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152話 作戦
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「レオン様、ミシェルとリズさんがジェムラート家へ向かう日程はもうお決まりですか?」
「準備が整えば、すぐに行って貰おうと思っている。本日中に公爵に一報を入れるから、早ければ明日にでも」
会合で話し合った通り、ミシェルとリズにはジェムラート家へ調査に行って貰う事になっている。対象はニコラ・イーストン……そして、それに更にジェフェリー・バラードを追加した。
「本人の希望とはいえ、危険ではないでしょうか。ジェフェリーさんが魔法使いでなくとも、ニュアージュの人間と繋がりがあるのではという疑惑は残っています。リズさんの同行は考え直すべきではないかと……」
「クレハの家にいたって魔法使いが悪い奴とは限らないよ。今の段階では何とも言えないね。でも、リズちゃんが危ない事に巻き込まれたら大変だ。ちょっとでも不安要素があるのなら、やめておいた方が無難かもね」
「……そうですね」
リズの身の安全を第一に考えるならばふたりの言う通りだ。だが、リズはそれで納得するのだろうか。クレハのためなら火の中にでも突っ込んでいきそうな彼女が……。ミシェルに付いて行くと言い出したのだって、元を辿ればクレハを思うが故だ。クレハを守るという強い信念あってのもの。
同行を諦めろと命令するのは簡単だ。俺とてリズが危険な目に合うのは本意ではない……けれど、同時に惜しいとも思ってしまうのだ。彼女ならミシェルの補佐役として、期待以上の働きをしてくれるだろうという確信があるから……
「もう一度リズに確認するよ。ジェフェリーさんのことも含めた上で、調査に協力してくれるのかと。彼女がそれでも行くと言うのなら、俺は彼女の意思を尊重する」
「レオン様!!」
「分かっているよ。リズは俺の部下じゃないし、まだ子供だ」
『お前も十分ガキだけどな』というルーイ先生の横槍が聞こえたけれど、今は放置だ。
「彼女の気骨さには目を見張るものがある。クレハの側仕えとしての心構えは既に一人前だ。それを子供だからといって無下にしたくはない。それに、ジェムラート家を調べるにあたって、リズの協力を失うのは惜しいだろう」
「それはそうですが……」
セドリックは険しい顔で俺を見つめていた。再確認したところでリズの気持ちは変わらないだろう。俺が心配しつつも止める気がないのを見抜かれてしまっている。
「ミシェルにはリズの身の安全を最優先にし、決して無理をさせないよう言い聞かせるよ」
「ではせめて護衛を……」
「ふたりはクレハに使いを頼まれたという名目で屋敷に行くんだぞ。そんなものを付けたら、余計に不信を持たれてしまう。特にニコラ・イーストンは、ミシェルが単独で屋敷に来た時点で警戒するような素振りをしていたそうじゃないか」
よほどリズが心配なのか、セドリックは強引な案をどんどん出してくる。そんなセドリックとは反対に、落ち着いて話を聞いていた先生が口を開く。
「ねぇ、レオン。俺に妙案があるんだけど……リズちゃん達が怪しまれずにスムーズに調査する手助けになるかもしれない」
「どのような案ですか、聞かせて下さい」
「俺も一緒についていく」
先生の案はこうだ。オルカ通り周辺で外国から来たらしき魔法使いの目撃情報があった。それに興味を持った先生は、近隣住民の話を聞くためにリズ達に付いて来たという設定を作るのだという。
「俺はレオンの先生だからね。魔法について調べ回るのはそこまで不思議でもない。そしてディセンシア家の遠縁という身分になっている。そんな俺に護衛が付くのは当然だろう?」
「護衛がいても不自然ではない状況を故意に作るのですね」
「そういうこと。いやー、こんな男前な先生がいきなり現れたらクレハの家は大騒ぎになっちゃうね。俺注目の的だよ。リズちゃん達のことは誰も気に留めなくなっちゃうかも」
堂々と魔法について調べていると屋敷に乗り込むのか。もし、ジェフェリーさんに後ろ暗いことがあるなら、そんな先生を心穏やかに見守ることなどできはしないだろう。何らかの反応を示すはずだ。
「俺、目立つのは得意だよ」
「リズさんが心配だとは言いましたが、その代わりにあなたが危険な目にあっていいというわけではないのですけど……」
セドリックが怒っている。この作戦……要は先生が囮になるというものだからな。自分に注目を集め、ミシェルとリズが動きやすいようにするというもの。セドリックからしたら、心配する対象がリズから先生に代わっただけだ。
「だから、その為の護衛でしょ。何もない可能性の方が大きいんだから、このくらい大胆に仕掛けてもいいじゃない?」
先生の言うことも一理ある。彼が派手に立ち回れば、それだけミシェルとリズが印象に残りにくいというのも事実。
「では、先生には我が軍が誇る最強の護衛を付けなければなりませんね」
自分の立てた作戦が認められたことを理解し、先生は口角を上げた。
「セドリック」
まだ唖然として立ち竦んでいる彼の正面に立つ。俺が今から言うことの予想はついているはずだ。最近自らの体たらくぶりを悲観していたようだし、名誉挽回する良い機会だろう。
「セドリック・オードラン隊長。ミシェル、リズと共にジェムラート家に向かえ。明日付けでお前にルーイ先生の護衛を命じる」
「準備が整えば、すぐに行って貰おうと思っている。本日中に公爵に一報を入れるから、早ければ明日にでも」
会合で話し合った通り、ミシェルとリズにはジェムラート家へ調査に行って貰う事になっている。対象はニコラ・イーストン……そして、それに更にジェフェリー・バラードを追加した。
「本人の希望とはいえ、危険ではないでしょうか。ジェフェリーさんが魔法使いでなくとも、ニュアージュの人間と繋がりがあるのではという疑惑は残っています。リズさんの同行は考え直すべきではないかと……」
「クレハの家にいたって魔法使いが悪い奴とは限らないよ。今の段階では何とも言えないね。でも、リズちゃんが危ない事に巻き込まれたら大変だ。ちょっとでも不安要素があるのなら、やめておいた方が無難かもね」
「……そうですね」
リズの身の安全を第一に考えるならばふたりの言う通りだ。だが、リズはそれで納得するのだろうか。クレハのためなら火の中にでも突っ込んでいきそうな彼女が……。ミシェルに付いて行くと言い出したのだって、元を辿ればクレハを思うが故だ。クレハを守るという強い信念あってのもの。
同行を諦めろと命令するのは簡単だ。俺とてリズが危険な目に合うのは本意ではない……けれど、同時に惜しいとも思ってしまうのだ。彼女ならミシェルの補佐役として、期待以上の働きをしてくれるだろうという確信があるから……
「もう一度リズに確認するよ。ジェフェリーさんのことも含めた上で、調査に協力してくれるのかと。彼女がそれでも行くと言うのなら、俺は彼女の意思を尊重する」
「レオン様!!」
「分かっているよ。リズは俺の部下じゃないし、まだ子供だ」
『お前も十分ガキだけどな』というルーイ先生の横槍が聞こえたけれど、今は放置だ。
「彼女の気骨さには目を見張るものがある。クレハの側仕えとしての心構えは既に一人前だ。それを子供だからといって無下にしたくはない。それに、ジェムラート家を調べるにあたって、リズの協力を失うのは惜しいだろう」
「それはそうですが……」
セドリックは険しい顔で俺を見つめていた。再確認したところでリズの気持ちは変わらないだろう。俺が心配しつつも止める気がないのを見抜かれてしまっている。
「ミシェルにはリズの身の安全を最優先にし、決して無理をさせないよう言い聞かせるよ」
「ではせめて護衛を……」
「ふたりはクレハに使いを頼まれたという名目で屋敷に行くんだぞ。そんなものを付けたら、余計に不信を持たれてしまう。特にニコラ・イーストンは、ミシェルが単独で屋敷に来た時点で警戒するような素振りをしていたそうじゃないか」
よほどリズが心配なのか、セドリックは強引な案をどんどん出してくる。そんなセドリックとは反対に、落ち着いて話を聞いていた先生が口を開く。
「ねぇ、レオン。俺に妙案があるんだけど……リズちゃん達が怪しまれずにスムーズに調査する手助けになるかもしれない」
「どのような案ですか、聞かせて下さい」
「俺も一緒についていく」
先生の案はこうだ。オルカ通り周辺で外国から来たらしき魔法使いの目撃情報があった。それに興味を持った先生は、近隣住民の話を聞くためにリズ達に付いて来たという設定を作るのだという。
「俺はレオンの先生だからね。魔法について調べ回るのはそこまで不思議でもない。そしてディセンシア家の遠縁という身分になっている。そんな俺に護衛が付くのは当然だろう?」
「護衛がいても不自然ではない状況を故意に作るのですね」
「そういうこと。いやー、こんな男前な先生がいきなり現れたらクレハの家は大騒ぎになっちゃうね。俺注目の的だよ。リズちゃん達のことは誰も気に留めなくなっちゃうかも」
堂々と魔法について調べていると屋敷に乗り込むのか。もし、ジェフェリーさんに後ろ暗いことがあるなら、そんな先生を心穏やかに見守ることなどできはしないだろう。何らかの反応を示すはずだ。
「俺、目立つのは得意だよ」
「リズさんが心配だとは言いましたが、その代わりにあなたが危険な目にあっていいというわけではないのですけど……」
セドリックが怒っている。この作戦……要は先生が囮になるというものだからな。自分に注目を集め、ミシェルとリズが動きやすいようにするというもの。セドリックからしたら、心配する対象がリズから先生に代わっただけだ。
「だから、その為の護衛でしょ。何もない可能性の方が大きいんだから、このくらい大胆に仕掛けてもいいじゃない?」
先生の言うことも一理ある。彼が派手に立ち回れば、それだけミシェルとリズが印象に残りにくいというのも事実。
「では、先生には我が軍が誇る最強の護衛を付けなければなりませんね」
自分の立てた作戦が認められたことを理解し、先生は口角を上げた。
「セドリック」
まだ唖然として立ち竦んでいる彼の正面に立つ。俺が今から言うことの予想はついているはずだ。最近自らの体たらくぶりを悲観していたようだし、名誉挽回する良い機会だろう。
「セドリック・オードラン隊長。ミシェル、リズと共にジェムラート家に向かえ。明日付けでお前にルーイ先生の護衛を命じる」
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