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191話 報告書(3)
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「あなたは……」
皆の注目が集まる中、部屋に入ってきた人物。私はこの人を知っていた。前にレオンが紹介してくれたから。
「遅くなってしまい申し訳ありません。レオン殿下、クレハ様」
「いいや、ちょうどお前の話をしようとしていた所だったんだよ。さぁ、こっちに来てくれ」
濃紺の隊服を身に付けたその男性は、レオンに向かって一礼すると私達が座っているソファの近くまで歩み寄る。眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしていた。でもレオンいわく、彼の表情はこれが普通で怒っているのではないそうだ。
「えっ、なんで……この人が? ちょっとボス、どういうこと」
ルイスさんは困惑した様子でレオンに詰め寄っている。クライヴさんとレナードさんも戸惑いを隠せていない。特にレナードさんの変化が顕著で、驚いた顔のまま固まってしまっている。
濃紺の隊服に竜胆の襟章。クライヴさんと同じ王宮警備隊の――
「……ここの者たちは相変わらずのようですね。殿下、以前も進言させて頂きましたが、お側に置かれる兵の人選を見直した方がよろしいのでは? 実力重視も結構ですが、周囲に与える印象というのも大切なのですよ。何より殿下の情操教育上よろしくないかと」
「はぁー? 何それ。俺らが側にいたらボスに悪影響あるみたいに言うじゃん」
「君たちはお世辞にも行儀が良いとは言えないだろう。私の言葉に腹を立てるのであれば、もう少し日頃の行いを省みたらどうだ」
「いきなり出てきてウザいんだけど。ひょっとして喧嘩売ってる? 買うよ」
「やめないか、クレハが驚いてるだろう。ジェイク、今回我々は共に調査を行う仲間同士だ。互いに協力し合わなければならないのだから、そのような挑発的な言動は慎め」
「申し訳ありません。彼らの奔放な振る舞いが気に障り……以後気を付けます」
突然言い争いが勃発して焦った。レオンが止めてくれて良かった。
遅れて登場したこの男性は、ジェイク・バルトさん。王宮警備隊の隊長だ。王宮とその周辺地域を警備している警備隊は三つに分かれている。クライヴさんを長とする三番隊に、ベアトリス・クレールさんという女性兵士が隊長を務めている二番隊。そして最後にバルトさんの一番隊だ。
警備する場所や対象は三つの隊で持ち回りになっているが、一番隊は主に王族や要人の身辺警護に携わっているのだという。そういう傾向があるせいかは分からないけれど、隊員も貴族家の子女が多くて他ふたつの隊よりもお堅いイメージなんだって。これもレオンいわくだけど。最初の挨拶以降、クライヴさん以外の隊長とはお会いする機会が全然無かった。今のところ自分とは直接的な関わりは無く、名前と顔は認識しているという程度だ。
「あの、殿下。さきほど聞き間違いだと思いたいお言葉が……。バルト隊長が我々と共に仕事をなさるとか聞こえたような気がするのですが……」
隊長の登場で固まっていたレナードさんが、いつの間にか復活してた。恐る恐るといった風にレオンに問い掛ける。レナードさんは聞き間違いという事にしたいようだけど、私にもはっきりと聞こえていた。レオンは確かに言った。共に調査をするのだと……
「俺に指揮権を与える代わりに父上が提示した条件だ。ジェイク・バルト隊長を補佐として同行させよってな。要は監視だ。俺が勝手なことしないようにって……全く信用無いったらありゃしない」
「陛下は心配なさっておられるだけですよ。なんせ未知の力が絡んでいる事件です。殿下がお強いのは皆承知しておりますが、先日お倒れになった事をお忘れではないでしょう? 私は殿下がご無理をなさらないよう、お側で気を配れと仰せつかった次第です」
「お前の顔を立ててそういうことにしておこうか。人手は多い方が良いし、一番隊の奴らが協力してくれるのは有り難いからな」
つまりバルト隊長はオブザーバーのような立ち位置で調査に参加するという事なのかな。
レオンは頭も良くて強いけれど短気な面がある。キレて暴走した時の手に負えなさは、私も目の当たりにしている。陛下のお考えも分からなくはない。
「バルト隊長……それ、普段の俺の役割なんだけどな……」
「アークライト隊長、貴殿は警備隊隊長の任に就きながら殿下の近衛隊にも属している。その役割はジェラール陛下とレオン殿下、おふたりの言葉に耳を傾けて双方の間にわだかまりが生じないよう橋渡しを行うこと。場合によっては仲裁役を担うこともあるだろう。それなのに貴殿はこの者たちの中に染まり過ぎている。すでに中立的な視点で見れなくなっているのではないか?」
「それは……」
クライヴさんが言葉に詰まってしまった。『とまり木』のみんなだってレオンに意見が出来るし、彼の暴走を抑える力はあるけれど、他の兵士達と違って彼らはレオン個人に仕えている。いざとなった時に優先するのはレオンだ。レオンの行動が行き過ぎないためのストッパー的な役割をクライヴさんは担っていたのか。
しかし、クライヴさんは『とまり木』のみんなと仲が良い。問題が発生した際に自己の感情を排除し、状況を精査することが出来なくなっているのではと、バルト隊長は指摘しているのだ。
「つーか、そんなの一番隊の隊長さんも同じなんじゃない? やる前から俺らのこと悪意ある目で見てんだからさ。中立が聞いて呆れるよ。ねぇ、ボス。どうしてもこの人達と一緒にやらなきゃダメなの? 不仲同士で組ませてもいいことないって。むしろ仕事の効率悪くなるよ」
「私もルイスと同意見です。他部隊の者を殿下の補佐とするのが条件というのであれば、二番隊から選出して貰えばよろしいかと……」
ご兄弟はバルト隊長がレオンの補佐として捜査に加わるのに反対なようだ。どう見ても仲悪いもんね。お堅いとレオンが評した通り、隊長は真面目で厳粛な方なのだろう。クラヴェル兄弟と反りが合わないのは私にも感じ取れる。でも陛下は隊長を通じてレオンの動向をチェックしたいようだし……おふたりがいくら嫌だと主張してもダメそうだなぁ。
「残念だが決定事項だ。互いに言い分もあるだろうが、受け入れて貰う他ない」
やっぱり……。レオンの回答にレナードさんとルイスさんはがっくりと肩を落としたのだった。
皆の注目が集まる中、部屋に入ってきた人物。私はこの人を知っていた。前にレオンが紹介してくれたから。
「遅くなってしまい申し訳ありません。レオン殿下、クレハ様」
「いいや、ちょうどお前の話をしようとしていた所だったんだよ。さぁ、こっちに来てくれ」
濃紺の隊服を身に付けたその男性は、レオンに向かって一礼すると私達が座っているソファの近くまで歩み寄る。眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしていた。でもレオンいわく、彼の表情はこれが普通で怒っているのではないそうだ。
「えっ、なんで……この人が? ちょっとボス、どういうこと」
ルイスさんは困惑した様子でレオンに詰め寄っている。クライヴさんとレナードさんも戸惑いを隠せていない。特にレナードさんの変化が顕著で、驚いた顔のまま固まってしまっている。
濃紺の隊服に竜胆の襟章。クライヴさんと同じ王宮警備隊の――
「……ここの者たちは相変わらずのようですね。殿下、以前も進言させて頂きましたが、お側に置かれる兵の人選を見直した方がよろしいのでは? 実力重視も結構ですが、周囲に与える印象というのも大切なのですよ。何より殿下の情操教育上よろしくないかと」
「はぁー? 何それ。俺らが側にいたらボスに悪影響あるみたいに言うじゃん」
「君たちはお世辞にも行儀が良いとは言えないだろう。私の言葉に腹を立てるのであれば、もう少し日頃の行いを省みたらどうだ」
「いきなり出てきてウザいんだけど。ひょっとして喧嘩売ってる? 買うよ」
「やめないか、クレハが驚いてるだろう。ジェイク、今回我々は共に調査を行う仲間同士だ。互いに協力し合わなければならないのだから、そのような挑発的な言動は慎め」
「申し訳ありません。彼らの奔放な振る舞いが気に障り……以後気を付けます」
突然言い争いが勃発して焦った。レオンが止めてくれて良かった。
遅れて登場したこの男性は、ジェイク・バルトさん。王宮警備隊の隊長だ。王宮とその周辺地域を警備している警備隊は三つに分かれている。クライヴさんを長とする三番隊に、ベアトリス・クレールさんという女性兵士が隊長を務めている二番隊。そして最後にバルトさんの一番隊だ。
警備する場所や対象は三つの隊で持ち回りになっているが、一番隊は主に王族や要人の身辺警護に携わっているのだという。そういう傾向があるせいかは分からないけれど、隊員も貴族家の子女が多くて他ふたつの隊よりもお堅いイメージなんだって。これもレオンいわくだけど。最初の挨拶以降、クライヴさん以外の隊長とはお会いする機会が全然無かった。今のところ自分とは直接的な関わりは無く、名前と顔は認識しているという程度だ。
「あの、殿下。さきほど聞き間違いだと思いたいお言葉が……。バルト隊長が我々と共に仕事をなさるとか聞こえたような気がするのですが……」
隊長の登場で固まっていたレナードさんが、いつの間にか復活してた。恐る恐るといった風にレオンに問い掛ける。レナードさんは聞き間違いという事にしたいようだけど、私にもはっきりと聞こえていた。レオンは確かに言った。共に調査をするのだと……
「俺に指揮権を与える代わりに父上が提示した条件だ。ジェイク・バルト隊長を補佐として同行させよってな。要は監視だ。俺が勝手なことしないようにって……全く信用無いったらありゃしない」
「陛下は心配なさっておられるだけですよ。なんせ未知の力が絡んでいる事件です。殿下がお強いのは皆承知しておりますが、先日お倒れになった事をお忘れではないでしょう? 私は殿下がご無理をなさらないよう、お側で気を配れと仰せつかった次第です」
「お前の顔を立ててそういうことにしておこうか。人手は多い方が良いし、一番隊の奴らが協力してくれるのは有り難いからな」
つまりバルト隊長はオブザーバーのような立ち位置で調査に参加するという事なのかな。
レオンは頭も良くて強いけれど短気な面がある。キレて暴走した時の手に負えなさは、私も目の当たりにしている。陛下のお考えも分からなくはない。
「バルト隊長……それ、普段の俺の役割なんだけどな……」
「アークライト隊長、貴殿は警備隊隊長の任に就きながら殿下の近衛隊にも属している。その役割はジェラール陛下とレオン殿下、おふたりの言葉に耳を傾けて双方の間にわだかまりが生じないよう橋渡しを行うこと。場合によっては仲裁役を担うこともあるだろう。それなのに貴殿はこの者たちの中に染まり過ぎている。すでに中立的な視点で見れなくなっているのではないか?」
「それは……」
クライヴさんが言葉に詰まってしまった。『とまり木』のみんなだってレオンに意見が出来るし、彼の暴走を抑える力はあるけれど、他の兵士達と違って彼らはレオン個人に仕えている。いざとなった時に優先するのはレオンだ。レオンの行動が行き過ぎないためのストッパー的な役割をクライヴさんは担っていたのか。
しかし、クライヴさんは『とまり木』のみんなと仲が良い。問題が発生した際に自己の感情を排除し、状況を精査することが出来なくなっているのではと、バルト隊長は指摘しているのだ。
「つーか、そんなの一番隊の隊長さんも同じなんじゃない? やる前から俺らのこと悪意ある目で見てんだからさ。中立が聞いて呆れるよ。ねぇ、ボス。どうしてもこの人達と一緒にやらなきゃダメなの? 不仲同士で組ませてもいいことないって。むしろ仕事の効率悪くなるよ」
「私もルイスと同意見です。他部隊の者を殿下の補佐とするのが条件というのであれば、二番隊から選出して貰えばよろしいかと……」
ご兄弟はバルト隊長がレオンの補佐として捜査に加わるのに反対なようだ。どう見ても仲悪いもんね。お堅いとレオンが評した通り、隊長は真面目で厳粛な方なのだろう。クラヴェル兄弟と反りが合わないのは私にも感じ取れる。でも陛下は隊長を通じてレオンの動向をチェックしたいようだし……おふたりがいくら嫌だと主張してもダメそうだなぁ。
「残念だが決定事項だ。互いに言い分もあるだろうが、受け入れて貰う他ない」
やっぱり……。レオンの回答にレナードさんとルイスさんはがっくりと肩を落としたのだった。
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