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164話 真実は……(1)
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「クレハ、君が気になってることっていうのはどんなことかな?」
「えっ? あのっ……教えて頂けるのですか」
これはかなり意外だった。きっと難色を示されると思っていたから。レナードさんもレオンの反応に驚いたようで、瞳を丸くしている。
「セドリックを始め隊員達は、君を事件に極力関わらせまいとしている。辛いことを思い出させたくないってね。その気持ちはもちろん俺にもある。だけど、クレハが自分から知りたいと願っているのに、それを跳ね除けるような事もしたくはないんだよ」
『君にも知る権利があるから』とレオンは言ってくれた。とはいえ、やはりどうしても捜査上教えることが出来ないものもあるらしい。条件付きで良ければ、質問に答えてくれるそうだ。私はそれでも構わないと了承した。
「でもやっぱり希望を言わせてもらうと、クレハには事件よりも別の事に頭や時間を使って欲しいのだけどね。読書をしたり、この前お願いした店の催し物を考えたり……君の好きな鍛練に精を出しても良いよ」
「ごめんなさい……気になって上の空になっちゃうんです」
「……今はリズもルーイ先生もいないから仕方ないね。ひとりだけ娯楽を楽しめって言われても難しいよね」
レオンは私の頭をぽんぽんと軽く叩きながら微笑んだ。そして、テーブルがある場所までエスコートしてくれる。レナードさんとルイスさんには、お茶の準備をするよう言い付けた。
「それじゃあ、クレハの質問に答えながらこれまでのことを整理してみようか」
「はい。お願いを聞いて下さってありがとうございます」
私とレオンは椅子に着席した。途中で気分が悪くなったりしたらすぐに言うようにと忠告され、事件のおさらいをしていくことになった。
「釣り堀の管理人こと、スコット・ブロウ。釣具店の従業員で年齢は48歳。10日前……生簀の中で死亡しているのをクレハ達に発見された」
レナードさんとルイスさんが戻ってくると、レオンは事件について話を始めた。内容に補足や訂正があるなら発言するようにと彼らに命じる。このふたりも私と同じで事件の当事者だからね。
「その後君たちは、釣り堀に現れたサークスによって襲撃を受ける。レナードとルイスはクレハとリズを守りながら応戦し、対象を見事撃退。現場から逃走を図ったサークスだが、ミレーヌに捕食され消滅したとされる。更に、そのサークスを従えていた魔法使いもシエルレクト神による制裁を受け命を落とす……というのが、あの日にあった大まかな出来事だが相違ないか?」
レオンに確認を求められ私は頷く。レナードさんとルイスさんも同じように返事を返した。
管理人さんのお名前初めて聞いた。スコットさんっていうんだな。ずっと管理人さんで通じていたから……今更だけど、これからはちゃんと名前で呼ぼう。
「周囲の目撃情報から、スコット・ブロウは事件が起こる前日の昼までは生存が確認されている。そこから君達が生簀で彼を発見するまでの間……彼の身に何が起きたのか。当初は誤って生簀に転落した故の溺死だと考えられていたんだけど、調べていくうちにそれは違うのではないかという見方が強くなっていったんだ」
やっぱりスコットさんもサークスに襲われたのだろうか。私も事故よりはそちらの可能性が高いと思うけど……もっと詳しく話を聞いてみよう。レナードさんがすぐに事故じゃないと見抜いていた理由も知りたい。
「あの……早速で申し訳ないのですが、質問してもいいですか?」
「はい、どうぞ」
レオンはまるで先生のような口調で私に発言を促した。しかし、話を聞きたいのは彼ではなくて……
「じゃあ、レナードさん。ひとつお聞きしたいのですが……」
「私に?」
「はい」
「なんでレナードなんだよ……」
流れ的にも自分に質問をされると疑ってなかったようだ。レオンは脱力したように頬杖を付くと、ご兄弟に用意して頂いたお茶の入ったカップに手を伸ばした。また彼のご機嫌を損ねてしまった。でも、ずっと気になっていたことなのだ。この機会を逃したら今後聞けるかどうかも分からないから。
「生簀でスコットさんが亡くなっているのを発見した時のことです。ルイスさんは足を踏み外して落下した事故ではないかと推測しておられたのですが、直後にレナードさんはそれを否定するような発言をしていました。まだサークスに遭遇する前でしたのに……どうしてそのように思われたのでしょうか?」
「ルイスの失態……覚えていらっしゃったのですか」
「あの時は俺もテンパってたからなぁ……」
うっかりルイスさんが大声で叫んでしまったから、おふたりの会話内容が私に伝わってしまったんだよね。レナードさんはレオンに目線で合図をすると、彼は無言で頷いた。話しても良いとお許しが出た。
「生簀から引き上げた管理人の頭部に傷があったんです」
「傷……ですか」
「はい。傷は新しいもので、落下した際にどこかにぶつけたのではと思いました。しかし、あの時点では判断できず……。何者かの手にかけられたという線も捨て切れなかったのです」
「それで事故じゃないかもと言ったんですね」
「その後の調査で分かったことだが、傷は落下時に出来たものである可能性は低い。傷口の形状から、硬い棒のような物で後頭部から右側頭部を強い力で何度も殴られたのではないかと見ている。よって死因は溺死ではなく、重傷頭部外傷」
スコットさんは殺された。息を引き取った後に生簀に放り込まれのではないかとレオンは語る。
やったのはきっとサークスだ。どうしてスコットさんがそんな惨い目に合わなくてはならなかったのだろうか。サークスが島に侵入し、私達を襲った理由はこれから先も明らかになるか分からない。犯人のグレッグがもうこの世にいないからだ。
やるせない気持ちで胸がいっぱいになり、私はその場で俯いた。
「えっ? あのっ……教えて頂けるのですか」
これはかなり意外だった。きっと難色を示されると思っていたから。レナードさんもレオンの反応に驚いたようで、瞳を丸くしている。
「セドリックを始め隊員達は、君を事件に極力関わらせまいとしている。辛いことを思い出させたくないってね。その気持ちはもちろん俺にもある。だけど、クレハが自分から知りたいと願っているのに、それを跳ね除けるような事もしたくはないんだよ」
『君にも知る権利があるから』とレオンは言ってくれた。とはいえ、やはりどうしても捜査上教えることが出来ないものもあるらしい。条件付きで良ければ、質問に答えてくれるそうだ。私はそれでも構わないと了承した。
「でもやっぱり希望を言わせてもらうと、クレハには事件よりも別の事に頭や時間を使って欲しいのだけどね。読書をしたり、この前お願いした店の催し物を考えたり……君の好きな鍛練に精を出しても良いよ」
「ごめんなさい……気になって上の空になっちゃうんです」
「……今はリズもルーイ先生もいないから仕方ないね。ひとりだけ娯楽を楽しめって言われても難しいよね」
レオンは私の頭をぽんぽんと軽く叩きながら微笑んだ。そして、テーブルがある場所までエスコートしてくれる。レナードさんとルイスさんには、お茶の準備をするよう言い付けた。
「それじゃあ、クレハの質問に答えながらこれまでのことを整理してみようか」
「はい。お願いを聞いて下さってありがとうございます」
私とレオンは椅子に着席した。途中で気分が悪くなったりしたらすぐに言うようにと忠告され、事件のおさらいをしていくことになった。
「釣り堀の管理人こと、スコット・ブロウ。釣具店の従業員で年齢は48歳。10日前……生簀の中で死亡しているのをクレハ達に発見された」
レナードさんとルイスさんが戻ってくると、レオンは事件について話を始めた。内容に補足や訂正があるなら発言するようにと彼らに命じる。このふたりも私と同じで事件の当事者だからね。
「その後君たちは、釣り堀に現れたサークスによって襲撃を受ける。レナードとルイスはクレハとリズを守りながら応戦し、対象を見事撃退。現場から逃走を図ったサークスだが、ミレーヌに捕食され消滅したとされる。更に、そのサークスを従えていた魔法使いもシエルレクト神による制裁を受け命を落とす……というのが、あの日にあった大まかな出来事だが相違ないか?」
レオンに確認を求められ私は頷く。レナードさんとルイスさんも同じように返事を返した。
管理人さんのお名前初めて聞いた。スコットさんっていうんだな。ずっと管理人さんで通じていたから……今更だけど、これからはちゃんと名前で呼ぼう。
「周囲の目撃情報から、スコット・ブロウは事件が起こる前日の昼までは生存が確認されている。そこから君達が生簀で彼を発見するまでの間……彼の身に何が起きたのか。当初は誤って生簀に転落した故の溺死だと考えられていたんだけど、調べていくうちにそれは違うのではないかという見方が強くなっていったんだ」
やっぱりスコットさんもサークスに襲われたのだろうか。私も事故よりはそちらの可能性が高いと思うけど……もっと詳しく話を聞いてみよう。レナードさんがすぐに事故じゃないと見抜いていた理由も知りたい。
「あの……早速で申し訳ないのですが、質問してもいいですか?」
「はい、どうぞ」
レオンはまるで先生のような口調で私に発言を促した。しかし、話を聞きたいのは彼ではなくて……
「じゃあ、レナードさん。ひとつお聞きしたいのですが……」
「私に?」
「はい」
「なんでレナードなんだよ……」
流れ的にも自分に質問をされると疑ってなかったようだ。レオンは脱力したように頬杖を付くと、ご兄弟に用意して頂いたお茶の入ったカップに手を伸ばした。また彼のご機嫌を損ねてしまった。でも、ずっと気になっていたことなのだ。この機会を逃したら今後聞けるかどうかも分からないから。
「生簀でスコットさんが亡くなっているのを発見した時のことです。ルイスさんは足を踏み外して落下した事故ではないかと推測しておられたのですが、直後にレナードさんはそれを否定するような発言をしていました。まだサークスに遭遇する前でしたのに……どうしてそのように思われたのでしょうか?」
「ルイスの失態……覚えていらっしゃったのですか」
「あの時は俺もテンパってたからなぁ……」
うっかりルイスさんが大声で叫んでしまったから、おふたりの会話内容が私に伝わってしまったんだよね。レナードさんはレオンに目線で合図をすると、彼は無言で頷いた。話しても良いとお許しが出た。
「生簀から引き上げた管理人の頭部に傷があったんです」
「傷……ですか」
「はい。傷は新しいもので、落下した際にどこかにぶつけたのではと思いました。しかし、あの時点では判断できず……。何者かの手にかけられたという線も捨て切れなかったのです」
「それで事故じゃないかもと言ったんですね」
「その後の調査で分かったことだが、傷は落下時に出来たものである可能性は低い。傷口の形状から、硬い棒のような物で後頭部から右側頭部を強い力で何度も殴られたのではないかと見ている。よって死因は溺死ではなく、重傷頭部外傷」
スコットさんは殺された。息を引き取った後に生簀に放り込まれのではないかとレオンは語る。
やったのはきっとサークスだ。どうしてスコットさんがそんな惨い目に合わなくてはならなかったのだろうか。サークスが島に侵入し、私達を襲った理由はこれから先も明らかになるか分からない。犯人のグレッグがもうこの世にいないからだ。
やるせない気持ちで胸がいっぱいになり、私はその場で俯いた。
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