リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

文字の大きさ
上 下
191 / 250

190話 報告書(2)

しおりを挟む
 レオンは報告書の続きを読み上げる。ジェフェリーさんの疑いが晴れたのは嬉しいけれど、それ以外に喜べるものは無いと言われてしまったのだ。気を緩めてはいけない。

「ジェムラート邸に出入りしていた魔法使いの正体は、10代前半の少年らしい」

「少年……!?」

「ああ。その少年は単身で旅をしていたそうでな。慣れない土地で親切にして貰った礼として、ジェフェリー・バラードに魔法を披露していたんだとさ」

「じゃあ、リズが見たのは……」

「間違いなく、その時の様子だろうな。ジェフェリー・バラードから聞いた話とも一致している」

 魔法で花壇に水やりをしていたとリズは言っていた。ジェフェリーさんへの御礼……その少年はジェフェリーさんの仕事を手伝っていたのだ。
 魔法使いの正体が子供だったなんて。ニュアージュの魔法使いならシエルレクト様と契約を交わして力を得ているはずだ。子供でさえ契約対象になり得てしまうのか……

「少年はすでに王都から離れていて、ジェフェリー・バラードと少年の間にも不審なやり取りは無かったとセドリックは判断したようだな。しかし、問題はここからだ」

 レオンは深く息を吐いた。私達も固唾を呑んで彼の言葉を待つ。

「この少年を探していたのは、俺達だけではなかった」

「何それ? どういう意味なの、ボス」

「少年の関係者と思しき人間が、偶然にもジェムラート邸で臨時に雇われていたんだよ。それは少年と同じ歳頃の少女で、少年の所在を突き止めるために各地を転々としていたとの事だ。この少女がかなりの食わせ者だったようでな」

 少女は魔法使いについて調べていたルーイ様達に敵意を露わにし、隠し持っていた武器で襲い掛かってきたのだという。セドリックさんが取り押さえて事なきを得たけれど、その騒動の最中にルーイ様が負傷してしまったのだと……

「えーっ!! 姫さんのお父さん、何でそんなヤバい奴雇ってんだよ。てか、先生大丈夫!?」

「……殿下、先生の容体は? 命に別状はないんですよね?」

「公爵邸で傷害事件だなんて、警備体制はどうなっていたんだ。もし、セドリックさんがいなかったら……」

「そんな……ルーイ様がっ……」

「みんな、落ち着け。先生は軽傷だよ。報告書と一緒に本人のメッセージも送られてきてるから」

 レオンは報告書の中から1枚を抜き取り、私に手渡した。見てみろと促されたので、その紙に綴られた数行の短い文章を声に出して読み上げた。


『転んでお尻にアザできちゃった。たいした事ないから、みんな心配しないでね♡』


「姫さん……それ♡も書いてあるの?」

「はい。しっかりと」

 ルイスさんにもルーイ様が書いた文面を見せる。それを確認した彼は小さく『マジだ……』と呟いた。私達を嘲笑うかのような気の抜けたメッセージ。ルーイ様らしいな……でも良かった、元気そう。

「クレハ様!? しっかりして下さい」

 安心したらまたソファに倒れ込みそうになり、レナードさんのお世話になってしまった。せっかくルイスさんに『強い』と褒めて頂いたのに……。毅然とした態度を維持するのは難しい。

「先生は一見ふざけているように見えるが、こちら側に気負わせまいとの配慮だろう。しかし、軽傷だったとはいえ、襲われたということに変わりはない。我々はこの事態を重く受け止め、然るべき対応を行う」

 少女は現在、私の家で拘束されているそうだ。魔法使いの少年もこの少女も、名前だけは明らかになっているけど、それが本名かどうかは不明。島で起きた事件との関連性はどうなんだろうか。

「そして次に、もう1人の調査対象であるニコラ・イーストンについてだが……こちらも困ったことになった。彼女の姿が屋敷から消えた。どうやらセドリック達が訪れた時点で、ニコラ・イーストンの部屋はもぬけの殻状態になっていたようなんだ」

「ニコラさんが!? どうしてそんな……」

「報告書には調査中となっている。自主的に姿をくらましたのか、あるいは誰かに攫われたのか……」

「やましいことがあって逃げたんじゃないの?」

「ルイス、証拠もないのに滅多な事いうんじゃない」

「だってさぁー。クライヴだって思っただろ」

 最近様子がおかしいとは言われていたけど、まさかこんな事になってしまうなんて。自分の意思で屋敷を出たのならともかく、もし何かの事件に巻き込まれでもしていたら……

「他にも細々とした事が書いてあるが、報告書の中身を大まかに伝えるとこんな感じだな。最後にセドリックは増援を要請してる。自分たちだけの手に負えないとな」
 
「こんな一度にごちゃごちゃと問題が起きたらしょうがないよね。どうするの、ボス?」

「先ほど父上に報告と合わせて、この一連の事件においての捜査指揮を取らせて欲しいと申し出た。あまり良い顔はされなかったがな」

「ボス、めちゃくちゃ私情入っちゃいそうだもんね……」

「父上にも同じ指摘をされた。でも、粘り勝ちしたぞ。条件付きではあるが認めて貰ったよ」

「それは、どのような条件でしょうか?」

 クライヴさんがレオンに質問をしたその時だった。室内に扉をノックする音が響く。報告書の内容を知って興奮気味だった私達の視線は、一斉に扉へと注がれる。場の空気が変わった。

「やっと来たな。条件のお出ましだよ」

 レオンは訪問者が誰だか分かっているような口振りだ。身構えている私達を尻目に、彼は扉の向こうにいる人物に部屋に入ってくるよう命じたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...