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142話 相談

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「16時半になっちゃった。会合、長引いてるのかなぁ」

 1時間くらいで終わると言われていたけど、その時間はとっくに過ぎている。あくまで予定だから、ズレることもあるだろう。少し遅くなったところで自分はさほど困らない。でも、リズが心配だった。
 知り合いばかりとはいえ、大人に混じって長時間会合に参加するのはきっと大変なはず。レオンだって子供だけど、彼の感覚は一般的な子供としては、あまり参考にならない気がするし……
 テーブルの上に置いていた本を1冊手に取った。もうしばらく部屋で待つ事になりそうなので、読書の続きをしよう。ページを開くと、間に挟み込んでいたブックマーカーがしゃらんと鳴った。先端に青色のビーズ飾りが付いていて、まるでアクセサリーのような金属製のブックマーカー……。ジェフェリーさんからプレゼントして貰った物だ。
 チャンスがあれば、魔法についてそれとなく聞きだしてみるとリズは言っていたけど……どうなっただろうか――


「クレハー!! 俺! 俺が来たよ、あーけーてー!」

「えっ、誰……?」

 反射的に誰だと口走ってしまったが、声で分かる。それに、こんな軽い調子で話しかけてくる人は限られているから。

「ルーイ様!」

 確信を持って訪問者の名前を呼ぶ。その後、扉をノックする音が部屋に響いた。順番が逆じゃないのかな。普通呼びかける前にノックをするのでは? 

「クレハ様、リズもいます!」

 ノックをしたのはルーイ様ではなくリズだった。ルーイ様とリズ……このふたりが私を迎えに来てくれたのだろうか。その役目は『とまり木』の誰かだと思っていたのに……

「待ってて、すぐに開けます」

 本を再びテーブルの上に置くと、私は急いで扉に向かった。









「やあ、クレハ。調子はどうだ?」

「こんにちは、ルーイ様。私は変わりありません」

 膝を曲げてカーテシーを行うと、ルーイ様は私の頭を優しく撫でた。

「レオン達との話し合いは終わったのですか?」

「いや、中断してるだけ。でも時間も押してるし、今日はこれでお開きになるかもな」

 想像以上に話し合いが難航しているようだ。よく見ると、ふたりの顔には疲れの色が浮かんでいた。

「少し席を外して気分を変えてくるようにと、レオン殿下のご采配です」

「俺はそんなリズちゃんにくっ付いてきたの」

 ふたりが私を呼びに来たのは、息抜きも兼ねているらしい。なるほどなと納得していると、ある事に気付く。この場にはルーイ様とリズ、それに私しかいない!! 今ならジェフェリーさんの話を聞くことができる。

「クレハ達、俺に尋ねたいことがあるんだって?」

「あっ、えっと……」

 私が言うよりも早く、ルーイ様から打診された。これはどういう状況なのかと、説明を求めてリズに視線を送る。彼女は決まりが悪そうに眉の端を下げた。

「私の態度から何かあると察して下さったのです。殿下や『とまり木』の方達に悟られないよう、配慮して頂きました」

「でもさぁ……さっきレオン達と信頼関係を高め合ったばっかりだよね。それなのに俺達ときたら、数刻と経たないうちに、離れた場所でこっそりと内緒話。悪いことしてるわけではないけど、ちょっぴり後ろめたくなっちゃうね」

「それは……」

「まっ、信頼してるからって、何でもかんでも話せばいいってもんじゃないしね。黙っていた方が良い事だってある。誤った選択をして、誰かを傷付けてしまうことだってあるんだから……」

 ルーイ様はそう言うとソファに腰を下ろした。私とリズにもこちらに来るよう手招きをしている。

「ふたりの選んだ選択はどうだろうね。あまり長居はできなそうだけど、とりあえず座ろうか。秘密のお話……俺に聞かせてちょうだい」

 私達なりにしっかりと考えた上での行動だ。間違っていないと思いたい。私とリズもルーイ様と向かい合うようにソファに座る。

「クレハ様、私から先生にお伝えしても良いでしょうか?」

「うん、分かった。お願いね」

 私よりもリズの方が受け答えがしっかりできるだろう。ジェフェリーさんが使っていたという魔法を、実際に目撃したのは彼女なのだから。

「ルーイ先生、私は先生にお尋ねしたいことがあると言いましたが……実は、先ほどの会合内で問題はおおよそ解決しているのです」

「えっ?」

 私とルーイ様は揃って声を上げる。解決したって……どういうこと?

「私とクレハ様は、ある人物が魔法使いかそうでないかを確かめたかったのです。だから先生に、見分け方などがあれば教えて頂きたかった……」

「あー……したね、そんな話。でもその質問をしたのはルイス君だったかな」

「はい。偶然にもルイスさんが私の知りたいことを聞いて下さいました。でも、外国の魔法使いを見た目で判別するのは困難との答えでしたので……残念でした」

 瞳に変化も無く、見た目に特徴が出ない。それがルーイ様が出した回答。しかし、リズはジェフェリーさんの件は解決したと言った。何からそう判断したのだろう。

「その会話の中で、レオン殿下からこのような発言が出ました。釣り堀で事件が起きた当日……そして、ここ最近の数日間において、王都に他国の魔法使いは存在しないと……。殿下自ら調べられた結果で、先生もそれが1番正確だとおっしゃいました」

「それって……」 

「はい。殿下のお言葉で確信したのです。あの方は魔法使いではない」
 
 ジェフェリーさんは王都に住んでいる……更に職場は私の家だ。もし彼が魔力を持っていたなら、レオンに見つかっていたはずなのだ。それが無いということは、彼が魔法使いじゃないという証明になる。
 
「ふたり共、俺にもうちょっと詳しく教えてくれないかな。その疑惑の人物って誰なのさ? ふたりがそこまで慎重になるなんて、どこのどいつか気になるよ」

 私達の話に興味が湧いたようで、ルーイ様は詳細を話すようせっついて来た。

「まだ、誰にも言わないでくださいね」

 ルーイ様にしっかりと忠告をしてから、リズに目配せをする。彼女は静かに頷いた。そして、その名前を口にする。

「その方の名は、ジェフェリー・バラード。私と同じ、ジェムラート家にお仕えしている庭師です」
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