リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

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163話 分かっていても

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「おかえり。デートは楽しかったかい? おふたりさん」

「デートって……」

 帰宅した私とレナードさんにレオンが発した第一声がこれである。王宮に戻ると自室ではなく、レオンの部屋に直行することになった。もちろん着替える余裕などなくて、雑貨屋さんで購入した品も手に抱えたままだ。
 近過ぎて外出と言えるのかも分からないし、ましてデートなんてとんでもない。しかし、レオンは怒っている……というよりは拗ねたような口調で、私達を揶揄してくるのだった。そんなレオンに対してレナードさんもノリノリで乗っかるものだから始末に負えない。

「ええ、とても素敵でした。願わくば、この時間が永遠に続けば良いのにと……。このまま誰にも邪魔されない場所に連れ去ってしまおうかなんて、いけない考えが頭をよぎってしまうくらいに」

 レナードさんの流し目が……心臓に悪いです。そんな色っぽい目で見ないで欲しい。おふざけなのは分かっているけど、こんなの私に……子供に向けてしていい顔じゃないと思います。レナードさんのやんちゃ時代の片鱗を見た気がする。お店では聞き流してしまったけれど、ギルさんが思わず忠告してしまうのもやむなしといった感じだ。

「クレハ!!」

 強い声で名前を呼ばれた。レオンは大股で私の元まで移動すると、向かい合わせで立つ。そして両肩をおもいきり掴まれた。

「俺はレナードに君の側から離れるなと命じた。クレハの要望には極力応え、退屈させないように気を配ってやれとも……」

「はい。とても親切にして頂いております」

「レナードとルイス……彼らとの仲が良好なのは、俺にとっても喜ばしいことだ。ふたりは護衛として、これから先も君と共にいる時間は多いだろうしね。俺はクレハの側に常にいてあげることは出来ないし、君が王宮で気を許せる人間が増えるのは良いことだと思うよ」

「お心遣いありがとうございます。レオンや皆のおかげで、ここでの生活にもずいぶん馴染めたのではないかと……」

「君たちが更に強い信頼関係を築けるよう、俺の方からお膳立てしたところもある。だからこんな事を言うのは筋違いだと分かっている。でも無理だ……どうしても我慢できない。だから、言わせて欲しい」

「レオン?」

 彼は意を決したように大きく息を吸い込んだ。私の肩を掴む手に更に力が籠る。

「いくらなんでも仲良くし過ぎじゃない!? クレハもさ……何でそんな粧し込んだ可愛い格好してるの? 島の商店に行くだけだって聞いてたのにっ……!!」

「えぇ……」

 さっき仲が良いのはいいことだって言ったのに……。そもそも私の面倒を見ろとレナードさんに命じたのはレオンである。私にも彼らと積極的に交流しろと進言したではないか。それなのに私達の外出をデートと呼んで皮肉ったり、仲が良過ぎると文句を言う。ついでに服装も気に入らないらしい。色々と支離滅裂だ。本人もそれを理解しているので、あんなにも前置きが長くなった模様。
 
「こら、クソハゲ。お前がデートとかイキるから、ボスがおかしな事になったじゃん。やり過ぎだよ」

「デートって言ったのは私じゃないんだけどね。ヤキモチ焼いちゃって……殿下も大概可愛いんだから。可愛いもの達に囲まれて私は幸せだよ、ルイス」

「そもそもさぁ……俺とボスが退屈なお勉強してる間にズリぃんだよ」

「勉強してたのは殿下だけでしょ」

「俺もその場にいたから同じなの」

 レナードさんに苦言を呈しているのはルイスさんだ。当たり前だけど、レナードさんと私はデートなんてしているつもりはなかった。そんな風に形容したのはレオンで、彼だって本当は違うのだと分かっている癖に。ルイスさんが言うように、お勉強をしている間の外出だったから不貞腐れているだけだろう。

「この格好ダメでしたか? 外に出ると言ったら王妃様が用意して下さったのですよ」

「また母上の仕業か……。ダメじゃないよ、可愛いって言った。凄く良く似合ってる」

「良かった。レオンにそう言って貰えて嬉しいです。レナードさんのお友達がやっている雑貨屋さんに連れて行って貰ったんですよ。そこでこの便箋とお香を買いました」

「レナードの……ああ、ギル・ファーカーのところだね」

 ギルさんのお店で買った品をレオンに見せた。彼は私の話を聞いているうちに感情の昂りが収まってきたようで、表情も落ち着きを取り戻した。お香の効用を説明すると、うんうんと相槌を打ちながら聞いてくれる。

「あと、びっくりする出来事があったのです。そうですよね、レナードさん」

 レオンの機嫌が直ってきたところで、レナードさんに話を振った。釣り堀の事件についての詳細……私に話すのをレオンは許してくれるだろうか。

「はい。殿下、ギルの店でユリウスに会いました。彼もこちらに召集されていたのですね」

「えっ、はっぱ君来てたの? 知らなかった。ボス、何で教えてくれなかったの」

『はっぱ君』……これはユリウスさんのことだよね。ルイスさんが付けたあだ名かな。多分だけど薬草……葉っぱからきてるんだろうな。ユリウスさんは薬の専門家って言ってたし。

「あいつ……ユリウスにも島で起きた事件の捜査に加わって欲しくて呼んだんだけど……あまり乗り気じゃなくてな。協力自体はしてくれたが、王宮に来るのは嫌だってごねられた。他の隊員と関わるのも最低限にして欲しいってことで、俺とクライヴだけでやり取りをしていたんだ」

「相変わらずだね……はっぱ君は。協調性無し!!」

「クレハもユリウスに会ったんだね。びっくりしたんじゃない? あいつはうちの隊の中でも一際個性的だから……」

「はい、突然のことでしたのでちゃんとご挨拶も出来なくて……」

 お店の床でお昼寝していたり、ユニークな方という印象を受けた。お医者様というのにも驚いたけど。

「レオン殿下、実は……ユリウスが会話の流れでクレハ様に捜査内容の一部を伝えてしまいました。しかし、クレハ様もご自分なりに、事件について考えを巡らせていらっしゃったそうです。気になっている事もお有りのようですので、差し障りのない範囲でクレハ様の疑問にお答えしてもよろしいでしょうか?」

「それは……管理人の死についてか」

「はい」

 きっとレオンもレナードさんと同じ考えなのだろう。可能な限り私を事件から遠ざけ、きっちりと情報の裏付けが取れてから報告をする。全てが明らかになるまで待つようにと言われるかもしれない。私もルーイ様やリズのように、お手伝いが出来ればいいのに……。レオンはレナードさんの言葉にどんな答えを返すのだろうか。
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