私を珍しいとレオンは言っていた。そんな彼は水に関連する魔法を最も得意としている。正に一族の直系というに相応しく、メーアレクト様の力をより濃く強く受け継いでいるのだ。
「口で説明するより実際に見て貰った方が分かりやすい。そうですね……では、姫君。手伝いをお願いしても良いですか?」
「はい……って、わたっ……私に!?」
穏やかで優しいコンティレクト様の口調に流されてしまった。レオン達の物言わぬ強い視線が私に突き刺さる。そんな簡単に返事をするなという声が聞こえてきそう。
「難しいことではありません。姫君はただ静かにじっとしていてくれるだけでよろしいのですよ。危険もありませんので、王子も側近の方々も静粛に願います」
レオン達への忠告もしっかりと。コンティレクト様は初手でいきなりレナードさんに剣を突き付けられたのだ。気にしてないと仰ったけど警戒はなさってるんだな。
「ローシュの人間達が口にしているのは、私の魔力が蓄積した色の付いた石です。こちらの透明な石は、まだ何も入っていない空っぽの状態なのです」
コンティレクト様はテーブルの上に並べていた石をひとつ摘み上げると、私の方へ近付けた。
「王子ほどではありませんが、姫君も魔力をお持ちだ。……彼女もディセンシアの系譜ですね」
「はい。クレハは俺のはとこになりますので……」
「それはそれは……傍系の御息女にこれほどはっきり力が宿るのも稀なのでは?」
「そのようですね。ジェムラート家の子供で魔力を持っているのはクレハだけですから」
魔力が人間の体に馴染まないという話は、ルーイ様も何度かしておられた。ディセンシア家の者ですら、必ずしも力を持って生まれてくるわけではない。こうして他の神様からも同じ内容を聞かされると、殊更実感させられてしまう。神の御技とも呼ばれる魔法。その特別な力の一部を与えられたのは、とても運が良かったのだと。
18歳で殺害されてしまった自分は、残念ながらその幸運を生かすことは出来なかったが、今回は絶対にそんな真似はしない。体術だって学んでいるし、魔法もこれからどんどん鍛えていくつもりだ。生き残るために……私は精一杯足掻こうと決めたのだから。
レオンとコンティレクト様の会話を耳に捉えながら、目の前に差し出された石を眺める。皆の注目が集まる中、石に変化が現れた。透明だった石が徐々に色付いていき、1分も経たないうちに白色に変化したのだった。
「石の色が変わった……?」
ルイスさんが声を上げた。私はこの現象を見るのは2度目なので、彼らほどの驚きは無かった。石が白色に変わったということは、私の力が吸収されたのを意味する。でも、私は石に全く触れていない。近くで見ていただけ。目眩や怠さなどといった体の異変も起こっていない。本当に石に魔力を奪われてしまったのだろうか。
「姫君、体におかしな所はありませんか?」
「はい。大丈夫です」
「良かった。ご協力ありがとうございます」
コンティレクト様は私にお礼を言うと、石についての説明を続けた。
「人間達が普段目にしているのは、私の力の影響を受けた赤色の石。本来の石は無色透明で、魔力を取り込むことで色が変化するのです。こちらの石は先ほど姫君の魔力を得たことで白色に変化しました。姫君のアクセサリーも同様で、そちらには王子の魔力が込められているようですね」
「姫さんのピアスって普通の宝石じゃなかったんだ。同じ奴ばっかり付けてるなとは思ってたけど……姫さん知ってた?」
「はい。前にルーイ様から外国の魔法について教えて頂いた時に『コンティドロップス』の話も聞きました。ピアスはレオンが御守りにとプレゼントしてくれたんですよ。石を食べる勇気はありませんでしたけど……」
「御守り……ですか。本当に王子は姫君の事を大切に思われているのですね」
コンティレクト様はレオンに向かって微笑んだ。それなのに何故かレオンは顔を背けてしまう。表情は強張っていて、照れているようにも見えない。どんな感情なんだろう。
「これまでの話でコスタビューテの方々にも『コンティドロップス』がどのような物なのか知って貰えたのではないかと思います。実際に石が魔力を吸収する所も見て頂きましたしね。王子への贈り物は、この魔力を吸収するという石の性質を利用して作りました。分かりやすく名前を付けるなら、そうですね……『簡易魔力感知』といった所でしょうか」
『魔力感知』はレオンもよく使っている魔力の気配を探る魔法だ。あの石はそれと同等とまではいかないけど、魔法使いが近くにいるか、そしてどんな能力を持っているのかなど、大まかに感知すること出来るのだという。あっけらかんと言い放つコンティレクト様に、私達は目を見開いて驚いてしまう。
表面的な特徴が出ないため、普通の人間の中に平然と紛れてしまう魔法使い。彼らを探しだす方法……私達が散々頭を悩ませた問題だった。それを解決する手段をこんなところで、しかもこんなあっさりと提示されてしまっては、唖然とするより他は無かった。
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